サークル
第03話「見知らぬ女の告白」
じわりと意識が戻った私は眠気を振り払い目を開けるといつの間にか自分がパソコンに突っ伏して寝ていたことに気がついた。今日のことを回想していたのが仇となったか....
私はなんとか眠気を醒ますために、もう水同然の温度になってしまった珈琲をすする。
......時刻を確認すると11時をまわっていた....こんな時間になりながらも私はレポートを書きながら客が来るのを待っていた。
幸いにも私が寝落ちする前にレポートの内容はまとめてある。
風の弾丸を指先から放ち空き缶に穴を空けたこと、コンビニ強盗を撃退したこと、コンビニで出会ったよくわかんない女の人に車の中で「今晩、あなたの家に伺いたいのですが宜しいですか?」といわれ首を縦にふってしまったこと。
内容が内容なため書きやすくて助かった。
後は来客が来るのを待つだけ....。
そんなことを考えていると、眠っていた筈のモノズが不安そうな声色で話しかけてきた。
(お主お主....ちょっとよいか?)
「なにモノズ....まだ起きてたの?」
(うむ....お主が客を待っているのに我が寝るのはいかがなものかと思ってな....)
こいつ....変なところで責任感を
「もしかして心配してくれてるわけ?」
(それもあるが、あの女からの質問にお主だけで答えられるのかなと....)
余計なお世話だ....!
「大丈夫だよ....多分....」
いや....でもなんか不安になってきた
(取り敢えず我も起きていることにするぞ)
「わかったよ」
内心ちょっとホッとした私がいたことに腹が立った。
それからレポートの仕上げを済ませ、一時の休息を楽しんでいると。
出来れば聞きたくなかったインターホンの音が静かな家にこだました。
本当に来ちゃったよ....
私は小さく溜め息をつくと一階に降り、玄関を開けた。
「こんばんは、夜分遅くに申し訳ありません」
女はペコリと頭を下げる、なぜか酷く疲れているように見えた。
「いえいえ、どうぞ上がってください」
私は冬の寒さのせいか少し震えている女を家に上がらせた。
「お邪魔します」
「靴は適当にその辺に脱いじゃってください」
「はい」
女は靴を丁寧に並べ脱ぐと、私の後ろにピタリとついた。
さて....リビングに行くのもありだけど親が帰ってきた時に何て言われるか分からない....
しょうがない、自分の部屋にあげるか....
「えっと....こっちです!」
私は少々気が引けたものの女を自室へと通した。
「素敵なお部屋ですね。」
女はそういうと床に敷いてあるカーペットの上に正座した。
お世辞にも綺麗とは言えない部屋を誉めてくれるのは嬉しいけど、お世辞と分かるお世辞はやめてよ....なんて思いながら私も女の前に正座した。
少しの沈黙の後に、私は意を決して口を開いた
「えっと....今晩はどんなご用件で....?」
「.....単刀直入に申し上げます。」
女は少し考えた後に話し始めた
「私も貴女と同じ、ヒーローです」
「ええええ!?!?」
予想もしていなかった展開に私は思わず驚愕の声をあげた。
「ひ.....ヒーロー!?」
「はい、ヒーローです」
女は驚きのあまり挙動不審になっている私に名刺を差し出す
「一応、自己紹介も兼ねて名刺をお渡ししますね?」
「は...はい」
差し出された名刺を受け取り目を通したところ、どうやら名前は「西谷 巴」と言うらしい。
大人っぽく、二十歳は越えているだろうと思っていたのだが、私より一つ上なだけだったことは少し意外だった。
「貴女もヒーロー....ですよね?」
私が黙っていると西谷さんが直球な質問を飛ばしてきた。
「えぇ....あ....はい....一応は」
「そうでしたか、良かったです!」
もごもごと答えた私を見て西谷さんはニコッと笑った。
「それにしても貴方の「トレース」はずいぶん元気ですね」
苦笑いする西谷さんの目線の先を見てみると、私の勉強机の上に座り
あしをぷらぷらさせているモノズの姿があった。
「モノズ!?」
「なんじゃ?我も挨拶しようと思ってな!」
「ばか!急に出てこないでよ!」
私はモノズを体の中に戻そうと立ち上がる
「そのままで結構ですよ」
立ち上がった私を西谷さんが制止した
