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2話

 なんでぇぇぇぇっ!?!?!? と心の中で大絶叫をする。



「お、お嬢様!? どういうことなのですか? せめてご説明をしてください!」



 扉を優しく叩きながら、大袈裟に動揺の声をお嬢様に向かって吐き出す。


 嘘だろ嘘だろ!? まさかお願いどころか門前払いまでされるとは思わねぇよっ!? 

 


「ふぅ……お嬢様、ひとまず今日のところは帰らさせてもらいます。ですが、私は諦めません。それでは失礼します……」



 俺はそう言い残してその場を去った。諦めてたまるか! 専属執事の給料を手に入れるためにどれだけの苦労をしたのか分かってんのか!?


 俺は絶対に、専属執事としてお嬢様に認められて見せる……高い給料のために……!



***



 そこから俺はまず、情報収集へと出かけた。追い出された理由は全くもって分からないが、何かしら行動しなくては……。



「あら、シュルト君じゃない? 専属執事になったって聞いたけどどうしたの?」



 俺がまず向かったのは食事を作る厨房だった。そこにいる噂好きのおばちゃんに見つかり話しかけられる。無論、わざと見つかったのだが……。



「おばちゃん。俺、挨拶しに行ったらいきなり追い出されちゃって……何がだめだったのかな……?」



 俺は無邪気な子供を演じながら尋ねる。ここには屋敷の人間がほぼ全員集まる。そこで繰り出される会話を、彼女たちはこっそりと正確に聞ける立場にある。何か知っているかもしれない。



「あら〜、そうなの。ミゼお嬢様は少し人と関わり合いを持つのが苦手って聞いたことがあるわ。いつも近くにいるのがメイドのフェイリスって子だけらしいの」



 フェイリスさん。確か俺を追い出したメイドの名前だな。俺やお嬢様よりも5歳ほど年上の、俺たちからすれば大人っぽい感じのお姉ちゃんみたいな印象だった。



「だからね。ほら、いきなり専属執事だなんて付けるもんだから、ミゼお嬢様も困惑してたのよ。それでつい、そんな態度をとっちゃったとかじゃなぁい? それに、シュルト君は男の子だから、恥ずかしかったのかもよ?」



 なるほど。あのぐらいの年齢の女の子はませているからな。異性と関わり合いを持つのが嫌だと思っているのかもしれない……か。



「うん。ありがとう、おばちゃん!」


「頑張ってね〜」



 俺はそう言ってその場から離脱する。あれ以上話していると、変な噂話を聞かされたり、作られたりするからな。もう遅いかもしれないけど……。



***



 次に向かったのは、お嬢様の家庭教師を担当しているアルバ先生の所だ。メガネを掛けているインテリ系イケメン。彼は二十代ながらも、その頭脳を買われて伯爵家にやってきた。



「おや? 久しぶりだねシュルト君」


「お久しぶりです、アルバ先生」



 ちなみに、元々俺の家庭教師でもある。初めは教育などは両親が教えてくれたり、他の人たち……つまりは専門外の人だったんだが、俺はそこで満足しなかった。


 お金をより多く得るためには、知恵が必須だからな。アルバ先生に何日も部屋を張り込み、土下座までして頼み込んでなんとか了承を得たのだ。


 先生も俺のその(お金に対する)熱意に負け、ものすごいスパルタで色々教えてくれた。大変感謝している。



「どうしたんだい?」


「先生。ミゼお嬢様について、何か知りませんか?」


「……事前準備などを完璧にこなし、色々柔軟な考えをする君が、お嬢様について質問をするなんてね。何があったんだい?」



 俺は技術面、知識面、そして専属執事としても、準備を怠ったことはない。先生もそれを承知している。にも関わらず、こんな有様なのだ。先生も不思議に思って尋ねてきた。


 俺は話した。専属執事としての知識どころか、それすら使えるような状況ではないことを。俺がいくら準備していると言っても、それを発揮する舞台にすら立てていないんだ。勘弁してくれよ……!



「どう思いますか?」


「そう、だね……。おそらく、彼女は自分の知らないところで勝手に決められたことが嫌なんだと思うよ」


「何か、そう思える理由は何かありますか?」


「もちろん。……彼女にはフェイリスの他にもう1人、君とは別の執事がいたんだ。専属ではないけれど」



 そう言って、アルバ先生は語り始めた。まだお嬢様は幼い頃、ピクニックで出かけた先で狼に襲撃される事件があった。


 執事は懸命に戦い……片腕を無くす重傷を負った。その後、執事としての役割を十分に果たせなくなった彼は、屋敷を去った。


 ここからは想像だが、彼女はその事を知らされておらず、お別れ当日に泣き喚いたらしい。その幼い頃の記憶が、今でも引っかかっているのかもしれない……と、アルバ先生は締めくくった。



「まぁつまり、彼女は自分の大切な物を失った悲しい気持ちから、大切な物を作らなければ良いと考えてしまったんだ。君の存在が、彼や父親の行いを思い出させたんだろうね」



 …………やべぇ、結構重たい内容だった。俺は普通に金欲しいって思ってただけなのに……! 



「……それでも、俺だってお嬢様に仕えるため、身を粉にして学んできたんです。絶対に、諦めませんよ」



 あぁ、諦めてたまるか! このままじゃ俺は執事を1日目で失格になった落ちこぼれの烙印を押されてしまう。


 そんな噂が広まれば、外分的にも良くはない。給料だって下がってしまう……そんなこと、絶対にさせない! お金のために、俺はそう誓った。



「……本当、君のような強い信念を持つ生徒を持てて良かったよ。シュルト君、その想いを彼女にぶつけよう。まずはそこからだ」


「はい! 失礼します」



 俺はそう言ってアルバ先生の元を去った。次にやるべきことは一つ。俺はまた違う場所へと向かった。

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