異世界征服記録5『虫刺され』
異世界人が3人の存在に気付いた中、彼女等は、
「ああああああああああ!! 鬱陶しいいい! 糞! 集んなあああ!」
森で飛び交う光の玉に苛まれていた。
アスデウスは手を大振りしながら光何かと追い払っていた。
しかし、光はしつこくアスデウスだけでなく、ルシファーナにもベルフェレにも集っていた。
ルシファーナとベルフェレは無視を決め込んでいたが。
「かっゆ! 腫れてるじゃないか!」
「私は……バリアで防いでるから大丈夫……虫よけ効かない?」
森に入ってから数分後くらいから、ずっとこんな状況であった。
突如3人に光玉のようなのが集り始めていた。
しかも、何か毒を持っているのか体に着くとそこが虫刺されの様に腫れる。
アスデウスは意識を集中させて
「は!」
パチン!
光目掛けて手で叩いた。
ブチャ!
手には結構な量の血が溢れ出した。
「うわあああ! めっちゃ吸われてるうううう!!」
「蚊って結構吸って叩いた瞬間腹の血が溢れたように出るから嫌だよねえ」
アスデウスの方を見ながらルシファーナも
パチン! パチン! パチン!
グショオオオ……
と手の中は血で真っ赤になっていた。
「うわあ……引くわあ……そんなに吸われてるの……」
「知らない土地だと毒も違うからこうなるのか? 体痒いわあ……」
ドン引きしているベルフェレに面倒そうにしながらルシファーナは助けを求める。
ベルフェレは車椅子の中からアームを伸ばして何かを取り出した。
「はい……痒み止め……」
「……ありがとう」
「使わせてくれええ! もう痒くて痒くてええ!」
申し訳なさそうにするルシファーナとは違い、アスデウスは泣きつくように痒み止めをベルフェレの手から奪った。
そして、チューブから白いドロッとした液を出して、体中に塗りたくった。
「あ! おい! 私の分も残せよ!」
「スー―スーーーーーー!! キモチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!! あ、ヤバ……イッタ……」
絶叫するように涎を垂らして喜んでいるが、イッテしまった事に気付き股を押さえる。
「分かった分かった……さっさとこっちに寄越せよ」
ルシファーナは呆れながらも反応だけはした。
「で? さっきの話の続きだがこの転移は繋がりを利用していると言っていたがそんなに簡単にどこでも転移出来るものなのか??」
不敵な笑みを浮かべながらベルフェレは
「それは難しいと思うよ……一度開いた空間だからこそ、塞いがれたであろう切れ目の部分を利用して抉じ開けることが出来た……だからそこを見つけないと無理矢理転移何て100%不可能だよ……ウヒヒヒ」
「じゃあ何で今回は上手くいったんだ? 誰かが一度そこで転生か転移でもしたのか? 確かお前の研究所は豊中博士が使っていた研究所だろ? 実験に失敗した人間の誰かが転生したか実験途中に召喚されてしまったかのどっちかか?」
「さてね……たまたまそこに切れ目を見つけることが出来たから利用した……もしかしたらあそこは君が豊中博士を殺した場所だから豊中博士自身が転生したのかも?」
「ハハハハ!! それは面白いなあ! 何々! それってつまり豊中博士はこっちの世界では何も出来なかったが世界平和を実現させたと! そう考えると私達がせっかく作った豊中博士の平和をまた潰すことになるなアあ!」
「ウヒヒ……何だか悪いねえ……ウヒヒヒ」
悪巧みをするように2人は向き合い嗤っていると
「ねえ! 見て見てえ!」
アスデウスがと子供の様な無邪気な声で呼びかける。
「はあ……何……さっさと痒み止め寄越せよ」
仕方なさそうにしながら振り向くと、何故かアスデウスは体中に薬を塗りたくった状態で
「私……汚されちゃった……」
と虚ろな目でグッタリと横たわっていた。
何とも言えない表情で見た後、ルシファーナは直ぐに痒み止めを奪い取ったが、
「テメエ! めちゃくちゃ減ってるじゃねえか! ふざけんじゃねえぞ!」
絞り尽くされた状態のチューブを見て、アスデウスにブチギレた。
ベルフェレは
「まあまあ……丸めれば出てこないことも……ないよ……」
仕方なく、ルシファーナはチューブの後ろから折る様に丸めていくと
グニョ
出口から溢れる様にドロッとした白い液が出て来た。
「うわあ! めっちゃ出た! もう最悪」
「まあまあ……良くある良くある」
仕方なさそうにしながらも、ルシファーナは溢れた薬をすくい、虫刺され部分に塗った。
無視されたのが気に食わなかったのか再びアスデウスは
「ねえ! もう一回! もう一回見てよおお!」
と子供の様な我儘口調で声を掛ける。
2人は呆れながらも振り向くと
