短篇集「長編にするかどうかとりあえず短編として投稿してから考えてみるシリーズ」
ろくでなし(鬼)は○○になってしまうのか?
めっちゃしんどいシリーズ第4弾!
まぁ、とにかく読んでみて評価、あるいは感想をください。
——言っておきますが、これ節分に出しとけよって消費期限切れの豆を投げられても困りますよ。だって、節分の頃は楽しく発狂しながら、「オーク(以下略)」書いていたんですから。
——すみません。書いているとき、狂ってもいませんでしたし、楽しんでもいませんでした。心の中では葛藤しかありませんでした。
それはそれは昔のこと。——と言っても、それほど昔ではない。
その日、百年に一度の村長を決める儀式が行われようとしていた。
なぜ百年に一度かと言うと、百年は鬼人族の寿命からすると百年は人間で言うと二十年そこらのように感じられるからだ。だから、うちの村では村長を決めるのは百年に一度と決まっている。
そんなときに、ある男が縄にぐるぐる巻きにされた状態で姉に引きずられて、神樹と呼ばれるただの大きな木の切り株の前にやってきた。
その姉は村一番の美人と謳われていた母(故人)に似て、誰から見ても美人だった。しかし、その日ばかりはその美しさが失われていた。——いや、失われているように感じられたと言った方が正しい。
彼女はまるで鬼婆のように恐ろしい迫力を身に纏わせながらも、美しい笑みを浮かべて男を引きずっていたのだ。——まぁ、姉と引きずられている男双方ともに鬼だったのだが……。
しかし、その男の憔悴しきった顔を見ると、地獄で毎日毎日罪人を裁くのに忙しい閻魔大王様も笑ってしまうほど愚かなものに見えてしまうだろう。
何しろ、情けないことに姉に引きずられてしまうのだから、なんと弱い男だろうか。——そう思うと、死ぬほど笑えてきた。マジでウケる。
——あっ、それ。俺だった。
******
さて、なぜ俺が愚かにも、自分の姉に縄で蓑虫のようにぐるぐる巻きにされて神樹の切り株に引きずられたのか?
それには理由がある。
実は俺にもその儀式に参加する資格はあった。しかし、俺はそれに参加したくなかった。いや、死んでも参加したくなかった。
だって、考えてみろ? 村長になって何になるんだ?
俺たち鬼人はゴブリンのように強い繁殖力もなく、オーガのように強い力はない。
人に角が生えただけの鬼人族が鬼族が住む森の中における生存競争に生き残れるわけもなく、こうしてジジババがどんどん増えていく小さい村の村長になる意味なんてあるか?
いつ村にゴブリンやオークが襲ってくるのかビクビク怯えながら、毎日毎日村の防衛に頭を悩ませるよりは、のんきに昼寝をしている方が百倍マシだ。——むしろ、最高だ。
そう思っていた俺はあったかい布団の中でゴロゴロしていたのだ。
すると、いきなり俺のマイスイート布団が何者かによって剥がれたのだ。俺の相棒である布団ちゃんを引き剥がした犯人を睨みつけると、——その犯人は実の姉だった。
「ねぇ、ゴミ。どうしてここでゴロゴロしているのかしら?」
姉はいつにまして冷たい目で俺を見つめていた。
「弟のことをゴミ呼ばわりする姉さんには言われたくないよ」
「じゃあ、狩りにもいかなくて、畑仕事もしない。毎日どこかでのんきに昼寝していて、それを咎めた心優しい近所の子どもたちには『姉の脛を齧るのは格別にうまい』なんてほざくあなたのどこがゴミじゃないのかしら?」
「あんたみたいな口の悪い鬼婆がよく村一番の美人だって言われるほうがおかしいよ」
「そうかしら? あなたみたいなゴミくずを養ってあげているお姉さまにこれまで一度もありがとうという感謝の言葉すら言わない生ごみさんには言われたくないわ」
「どんどん弟の呼び方が辛辣になっていっているんですけど!」
「あら? そうかしら? あなたがゴミ過ぎて気づかなかったわ」
「あんたの目は節穴か!」
「え? 節穴なら、貴方みたいな汚泥を見れないはずなのだけど」
「辛辣さが増した!」
俺が朝、起きるときに交わされるいつもの姉弟愛溢れる、——ように考えようには感じられなくもない挨拶は終わり、姉はいつになく真剣な表情になって俺に語りかけた。
「ねぇ、クウィック。今日は何の日か覚えているかしら?」
「今日は俺の休日。以上終わり」
俺が寝ようとすると、姉は俺に殴りかかった。——ふーっ。ぎりぎりセーフ。まったくひやひやしたぜ。——って、なんで壁に穴が空くの? 貴女の手は何でできているんですか?!
