自分の限界
私は生まれた時から、そこに当然のように前世の記憶があった。
前世は確か...そう、会社員だった。
会社は一応、夢が溢れたゲーム会社。毎日が12時帰りの朝6時出社。とてもホワイトな生活だった。
私は愛想がなくて、上司にも適当に対応されてた...気がする。友達もいなかった...いや、1人いたな。会社に入ってから全然会わなかったけど。
一応仕事はできた。人並みに。
顔も可愛くはないけど、いじめられなかった。
運動神経は悪くて、すぐに熱を出したけど無理しなかったら基本大丈夫だった。まぁ、そのせいで学生時代はマラソンに参加しなくても良かったので、他の人から睨まれたような気がする。
食べても太らない体質で、食べ物に関しての問題はほぼないと言ってもいいほどだ。
いや、やっぱり食べ物についての問題はあったな。
多分、それが原因で死んだ。
死因は糖分のとりすぎだと思う。医者の言葉を聞かなかったからよく分からないけど、死ぬ原因がそれしか思い浮かばない。
まぁ、こんな前世だったわけだけど、わざわざ記憶が残ってるなんて....。
私以外にも前世が残ってそうな人は周りにいない。ということは、私が特異なんだろう。
でもなんで、記憶あるんだ。前世でそれほどいいことしてないような気がする。
まぁ、寿命が伸びたと考えればいいか。
私が転生したのは剣と魔法の世界、よくあるRPGの世界だと想像するといい。
王政で、ここはプレーン国。それなりに大きな国で、剣と魔法の国...らしい。
ちなみに周りの国は剣の国と魔法の国。と、剣と魔法に挟まれているらしい。
私が住んでいるところは王都。母は3歳の頃に亡くなり、今は父と2人暮らしをしている。
少し離れた森に、おばあちゃんが住んでいる。
私の家はオモチャ屋をやっている。
詳しくは聞いてないけど、子供から大人まで、幅広い層の人が来るらしくて、意外と繁盛している...と思う。
でも、夜は違う。父に聞いてみたら、夜は情報屋をやってるって事らしい。
なんでそんな危ない事をやってるのかと思うけれど、これは必要な事なんだと言っていた。
まぁ、結局何のことなのか分からなかったけど、そんな事は些細な事。
大事なのはその後の事だ。
父は情報屋として、意外と命を狙われることが多いらしい。でも今まで父が命を落とさなかったのは、ひとえに父が強いからだ。
強さって言っても、父の強さは逃げる事に特化された強さで、誰も父に追いつけないらしい。
でも...いや、だからかな。父を捕まえることはできないと悟った一人が、娘である私を狙ってきたのだ。
私の体は運動神経がよく、魔力もそこそこあったので、難なく...ではないけど、危機は脱した。
でもこの時、私はこの...逃げる快感にハマってしまったのだ。
あの、逃げる時に湧く、本能的な危機感と、全力だからこそ、転ぶかもしれないという緊張感。必死に追いかける人の息。長い間追いかけると脳が疲弊して、なぜ追いかけているのかが分からなくなって、一瞬だけ躊躇する瞬間。この時に私は初めて相手に攻撃を仕掛けたのだ。
そこから私は、自分の限界を高めようとした...しかし、いくら走っても、疲れないという凄い体に転生してしまったので、それはできてない。
次に魔力...と思い、火の魔法を使ってみると、あまり威力が出なかった。私が使えるのは生活魔法と呼ばれる、生活の中でしか使えないような、小さな魔法だけなので、練習するにはとても効率が悪かった。
なので、父に教授を願いでたら、「まだ教会でチェックを受けてないんだから、ダメに決まってるじゃないか。」と、笑顔でいいきられた。
父は前世では会ったことのないほどに、カッコいい男性で、意識が覚醒し始めた頃は驚いたものだ。
薄茶の髪に、緑の目。
うーん。なんか違う。もう少し詳しく言ってみると、父の髪は緩く巻かれたミルクティー色で、サラサラとした質感の髪は時に金色にも見えるほどの艶やかさを放っている。その髪は背中で一つに下され、上腕二頭筋?くらいまでの長さでまとめている。
目は浅めの緑で、森に漂う爽やかな雰囲気をやどした不思議な目だ。ハーブを連想させるこの目は、時に吸い込まれそうなほどの優しさを放つ。
男性にしては細身で、腕も細く見えるが、着痩せするタイプなので意外と筋力もある。ついでに背もある。
顔のパーツは垂れ目気味の瞳が、実に魅力的で、優しそうな顔立ちをしている。
......よし、満足。
ここまで褒めるのは父だけであって、父以外にはこんな容姿を言わない。
ちなみに私は父のミルクティー色の髪と、垂れ目気味な目をしっかり受け継いで、そこそこ可愛い女の子である。父には及ばないが。
まぁとりあえず、今の私は6歳。ひとまずは今対峙している、森の守護者と言われ...やっぱり厨二臭くて笑える、この名前。
とにかく、私は今も目の前にいる森の守護者(笑)であるガレからどう逃げるかを考えるのであった。