憂鬱な回想
01話「さようなら私の日常」
私はノートパソコンに文字を打ち込みながら、お気に入りのマグカップに注がれた、既にぬるくなった珈琲をすする。
まったく....なんで私がこんな目に....リスカしちゃいそう(肩だけど)。と口と心の中の苦味を誤魔化すように独り言を吐き捨てながらマウスホイールを頻りにカリカリする。
程なくして部屋のドアが急に開かれ、まだ見慣れない女の顔が覗いた。まぁ女と言っても私と歳は変わらないであろう見た目なのだけど。
「お?何してるおるのだ?」
女の声が鬱陶しく私の集中を遮る
「......まだ起きてたんだ.....というかなんか用なの?」
あと家の中をふらふら歩き回らないで
「特段用があるわけではないけど....ただ君がナニをしているのか気になってな」
「レポート書いてる」
「レポート?は!メンヘラ日誌なるものか!?」
「そう、めんへらn....違うわ!!レポートだよ!何があったかを書いてるってこと!」
コイツ....!なんで私のメンヘラ日誌の存在をっ....!
「おー!熱心でわないか!初日にして早くもらしくなって来たのではないか!?」
誰のおかげでこんなことになってると思ってるんだろ。
「もう....用がないならさっさと私の中に戻るか寝て」
「そういうなら我は寝るが、お主本当にあの女と話せるのか?」
そう言われると自信がない....
「大丈夫だよ....たぶん」
「ふーん....なんだか我は心配たぞ....?」
「平気だよ、もー!寝て!」
「ぬー!相変わらず我に冷たいのだ!」
女はそういうと私の肩に手を置き、滑り込むようにスッと私の中へ入っていった。
(お休み綺紗!)
(....お休み)
心の中で会話と呼ぶにはあまりにも短い会話を済ませると、ふと二週間前の事が頭によぎり深くため息をつく。
.......そう....あの時.....あの瞬間に起こした私の行動で私の人生は大きく変わってしまった。
忌々しい6時間目が終わるや否や私は机に突っ伏して睡眠モードに入っていた。
いくら17という若い人間であっても、学校での6時間というのは辛いものがある。
うとうとしていると担任が教室に入ってきて、いつも通り連絡事項を読み終えると同時に
これから家に帰れるという喜びに満ちた声が号令をかけホームルームが終了した。
わらわらと教室から出ていく集団が行き去るの呆けて待っていると、後ろの方から声を掛けられた。
「綺紗、一緒に帰らない?」
そう声を掛けてきたのは幼馴染みの三咲だった
「うん、いいよ」
断る理由もなく快諾し、教科書を鞄に突っ込み、荷物を持ち教室を出る。
「綺紗今日も沢山寝てたね」
三咲は私の方を向きニコッと笑う
「まぁ....疲れてたからね」
最近は夜寝れずに居る、メンヘラだからね仕方ないね....!なんてこと言えるわけもないけど。
「そっかぁ....大丈夫?」
「大丈夫、心配ありがと」
そんな会話をしながら学校を出て帰り道を歩いていると大通りを挟んだ交差点に差し掛かったがギリギリのところで赤になり足止めを食らった。
「あとちょとだったのに....」
「ね!惜しかったー!」
そんな会話をしながら交差点に目をやると赤信号でトラックが来ているのにも関わらず交差点をトボトボと歩いている小さな子供が私の目に飛び込んできた
「まずい!!!」
そう思ったときには私は走り出していた....なぜだかは分からないが一心不乱に....
今にもトラックに跳ねられてしまいそうな子供をなんとか突き飛ばすと、次の瞬間全身に今まで感じたことのないような衝撃が走り、回転する視界と浮遊感を感じたかと思えば、今度は鈍い痛みが全身を襲った。
体が鉛のように重く、地面に沈みこむような感覚......辛うじて開く目をあけると赤黒い血溜まりが横たわる私の周りを覆っていた。
強烈な眠気を感じ、なんとか意識を保とうとするも叶わず私の意識は暗い闇の中へ沈んだ。
.................
........................
................................
どれくらい時間がたったのだろうか、足先から虫が這い上がるようにしてゆっくりと意識が戻り始める。
(ここは....どこ....?)
なんとか重い瞼をこじ開け、きしむ首を動かし辺りを見渡すと白い空間の中に寝かされていた。いいや、なぜか水に浮いているようなそんな感覚だ....
