ヒーロー像
「私はヒーローなんだよ。」と彼女は言った。ふざけていると思ったが彼女の表情は全て真実だと語っている。
ヒーローは多くの人を救い幸せを創る。男の子なら誰しもが憧れる存在だ。俺だって小さかった頃にテレビの中のヒーローに憧れたものだ。
ピンチになると駆けつけ悪い敵を倒す、そんなみんなに愛されるヒーローになれたらどんなに良かっただろうか、しかし現実はそう上手くはできていない、俺だってそんなことわかりきっていた、そう思い込んでいた。
そんな夢の無い俺の世界を彼女が打ち壊した。
「君もヒーローになれるさ。」
そう言った彼女はいつも以上に輝いていた。
今日も世界は平和だった。カーテンを開くと眩しい光が部屋に差し込む、目を細め外を眺める。いつも通り代わり映えのない空が広がっている。
ぼーっとしながら部屋を眺めた、時計は当たり前のように右回りを続けていた。
朝食をとり、制服に着替え、欠伸を噛みながら家を出た。
通っている高校は徒歩で十分弱くらいでついてしまうため適当なことを考えていればそんの間の時間はとても短く感じることができた。
何もなくただ長いだけの時間は苦痛でしかない。
そう思うのは俺だけだろうか。
今日もまたそんなくだらないことを考えながら登校した。
もうすぐ朝のホームルームが始まる時間だ、生徒達が足早に校舎の中に入っていく。
俺もそれにつられるように足早で教室へ向かった。
学校での時間は他の何をしているときよりも時間の進みが早く感じてしまう。
あっという間に放課後になり、俺はいつも通り家に帰るため玄関を出ようと靴を履き替えようとしたとき、靴箱に一通の手紙が入っていることに気がついた。他の靴箱と間違えた可能性も考えたがそれは手紙の裏に関凪 創馬と俺の名前が書いてあったので消えた。
手紙の内容は『放課後に屋上へ来い』というものだった。
そのまま放っておくことが出来るほど度胸はないので気怠さを感じながら屋上へ向かった。
その手紙がきっかけでこれから非日常が始まることなど想像することもできずに………
………空が近い。
今は夏で日の光は強いけれどそれほど熱気が無く涼しげな風も吹いていたので気持ち良かった。
手紙を入れた人を探すことはとても簡単だった。
屋上に人影は1つしかなかったからだ。
しかし、1つしかない人影が屋上のど真ん中で仰向けに大の字で寝ているとは想像ができなかった。
そんな人を待つ態度の中でもありえない待ち方をしている彼女に嫌々ながら声をかけた。
「おい、俺の靴箱に手紙を入れたのはお前か?」
……返答は無し、彼女は完全に寝てしまっているらしい。
人を呼びつけておいてねるとかどんなヤツだよ。
呆れて帰ろうとしたとき……
「はっ!人の気配。」
彼女ははっと状態を起こし周囲を見渡した、そして、俺が視界に入ると……
「て、敵襲!?」
まぁ、喧嘩を売ってくる。
寝ぼけていても、呼びつけた相手を見て敵襲は無い。
「………」
無言で屋上を後にしようとする俺をそいつは「……っは!?」自分が何をしていたのか思い出し止めようとしてきた。
「ごめんなさい!」
高校までの人生で初めて人に土下座された。
まだ、憤りは覚えているが、土下座をしてまで謝られたら無視して帰るわけにはいかない。
「はぁ……で何で俺を呼びつけたんだ?」
「創馬君に私の友達になってほしいんだよ。」
…………は?
「………ごめん、さっきのことは本当に謝るからそんな怖い顔しないで!」
おっと、顔にでてしまっていたらしい。
「わかった、じゃあ今日から俺達は友達だ、それでいいな。」
「うん!」
早く帰りたいがために適当に言ったその言葉に彼女はとても満足そうだった。
「よろしくね!」
「………あぁ」
そして、色のない日常に1色の濃い色が混ざり始めた……
……今日はいつもより一段と疲れた。
なにが俺をそんなに疲れさせたのか?それは完全にあのメイという少女のせいだろう。
あの後、彼女は「私は未藤 明、メイって呼んでね。」と言って足早に帰っていった、まさに嵐のようだった。
まぁ、別に友達になったところで話したいことがなければ関わることも少ないだろうから気にしなくていいか……
そう結論づけながらオレンジ色に染まった空の下を歩き続けて、住んでいるアパート前の交差点まで来たとき。
信号待ちの俺と反対方向に小学生がいた、サッカーボールを抱え信号が青になるのを待っている。
横目に捉えていたが気にしていなかった、それが失敗だった。
小学生が抱えていたボールが道路に転がっていった信号は赤のままだ。
小学生は当然のようにボールを追いかけ道路に飛び出した、そして、トラックが奥の方から走ってくるスピードを緩める気配は無い。
「クソっ!」
俺の位置では助けることは不可能だった。誰かに助けを求めようと思ったが周囲に人はいなかった。
手立てが無い、救える可能性が無い
呼吸が止まる、これから起こることを予測してしまう。
奇跡が起こるかもしれない、そう願った………たがこの世はそんなに都合良くできてはいない。
トラックのライトが小学生の小さな体を包み込む、そして…………
「大丈夫かい?」
少女は小学生に声をかけた。
「うん、ありがとうお姉ちゃん。」
「気をつけて帰るんだよ。」
「うん、じゃあね、お姉ちゃん。」
手を振り別れる二人、それを俺は黙って見ていることしかできなかった。
なにが……起こった?
