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服を着てもいいんですか?


「わぁ……! こんな綺麗な服……本当に僕なんかが着ても良かったんですか?」


「まぁ! 本当に……とてもよくお似合いですよ、ユレルミ様」


「な、なんと……! ユレルミが服を! 服を着ているっ!?」


 驚く私の前で、清潔な白いシャツと丈の短い紺色のパンツに身を包んだユレルミが鏡の前でくるくると身をよじる。


 ここは我が国の姫、ハッピー様の私室。


 陛下へのご報告を終えた私たちは、ハッピー様のお招きに応じてここにやってきていた。


 まるで深い湖のような青く長い髪に、誰しもが見惚れるであろう美しい容姿。

 清楚でありながら、どこか快活さを感じさせるドレスを身につけたハッピー様。


 そして大きな窓から射し込む光を浴び、ぴったりに仕立てられた服に身を包んだユレルミ。


 とても先ほど会ったばかりとは思えないほど和やかで、歳も殆ど同じに見える二人の姿は、まるで仲の良い王子と姫のように見えた。


「ふふっ。喜んで頂けて良かったです。いくら強いスキルを持っていても、身につけているのが小さな葉っぱだけでは、きっと大変だったでしょうから……」


「ありがとうございます、ハッピー様。こんな高価な服を着たの、生まれて初めてで……」


「お気になさらないで下さい。聞けば、ユレルミ様は今日まで本当に辛い思いをされてきたのでしょう? その日々を思えば……ユレルミ様はこれからもっと幸せになっても良いはずですっ」


「僕が、幸せに……?」


「はい! ユレルミ様は、今も〝貧乏神の力〟を必死に抑えていらっしゃるのでしょう? だから常に解放されている私の〝福の神の力〟の方が強く、こうして服を着ることもできる……。〝私とずっと一緒にいて下されば〟、ユレルミ様は他の皆さんと同じように、これからも普通の暮らしが送れるはずです」


「お、お待ち下さい姫様っ! その……恐れながら、なぜ姫様はそこまでユレルミのために……? こちらの服も、ユレルミが来ることを見越してすでに用意されていたようですし……」


「え? うーん……それは……」


 思わず尋ねた私に、ハッピー様は少しだけ悩む素振りを見せたあと、咲いた花のような笑みを私とユレルミに向けた。


「実は私……ユレルミ様のことをずっとお待ちしていたのですっ」


「ハッピー様が僕を……?」


「ま、待っていた!? ユレルミが来るのをですか?」


「はい、待っていました。それはもう、とにかくずーーーーっと待っていました。エステルも知っているでしょう? 私は福の神……私は今までこの力で、スプリングを襲う様々な災厄を打ち消してきました」


「はっ! 大津波や大地震……空から無数の星が降ってきたときも、姫様がなんとかしてくださいましたっ! このエステル・バレットストーム……心から姫様には感謝しております!」


「ですよねっ? 自分で言うのもなんですが、私はすごく頑張っていると思うのです……。でもそのせいで、お父様も他の者たちも……誰も私を自由に行動させてはくれません……。私は生まれてから一度も王都の外はおろか、城の外に出たこともないのですよ……?」


「それは……」


 ハッピー様のその言葉に、私はなにも言うことができなかった。

 彼女の言う通り、我がスプリングが他の三国よりも繁栄しているのはハッピー様の力によるところが圧倒的に大きい。


 ヨルゲン陛下が他国との争いを止めて穏健路線へと舵を切ったのも、最終的にはハッピー様が福の神だったことが大きかったと聞いている。


 なぜならハッピー様がいるだけで、その国は勝手に繁栄していくのだから。

 わざわざ他国に無益な戦争を仕掛け、領土を奪う必要もない。


「国にとって……そしてこの地に住む民にとって、私の力が必要なことは理解しています……でもそれでも……。私だって、自ら〝望んで福の神として生まれてきたわけではありません〟……」


「ハッピー様も……」


「お友達になって欲しかったのです……。私と同じ神のスキルを持っているという方に……。私と同じ力を持っている方なら、他のみんなとは違う……色々なお話しができるかもと……」


 はっきりと寂しさを宿したハッピー様の呟き。

 だが、私にはハッピー様のお気持ちもわかるが、城から出したくないという陛下のお気持ちもよくわかる。


 ハッピー様は、今も他の三国から狙われている。


 ハッピー様を手に入れれば、今は我がスプリングの隆盛を許している他の三国も瞬く間に盛り返し、他国を圧倒することが可能だからだ。


 そして――。


「わかりました……! 僕で良ければ、いくらでもハッピー様の話し相手になります。でも……面白いお話しが出来るかどうかは、わからないんですけど……」


「本当ですかっ? ありがとうございます、ユレルミ様! 私……とても嬉しいですっ!」


「う、うんうんっ! そういうことならば、このエステルにもなんなりとご命令下さいっ! 姫様を狙う刺客の千人や万人、我が剣でボコボコにしてご覧にいれましょう!」


「ありがとうございます、エステル。これからも頼りにしていますよ」


「は……っ!」


 片膝を突いてひざまずく私に、ハッピー様は屈託のない笑みを向けてそう仰った。

 

 なんとも呆気なかったが、きっとこれで良かったのだ。


 ここにいれば、ユレルミはもう普通に暮らせる。

 ずっと孤独だったハッピー様は、ユレルミという友を得ることができる。


 なんの問題もない。

 なんの問題もない、はずだ。


 けど、なぜだろう……。


 煌びやかな服を着た、美しいユレルミの姿に。

 喜びにぴょんぴょんと飛びはね、ユレルミの両手を握るハッピー様の姿に。


 なぜこうも胸がざわつくのだろう。

 どうして、ユレルミのぷりんとしたお尻が恋しくなるのだろう。


 落ち着かない心はそのままに、私は今もポケットにしまってある〝もう必要ないはずのユレルミの換えの葉っぱ〟を、きゅっと握りしめていた――。




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