「.....お?君が新しい子であるのか?」
声のする方に顔を向けると、黒髪が背中まで伸びた女の後ろ姿が目に写った。
「貴女は.....」
「おっと!喋らなくて良いぞ」
無理をして声を出そうとしている私をその女がなだめ、直後に奇妙な質問を飛ばしてきた
「....お主は生きたいか?」
何を当たり前なことを聞いているんだ。
「生き....たい.....」
「そうか....でも残念ながらお主は助からぬぞ.....」
「おっと!!絶望しないでよいぞ?....我の願い事を聞いてくれるなら....代わりにお主を生き返らせてやろう」
「聞く....から....生き....返らせて.....」
「宜しい。」
「.......守ってやってほしい。」
「.......え?」
あまりにも漠然とした願いに私は思わず声を漏らす
「さぁ!そろそろお主は目覚める筈だ!」
女は後ろを向いたまま言う。
「また会おう!.....今度は現実で」
女のその言葉を聞いた瞬間、私はまた気を失った。
次に目を覚ました時には病院のベッドの上だった。
見たこともない機械に繋がれて、規則正しい電子音が静かな部屋にこだましていた。
それから少しして病室に入ってきた看護師が私の顔を見るや驚き、担当医を呼びに行ったところで再度私の意識は途絶えた。
ーーーーーそれから色々あったものの驚異的な回復力で十数日で無事退院することが出来た。医者からはばけものだと笑いながら言われた。埋めたい。
退院したその夜も経過は順調で、久しぶりにゆっくり眠ることが出来た程だった。
.............
....................
朝の日差しが目蓋をなで、私の目覚めを誘う。
昨晩は久しぶりによく眠ることが出来た....幸せ....!
そんなことを思いながら程よく重い目蓋を開けて.....凍りついた。
なぜなら目の前に見知らぬ同い年位の女の顔が覗き込んでいたからだ。
「お!目が覚めたようだな!おはよう!お主!」
女は凍りついたままの私に可愛らしくニコッと微笑みかける
「??なにを固まっておるのだ?再会をよろこびa!?」
「ぎぃやぁぁぁぁぁあ!!!!!」
私は驚きのあまり一瞬で狂乱状態になり女の顔面に平手打ちを叩き込んだ。
「っぃぃ....!?い!いきなりなにするのだ!!!酷いのだ!!!!」
「こっちのセリフだわ!だ....だれです貴方は!?」
「も....もう忘れたのか....!お主には夢の中で会ったであろう!」
「知るかぁ!帰れ!!夢の中に帰れぇぇ!」
私は枕、目覚まし時計と手につくもの全てを女に投げ付けた。
「いたっ!!落ち着くのだ!落ち着いてぇ!!」
一頻り投げ終えたところで、床にうずくまる女を見て私は我に返りハッとした
「グスン.....ひどいのだ.....我は再会を喜び合いたかっただけなのに....」
しまった....やりすぎた!
私はベットからおり、うずくまっている女へと静に歩み寄る
「ええっと....だ....大丈夫....?」
私が声をかけると女は直ぐに立ち上がった。
「大丈夫なのだ....我はこのくらいなんともない....」
本当に!?....すごいふらふらしてるんだけどこの子!
「グスン....とにかく、お主にまた会えて嬉しいのだ」
「....あぁ....君ってもしかして私の幻覚だったりする?」
「っ!!まだそんなこというなんて酷いのだ!幻覚じゃないのだ!!」
女はそういうと私の頬をぐいぐい引っ張る
「いだだだだ!!ひはい!ひはい!」
「どうだ!やめてほしかったら参ったっていうのだ!!!」
なんなのこの子!
「わかふは!まひっは!」
私がそういうと女は私の頬から手を引いた。
「これで幻覚じゃないと分かってくれたであろ?」
「いいや....まだ信じない!」
だってあるじゃん!幻覚見てる人が自分で自分の頬を引っ張って、それをあたかも他人にやられてるように勘違いしてしまうあれが!
「まだいうかぁ!じゃあどうやったら信じてくれるのだ!!!」
そんなこと言われても困る....だってそんな手段何も....いやあった!!
「だったらリビングに行って私の朝食のメニュー見てきて教えてよ....!」
今日の私は少し冴えているかもしれない!よく眠れたお陰なのかな....?