「もう……こんなに出しちゃって……仕方ないんだから……」
色っぽい声と高揚した頬、艶めかしい目で自分に着けた薬を指ですくい、そのまま口元へ運び
「はあ~……もったいない」
そのまま口の中に運ぶ。
「!!!」
途端にアスデウスは顔を歪ませて
「うええええええええええええ! ばっずうううう!!! べえ! べえ!」
と口の中に入れた薬を咽ながら吐き出した。
2人はその様子に
「ハハハハハハハハハハハハ!! 無様! 無様! ザマアアアア!!」
「ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! 滑稽! 滑稽! まさか白濁液を口の中に入れるマネをして薬を口に入れるとか! そうなるに決まってんだろ! 滑稽! 滑稽!」
「うぐぐぐ……そんな……ぐばえ! 望んでおええ! いない……」
と涙目になりながらアスデウスはテンションを落とした。
息を整えて
「ほら、行くぞ!」
「うう……口が苦い……」
「自業自得……」
アスデウスは吐き気を催しながらも立ち上がり、2人と並んで進み始めた。
しばらく行くと、光の玉らしき虫はいなくなり虫刺されの悩みからも解消された。
しかし
「戻るときにはどうにかあの虫達を一掃出来る様にしたいんだが……出来るか? ベルフェレ?」
「まあどんな生物にでも効く瞬間凍死スプレーとか毒を散布する……そういう道具を車椅子の……中で作ってる……まだ掛かるけど」
「先に作っとけよ……そんなの……」
ベルフェレに嫌味の様にアスデウスが文句を言うが
「ああ……失念していた……転移成功の高揚感で……」
言い訳をして受け流した。
しかし、アスデウスは何かに気付いた様に真っ直ぐと森の奥を見つめている。
「どうしたの……人間いた?」
「いた……森から離れた遠くの方に……結構いるな……ギャアヒヒヒハハア! なかなかの戦闘力うう! 騎士か! 騎士なのか! 私様のアソコが疼く!」
目を見開きながら嬉しそうに涎を垂らしながら股を弄っていた。
そんなアスデウスのおかしなテンションにもルシファーナは動じなかった。
「で? 人数は? どれくらいの戦力だ? 目で見える範囲で頼む……」
「うーん、強いよ……特に先頭に立つ軽装の装備をしている男と女は……一番強い男が隊長か? で女が副団長の強さかな? そいつら以外は話にならない……特に副団長らしき女の隣の……シスターか? そいつは絶対に強くはない……まあ本の通りならバフ要因か? それか回復担当なぐらいか? 馬はユニコーンか? そいつも馬より少し強いぐらいな?」
「攻撃魔法の線は?」
「うーん……それはあり得そうかな……戦闘力はないが何か他に自信がある感じだ……戦闘経験は確実にないがな……」
ベルフェレはアスデウスの分析を聞きながら、目の前に双眼鏡を用意して
「確かに……戦力計測双眼鏡でもあの2人以外の強さは大したことはない……でもあのシスターは何かあるってのは確か……だが計測出来ない……アスデウスの勘がなければ多分分からない感じだ……」
計測の結果をルシファーナに伝える。
ルシファーナも貰った双眼鏡で見てから、少し考え込んだ。
「どうする? 突撃して潰す?」
「……いや……様子見出来るようにしたいんだが……ベルフェレ? 何か相手をさせる様な相手は作れるか?」
「人間がいれば……」
「うーん……そうなると……」
額の真ん中に人差し指で押さえながら考えていると
「だったら呼ぼうか?」
「何を?」
アスデウスの方を見ると体から煙のようなものをモワッと出した。
「うわ! 何だこの臭い! 妙にムラムラする!」
「ちょ……むずむずするんだけど……」
「これは私のフェロモンだ……呼び寄せる」
ルシファーナとベルフェレの頬が高揚する。
ベルフェレに至っては真っ白な皮膚が完全に真っ赤になっていた。
すると
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「何が来る……」
ルシファーナは少しずつ高揚が消えていく。
同時にベルフェレも落ち着きを取り戻してきた。
「お前な……フェロモンで呼び寄せるなよ……ここのモンスター……」
ズドドドドドドドドドドドドド
と地響きが近づいてくる。
ルシファーナは完全に落ち着きを取り戻して
「はあ……はあ……フェロモンのせいで欲情しただろうが……びっくりした……だが良い案だ……ここのモンスターなら多少の戦闘力は分かるかもな……でもこれ奴等にも届いてないよな?」
「大丈夫、私のフェロモンは奴等までは届かない様に調整してるから」
すると地響きと共にライオンの様な胴と人の様な顔をもつ怪物が目の前に現れた。
尻尾はサソリの様な形をしている。
