3話
次の日、俺は再びお嬢様の部屋の前に立っていた。
「ミゼお嬢様、シュルトです。失礼します」
そう言って部屋に入る。そこには昨日同様に、お嬢様とメイドのフェイリスさんの2人がいた。
「……昨日と一緒よ。出ていって頂戴」
お嬢様はこちらを見てギョッとした顔を見せる。昨日あれだけの態度を取ったのだ。俺が来ない、もしくは専属執事を辞めている……なんて想像をしていたのかもな。
でもお嬢様、あんたのミスはたった一つ。この俺のお金に対する執着心を舐めた事だ。この俺があの程度で折れてたまるか!
「……分かりました。ですが、この手紙だけでも読んでもらえないでしょうか?」
俺はそう言って1通の手紙をミゼお嬢様に渡そうとする。フェイリスさんがそれを受け取り、お嬢様へと手渡す。
「……これは……!」
彼女はその差出人を見て驚き、戸惑いの表情を見せる。何故ならそこに書かれていた差出人の名前は、かつてお嬢様の執事をしていた人の名前だったのだから。
「一体、何故この手紙が……?」
そんなことを言いつつも、お嬢様は手紙を読み始める。最初は困惑の表情を見せた彼女だったが、黙々と読み続けた。
「……ふぅ。……それで、これを私に読ませて一体何が言いたいの?」
読み終わり一息ついた彼女のその言葉に、俺は顔を上げてそのご尊顔を見つめる。
「……お嬢様、あなたが私のような者をおそばに置きたくない。その気持ちは大変よく分かります。その手紙は、シルバ先生にお嬢様のご事情をお聞きした後、私が勝手に出した1通の手紙が原因です」
俺の言葉にお嬢様が眉を顰める。怒っていらっしゃるようだ。
「お嬢様が、親しく思っていた執事が居なくなり、悲しい思いをしたことは充分承知しております。ですがその上で、私を貴方様のおそばに置いてくださらないでしょうか?」
お嬢様の顔が微かに歪む。メイドのフェイリスさんは俺を無関心……いや、ゴミを見るような目で見ていた。それでも俺は言葉を続ける。
「私は……シュルトはミゼお嬢様の執事です! あなたに仕え、一生をあなたに捧げる存在です。ミゼお嬢様の歩む道が私にとっての道であります。たとえそれが遠回りでも、行き止まりでも、私はミゼお嬢様について行きます! その覚悟を持っています。決して、貴方のおそばから離れるような真似は致しません。……どうか、私をミゼお嬢様のお側に……お嬢様が笑う未来で、その一部にでも、末席にでも連ねさせてはもらえないでしょうか?」
俺はそう締めくくった。本当にお願いだ……! この発言を否定しなかったら一生雇用宣言の言質を取れるんだ。将来も安泰になるし頼む!
「「…………」」
お嬢様とメイドのフェイリスさんはこちらを驚きと困惑、何を言っているのか分からない……そんな表情で見ていた。
「……シュルト、でしたわね?」
「はい」
頼む、なんだ? 合格か? それとも不合格か? とっちにしろ早く言ってくれ! お嬢様は少し間を開けて、軽く息を吸い込みながら次の言葉を発した。
「あなたの言っている言葉、ほとんど意味が分かりませんでしたわ」
……? …………? えっ……!?!?!?