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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
第三章 異変

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第34話 長老会の紛糾 その二


 人は思い通りにならないことや不幸なことが起きると、その原因を他に求めるようになる。他人や環境のせいにし始めるものらしい。


 人生経験が豊かなはずの長老衆も例外ではなかった。最重鎮である助役が愚痴をこぼす。


「トミサン村の連中め、厄介ごとを持ち込みおって……」


 村長がすぐさま「助役殿、やめよ」と諫めた。けれど、長老衆の一角から飛び出した不平不満は周りに広がってしまった。


「この村になど来なければよいものを……」

「あいつらのせいだ……」


 アカリはそんな年長者たちを心底軽蔑したのか、冷たい目を向けていた。


 シナツさんがこの不穏なやりとりを毅然として遮る。


「みなさん、おやめください。トミサン村の人たちが命を懸けて戦ってくれたからこそ、我々は無事でいるのです。その奮戦を非難すべき理由はどこにもありません」


 正論だな。鬼猿の進路がこちらに逸れていれば、いまごろアラメ村は全滅だ。文句を垂れていた年長者たちも押し黙った。


 青年団の若手からは、出口の見えない事態に救いを求める声があがる。


「守人さま……」

「守人さまが現れてくれないだろうか……」


 その言葉をあざ笑うかのような声があがった。長老衆の助役からだ。


「ばかな。あんな伝承など、ただのおとぎ話だ。守人など存在するはずもない。夢をみるのはよせ」


 シナツさんがすぐさま反論する。


「守人さまは確かに実在しました。私は子供の頃、ジン伯父さんから聞いたことがあります。たしかにこの地にいたのだと……。物証もあると聞いています」


 ジン伯父さんというのは、たしか、アカリの亡くなった父のことだ。シナツさんの訴えには妙な熱がこもっていた。


「それに……新たな守人さまなら、もうここにいるではありませんか」

「どこに!?」

「ここです」


 シナツさんは、突然、おれの方を指さした。みんなの視線がおれに集まってしまった。


「えっ、あの……」


 おれが言葉に詰まっていると、長老衆の助役がそれまでにない勢いでまくしたてた。


「たしかにこの若者はいろいろ変わったことをすると聞いておる。だがな、この者には何の武力もないではないか。鬼猿を屠ったらしいが、たまたまじゃろう。大群相手に役に立つはずもない。ちがうか? おぬし。なんとか言ってみろ」

「…………」


 いちいち相手にするつもりはなかったけど、このご年配、余裕がないのか、さっきから態度がよろしくない。隣のアカリがプルプルしている。怒りをかみ殺しているみたいだ。まずい……。


 長老衆の助役が続ける。


「それにな、このたびの災厄、その者のせいではないのか? このような得体のしれないよそ者を村に入れたのが間違いじゃ。いまからでも出て行ってもらったらどうかの。皆の者どうじゃ?」


 このあまりに一方的な主張はさすがに気分が悪かった。


 おれは立ち上がって抗議しようとした。が、アカリが先にぶち切れてしまった。勢いよく立ち上がって叫ぶ。


「なんなのこのジジ…ィ……うっ、もごもご……」


 おれは慌ててアカリの口を塞ぎ、無理やり座らせた。


「ちょ、ちょっと、なによ」

「ア、アカリ、この大事な時に内輪もめは困る」


 シナツさんがとりなす。


「アカリ、落ち着きなさい」


 アカリは渋々と従い、おとなしくなった。


「助役殿、シノ殿はまちがいなく森の神様がこの地に遣わせた守人さまです。二百年前に現れた守人さまと同じ世界から来た人です。失われた秘術を数多く知っているのが証拠です」

「そうよ、シノは別の世界から来た人なの。守人さまと同郷人なのよ」


 守人の伝承の細部を知っているのは長老衆の中でもごく一部に限られている。それ以外の者は、急な話の展開についていけないようだった。


 比較的若い長老衆の一人から質問があがった。


「村長、どういうことですか? 守人さまは実在したのですか? 守人さまは人間なのですか? 別の世界から来たというのは本当ですか?」


 しばらくの沈黙のあと、村長が肯定した。


「すべてそのとおりじゃ。アカリや、イズノに例のものを持ってくるように伝えなさい」

「お婆さ……村長様、例のもの、ですか?」

「そうじゃ、祭殿の奥にしまってあるあれじゃ」

「は、はい。わかりました」


 村長は、守人さまが実在していた証拠として例の自動小銃を開示するつもりのようだ。アカリが手配に奔走している間、村長は、守人の伝承の伏せられた内容を口述した。


 鬼猿一千の襲撃を受けたイサラゴ村の顛末を知った一同からため息が漏れる。多数の犠牲が出たことに衝撃を受けたのだろうか……。




 アカリが集会場に戻ってきた。アカリの母イズノさんも一緒だ。手には自動小銃が携えられている。


「みなのもの、これがいかづちの杖じゃ。守人さまが使ったといわれておる」


 自動小銃が披露されると、一同から「おおー」という感嘆の声があがった。


「これが雷の杖……」

「これが敵を薙ぎ払ったという……」


 それまで一言もしゃべらなかった鍛冶屋の親父さんが周りとは違った反応を示した。


「なんと精巧な細工じゃ、どれわしに貸してみろ」


 職人魂に火が付いたのか熱心に観察し始めた。村長の説明と自動小銃の開示で、守人の存在を疑う者はいなくなった。長老衆の一人がおれに問いかける。


「シノ殿、この雷の杖、使い方は分かるか?」

「え、ええ。操作方法はだいたい分かるかと思いますが……残念ながら、弾がありません。いかづちを打ち出すことはできません。」


 雷の杖の登場で一筋の光明を見い出せたと思った人たちも、これが使えないことが分かり、また気持ちが後ろに向いてしまった。さきほどのクソジジ……長老衆の助役が再び悪態をつく。


「まったく、とんだ期待外れじゃな」


 アカリはこの長老のことをまるで汚い物を見るかのような目でみていた。


 イズノさんは自動小銃を見て、何か気になっているらしい。さっきから何か怪訝な様子だ。


「シノくん、弾ってなに?」

「あの雷の杖の筒先から飛び出る鉄の塊のことです。それがどうかしたのですか?」

「ううん、なにか忘れていることがありそうなんけど……思い出せないわ。どうしちゃったのかしら私……」

「お母さん、変ね」

「いえ、やっぱり、なんでもないわ。ごめんなさい……」


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