「それならもうさっきお主が寝ている間に見てきたぞ?サンドイッチとココアだったのだ。美味しかったのだ!」
「歩き回ったの!?」
「うむ!良い家に住んでいるのだな!」
「違うよ!そういう問題じゃなくて!お母さんに見つかってないよね!?」
もしこんな知らない奴のこと見たら私のお母さんビックリして死んじゃうよ!
「お母さん....?んー....我は見ておらぬぞ?」
よかった....出掛けてたか....!
ま、まぁ!リビングに行って朝食を確認すれば白黒つく!
私は布一目散に朝食があるであろうリビングへ足をはこんだ....そして
驚愕した。
なんとそこには美味しそうなサンドイッチとココアが置いてあるではないか。
しかもよく見たらサンドイッチには歯形が付いていて半分無くなっていた
「うそ.....じゃあアンタ.....何者なの....?」
「んー、そう言われると答えに困るぞ....」
「まさか.....幽霊!?」
「.....まぁそんなところになるか....?」
認めた....!?自分が幽霊ってこと認めた!?
「まぁまぁ!そんなことはどうでも良いのだ!ささ!朝食を食べてしまおうではないか!」
ニコニコしてれば誤魔化せると思ってるのかな?
「というかアンタ私のサンドイッチ半分食べたでしょ!」
「そ....それわ....えっと....おいしそうだったから....?ご....ごめんなさい....」
「はぁぁぁ.....まぁいいよ」
私は深くため息をついて席に着くと、半分になったサンドイッチを食べ始める
(よくよく考えてみようよ私.....隙をついて警察を呼べばいいじゃん.....)
私はサンドイッチとココアを片手に警察に通報する算段を練り上げていた
「さて.....そろそろ本題を話してもよいか?」
「っと!その前にまず自己紹介だが私の名前は モノズ 宜しく頼むぞ 桜木綺紗 」
うん。突っ込まないからね?絶対に。
「そ....それで....本題って何よ」
この女....絶対に警察に付き出して....!
私は平静を装うためにココアをカプカプと口に含んだ
「うむ....お主には.....」
「ヒーローになってもらいたい」
「ぶふぶっっっ!!!????」
その言葉を聞いた瞬間私の浅はかな警察通報大作戦はしめやかに吹き飛んだ、口にふくんだココアと共に。
「げほっ!げほっ!う....うぐぇ....はぁはぁ....」
鼻から逆流するココアをなんとか吐き出し呼吸を整える。
「ほ?どうした?むせたのか?」
「あんた....今....なんて....」
「いや、お主にはヒーローになってもらいたいって言ったのだ?」
まってよまってよ!なに....?ヒーロー?
夢の中で出会った女が現実世界でも現れ、挙げ句の果てにヒーローになれと言い寄ってくるこの状況よ!
「どうだ?なってくれる!?」
そんな私をよそにモノズはぐいぐいと言い寄ってくる
「ま....まってよ....ヒーローってあのヒーロー?」
「逆にそれ以外のヒーローって居なかろう?」
「居ないけどさ....本気なの....!?」
「勿論!」
「嫌だって言ったら....?」
「それは.....」
まさか....私を殺すとか....!?
「え....えっと....お主の身に恐ろしいことが起る....!」
モノズは少し言葉に詰まる
「恐ろしい事って....?」
私は嘘だと確信して追い討ちをかける
「えっと....それは......」
よし!困ってるぞ....!このまま粘ればならなくて済むかも!?
「やーーーくーーーそーーーくーーーしーーたーーーじゃぁぁんんん!!!!」
「へぁ!?」
モノズは突然机に突っ伏しパタパタと腕を動かしながら駄々をこね始める。
「生き返らせてあげるからお願い事聞いてっていったら「いいよ」っていったのにぃぃーーー!!!」
「うーーそぉぉーーーつーーーきいーーーーーー!!!!!!!」
「ひどいよぉぉ!!!我のこと騙したの!?酷いよぉ!!!」
モノズは顔をあげると大泣きをし始める。メンヘラかな!?
「わ、わかった!わかったから落ち着いて!!」
「なってくれるって言うまで落ち着かないーーーーーー!!!!」
め....めんどくさっ!
「我!凄い頑張ったんだよぉぉ!?頑張って生き返らせてあげたのにぃ!!!!うわぁぁぁぁぁん!!!」
「わ、わかったよ!!!なる!なるから!!!」
「ふぇ.....本当に....?」
「まぁ....私も生き返らせてもらったっていう恩もあるし....いいよ」
何言ってんだ私!!!