「いきなり何すんだよ! この鬼婆!」
「もう一度、今日は何の日か言ってごらん?」
「だから、俺のこの上なく素晴らしいきゅ、「もう一度言ってごらん?」——まだセリフが終わってねぇーよ!」
「あら、そう。それは悪かったわ。——ところで、何を言おうとしたのかしら」
「だから、俺のこの世で最も大事なきゅ、——ちょっと待った!」
「何かしら?」
「そ、そ、その手にしている金棒はい、い、いったい何でしょうか?」
気づくと、姉はやけに刺々しい金棒を握って俺に微笑みかけていた。
「わたしたちの最も愚かで、最も素晴らしく頭の悪いお父さんが残してくれた唯一の遺品よ。そんなことも忘れてしまうだなんて……。やっぱり脳味噌が腐ってしまったのね。まぁ、生ゴミだから当然と言ったところかしら?」
「弟を生ゴミ呼ばわりし、死んだ父を散々コケにするアンタも十分脳味噌が腐っている気がするんだけど、お姉さま。——ところで、その手にした金棒でいったい何をするおつもりでしょうか?」
「決まっているでしょ? あなたの脳味噌を叩きなおすの」
「そしたら、俺の脳味噌は肉そぼろのようにほろほろにほぐれてしまうよ!」
「実の姉の脛が美味しいだなんていやらしいことをほざく神経をつぶせるのだからいいと思わない」
「まったくいいと思わねえし、アンタの脛を実際に齧りたいと思ってなんかいねぇよ! ただの喩えだよ! そんなことも理解できないの?」
「さて、もう一度聞くわ? 今日は何の日かしら?」
俺はしばらく考えてから、姉の真剣なまなざしを見に気づいた俺はここは真面目に答えるべきだと思い、ぼそりと小さな声で答えた。
「——村長を決める日」
その瞬間、姉は金棒を振りかぶった。
——やべぇ! マジかよ。俺の角に掠った! 今、三ミリ掠った! おい! なんてことするんだ、この鬼婆! 一応、俺は答えたぞ!
「あら? ごめん、聞こえなかったわ」
「そ、そ、そ、そ、そ、村長を決める日です!」
いつにも増して恐ろしい姉に俺は委縮しながら、そう答えた。
「そう。村長を決める日。そんなときにそこの廃棄物は何をしていたのかしら? まさか、蓑虫の物真似? いくら何でも蓑虫に失礼だわ」
「アンタは弟を何だと思っているんだ!」
「だから、姉の脛を美味しいってほざく変態ゴミ」
「変態ゴミなんてこの世にねぇよ!」
「そう。なら、今日ここで誕生したわ。栄えある変態ゴミ第一号の称号を得られたことに喜びなさい」
「喜べるか!」
「もうこれ以上ゴミと対話を試みても無駄のようね。さぁ、今すぐ神樹の切り株に行くのよ」
「はぁ? 何言ってんだよ。今どきこんな寂れた村の村長になるなんて脳味噌が天国に逝っているトロールでも思わねぇよ」
「じゃあ、あなたはそのトロール以下ね」
「――どういうことだよ?」
「村に住む家は村長にモノを差し上げなければ住むことが認められないことを知っているわよね?」
「——まぁ、知っているけど」
――だから、何? って話なんだけど。
「うちにはこれまであらゆる家宝を歴代の村長に渡していたせいで、もはやこの金棒しかありません」
「それは前回の儀式の際に、今の村長に最後の最後で騙された親父が悪いだろ?」
まったく、「回れ右!」と言われてそのまま回れ右してしまう親父の息子だなんて恥ずかしいぜ。
ひょっとすると、親父に向かって試しにそう言ってみた村長の方がこんな勝ち方して恥ずかしいと思っていたかもしれないな。——あれ? よく考えたら、そんなバカ親父が好きになった母さんがおかしいよ! 息子である俺でも理解できないよ!
