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愚神礼賛-4

「こ、ここは職員室か。しかし一体どうして……っ!」


 息をのむセンキチ。

 そこには惨状が広がっていた。壊されたロッカー。舞い散った紙。なによりも死体になりかけている人々が無造作に転がっていた。

 ひとまず、過呼吸かつ放心状態になっている彼女を抱えて廊下の壁を背もたれにして座らせる。流血を見て再発狂されても面倒だ。なにせメンタルカウンセラーの真似事をしようと思ったら、気付け薬代わりのビンタしかできないもので。

 安定して座ったのを見届けたら、職員室の出入り口から一番近い備え付けの電話から救急車を要請。住所とざっくりとした負傷者の数だけ伝え、息も絶え絶えな人に電話相手を託す。薄情と思われるかもしれないが緊急事態はお互い様なので勘弁してもらおう。

 そうしてから彼女の側に戻り、宥めて落ち着かせる。冷静さを取り戻して語り始めるのに時間はそうかからなかった。


「……どうやら私の銃で移動したみたいですね。がむしゃらに跳んでみましたけど、何とかなったみたいです」

「銃で移動か。何を言ってるんだ君は」

「協力するって言いましたし、私の魔弾を明かしますね」


 そういって終始握りしめていた杖を改めて示し、続ける。


「これが私の魔弾です。杖に偽装された仕込み銃なんです。端的に言えば、これを持ってると瞬間移動ができるんですよ。空気抵抗だったり重力だったりの物理法則のほとんどを無視して直線的に跳ぶことができるんです」

「俺の目の前から一瞬で側面に移動したのや、今の脱出劇もその銃のおかげってわけか。ニュートンが泣き出すような銃だな」

「まあ障害物があると通り抜けられないんですけどね」

「今さっき窓を割ったと思ったが」

「私が……?無我夢中たったのが功を奏したのかもしれませんが、なんだか体が痛い理由も多分それですね」


 一言断って庇っている右腕の袖を捲くると、確かに痛々しさを感じるほど赤くなっている。窓を叩き割るときにできたのなら相当な衝撃と大怪我のはずだ。今は戦いで分泌されたアドレナリンが麻酔となって痛みも少ないだろうが、時間が経てば激痛を自覚するだろう。

 本来であれば安静にしつつ冷やして応急処置をしたいところだが、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。死ぬよりマシと思って我慢してもらおう。


「そして俺の銃がこいつか」


 背中側のシャツとズボンの間のベルトに挿してある銃を、彼女に銃口が向かないようゆっくりと引き抜く。

 今一度その重量をしかと受け止める。しかし肝心の能力、悪魔が言ってた人知を超えた能力とやらがわかっていなかった。


「まあ関係ないな。この銃特有の能力が有っても、分からないなら意味ないし」

「なんですかそれ。貰った時に説明受けなかったんですか?」

「なんか言ってた気もするけど、それどころじゃなかったし。銃の形してるってことは銃の仕事ができるってことだから、それ以上は求めてなかったっていうか……」

「なんという。では諸々の説明は聞いてないということですか」


 いや、すまない。と申し訳なさでいっぱいになる。と、ここでまだ自己紹介すらしてないということに気づく。

 一年生のときになぜか一度だけ話しかけられたことはあったが、それ以外では接点もないし、一応しておいた方がいいのだろうか。


「俺は日桜ひざくら千吉ちよしだ。呼びにくいと他の奴からは名前を音読みしてセンキチと呼ばれている」

「えっと、その、B組の神輿みこし栞優しゆです」


 俯いてしまう神輿とそれを無視して考えだすセンキチ。

 乱射魔が職員室を襲撃してから、センキチが自称悪魔に銃を貰い窓に弾を打ち込むまでの数分間ずっと撃ち続け、さらには教室に来てからも残弾を惜しむことなく四方八方に弾をばら撒いた。

 持ち弾にずいぶんと余裕があるかと思ったが、幻覚だかなんだかで奴の姿を見たときには軽装だった気がした。もしこれが正しいとすれば。


「さしずめ残弾無限の軽機関銃ってことか?」

「軽機関銃、ですか?映画とかで聞くマシンガンとは違うんですね」

「名前が違うだけで中身は一緒なんだが、まあどうでもいいか。とりあえず状況整理しなくちゃな」


 センキチの武器は五連発の拳銃が一丁。装填されているのは三発のみで替えの弾はない。全身のポケットも探したがなかった。少しの希望をもってシリンダーを開いて確かめてみたが、空薬莢が未発砲の状態に戻ってるなんてこともなかった。奴の銃とは何から何まで違うらしい。

 さらに問題がある。彼女は一度は銃口を向けてきたものの、発砲はしてない。言うなれば正当防衛をしただけの善良な一般人(おにもつ)を抱えていることだ。借りだの感謝だのはどうでもいいから見捨てしまってもいいのだが、協力関係が築けた以上見殺しにするのも今後の戦力的に惜しい。

 対して乱射魔は弾数に制限のない軽機関銃が一丁。多分これだけ。

 舞台は通い慣れた学校。制限時間は救急車が来るまでの約十分弱。それ以降は自分たちまで銃刀法違反で犯罪者扱いとなってしまう。

 センキチとしては、間違って警察まで登場したらいよいよ最後だ。もうこれ以上警官の死傷は起きてほしくない。


「まったく……とりあえず君は早く避難してくれ。あの窮地を脱した今、俺一人の方が動きやすい」

「でも、それは不安です。銃の能力をまともに使えない人に任せる方が危険ですよ」

「銃なんて、弾が出る、人が死ぬ。それで十分だ。足りない分は知恵と勇気でなんとかするさ」

「いえ、いえ、さっき手を組んで共闘すると言いました。私だけ逃げるのは対等ではありません」

「だから、俺一人の方が上手くいくんだって。君の護衛。奴の無力化。両方は無理なんだ」

「私は大丈夫ですって。この銃があればどこへでも逃げられますから」

「その銃に頼りっぱなしなのが不安要素なんだ。今までのやり取りからは、使いこなせてるとも言い難い」


 センキチの過去を知らない神輿としてはなぜそこまで拒否するのか理解できるはずもない。

 逆にセンキチからすれば、有名な優等生で多少なりとも知っているはずの彼女がここまで頑固であったことに内心驚いている。

 完全に水掛け論。刻一刻と制限時間は差し迫る。


「じゃあ、こうしよう。戦闘はあくまで俺だけでやる。君は俺のサポートをしてくれ」

「でもですね」

「役割分担だ。君もさっき言ってたが、変な銃を持った奴は他にもいるんだな。なら緊急離脱も可能な君の魔弾は俺たちの命綱になるし、君の負傷は極力避けたいんだ」

「……わかりました。ではそうしましょう」


 万が一のことがあったら俺を置いて逃げることを念入りに伝えた。不服そうではあるけれども了承を引き出すことに成功する。

 できるだけ神輿を安全地帯に置き、万一でも神輿だけは生かす努力をする。これがセンキチにできる最大限の譲歩だった。


「よし。じゃあ作戦を共有しよう」

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