「やったぁ!!!じゃなくって.....よ....よくぞ決心してくれた!」
(あ....この子キャラ作ってたんだ....ていうか今さっきの子供っぽい口調が素なのね)
「それで....?何すればいいの?」
「ふっふっふ....!」
なんかうざい
「まずはヒーローと言えばってものをしてもらうのだ!」
ヒーローと言えば.....?っ!!まさか.....!
「ねぇ....それって....」
「変身なのだ!」
「やっぱり.....!」
「ささ!まずはやってみるのだ!!」
モノズは私の肩に手を置くと、スッ!と私の中に入りこんだ
「いやぁぁぁぁぁあ!」
私はなんとも言えぬゾクッとした感覚に悲鳴を上げる
(落ち着くのだ!、お主の魂に入っただけなのだ、なにをそんなに驚いておる!)
驚くわ普通!!
「ゆ....融合!?」
(そう!融合!)
まったく....怒涛の展開すぎて付いてけないよ.....
「ていうかどこから声だしてんの!?」
(心に話しかけてるからお主も心の中で話してみると良いぞー!)
心の中ではなす....?えぇい!こうとなったらヤケクソダ!
(こ....こんな感じ?)
(そうそう!そんな感じ!)
(それで?まさかヒーローってこれだけなの?)
だったら楽勝じゃん?
(フッフッフ.....まだ貴女は変身を残しておるぞ!)
どこぞのフ○ーザみたいな言い方やめて
(そっか...忘れてたよ....それで?どうやって変身するの?)
(それは!こーやるのだっ!)
モノズが言いはなった瞬間私の体から熱いものが込み上げてくる。
「なな!何これ....!」
(さ!ここで変身!って一声掛けてね!)
「はぁ!?そんな恥ずかしいこと出来るわけないでしょ!?」
(やって!約束したでしょ....?)
こいつ....!可愛い声で言いやがって....!ええい!どうにでもなれ!!
「へ.....変身....!」
羞恥心をねじ伏せて言いはなったと同時に私の体は淡い光に包まれた
「つっ!?」
まばゆい光に目を瞑り、程なくして光が消えたことを確認すると再び目を開ける。
「こ....これで良いの?」
(バッチリ!)
「それで....?次は何するの?」
(んー、まずは自分の姿を確認してもらおう!鏡へゴー)
「鏡....?」
私は鏡のある洗面所まで足をはこび鏡を覗き込んで.....今日何度めかの驚愕の声を上げた。
「な....なんだこれーーー!!!」
もともとショートヘアの黒髪だった私の髪は見事にロングヘアに変貌しており、ギャル顔負けの美しい金髪になっていた。
そして極めつけは目.....赤いのだ....ルビーのような赤.....もうやだ帰りたい(日常に)
(おお!!!似合ってる!!似合っておるぞ!)
「なにこれ....ぁぁぁ.....私....ギャルに.....」
(まぁまぁそんなに落ち込まないで....ニアッテルヨ.....ささ!今度は庭に出るのだ!)
「この格好で庭に出ろっていうの!?」
(嫌?)
「嫌に決まってるでしょ!」
(んー....ならばここでもできる能力を一つ紹介するのだ!)
(ほれ!そのにあるコカ・○ーラの空き缶があるじゃろ?)
悲報。モザイク貫通
(その空き缶にむけて指で鉄砲の形を作ってはくれぬか?)
「えっ....あ....こ....こうかな....?」
私は子供の頃に何度か作ったことがある形を右手で作り、その先を空き缶に向ける
(そうしたら、指先に力を溜め込むイメージを!)
「力を溜め込む....!?まぁ....やってみるけど....」
私は集中し、指に力を流し込むイメージを固める
(うむ!上出来じゃな!....ショット!って言ってみてくれぬか?)
嫌な予感がする。
「しょっと....!」
言い終えた瞬間、私の指先から発射されたなにかがバシッ!という音と共に目の前の空き缶に大穴を開けた。
(うむ!初めてにしては上出来なのだ!)
「...........!?」
人間って本当に驚いたら固まるって聞いてたけど、本当なんだなって思った。
僅かに痺れが残る指先を見つめながら私はボソッと呟いた。
嗚呼....さようなら私の日常