「その仕返しをしたいとは思わないの?」
「まったく」
「じゃあ、そんな親の仇も取るつもりのない弱虫なクソ虫は何を捧げるの?」
クソ虫とはまったくひどい姉だな。俺は知っているんだぜ。あのバカな親父があのまま村長になったら、この村が俺たちが物心つく前には終わっていたんじゃないかって村の人から思われていたことをな。だから、あのとき、「回れ右!」と言った村長は英雄! 彼は卑怯者ではなく、素晴らしい男なのさ!
さて、親父がいかにバカな男であったのかを語り続けるのも辛くなってきたから、弟をクソ虫呼ばわりするこの史上最悪、有史上初めて存在が確認された鬼婆の答えに回答しようではないか。
俺はそこにいる鬼婆を指さしてこう言った。
「アンタ」
一瞬、姉の表情が固まった。
「——聞こえなかったわ。なんて言ったの?」
「だから、アンタ」
姉は取り乱しながらも、語り始めた。
「た、た、たしかにわたしは村一番の美人だって評判よ。む、村の女の子たちにも『カトレラさんにうちの兄貴のお嫁さんになってくれたらいいのに。——あっ、すみません。あの粗大ゴミは捨ててきてください』って言われるくらい人気だわ」
「それって本当に人気なんですか! 少なくとも、俺が捨てられること前提で話が進んでいる時点で人気は無いと思うんですけどー! あるなら、俺も養ってくれるくらいの人気じゃないと俺は人気とは言えないぞ!」
「貴方が不人気すぎるから粗大ゴミは要らないと断られるのよ。そこの粗大ゴミ」
「今度は弟を粗大ゴミと呼ぶことにはまってしまったんですか? クソ鬼ババア」
「そんな悪口を言われてもあなたの餌を作ってあげている心優しい私は引く手数多だけど、あなたは多分、その時点で野垂れ死んじゃうわ」
「安心しろ。死ぬことは無い」
俺は自信満々に高らかにそう答えた。
姉は急に眼だけ笑っていない笑顔になって首をかしげた。
「——え? 何を言っているの?」
「——俺はアンタが嫁に行ったら、今度はアンタの婿の脛を齧るって言ってんだよ」
「あなたを捨てるって言っているのに、どうなったらそんなことを言えるのかしら。——このヘドロは」
俺をゴミのように見つめる姉に俺は自慢するようにこう言ったのだ。
「俺はアンタがいつ誰の嫁になってもいいようにうちの村の男全員の弱みを握っているんだ。——例えば、隣に住むラカゴは三年前に羊に泣かされて失禁したとか、近くに住むビョウン爺は総入れ歯だとか、——そうそう、村長の息子であるメリダはイケメンで、とってもモテるくせに女よりも男が……」
——いや、最後のは言うのをやめた。これは弱みではなくただの個性だった!
そもそも、本人が弱みだとまともに思っていない時点でこのことは通用しないし、この村では禁止されているはずなのに、みんなひそかに認めていたんだった!
