8話
いや〜、久しぶりだ! ゴロツキ? 暗殺者? 盗賊? 何かは知らんが緊急事態の際は追加のボーナスが出るんだよな! ついでに指名手配もされてたら討伐代もでるし一石二鳥!
どこに潜んでいる? いや、剣を持ってる俺が離れるのを待っているのかもしれないな。それにお嬢様の心配していた子供の方も、怪我がないかを確かめなければ……。
「大丈夫? 怪我はないですか?」
「……あっ、えと……」
幼女は震えて何も言わない。一見怯えて何もできないように見えるが違うな。おそらくできる限り時間稼ぎをするように命じられている。
そして揺れ動く視線が、全てを示している。何回も同じ場所を見ている。なるほど俺の右背後にいるのか。急いで振り返る。
次の瞬間、ガシャンッ! とガラスの割れる音が辺りに響き渡る。それと同時に石が馬車の窓へと投げ込まれ、再度割れる音が鳴る。
「きゃあぁぁっ!」
甲高くるうるさい女性の声が響き、それに呼応して人混みが割れる。そこから黒装束の者が颯爽と現れ、馬車へと向かって一直線に走る。
ピィーーッ! と笛の音が鳴る。一瞬だが黒装束の者の動きが止まりこちらを視認する。一瞬の足止めだ。俺は既に走り出している。
その音を聞き、馬車からお嬢様が飛び出る。手には見掛け倒しとして短剣を手にしている。先程の笛はお嬢様に危険を知らせる道具だ。
「ミゼお嬢様、後ろです!」
敵の位置を知らせ、もしもの時に肉壁となるフェイリスさんと共に敵を視認させる。黒装束からの奇襲に遭うことはなくなった。
次に煙幕の出る球を取り出して投げる。煙は黒装束の男と馬車の間に溢れる。外だが風はあまりない。しかし煙が散るのは早いだろう。
しかし、それだけあればお嬢様の前に立つことはできる。こちらからも向こうの動きが把握できないのは痛いが、お嬢様の側にいないと危険だからな。
「こい、絶対にミゼお嬢様は傷付けさせません!」
クビになんてなりたくねぇからなっ!
「シュルト……」
お嬢様が俺の名前を呼ぶ。そうだ、もっと俺に感謝しろ! そしてボーナスを増やすように両親を説得してくれぇぇぇぇ!!!
そして煙の中を突っ切って現れる黒装束の者。だがその足はすぐに止まる。何故なら足元には撒菱を大量にばら撒いていたからだ。
あのまま全力疾走で走っていたら足に刺さる可能性が高い。相手の動揺に動揺をさらに重ねさせる。
それを確認してから前に出る。あらかじめ撒菱のばら撒かれた道をうまく通るルートを確認しておいたので、動きは結構スムーズだ。
「くっ!」
近づく俺に向けて短剣を構える。俺の持つ剣の方がリーチは上だ。それを理解した黒装束の者は短剣を飛ばす。
「読めていれば造作もないですよ」
短剣をそうするだろうと予測していた俺はなんなく対処する。
「はっ!」
剣をねじ込むように捻りながら突き出す。こうした方が威力が上がるしな。剣は黒装束の者の体を貫く。鮮血が飛び散り剣の刃部分を流れる。
俺は自分と辺りに飛び散らないように軽く血を落とす。あとで手入れしておかないとな。お嬢様についてはフェイリスさんが前に立ち、見えないようにしてくれている。
黒装束の者についてだが……背後関係について聞き出すために生かすことも考えたが、そうするとその者が捕まってしまう可能性もある。そうなれば俺がボーナスを受ける機会を減らすことになる。それに手加減をしている余裕もなかった……。
「お嬢様、少しそこでお待ちを!」
俺は黒装束の者が完全に動かなくなり、死んだことを確認してからお嬢様とフェイリスさんの2人にそう告げ、その場を少しだけ離れる。
他にお嬢様を狙う敵が潜んでいる可能性は限りなく低い。敵を倒した直後という一番油断しやすいところを狙ってこなかったからな。
なら、次に俺がするべき行動は一つだ。急げ! 急がないと、間に合わなくなる……! 俺はそう考えながら全速力で走った。そして……。
「どこだ!? 金貨は確かこの辺りに…………」
先ほど見つけた金貨を探した。手加減なんてせずに急いだのに……!
「ちくしょお! 一足遅かったか!」
俺の金貨ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!