確かに俺は小学生がトラックとぶつかる瞬間を見た、周囲に人はいなかった。じゃあ、あの少女はどこから……
少女は手を振り終えるとこちらに背を向け歩いて行った。
その時、俺は何かに弾かれたようにその背中を追いかけた。
間違いなく、そのときの俺には彼女の姿がヒーローに見えた。小さい頃に恥ずかしいほど憧れたあのヒーローに………
息を切らして走り彼女に追いついた。
膝に手を置き息を整える。
「待ってくれ、あんたは何者だ?」
彼女はゆっくりと振り返る、その顔を見て目を見開いた。
「……メイか?」
そこには屋上で出会った少女の姿があった。
「……創馬君、どうしたの?」
メイは惚けたように言う。
「お前、さっきのどうやって助けた?」
「どうやってって、う~ん、そうだなじゃあついてきなよ。」
頷き彼女の後を追う、空の色はそろそろ変わろうとしていた。
ついていくとアパートの一室についた、表札には『未藤』とあった。
「お前の家か?」
「うん、あっ、親のことは気にしなくていいよ、私ひとり暮らしだから。」
妙な緊張をおぼえる、女子の部屋に入るのは初めてだからだろう。そんな俺を置いて彼女は鍵を開けそそくさと部屋に入っていく、「お、お邪魔します。」と言ってその後に続いた。
そんな、ガチガチの挨拶を笑いながらメイは「どうぞ。」と笑顔を見せた。
メイの部屋は可愛らしいカーテンや絨毯などがあり、女子らしい部屋だったがテレビの横の棚に場違いといわれても仕方ないほどのおびただしい数の特撮ヒーローの人形があった。
「これ、好きなのか?」
「うん、好きだよ~だってカッコイイじゃん。」
そう言い彼女は笑顔を浮かべた「高校生なのにまだ特撮すきなのかよ。」とツッコもうと思ったがその笑顔に口を紡いだ。
「ふ~ん、特にどれが好きなんだ?」
「グッドレンジャーのレッドかな、最終話で一人で敵地に乗り込んで行くとこが格好よすぎたんだよなぁ~。」
「…確かにわかる。」
俺もそれは最終話まで見ていた、最終話は本当に感動した。
「えっ!?、もしかして創馬君も好きなの?」
「あぁ、好きだ、だけど……」
にやりと笑い
「怪獣がな。」
「え~~、やっぱり敵じゃん。」
「怪獣だってカッコイイだろ?」
「そうだけどさぁ~、私は……」
それから、俺達は懐かしい特撮ヒーローの話で盛り上がった。
人前で笑ったのはいつぶりだろうか。人が笑っている姿を見たのはいつぶりだろうか。
特撮ヒーローなんて子供っぽいなんて今は関係ない。
メイは変身ポーズをとり、それに合わせて「ガォー」なんて言ってやった。
時計の針は動き続けた、けど、この時間だけは多分倍速で回っているだろう、その時計は俺の中にあるものだから………
笑い疲れてメイは座っていたベットに倒れた。
「はぁ~、久しぶりにこんなに笑ったよ、やっぱりヒーローは最強だね。」
「あぁ、そうだな。」
もっと話したかったがふと視界に入った時計の針を見て驚いた。
「やばい、もう10時じゃねぇか!」
慌てて身仕度し、「ごめんな、遅くまで。」部屋を出ようとしたときメイが「待って!」と声に出した。
俺は振り向くとメイはこっちを指差した。
「まだ、君が聴きたかったことに答えてないよ。」
「でも、これ以上は迷惑だろ?」
首を横に振られる。
「私は君にその話をするために連れてきたんだよ………私もさっきまで忘れてたけど……」
忘れてたのか……でも、これ以上いるとここに泊まることになってしまう。
今日出会ったばかりの男を泊めるのはどうかと思う。
そのことを伝えると
「大丈夫だよ!創馬君は信用できるから。」
と返された。いや、そういうことではないのだが……
「いや、お前な……」
言葉を遮られる。
「うーん、じゃあこうしよう、君が私に聴きたかったことを私が答えてそれを信用してくれたら帰ってもいいよ。」
信用?どういう意味だろうか、助けたことが事実なんだからそれを信用するとかしないとかはもう真偽する意味も無い。
「メイが助けたんだから、どうやって助けたとしても信用するだろ。」
「そっか……やっぱり、いい人だ。」
「私はね、創馬君……」
濃い闇に包まれる世界の空は月明かりと点々とする星々で少しだけ照らされていたがそれでも暗いことに変わりはない、だけどこの暗く濃い空も時間が経てば明るくなる。
しかし、彼女の言葉はこの世界を末端から否定する。
誰もが当たり前だと考え、それを否定する者は多分この世に存在しないだろう。だからこそ彼女の言葉は俺が観ていた世界を一転させた。
「私、明日を創ってるんだよ。」
世界の一端を彼女は抱えていた。
読んでくださりありがとうございます。
吾輩みげぞうは今作が初作品ということで誤字脱字などが多くあると思いますので見つけ次第報告いただけると嬉しいです。
この作品を読んでくださった人に最大級の感謝を