「——最後のは聞かなかったことにするけど、どうしたらそんな情報を手に入れるの?」
「フフフフ。俺も毎日、昼寝しているわけではないのだよ。鬼婆。俺は日ごろから目を閉じたふりして情報収集を行っているのだよ」
「へぇ……。——ところで、その熱意を働くことに使うつもりは?」
「働いたら、その時点で負けだから」
俺が親指を立てながらそう言うと、姉はしばらく黙り込んだ。
これはいよいよ認めてくれたのか? それなら、ありがたい。よし、寝よ……。
俺はこのとき、はじめて本物の鬼婆を目撃した。それも、そこら辺にいるババアでも何でもなく、本物の鬼婆を目撃したのだ。
「おい! ちょっと待て! ギャー!」
******
ということで、気づいたら俺はぐるぐる巻きにされて実の姉に神樹の切り株の前に放り捨てられていたというわけだ。
まったく不幸としか言えない。
「おい。大きい蓑虫がこんなところにいるぞ!」
図体がオーガ並みに大きい割には弱虫でへなちょこなラカゴが俺を見て茶化す。ラカゴの取り巻きの鬼たちも俺を見て笑う。
「あれれ? 近くで見たら、クウィック君じゃないですか? そんな姿して何をしているのかな? ——あぁ、ひょっとして、お姉さんを喰おうとして返り討ちにあったとか。そんなことよりによって、今日すんじゃねぇよ」
「はぁ? 俺のこの蓑虫みたいな愛らしい姿を見て、どう考えたらそう解釈するわけ?」
「だって、お前、『姉の脛はうまい』って言ってたんだろ? ってことは姉の脛を舐めてしまうくらい姉貴が好きってことだろ?」
「んなわけねぇよ! あんな鬼、——お姉様は要りません」
鬼婆と呼ぼうとしたとき、どこからか冷たい視線を感じた俺がそう否定すると、ラカゴの野郎は急に頬を緩めた。なぜだ?
「そうかい。——じゃあ、俺がお前より長く切り株の上に立っていたらお前が脛を頬擦りしたくなるくらい大好きなお姉ちゃんを俺にくれよ」
「まず俺は姉の脛に頬擦りしたことはない。そして、俺の姉は次の村長に高く売り払う予定なので、お前みたいな弱虫に売るつもりはない」
「はぁ? おめぇ、誰に口きいてんのか分かってんのか?」
ラカゴは俺に棍棒をブンブン振りかざして愚かにも俺を脅そうとした。
すると、俺はにこやかな笑みを浮かべてこう煽った。
「じゃあ、言っていいの? 言っちゃっていいの? あんなことやこんなことを本当に言っちゃっていいのかな?」
すると、なにか思い出したのかラカゴの野郎は顔を青ざめた。——フフフフ。こいつの弱みは失禁ネタだけではないのだ。それこそ山のようにある。
こいつは俺に性懲りもなく付きまとうからその分、多くの弱みを握っとかないといけないんだ。だが、追い払う度に「ラカゴってこんな人だったんだ」って納得されちゃってネタが消費されてしまうからネタが使えなくなる。
まったく、せめてもっといい子ちゃんでいてくれたら好きなだけ失禁ネタだけで脅せるのによー。
そんな弱虫で臆病者なラカゴは「てめぇ、覚えとけよ! 絶対に俺が村長になってそんでもってお前の首を真っ先に斬りおとしてやるからな!」と泣き叫びながら、取り巻きを伴い去っていった。
「さて、俺はこれからどうしようか?」
よく考えたら、俺は蓑虫のように縄でぐるぐる巻きにされているままだった。
あんなぼこぼこにして、さらに縄でぐるぐる巻きにしてからゴミ(たぶん、俺)をここに不法投棄して、『お姉ちゃんを悪い鬼の嫁にやらないように必ず勝ってきなさい』と言ったくせに縄を解かないんですね。
まったく、あの鬼婆はひどいな。ひどすぎるよ。そもそも、貴女も十分悪い鬼でしょ。なんで自分はまるで被害者ぶるんでしょうか? 俺には貴女のその図太い神経が理解できないよ。
「やぁ。クウィックじゃないか」
「——その声は」
