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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
終章 シノの奮戦

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第46話 決戦 その二


 おれとアカリは陣地の右端に駆け付けた。


 もうすでに何頭もの鬼猿が防衛線のほころびを突破していた。傍若無人の害獣どもが暴れまわる。これを右陣のたった数人が抑えている。一人で何頭も相手にしているので苦戦を強いられていた。


「アカリ、これ以上柵を越えさせるな!」

「了解よ」


 アカリは、弓の引き幅を短めに、威力を犠牲にして速射で対応した。短い間隔で矢が放たれる。柵に取り付いた敵に次々と命中していった。右陣側の射手数名もさかんに応戦する。


 後方部隊も右陣の支援を始めた。射手の前に多くの矢玉が届けられる。アカリの母イズノさんが采配をふるっているのだ。ここ数日で用意した盾も配られた。ただ、数は少ない。


 アカリたちの活躍で、防衛線内へ後続が侵入するのを一時的だけど阻止できている。


 これで陣地に入ってきた鬼猿二十頭弱が孤立した。ほんのわずかな好機が生まれたのだ。数名の槍手は捨て身の覚悟で敵を柵に追い詰める。おれも使い慣れた刺股さすまたで敵を押し込んだ。槍手に飛びかかろうとしたヤツを地面に縫い付け、手突槍を打ち込む。


 それでもなお、害獣たちは間合いに入り込み、しつこく絡んでくる。捌ききれなくて、おれはうかつにも転んでしまった。数頭が飛びかかり、爪を突き立てる。


「ぐっ」


 腕に、肩に、幾筋もの痛みが走った。おれは、下腿かたいに括りつけてあった鉈を抜き、敵に叩きつけた。不気味な絶叫が響く。起き上がると同時に、取り付いている一頭に膝蹴りを打ち込んだ。それはくぐもった呻き声をあげたきり、動かなくなった。


 周りも乱戦になってしまった。


「盾も使え、盾で間合いをとれ、角っこを叩きこんでもいい! とにかく爪をもらうな!」


 近接の戦いで、槍手も傷を負い始める。アカリたち射手も躍起になって敵の侵入を阻止しているけど、多勢に無勢だ。また何頭かに防衛線を抜かれてしまった。


 ――こんなこといつまでも続けてはいられない。


 これ以上の抵抗は難しいと感じた。この防衛線を放棄すべきだろうか。最終防衛線まで後退して態勢を整えることを考えた。


 ――いや、だめだ。


 後退するにしても全部隊で行動を揃えないといけない。いまここだけ引いたら、味方の中央は二正面からの攻撃にさらされてしまう。


 うじうじ迷っていると、「おかしらー!」と叫ぶ声が遠くから届いた。おれのことをそう呼ぶのは何人もいない。大工寮こだくみのつかさで一緒に作業した仲間だ。


 東の岳の方から幾筋もの矢が飛来した。頭上をかすめて、防衛柵を越えようとする鬼猿を薙ぎ払う。みれば、斜面を駆け下り集団がいた。


「おかしらー! もどりましたぜ」


 北東の最深部へ放っていた斥候の二組六名だ。彼らは荒い息をしながら右陣にたどり着くと、矢を急射し始めた。たった六人で射ているとは思えないほど、多くの矢が敵に打ち込まれた。


「だいじょうぶか?」


 顔だけ向けて、彼らに声をかける。六人はみんなひどい疲労に喘いでいる。それでも矢を射続けた。


「なんとか間に合いやした。まだまだ、やれますぜ」


 斥候役は敵発見後、東の尾根伝いを戻ってきたらしい。疲労困憊の様子だけどおれたちよりは、気持ちがずっと元気だった。わずか数人の加勢にすぎないけれど、右陣が持ち直した。


「おかしら! ここはあっしたちでやりますんで、真ん中に戻ってくだせえ。向こうは押されてますぜ」


 さっきから中央のことが気にかかっていた。たしかに徐々に押され始めている。


「わかった。すまない、ここを頼む!」

「「「おう」」」


 勇ましく拳が突き上げられた。


「アカリ、いこう!」

「うん」




 敵の圧力が最もかかる陣地中央の攻防は熾烈を極めていた。


 永遠とも思える時間が過ぎたような気がしたけれど、攻撃開始から一時間も経っていない。防衛部隊は、弓を引き続け、石弾を投げ続け、槍を降り続けてきた。もう、とうに限界を超えている。


 タダが、ダイカクが、檄を飛ばす。シナツ部隊長の命令で後方部隊の一部も攻撃に参加していた。彼女らは、少し後ろに下がった位置から、余った投石具を使って石弾を打ち込む。狙わなくても密集している鬼猿のどれかには当たるので、わりと戦力になっていた。


 ざっと見渡したところ、残りの敵は三千くらいだ。あと少しだ。でも、これ以上消耗したら負ける。


 敵がさかんに陣地内に飛び込んでくる。そのたびに槍手が喊声かんせいを上げながら突っ込んだ。


「シノ君!」

「どうした? サギリ」

「なにかへん……」


 確かに敵の動きが少しおかしくなった。攻撃の手を緩めたように見える。


「あっ!!」


 サギリが何か見つけたのか、鬼猿の群の一角を指さした。


 ――ま、まずい!!


 おれはその場景じょうけいを目にして、震えた。鬼猿どもがおれたちの放った槍や矢を集めていたのだ。何をしようとしているかは容易に想像できた。


 次の瞬間、複数の槍がこちらに飛んできた。柵を越えずに手前に落ちる。一部から失笑が漏れた。けれど、そんな余裕はすぐになくなる。敵がだんだんと投擲動作に慣れてきたのだ。


 最初はそれほどでもなかった奴らの投槍がだんだんと速く、勢いが強くなってきた。矢を持ってこちらに飛び込んでくるヤツも出始めた。


 うかつだった。おれは自分の軽率さを呪う。所詮は獣、知性のない畜生と侮っていた。


 敵はおれたちの戦い方を見て、学習したのだ。鬼猿が霊長類の端くれなら、それなりの知能があっても不思議でなかった。投擲能力があっても不自然ではなかったのだ。それなのに、敵が道具を使って反撃するなど、おれは、はなから考えてもいなかった。多くの武器をみすみす敵に渡してしまった。


 槍手が無我夢中で敵の投槍を弾き落としている。タダが一早く事態に反応した。


「盾だ、盾をとって構えろ! シノ、槍手に盾を持たせてくれ!」

「あ、ああ、わかった!」


 ――足りるだろうか? もともと十分な盾を用意していない。


 さらに驚愕の報がもたらされる。


「部隊長負傷、シナツ団長が倒れた! 衛生、こっちに来てくれ!!」


 中央やや左で先頭に立っていたシナツ部隊長に槍の攻撃が集中してしまったらしい。


 ――あ、ああ……おれのせいだ……


 自分の失策、己の至らなさに打ちのめされてしまった。


「どうするシノ!? シナツの傷は重い。復帰は無理だ」

「……」


 タダがなにやら激しく問いかけている気がする。「バチン!」と頬を打たれ、はじめて、自分が放心したように突っ立っていたことに気がついた。


「あ、ああ、すまん」

「どうした! しっかりしろ!!」


 肩を激しく揺すられ、ぼうっとしていた状態から目が覚めた。


 タダが激しく詰め寄る。


「ぼやっとするな。シナツがいないんだぞ! もう、おまえしか作戦を立てられる奴がいない」


 ――そうだった。そのとおりだ。


 いつまでも腑抜けている己に気合を入れなおす。


「バチン!」


 自分で自分の頬を打った。


――考えろ。考えるんだ! 何か、決定打はないか?


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