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5話

 先ほど一週間限定ながらも専属執事としての地位を確立したシュルトが退出するのを見送り、私はミゼお嬢様に話しかける。


「ミゼお嬢様、あれでよろしかったのですか? 今ならまだ流されただけだと言えば、先ほどの雇用についても無しにできますが」



 私はミゼお嬢様にそんな進言をする。あの少年は……とんでもないですね。本当に10歳かと疑いたくなるような気転です。


 今回は少しミゼお嬢様の心情を読み違えて失敗をしてましたが、状況証拠を集めそこから推測された出来事を使い、まだ幼いミゼお嬢様に訴えかけた……。すごいを通り越して、怖い……そう表現する方が適切でしょう。



「構わないわ、フェイリス。……少なくとも頭は良いようだし、断る理由がありませんもの……。それに、あれほどの熱意。少しぐらい譲渡して上げるのもまた一興……そうでしょ?」



 ミゼお嬢様はフフッ、と微笑しながら私に尋ねてくる。なんて鋭い視線なんでしょう。火花でも散りそうな眼力。ミゼお嬢様もまた、10歳とは思えないですね……。



「ミゼお嬢様がそう思うのなら、私はその意向に従うのみです」



 私は頭を下げてそう告げる。男であるシュルトを専属執事として採用したと言うのに、今の反応がおかしいのは見れば大抵の人は分かると思う。


 普通はあの勢い、熱意に負けたとしても本人がいない今なら嫌がったりするもの。だがそうしない。その理由は簡単……ミゼお嬢様が男嫌いと言うのは嘘だからだ。



「それにしても、まさかあれほど有能な者だとは……本当に試してみて良かったわ」



 ミゼお嬢様が楽しそうに笑う。まるで面白そうな玩具を手に入れたような笑みだが、違うと否定できないのが辛い……。


 ミゼお嬢様はシュルトが自分の専属執事たるかどうかを試したのだ。自分に仕えようとする熱意があるか、自分を説得するだけの能力があるのかを……。



「それでミゼお嬢様、彼は今後どう扱うのですか?」


「そうね……さっき役に立てと命令をしたわね? その意向を汲み取って何をしてくれるのか楽しみだわ。だから基本的には自由にさせましょう。そう伝えておいて……」


「かしこまりました」



 そう告げて私はミゼお嬢様のお側を離れ、おそらく訳がわからないと言った表情をしているだろう専属執事シュルトの元へと向かう。



***



「……か、完璧よね? 私、何もおかしなことは無かったわよね? ……うん、きっとそうに違いないわ!」



 私はメイドのフェイリスが自分の側を離れた時を見計らい、椅子から立ち上がって両手を握りしめたりしつつ、今までの自分の勇姿を称える。



「おっと、誰にも気付かれていないかしら? わ、私がシュルトの事を好きだってこと……」



 私はあたりをチラチラと確認しながら恥ずかしげに口ずさむ。……シーンと静まり返る部屋を見てホッと息を吐いた。



「それにしても、シュルトは大丈夫かしら? いくら思いを悟られないためとはいえ、あんな雑な扱いをしたんだもの。嫌われたかもしれないわね……。でも、仕方がないじゃないの! そうしないと、まるで私がシュルトの事を好きだから専属執事に選んだみたいじゃないの!」



 と、誰も聞いていないのに口が勝手に言い訳を始める。そう、私は男嫌いとシュルトに公言し、雑な扱いをする事で彼への好意を見せつけない、好意の裏返しをしている。


 だってそうしなきゃ……シュルトといられないじゃないの。シュルトは優秀だ。周りの人間の誰もが専属執事に相応しいと言うだろう。


 ただし、私との間に恋愛感情が無ければ……だ。私は伯爵家の令嬢。政略結婚などをさせられる立場……それなのにたかが執事如きに好意を抱くなんてもっての外。


 だから少しずつ身分を高めつつも、私の好意を悟られないようにかつ私の手元に置いておきたいの。でも、どうやってもシュルトの身分はただの専属執事……はぁ、自分の高貴な身分が憎いわね……。


 そんな事を考えていると、部屋の扉が鳴る。おそらくフェイリスだろう。



「入りなさい」



 即座に頭を切り替えてそう命令をする。



「失礼しますミゼお嬢様」



 予想通りフェイリスだったわね。危ないところだったわ。



「……あの、何か私が不在の間にあったのでしょうか?」


「え? 何も無かったけどなんでかしら?」



 そんな事を聞くなんて、一体どうしたのと言うのよ? 



「いえ……少しだけ、いつもより喜んでいるように見えた気がしましたので……。こちらの勘違いでしょう。飛んだ失礼を」


「へ、へぇ……」



 あ、危なかったわねっ! まさか顔や雰囲気でそう言うのも分かってしますのかしらっ? だとしたら私がシュルトの事を好きだってバレないようにしないと……。



「それよりもどうだったの? シュルトの反応は……」


「はい。難しそうな顔をしていましたが、命令を貰えたことに喜んでいる模様です」


「そう……」



 ふ〜ん、悩んでいるシュルトも喜んでいるシュルトも見てみたかったわね。フェイリス、あなたずるいわよっ!



「まぁ、せいぜい彼が頑張る事を期待してるわ……」



 私はシュルトに聞こえない声援を送りながらこの会話を終わらせた。



*****



シュルト「お嬢様は男嫌いだけど、俺のことは少しだけ認めてくれた! このまま専属執事として雇われてお金稼ぐぜ、ひゃっはー!」


フェイリス「シュルトよ、お嬢様の試験には合格したがまだまだ甘い! 私は認めないぞ! あとお嬢様最高! はぁ……はぁ……」


ミゼお嬢様「シュルト大好き大好き大好き大好き大好き大好き! でも公にはできないわね……あ、有能だから仕方がな〜く雇ってるだけのスタンスにすれば完璧じゃないの! 私、男、嫌い……」

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