「愛しのメリダだよ」
目の前には短髪で青髪の美少女、——いや、美男子(?)が立っていた。
こいつはメリダ。今の村長の息子だ。——多分、息子だと思う。少なくとも彼の下半身についてあるアレは確認済みだから間違いない。
そんなメリダだが、なんかの間違いで俺に惚れたらしく、それからというもの、なぜかひたすら女を磨いた末こんな姿になっている。——あぁ、焦ったー。焦ってしまったよ。一瞬、見惚れてしまった。
「てめぇは見た目は女のくせして男だからたちが悪いんだよ」
「いやぁ、君のお姉さんには負けるよ。——ところで、僕と結婚する気にはなった?」
「なんねぇよ!」
「そうか。それは残念だ。じゃあ、君の縄を解いてあげないよ」
「ちょっと待った! さすがにこれだけは解いてくれ! 解いてもらわないとあの鬼婆に殺される!」
「そうか。——なら、結婚かな?」
どうしたら、そう聞こえるのか分からない。
「すまん。それは絶対にダメだ」
「じゃあ、解かないよ」
これはまずい。このままだと蓑虫の状態で儀式を乗り切らないといけない。——別にやろうと思えば避けることはできるのだが、このままではお姉様のご要望には応えられない。これはヤバい。
「——そうだ! 賭けをしよう! お前が俺よりも長く切り株の上に立っていたら俺がお前の婿になるよ」
「ぼくの嫁じゃないの?」
「見た目からしてお前の方が嫁だろ!」
俺が嫁なんて死んでもあり得ねぇ! 俺は男だ!
それに、女子の妙に腐った視線を感じるのだが気のせいか? 言っておくが、俺は養われるなら老若男女、それこそ涎を垂らしたトロールでも何でもありだが、性的対象と見なしているのは若い女性だからな! そこは決して間違えるなよ、淑女諸君!
「さて、解いてあげたよ。約束は忘れないでね」
「二度とくんな! 女男!」
——これは決して、そういった趣味を持ったやつを差別しているわけではない。ただ、メリダに嫌われたくてそう言っているだけだ。生憎、その作戦は一度も成功したことが無い。
嗚呼、神よ。なぜ俺はモテなくて、あのとんでもないろくでなしをこよなく愛する美男子の方がモテるんだー!!!
******
さて、いよいよ村長を決める儀式が始まる。
その儀式は切り株の上に棍棒を持った男が集まって他の男を突き落とすというもので、最後まで残っていた男が村長になるという至ってシンプルなものだ。
ここまで話を聞いてきた諸君は女性がいないではないかと指摘されるだろう。実のところ、俺もそう思っている。
いっそのこと、あの鬼婆が男装してこの儀式に出れば、余裕で村長の座を勝ち取れると思う。——っていうか、マジでそんな気がする。
ただ、残念ながら、頭の固い長老たちがそれを認めない。
なんか「村長たるもの男でなければならない」という謎の固定観念が彼らの凝り固まった脳を支配しているらしく、いっこうに女性の参加を認めないのだ。
まったく、今どきこういうことは流行らないって何度言ったら分かるのだろうか?
そのため、鬼の女子たちはごく一部が血の涙を流しているのを除いて、基本的に、好みの男を応援するための専用の応援団扇などの応援道具を作って、応援するのだ。
勿論、うちの鬼婆は後者だ。
ただし、俺の応援団扇など用意するはずもなく、にこやかな笑みを浮かべて、じーっと俺の一挙手一投足を見つめていた。——いやぁ、照れるなぁ。
ちなみに、女子の応援が一番多いのがメリダであることが少し疑問だ。あいつは男しか愛せないんだぜ? なのに、どうして女子はあいつのことを応援したくなるのだろうか?
あと、「愛の貴公子」とか、「ろくでなしをさっさと拾って! メリダ王子様!」とか、「クウィック×メリダ」とか、「メリダ×クウィック」とかそんな横断幕が見受けられるのは気のせいでしょうか?
