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No.2 宇佐美の勧誘


突如現れた”うさ耳男”は、笑顔を振り撒きながら歩み寄ってきた。


「おぬし、何者だ」

玄次郎の口から尖った犬歯が見え隠れした。


「木常玄次郎♪ですね?」


「おれの問いが聞こえぬのか?何者だ‥‥‥」

玄次郎は今まで感じた事のない、異質な雰囲気をうさ耳男から読み取っていた。


うさ耳男は空を指さした。

「私は宇佐美と言います♪月から来ました♪」


 この男、ただのうつけ者やも知れぬ‥‥‥

玄次郎は自然と肩の力が抜けていくのを感じた。


「この戦、あなた方が負けますよ♪死んでしまう前に、私と一緒に来てください♪」


「何を申すかと思えば‥‥‥」


「私は未来を知っています♪この戦は、歴史の教科書に載るほど有名なんですよ♪」


「未来?‥‥‥ガッハッハ!悪いが遊んでる刻は無い、さらばだ」

玄次郎は背を向けると、自軍に向かって歩き始めた。


「玉藻前の血を引く者、木常玄次郎♪あなたの力が必要です♪」


玄次郎は歩みを止め、振り返ると、うさ耳男を睨みつけた。

「随分と気安い御仁のようだな。おれはおぬしの事など、露ほども知らぬぞ」


 此奴、おれが玉藻前の子孫だと知っておるのか。

 木常一族と関与する者か?わからぬ‥‥‥

 いずれにせよ、東軍に付き従う妖とみた‥‥‥


「木常家で妖術を使えるのは、あなたの父君の代で終わります♪何故なら、あなたは此処で戦死するからです♪」

うさ耳男はつぶらな瞳を見開いた。


「ぬかせ!!東軍の妖め、おぬしの調略など受けはせぬぞーー!」

玄次郎は砕けて落ちていた槍の切先を拾うと、うさ耳男に向かって投げ飛ばした。


 紙一重でうさ耳男は鉄の刃を交わしたが、瞳の中には髪を逆立たせ、牙を向いた玄次郎が飛びかかって来る様子がスローモーションのように映っていた。


「あ~ぁ♪失敗ですね♪」

うさ耳男は左手をスナップ効かせるように一回転させると、左手首のブレスレットが光輝いた。


reverse reverse reverse reverse reverse‥‥‥

‥‥‥‥時は巻き戻された。


「おぬし、何者だ」

玄次郎の口から尖った犬歯が見え隠れした。


うさ耳男は小さく咳払いをした。

「私は宇佐美と言います、未来人です♪」


「未来?‥‥‥ガッハッハ!悪いが遊んでる刻は無い、さらばだ」

玄次郎は背を向けると、自軍に向かって歩き始めた。


「あなたの子孫、木常京子に”依頼”をしています♪」


「子孫‥‥‥木常だと?」


「今から400年以上先の話ですが、あなたの子孫に”とある依頼”をしております♪それは日の本だけではなく【世界を救う】事です♪」


「400年後?せかい‥‥‥聞き慣れぬ言葉だな」


うさ耳男の宇佐美は、巻物のような書物をジャケットの内ポケットから取り出した。

「これは木常家の家系図です♪玄次郎、あなたはココです♪」


 うさ耳男は不思議な紙でできた巻物を見せてきた。

変わった”紙で作られた書物”を玄次郎はおもむろに手に取ってみた。もはや、紙なのか鋼なのかもわからない。その家系図には、父から聞かされてきた先祖の名が記されていた。


「‥‥‥おぬし、未来から来たと申したな?」


「はい♪正しくは、月から来ました♪」

そう言うと、うさ耳男は空を指さした。


「月‥‥だと?」

玄次郎は釣られるかのように、空を見上げた。


「この家系図で、信用して頂けましたか♪」

手を下ろすと、玄次郎に笑いかけた。


 どうやら東軍の者ではなさそうだ‥‥‥

 しかし、”月から来た”とは‥‥‥

 相当なうつけ者であるには変わりなかろう。


玄次郎は顎に手を当て、うさ耳男を舐めるように見つめた。


「玄次郎、私と一緒に未来へ来て下さい♪遠い未来で、”木常だけ”が世界を救えるのです♪」


「そうはいかぬ、おれはこの戦で手柄を立てるのだ。そして村を、友を守らねばならん」


「西軍は破れます♪この未来は変えられません♪いや‥‥‥【変えるべきではない】というのが正しいですね♪」


「西軍が敗れるだと?ガッハッハーー!今しがた、敵を打ち倒したばかりでは無いか!」


うさ耳男は首を横に振りながら、溜息を吐いた。

「戦況は山の天気の様に変わります♪‥‥‥あなたに、ここで死んでもらっては困るのです♪」


「まだその様な事を申すか」


「まだ信じてもらえないんですかぁ♪」


 此奴の申す事、あながち嘘ではなさそうだ‥‥‥

 さすると、おれは此処で死するのか?馬鹿な!!