「え....でも...」
「大丈夫ですよ、私も....ほら、リンネ出ておいで」
西谷がそういうと、西谷さんの体からスッと背が低めな幼い少女が現れた
「紹介します。これが私のトレース.....リンネです」
「こ....こんばんは....リンネ....ですっ....」
リンネと呼ばれている少女は申し訳なさそうにペコリとお辞儀をしてその場にへたりこむ
「巴様ぁ....戻っても良いでしょうかぁ....私初めての人と会うの苦手で....」
リンネは今にも泣きそうな声で西谷さんに懇願する。
「リンネ....貴方は少し人と話すことを練習しなさい?ほら、あちらのトレースとお話でもしてきなさい。私はこの方とお話がありますから」
「は....はぃ....」
リンネは怯えながら、机の上に座っているモノズの元へ歩いて行く。
「お主があの女のトレースなのだな?」
モノズは机の上からひょいと降りると、リンネの顔を覗き込んだ
「はひ...!そ、そうです.....」
「我は綺紗のトレース、モノズだ!宜しく頼むぞ!」
「わ、私はリンネです....巴様のトレースです。」
さっきからトレースって言ってるけどトレースって....なに?
「あの....トレースってなんですか....?」
私は聞きづらさをはねのけ西谷さんに訪ねる
「あぁ、トレースのといってもピンと来ないですよね....すみません」
「トレースは....そうですね、簡単にいえば貴方の分身のようなものです。」
モノズが私の分身!?
「分身....?」
「はい、分身です....ただ.....」
西谷は少し口ごもる
「西谷さん....?」
「いいえ、少し失礼かもしれませんがモノズさんは貴方のトレース....ですよね?」
「えっと.....たぶん....でもどうしてそんなことを聞くんですか?」
「いいえ....その....トレースというのは私達の分身でもありますから、見た目がかなり似ている筈なんです」
確かに言われてみればそうだ....西谷さんとトレースであるリンネは幼いが西谷さんに似ている。でも私とモノズは.....
「私とモノズは似てない....」
「....はい....私がみてきた中でもかなり似てないです」
確かに生き写しが似ていないというのはなかなか妙な話だ....ん?ちょっとまって....?私が見てきた中で....?
「あ、あの....私が見てきた中でって....もしかして私と西谷さん以外にもヒーローが居るってことですか?」
「はい、少数ですが私達以外にも居ます」
い....居るんだ....衝撃の事実
「ええっと....今夜はもう遅いので簡単な説明にさせて頂きますが、私達ヒーローだけが集まっているサークルがあります」
サークル....!?
「今回はそのサークルに貴方を勧誘するためにお伺いさせて頂いたんです、こんな急な申し出は信じられないと思うのはごもっともですが、どうかご協力願えませんか?」
そういうと、西谷さんは深く頭を下げる。
.....にわかに信じがたい話ではあるが、西谷さんはいたって真面目な顔をしている....これは信じても良さそうだ。
それに、なんで私がヒーローになったのかを知れるチャンスかもしれない。
「わかりました、私、巴さんのお話信じます!」
「ありがとうございます!.....ええっと、そう言えばお名前を伺っていませんでした....なんてお呼びすれば....?」
しまった!相手が名乗っていたのについつい失念を!
「遅くなってすみません....!私は桜木綺紗っていいます」
私は謝罪の意味も込めて軽く会釈をする
「いいえ、大丈夫です。これから宜しくお願いしますね桜木さん」
それから数分程他愛もない話をた後に、西谷さんは連絡先を交換し明日の昼頃に会う約束を取り付け帰っていった。
......私は寝る支度を済ませ電気を消し「我も入れるのだ!」と駄々をこねて聞かないモノズと共にベッドの中へ潜り込んだ。
.....はぁ、明日も休日返上で忙しくなりそうだ....私は小さく溜め息を付くと、あれやこれやと話しかけてくるモノズを無視し、眠気に任せて目蓋を閉じた。
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