初陣
夢にでてきた女が現実に出てきて.....空き缶に穴が空いて....変身して......濃すぎる情報が私を混乱させる
02話「W」
ベッドの上に寝っ転がり早一時間、私は状況を整理しようと考え込んでいた。
そして考えれば考えるほど分からなくなってきてもいた。
本末転倒とはこの事か.....
「まだ考え込んでおるのか?」
「うるさい黙って」
私はなぜか嬉しそうに話しかけてくるモノズを突っぱねる。
「ぬー!!冷たいぞ!」
「今考え事してるの」
「それは知っておる」
「じゃあ黙ってて」
「......もうなってしまったものは仕方ないのだぞ?」
私が横になっている隣にモノズは正座すると肩をパシパシと叩き出す
「ちょっと....なにすんの邪魔」
「ところで名もなきヒーローよ!」
華麗に無視したよね今
「その呼び方やめて。」
「事実であろう?」
「はぁ.....なに?」
「事件だ!」
「は?」
「コンビニ強盗。」
「は?」
「だーかーら!ここから3km先のコンビニで強盗発生中!」
「ちょ!?それ不味くない!?け、警察に....!」
起き上がり、スマホにてを伸ばそうとする私をモノズが止める
「なに言っておる?お主が行くのだぞ?ヒーロー♪」
「無理無理!流石に無理だって!」
「何をビビっておる!ヒーローであるお主の出番であろう!」
「まってよ!最初っから難易度高すぎるって!!」
「よいのかー?これで怪我人が出でもしたらぁ.....」
くっ...!こいつ....人の良心を揺さぶりに来た....!
「だ....だから警察に!」
「あとぉ....これもあるのだが....」
モノズは一枚の写真をヒラヒラと私の前でちらつかせる
「っっっ!」
その写真にはギャル状態の私の姿が納められていた。
「これをー!お主の仲の良い友達の机のなかに入れてきても良いのだぞ~?」
こいつ....!埋めたい....!
「あーーもう!!やれば良いんでしょやればっ!」
「うむ!そのいきだぞ!」
モノズは嬉しそうに笑うと私の体の中へと入り込む。
覚悟を決めた私はさっと着替え階段を掛けおり勢いよく家をでた。
「それで!そのコンビニってどこよ!」
(まぁ焦るでない!その前に変身!だぞ♪)
忘れていました変身!.....もういいよ....やけだよ!
私は庭の木の影に隠れると、ささっと変身を済ませた。
(木の影に隠れてこそこそ変身とは....)
「恥ずかしいんだよ!?」
(いつか慣れるぞ!あ、あと初めての時以外は「へんしん!」言わなくても良いのだぞ?)
「それ早く言ってよ!」
(言い忘れておった)
はぁ.....こいつ.....
埋めてやりたい気持ちを押さえ込み、自転車サドルのホコリを払う
「それで、どっちに行けば良いの?」
(ちょちょ!走るんだよ!?)
「いや私運動苦手だから!」
何を隠そう、私は帰宅部で運動のうのじも無いのだ。
(そこは心配しなくて良いぞ!お主の身体能力はもとのお主の10倍は固いぞ!)
「10倍!?」
それが本当なら少し走るくらいなら問題ないかもしれない!なぜだろう10倍と聞いて少し気になってきた!
「わかったよ......走る!その代わり案内お願いねモノズ!」
(任せるのだ!)
私は腰ほどの高さの車庫を飛び越えモノズの指示通りに走り出す。
その間、なるべく金髪を隠すためにつけた黒い帽子が飛ばされないように目深にかぶる。
(は...はやくない!?)
自分の体じゃない位に軽く、素早く動くことに驚き、思わず心の中でモノズに話しかける
(そりゃー勿論だとも!これならあっという間に着くのだ!)
数分ほど走っていると「ルーソン」の青い看板がビルの隙間に見えてきた。
(あのルーソンでいいの!?)
(うむ!あのルーソンで間違いないぞ!)
(っ....!)
ルーソンまえに集まる人集りと、店内から聞こえる罵声に私は緊張の面持ちをあらわにする
(緊張しておるのか?)
(当たり前でしょ!)
そんな会話をしていると鼓膜を裂くような轟音に私の目はルーソンに釘付けになった
(い....いまのって....)
(間違いない!銃声だぞ!....お主!こうしては居られぬ!戦闘開始だ!)
(う....うん...)
私は慎重に店内のドアを開け入店する
「お....お邪魔しますー....」
緊張のあまりなぜかその言葉が口から出てしまった。
(なにやってるのだ!?)
(だ....だだだだだって緊張しててて!)
犯人は緊張で固まっている私に気付くとすぐさま拳銃を私の額に押し当て、威嚇する
「てめぇ!!!だれの許可とって入っとんじゃ!!!死にたいんか!!!」
犯人のなみなみならぬ気迫に押され言葉に詰まる。
「えっと....」
(今じゃ!)
(なにが...!?)
(殴れ!!!)
この期に及んで脳筋戦法で何とかすると!?
(殴れってったって....!)
(お主!もう忘れたのか!お主の身体能力は本来のお主の10倍なのだぞ!?)
そうだよ...!10倍だよ....!いやでも銃には勝てなくない?
(で....でも拳銃相手に勝つなんて無理なんじゃ....!)
私もっともなこと言ったと思う。
(大丈夫!我を信じて殺ってみるのだ!)
物騒極まるなこの子!
ただ、このまま蜂の巣にされるのは御免被る!.....やるしかないかっ!
