作戦
私は更に、走る。
一瞬煙に視界を覆われても、感覚が大丈夫というから、走れる。
仮にもし木にあたったとしても、その時ですら、危機を脱して見せると思うから。
私は走る。走っている最中は決して声を出さない。噛むから、舌を。
でも彼...ガレは余裕を見せつけるように、息を乱さずに言う。
「なんで毎回、追われるのをわかってここに来るのかなぁ。本心では捕まりたいんだよね?」
余裕な感じを出してきて、腹が立つ。
私も負けじといい返す。
「なわけない。ここに来たのはおばあちゃんのため。」
「いつも言ってるでしょ?」的なニュアンスを含めて言う。
「えぇー、照れてるのかな。」
「何言ってんの。」
障害物を飛び越えたり、避けたり、あるいは壊して進む。追いつかれないように、必死に。
でもガレはそんな私の努力を嘲笑うようにして難なくついてくる。
「あ、その先川だよ、大丈夫かな?」
もちろん大丈夫な訳ない。すぐに方向転換。
一瞬遅くなった速度で、かなり距離を詰められる。でも私は焦らない。大丈夫。そう思ってガレに黒玉を投げる。
「視界塞いでもなぁ。」
黒玉をみてそうぼやくガレから土を蹴り、一瞬で遠のいた。でも遠のくのは最初の一歩だけで、あとは動かない。
黒玉が割れて、中身が出てきた瞬間、ガレがうめき始めた。
「ハックションッ......何、これ?匂いもわからない。音も聞こえない。なんで?ま、まさか...!」
そんな声が聞こえた。そう言ってガレは、私が向かおうとした場所へと急いだ。
私がガレに投げた黒玉の中には、煙と他に、臭い匂いとスピーカーも入っていたのだ。
この匂いの元。は、一時的に鼻の機能を奪うのだ。長く効果は続かないけど、ガレにはピッタリの品である。
スピーカーは高い音をだすだけの物なのだが、鼻の匂いが分からなくなり、私の足音がなくなったら、耳も聞こえないとパニックになるだろう。
そこをつく。
まぁ、作戦は成功。警戒は怠らずに森を出た。