俺たちの名前の並びによって一騒動が起きているのも気のせいでしょうか?
ねぇ、こっちの儀式よりもむしろ彼女たちを止めた方がいいんじゃないでしょうか?
——おぉ、俺の想いが誰かに通じたのか、おじさんたちが彼女たちの諍いを収めようとしているので、もう少し儀式までの時間が長引きそうだ。ついでに儀式についての豆知識を一つ言っておこう。
六百年ほど前まではこの儀式では金棒を使った殺し合いが行われていたらしく、その結果、村の男がぐんぐん減っていったと言われている。多分、それがこの村を寂れさせた原因だと思うのだが、なぜか長老たちは元の儀式の形に戻すべきだと言っている。——バッカじゃねぇの。
そんな豆知識は置いといて、よく考えたら、メリダの野郎と賭けをしてしまった以上、俺はなんとしてでもあいつにだけは勝たなければならなくなった。
あいつ、男しか愛せなくて、ひたすら女を磨いてきたくせにバカみたいに強いからな。うかうかしていると俺も負けてしまう。
——俺?
俺はこう見えて避けることに関してはピカ一の才能がある。
親父は愚かにもゴブリンが仕掛けた見え透いた罠にはまって一万体のゴブリンに取り囲まれて死んでいったが、俺はそんなへまをやらかさない。っていうか、とっくの昔に俺は親父を超えている。
かつて、俺はあの天下無双の鬼婆の逆鱗にうっかり触れてしまって、ゴブリンの巣に放り投げられたことがある。その地獄から俺は無傷で生還した実績がある。——まぁ、今から四十年ほど前の話だけど。
それに、鬼婆が『簡単に負けたら殺処分』だなんて言っていたからな。あぁ、あのとき受けた仕打ちを思い出すと身震いが止まらない。——あぁ、思い出しただけで寒気がする。絶対に負けるわけにはいかない。
そのとき、ふと視線を感じた。
そこには我が大変麗しいお姉様がおられました。
——何、負けたら飯を一生作らないぞ、この野郎?
えっ?
何どうして?
どうして?
なんで?
俺は何をした?
比較的真面目に生きてきたはずなのに、飯を一生作らない?
冗談じゃない。俺が死んじゃうじゃないか。
——あぁ、これは絶対にこれは負けられなくなった。もう、俺は死にたくない。絶対に。ダメ、絶対に。
そう思っていると、ひざが笑っている長老がほら貝を吹いた。あまりにも下手過ぎて始まったのかどうかわからなかったが、村長が手を挙げたのを合図に儀式が始まっっていた。
俺はガタガタ震えていたからかやけにほかのやつらに狙われた。執拗に狙われた。
その中にラカゴの野郎がよりによっていなかったことが癪に障ったが、——そんなに寄ってたかっても俺は捕まえられないぞ。
さて、ゆっくり落としていきますか。
ほいっち、に、さん、し、と。
いやぁ、避けるだけで落ちてくれるんだから楽な仕事だわ。
ちょろいちょろい。
さて、減ってくれよ。じゃないと俺はこの世で最も麗しきお姉様から見捨てられてしまうからな! それだけは断じて避けなければならない!
——そして、待つこと三十分。
気づいたら、メリダと俺以外は外に出てしまったようだ。ちなみに、ラカゴのやつはとっくの昔にメリダの野郎に叩き落されていた。——ざまぁ。
「結局、ぼくたちしか残らなかったね。クウィック」
「お前のその言い方が気持ち悪くてしょうがない」
「さーて。ぼくと結婚してくれー!」
「嫌だ!」
俺のこの言葉を合図に俺たちは棍棒を当てあった。
よく考えると俺はここ最近棍棒を振り回していないからか重たくて重たくてしょうがない。今までずっと避けていたからまったく気づかなかった。
逆にあいつの腕が俺よりも華奢なくせにどうして振り回せるのか分かんねぇ。
姉貴の目がだんだん怖くなってくるし、そろそろ終わらせたいのだが、だんだんこいつも熱が入って来たのか攻撃が俊敏さを増してきたんだけどー!
