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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
終章 シノの奮戦

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第45話 決戦 その一


 アラメ村防衛部隊の懸命の攻勢が続く。


 敵は、その数を一万二千、一万一千、一万……と減らしていく。持ち場を守る射手、投擲手が大声を張り上げた。


「敵は半減したぞ!」

「まだ、こちらが優勢だ」

「石弾足りない。後方部隊、はやく補給するんだ!」

「矢だ、矢をもっとこっちにもってきてくれ!」


 敵の最前列は、もう、その姿形がはっきりと分かるほどに近い。予備防衛線の防御柵は前後二段に構築してあるけれど、敵はその前段側の柵に取り付いている。


 おれは、隷下の小隊を力一杯はげます。


投擲とうてき小隊、踏ん張れ! ありったけの槍をぶん投げろ、すべての石を叩き込め!」

「オォー!」


 もう、敵は至近距離だし、投槍具、投石具を使うのもまどろっこしい。投擲小隊のみんなは、槍をまとめて掴んでは手当たり次第に投げつけ、石を抱えては狙いもつけずに弾いた。


「ギィギャー」「グフッ」


 槍、石弾の直撃を受けた鬼猿から、千切れるような悲鳴があがる。


 おれは得意の石投げに専念した。肩は十分温まっていたので、多少重めの石でも平気だ。十秒間に五発分は放り付けることができる。脳震盪を起こすことを期待して、主に鬼猿のあごを狙った。うまい具合にあごを打ち抜いた石弾は牙を折る。鬼猿は絞り出すような呻き声をあげて倒伏した。


 弓射小隊長――タダ――も叱咤激励しったげきれいの声を送る。


「渾身の力で引き絞れ! 相手は団子状態だ。一矢で二体貫け!」

「オォー!」


 櫓に登った射手から矢が急角度で射たれ、防御柵に足をかけた鬼猿を射落とす。


 敵が、九千、八千……と漸減していく。


 しかし、弓射小隊も投擲とうてき小隊も疲れが見え始めていた。敵が七千を割ったあたりから、投射力がガクンと落ちた。そして、こちらが押され始める。敵は手前の防御柵に取り付き、射手に襲い掛かろうとしている。


 一頭が柵を乗り越え、こちらに飛び込んできたのを目撃した。その先にはアカリがいた。


「あっ、アカリー! 避けろー!」


 おれはほとんど絶叫に近い声を発した。ここからでは遠すぎて駆けつけても間に合わない。


 そのとき、けたたましい音と一閃の光が放たれた。鬼猿が目をくらまし、一瞬だけ動きを止める。その好機を見逃さなかったアカリが長弓をくるりと回した。


「えいっ!」


 上端の末弭うらはずに装着した槍穂がその一頭を仕留める。


「ふんっ!」


 難を逃れたアカリは、お馴染みのしたり顔。どうだとばかりに自慢げな様子だ。信じられないけど、アカリの弭槍はずやりが初めて役に立った。


 ――でも、なんだ? あの音と光は? 何が起こったんだ?


 少し離れた投石機の側に停車してあるクルマが目に留まる。ひとしきり考え、さっきの音はクルマのクラクションで、前照灯からハイビームの光が照射されたのだと分かった。


 ――人は乗っていないはず、偶然だろうか? 不思議なこともあるんだな。


 さっき敵との衝突を繰り返していたから、電装系が故障したのかもしれなかった。


 とにかくいまは目の前の敵に対処しなければらない。


 防御柵を乗り越えようとする鬼猿が徐々に増える。いよいよ敵との距離がなくなってしまった。おれは、投擲小隊に配置の変更を命じる。


「投擲小隊、先に指定された者は長槍を持て! 射手を守るんだ! 残りの者は石弾を使いきれ!」


 投擲小隊の三分の一は武器を長槍に持ち替えて、射手と組みを作った。


「タダ、弓射小隊を少し下がらせてくれ、長槍分隊を前に入れる」

「分かった。みんな聞いたか? 弓射小隊は五歩下がれ。槍手に援護してもらうんだ!」


 急遽きゅうきょ編成した長槍分隊は、射手を庇うように防御柵の手前で構え、柵を突破しようとする敵を仕留め続けた。


 幾人かはおれと同じように刺股さすまたを振るっていた。相手が思ったよりも小さく、槍だと一撃で捉えにくい。けど、刺股なら、相手の動きを容易に封じることができた。的が定まったら、竹槍を使い捨ての手突槍として打ち込んで止めを刺した。


「長槍分隊、当てるのが難しいなら、叩け! 叩いて叩いて、弱ったところで止めを刺すんだ!」


 槍手が構える長槍が大きくしなり、その穂が鬼猿の頭をバチンと叩く。


 タダが弓射小隊を激励する。


「あごを引け、敵を見ろ。最後の一矢まで射ち続けるぞ!」


 残りの敵は五千を切ったように見えた。が、勢いが衰えない。目の前の一頭を倒せば、二頭が現れ、それを突き伏せるとすぐまた別のヤツらが迫った。こちらが徐々に劣勢に傾く。


 この戦闘でもっとも苛烈な局面を迎えた。


 みんな肩で息をしている。それでも酸素が足りず、口を大きく開いては閉じ、深呼吸を試みる者もいた。


「後方部隊! 怪我人だ。こっちへ人を回してくれ!」


 とうとう負傷する者が現れ始めた。衛生分隊が駆けまわって負傷者を搬送する。


 中央部の競合いがもっとも激しいけれど、人も多く配置されているので、まだなんとか持ちこたえていた。しかし、逆ハの字に展開する陣地の右袖の状況が芳しくない。中央ほど敵の圧力は大きくないけど、配置されている人も少ないのだ。左袖はここから見た限り比較的大丈夫そうだ。


 右側面の部隊から増援の要請がおれに届いた。


「こっちだ、右に来てくれ、頼む。防衛線が破られそうだ」


 中央もギリギリだ。右側面の防御に回せるだけの人員の余裕はない。


 ――どうしたらいい……


 陣地の右端を見れば、いままさに一角が崩れようとしていた。崩れた一角を押し広げるように敵に侵入されれば、防衛線が崩壊する。


「タダ! すまない。おれは右側面の援護に向かいたい。ここを頼めるか?」

「あ、ああ、行け! こっちは何とかしてやるから、早く行ってやれ。向こうが危ない」


 おれはこの場の指揮をサギリに預け、右側面に向かうことになった。


 だが、アカリが矢を放ちながらおれに訴えかけてくる。


「シノ! わたしも一緒に行く。連れて行って」

「だめだ、アカリはここに残れ」


 正直なところ、おれ一人だけでは十分な増援になるとは思えなかった。アカリを連れて行きたい。でもアカリまで外れてしまったら、中央の守りが手薄になる。おれはアカリの行動を思いとどまらせるべきだと考えた。


 そんなとき、少し遠くにいた大柄な射手から声が上がった。


 アカリの叔父ダイカクさんだった。まだ傷の癒えない体で鬼猿どもに果敢に挑んでいる。


「シノ、アカリを連れていけ。ここは俺達で十分だ。何としてでも守り抜く。早く行け!」


 弓射小隊長のタダも同意した。


「そうだ、ここはまかせろ。早く連れてけ」


 すまないと思いつつ、おれは大きく頷いた。そして、片腕に手突槍を抱えられるだけ抱える。


「アカリ、走るぞ、急げ」

「うん」


 アカリも矢筒やづつをとって走り出した。


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