覚悟を決めた私は右こぶしに力を集めるイメージを固める。
「ふんす!!!」
私は強盗が引金を引くよりも速く強盗の腹に拳を打ち込んだ
「ぎぃえ!?」
確かな手応えの後に強盗の男は情けない声を上げ入り口の向かい側の陳列棚へ吹き飛んだ。
死んでない....?あれ....
(お見事!)
モノズは満足げな声で言う。
(.........)
強盗は陳列棚に突き刺さって痙攣してる訳だし、問題は解決したのだろうけど.....回りからの目線が凄いっ.....!
わかるよ?いきなり店にはいってきたギャルみたいな奴が屈強な強盗をパンチひとつで吹き飛ばしたんだしそりゃ目も点になるのもわかるよ?
「ええっと.....み....皆さん無事ですか....?」
なんとか自然に誤魔化そうとして捻り出したこの台詞がさらに居合わせた客の注目を集めることになった。
どうすることも出来ず固まっていると一人の客がパチパチと手を叩き始めた。拍手だ
それにつられるように店内にいる人殆どがパチパチと拍手をしはじめた。
「ありがとー!」
一人の客が声をあげ、次々に私への感謝の言葉が叫ばれる
「えっ.....あ.....」
突然の出来事に思わず後ずさると、スタッフルームから一人の男が現れ私に手を差し出した
「ありがとう....!君のお陰で助かったよ!」
「い....いいえ....とんでもない....!」
私は差し出された手を両手で握り返す。
照れ笑いをしながら俯いていると、今度は足元に小さな男の子が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃんかっこいい!!!お姉ちゃんってもしかしてヒーローなの?」
「ぇ!?ま....まぁ....そんなとこ....?」
ヒーローという単語に焦りながらもなんとか答えを返す
「やっぱりお姉ちゃんヒーローなんだね!?ねぇ!なんて名前なの??」
小さな男の子は私の上着を掴み、目を輝かせながら質問責めをしてくる。
「え....あぁ....名前....名前は....」
ないよ!!どうしよう....そうだ!モノズに聞こう!
(モノズ!!!私って何て言う名前のヒーロなの....!?)
(んー?それはお主が決めることだぞ?)
予想外の答えが帰ってきた.....普通決めるの私じゃないよね!?
「ねえ!お姉ちゃんは何て言うヒーローなの?」
ど....どうしよう....!なんて答えるべき!?やっぱりここは子供の夢を壊さないようにカッコいい奴....?ま...マスターひー.....だめだ!思い付かない!
「お姉ちゃん....?やっぱりヒーローじゃなかったの....?」
「え!?あ、いや違うよ!?ちゃんとヒーローだよ!?」
「でもお名前無いんでしょ....?」
くっ....そんな泣きそうな声で言わないでよ!
「そ、そう!私は「W」!ヒーローだよ....!」
ぎゃーー!なに言ってるんだ私ぃ!!!Wってナニ!?
「だぶりゅー....?」
まってよやめてよ!そんな不思議そうな顔しないでっ!?悪気がないだけあって辛いから!!!
「少し変な名前だけど....かっこいい!!」
男の子はそういうと目をさらにキラキラと輝かせる。
はぁー....なんて良い子なんだろ....こんな良い子を助けられて良かったって本気で思った。
「そ....それじゃあ....私帰るから....!」
達成感と羞恥を感じながらいざ帰ろうと思い振り返った瞬間、怖い顔をした見知らぬ女が私の目の前に立っていた。
あ....これ不味いのでは....?
「君がそこにいる犯人を吹き飛ばした子で間違いないですね?」
落ち着いた女の声が私の不安を大きく煽る。
「ひゃ.....ひゃい....そうれす....」
やばい、声がでない!怖いよこの人!!!
この感じもしかして警察官....?
「......署まで同行願えますか?」
ですよね...!私、人一人吹き飛ばしましたもんね!
女は私の腕を引っ張り半ば強引に店外へ連れ出した。
終始店内の客の目線が突き刺さって軽くメンタルが崩れ落ちそうになったのは言うまでもない。
そしてこれから何があるのだろうかと想像した私は軽く絶望を感じた。
「手荒な真似をしてしまってすみません」
急に立ち止まった女が口を開く
「いいえ....大丈夫ですよ」
ぜんぜん大丈夫ではないけどね
「強盗と戦う貴方を見たら声をかけずには居られなくて、因みに私は警察の者ではありませんから安心してください。」
警察の者じゃない!?....だったら安心....?
返答に困っている私をよそに、女は続ける
「ここで話す訳にも行きませんから、今夜貴方のお宅に伺いますが宜しいでしょうか?」
「え....」
思わず声がでた.....
「いきなり言われて驚くかもしれませんがお願いです!」
悪そうな人には見えないけど.....信用していいのだろうか....?
(モノズ!この女の人信用しても平気かな!?)
(最悪の場合はお主の能力で切り抜けられよう!信用してみるのも手ではないか?)
なぜこんなにもあっさりと回答できるんだコイツは....!
「お伺いしても大丈夫ですか....?」
「はっ!?あ!はい!大丈夫です!」
私は早口になりながらも首を縦にふった。
「ありがとございます!.....では、少し遅くなりますが宜しくお願いします。」
女はペコリと頭を下げ、どこかへ歩いていってしまった。
一人取り残された感覚になった私は、今度こそ本物の警察に連れていかれないように、そそくさと現場を後にした。
......はぁ....面倒なことになった.....。
大通りの信号待ちの時間が異様に長く感じられた。
読んでいただきありがとございます!
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