その姿を計測双眼鏡でベルフェレは確認すると
「ほほう……あの尻尾は毒針か……良い素体を呼んだね……恐らくファンタジーでいうマンコティアだよ……」
初めてのファンタジーモンスターに、少し嬉しそうにしている。
アスデウスはフェロモンを止めて、思いっきり殺気を出し、威嚇する。
「グイイイイイイイイイイ!!」
体中の毛が逆立ち顔から大量の冷汗を噴き出しながらそのまま人間のいる方向へと駆けて行った。
「さてさて……どうなる事やら?」
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話を終えた後すぐに2人はある男の元へと向かった。
そこにいたのは金髪セミロングの容姿の整った剣を携える好青年がいた。
彼の名は騎士団長ヤリダス=レズザス、ギャドゥラン国の騎士最強と謳われる程の実力の持ち主であり、アナスティアの婚約者でもある。
ヤリダスは神妙な表情で
「なるほど……異世界から悪しき者がこの世界へ侵入した……それが本当であれば魔王以上の脅威かもしれませんね」
「ええ、魔王を倒すことが出来たのは確かに伝説の聖剣によるものも大きいですが……それでも勇者自身の能力によるものも大きいです……魔王を倒した後も魔族への抑止力、様々な法改正や改革で世界を住みやすくなりましたが……とはいえ未だに奴隷や薬物や娼婦等の犯罪行為がなくなったわけではありませんが……」
「……」
ホリーナの話を聞いてアナスティアは、暗い表情をしながら俯いた。
するとヤリダスは手を握った。
アナスティアは頬を赤らめながらも表情が明るさを取り戻す。
「確かに……勇者は魔王退治後も多大な影響をこの世界にもたらした……善なるもの野行為ならばいざ知らず悪しきものがこの世界に干渉すれば、悪しき人間達がこの平和な世界を脅かす可能性は高い……」
「だからこそ出来るだけ早く情報を手に入れたいんです……ヤリダス! 騎士団を動かしたいんですが宜しいですか?」
アナスティアもホリーナと一緒に頭を下げる。
ヤリダスは少し困った表情をするも
「まあそういう事情なら仕方ない……それに神のお告げを聞くことの出来るホリーナ様の言葉です……無下にも出来ません」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ホリーナは嬉しそうにしながら頭を下げた。
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そして、稽古を終えた騎士団に話を付けて今は国から離れた平原を歩いていた。
神のお告げは何処に異世界人来たかまでは分からず、可能性の高い勇者召喚の場所へと向かっていた。
騎士団は隊列を組みながら、ホリーナは隊列の先頭にいるヤリダスとアナスティアの隣をユニコーンに乗りながら着いて行く。
ヤリダスは騎士団に
「この近くに村がある……もし異世界人が勇者召喚の場所から近い位置に現れたのであれば近くの村が襲われる可能性が高い……拠点をそこに置いて防衛班が村に残り、連絡班は問題が起き次第国に戻って応援を呼べるように準備を……先行班は私とホリーナ様と一緒に勇者召喚の場所へ向かう、アナスティアは防衛班として村に残っていてくれ」
「何を言ってるんですか! 私も一緒に行きます!」
ヤリダスの指示にアナスティアは反論した。
しかし、
「嫌、ダメだ……副団長である君まで何かあればこの舞台の指揮を誰が見る! よく考えろ! 私も他の者も皆覚悟を持ってここに来ているのは君も知っているはずだ!」
団長の言葉に他の騎士達も
「そうですよ!」
「副団長は村での指揮をお願いします!」
「貴方がいないと村の危機を回避が難しいですしね!」
口々に副団長を頼る騎士達の言葉に申し訳なさそうに
「わ……分かった……だが何かあれば絶対に……」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
アナスティアが言い終わる前に魔獣の鳴き声がした。
「!!」
「全員! 警戒態勢! 油断するな!」
ドンドンドン!
と地響きがドンドンと近づいてくる。
そして、
「こいつは! まさか! マンコティア! どうしてこんなところに!」
「ここは森から離れている平原だぞ! しかもこの近くには村がある! まずいですよ!」
マンティコアは騎士達を威嚇している。
アナスティアはホリーナを後ろにやり
「ホリーナ様! ここは我々にお任せください!」
「私も魔法でサポートさせていただきます! 攻撃力上昇!」
警戒態勢で固まっている騎士達に範囲的に能力向上魔法を掛けて、攻撃力を高めた。
そして、マンコティアとの戦闘が始まった。