6話
俺がお嬢様の専属執事になって7日が経った。2日目に一週間の仮専属執事として雇われたが、その期間も明日で終わる。
俺は精一杯、持てる全ての知識を使ってお嬢様に尽くしたつもりだ。お嬢様は相変わらず男嫌いのようで、俺とはできる限り目も合わせようとしない……。
あと階段を降りる際にはお手を繋ぐのだが、それすらも嫌そうにゆっくりと、一度目に肌が触れ合う時にはビクリと手を震わせるのだ。
それでも我慢しつつ、ほんの少しだけ力を加えて握ってくる。全く、お嬢様の男嫌いも相当なものだな。……ともかく男はともかく、俺には慣れてもらわねば困る! じゃないと解雇されてしまうかな!
あと、フェイリスさんもめちゃくちゃ睨んでくるし。まぁ、今まで自分が居た立場を半分追われているのだ。給料も下がったのかもしれない。だとしたら納得だな! まぁ、手を抜くつもりはないが!
「ふぅ……。シュルト、ご苦労様」
「もったいなきお言葉です、ミゼお嬢様」
俺は礼をしてその場を立ち去る。本来なら専属執事はメイドのフェイリスさんと同じように常にお側にいるべきなのだが、お嬢様はそれを認めてくれなかった。
お嬢様に「私が男嫌いだと知った上で、それでもわたしのそばに居たい……そう言いたいの? そう。でも残念だけど、これ以上は私の心が持たないからダメよ」……そんな事を言われて押し切られてしまった、無念……。
「クソッ、このままじゃ落とされる可能性が高い。自分の父親でもある当主が任命した、俺の専属執事という役目を出会ってすぐ追い出すような人だぞ?」
どうする? 何かしようにもお嬢様にとって不都合となる可能性があり、それで機嫌を損ねられるのはまずい。だが動かねば俺に待っているのは解雇だろう。
「この一週間の俺の働きを信じるしか無いな……」
俺は自傷気味に1人で呟き、この一週間で1番大きな働きをしたと思われる出来事を思い出す。これでも合格に足るかは不安だが、仕方がない……。
***
「今日は下町に出かけるわ。フェイリス、シュルト、ついて来なさい」
俺が専属執事になって4日目、お嬢様がまたいきなりワガママを言い出す。しかしその程度、貴族ならば大抵誰でも言う事は知っているので驚きはない。
「かしこまりました」
そう適当に返しておくが正直面倒くさいなぁ……。と思いつつ、俺はお嬢様について行く。フェイリスさんは外に出ると一瞬だけ俺にお嬢様のことを任せると言い、馬車を取りに別行動を開始した。
「お嬢様、本日のご予定はいかがでしょうか?」
「特にないわ! 外に出たかったから言っただけよ。新しくシュルトも増えたんだし、別に良いでしょう?」
確かに俺があれば人数的には安心度も上がるが、俺まだ10歳の子供なのに……。
「ふむ……では、最近新しくできて美味しいと評判のお店はどうでしょうか。平民でも手が出せるお値段のものから、裕福な商人や下級貴族の方々も出入りするとの噂があります。特にそこのパフェは我が国特産品のフルーツを贅沢に使った品との事です。ミゼお嬢様のお口にもさぞ合うことでしょう」
俺はお嬢様を出来る限り近くの場所で安全が確保されそうな場所に誘導する。ここで変なところに行くと言われるよりはマシなはずだ。
フェイリスさんが馬車を取って来てもらっているが、噂が本当なら客層的にも馬車を止める場所も近くにはあるだろう。
「そうね……じゃあそうしましょう!」
お嬢様の一声で本日の行先が決定した。なお、フェイリスさんと話さずに決めたせいで睨まれた。
でもお嬢様が決めた事だから不服そうな顔をしつつも了承をしていた。しかしこうしてポイント稼がないと雇ってもらえないしこの一週間は勘弁してくれ……。