あれ? よく考えたら、うちの村ってかなり保守的だから同性婚禁止だった。なら、俺はあいつと結婚することは無い。はなから賭けなんて成立していなかったんだ!
それに、俺ってまったく人気がないからな。——ほら、今、俺の名前は黄色い罵声か野太い罵声でしか呼ばれていない。何たる不幸!
よし! 負けてもいいんじゃ、——その目はなんですか? お姉さま?
ひょっとして、その目は俺を殺す気なんですか?
このとき、俺の心の中の何かが粉々に破壊された。
いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ!
俺はとにかく棍棒を振り回した。めちゃくちゃ振り回した。むきになって振り回していた。
気づいたら、長老の下手な笛が鳴っていた。
よく見ると、メリダが恍惚の笑みを浮かべながら外に落ちていた。なぜそこで恍惚の笑みを浮かべるのか分からない。ますます、俺はあいつのことが怖くなった。
姉はいつにも増して喜んでいて、村の多くのやつらがショックを受けたのか俺にブーイングをしてくる。――よし、今、俺にブーイングしてきたやつ。今すぐ俺と変われ。っていうか変わってくれ。そしたら、今の行いを許してやらないでもないぞ。
——それにしても、お姉さん。なんで今日になって俺が見たこともない綺麗な微笑みを浮かべるんでしょうかね? 普段からそんな微笑みを浮かべてくれていたら鬼婆って言わないのにさー。
あと、「これでやっとあの変態ゴミも自立してくれる」って何ですか! 最後の最後に今日新たに発明したその新ネタをぶっこむって正気ですか?
気がつくと、いつの間にか村長が嫌そうな顔をしながら俺の目の前に立っていた。血の涙を流しながら、彼はぶるぶると手を震わせて渋々、俺にこの村の村長の証である金の金棒を差し出していた。
そのとき、俺は初めて気づいた。
え? マジ? 俺、村長になっちゃうの?!
この作品は比較的プロットが多い方(メモ帳でおよそ3.68KB)なので有力候補です。
そんなことよりも一言文句を言わせてください。なんで長くなるんだよ!
基本、五千字以内って決めていたじゃないか! 何で二倍になってやがるんだ! ——まぁ、次は三千字程度なので安心してください。けれど、まだ書き終わっていないんですけどね。もし、時間内で投稿できなったら、ごめんなさい。来週頑張ります。
しかし、私、あんまりこの作品を書きたくないんですよね。だって、『オーク(以下略)』と似通っている部分があるんですよね。よっぽどモチベーション上げないと自分が付き合いきれないと思います。
まぁ、クウィックで遊べるんだと思えば、モチベーション上がるか……。——なんだか書けそうな気がします。
よく考えたら、これのプロットがあったからこそ『オーク(以下略)』が生まれたのかもしれないんですよね。これが無かったら、トータルで十万文字を超えることができるという自信がつかなかったと思います。そう考えると、鬼様様ですね。
ただ、これが無かったら多分、私はある小説をぽつりと三月に投下するのを皮切りに(自称)清純派なろう作家になっていたと思います。それが、今じゃ(自称)変態底辺なろう作家ですからね。
ダメですねー。一作目から真面目に考えないといけませんね。——あれ? 鬼をまったく褒められませんでした。
反省点があるとすれば、戦闘描写があまりにも薄っぺらいことですかね。そこんところは色々勉強してから直すつもりです。
あと、もう一作あるので、そちらの方も見てくださると助かります。ようやく長い短編投稿の終わりが見えてきたー!(ただの自作自演)
それと、いつも前書き・後書きが長くてすみません。あと、評価、感想の方もよろしくお願いします。くどくど言いますが、無かったらマジで書きませんから。