玄次郎は頭を左右に振った。

「おれが此処で死すると?ガッハッハーー!おれの戦いぶりを見ておったろう?」


「えぇ見ていました♪しかし、私は”未来と”を知っています♪あなたは此処で死に、西軍は敗退します♪」


「‥‥‥ふん!面白い。意地でも勝ってみせよう!」

玄次郎はそう吐き捨てると、再び歩みを進めた。


「良いんですか♪”木常京子”を助太刀しないと、日の本だけではなく、世界が征服されます♪世界を救えば、”英雄”になれるチャンスなんですよ~♪戦国大名よりも、ずっと凄い事ですよ~♪」


 うさ耳男の宇佐美は口に手を当てて声を掛けたが、玄次郎は振り返らなかった。


「仕方ない、もう一度やり直しますか♪いや‥‥”アレ”を試してみましょう♪」

うさ耳男は左手に取り付けている、シルバーリングを撫でた。


‥‥‥

‥‥‥‥


「お~い、玄次郎、どこで休んでたんだ~?」

助六が手を振っているのが見えた。


「妙なウサギに絡まれていた‥‥‥気にするな」


「大丈夫かおめぇ?おらも戦は初めてだけんど、無理すんな~?子どもさ産まれんだがら」

まん丸い顔の中に配置された、短く太い眉が八の字に歪んだ。


 此奴は、愛くるしい奴だ‥‥‥

玄次郎はそう思うと、口元を緩めた。


一刻の休みも束の間、伝令兵が慌ただしく駆け回っているのが目についた。

「敵軍、右手方向より進軍中ーーー!!」


「さぁ!!皆の衆、虎狩と行こうぞーーー!」

騎馬に乗った侍は兜の緒を締めると、青白く光を反射する刀を、高々と天に掲げた。


「うぉーーー!」「おーーーう!!」

初戦を制した勢いで、味方の士気は良好だ。


 ‥‥‥さて、此処らで敵将のしるし

 挙げさせてもらおうか!!


 陣太鼓が鳴り響く中、迎撃体制を整えた味方の合間を縫うように、前線へと向かい走り出した。


 何だ?おかしいぞ、身体がやけに重い‥‥


 前線に着いた頃、玄次郎は身体の不調を確信した。

しかし、敵兵との距離は既に200歩まで縮まっている。


玄次郎は両手で印を切ると、大きく息を吸い込んだ。


妖術:塞隻衝:サイセキショウ


敵銃兵隊が構える火縄銃が、一斉に火を吹くと、玄次郎の右肩に命中した。

「っぐぅ!!」


 風が吹かぬ、なぜだ‥‥?衝撃術が使えぬ‥‥‥


 仰向けに倒れ込んだ玄次郎を飛び越え、味方が次々と敵軍へ突撃を敢行した。


「玄次郎!撃たれただか!?下がってろ~!」

助六が玄次郎の前に立ち、守るように槍を構えた。


 焦る必要は無い、こんなもの、笑えば治るはずだ。


「ガーハッハッハー!ガッハッハーー!」

玄次郎は撃たれた右肩を手で押さえながら、大爆笑をした。


「ば、馬鹿がおめぇー!?笑ってる場合がぁ~!?」

助六が振り返ると、敵兵が放った矢が玄次郎の左胸に刺さった。一瞬怯んだが、それでも玄次郎は笑う事を止めなかった。


 見兼ねた助六は玄次郎を立たせると、肩を担ぎ後方へと足を走らせた。


「助六‥‥‥ははっ!何か‥‥‥変だ、力が‥‥‥」


「喋んじゃね~!立って、足さ動かせーー!」


玄次郎は助六に連れられ、半ば引きずられるように戦線から離脱した。

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