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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
第二章 守人

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第24話 引っ越し


 村に来てから十日目。


 荷車の一号車をお披露目したのは一週間ほど前のことだ。


 シナツさんが村長にお披露目した荷車の一号車とタダたちが作った二号車は、長老衆にも好意的に捉えられたらしい。カクカクした車輪の見た目にインパクトがあったのかもしれない。


 そのおかげか、おれの立場にも変化があった。


 まず、おれは村人として正式に受け入れてもらえることになった。それから、村の青年団に大工寮こだくみのつかさという部署が新たに設けられた。おれはそこの責任者として木工こだくみという役職を授かった。部下はだれもいないけど……。まあ、いってみれば、一人で何でもやる便利屋さんだ。家の修理から道具づくりまで、いろいろと任された。


 そして、ありがたいことに、作業場を提供してもらえることになった。といっても、元は家畜小屋で、壁は腰ほどの高さまでしかなく、ほとんど吹きっさらしの状態だ。この方が日の光が差すので作業には都合がいいのだけれど……。


 地面もむき出しのままなので、村の青年団と協力して床を張った。


 途中、板材が足りなくなってしまったのだけど、近隣の森で木材を調達した。シナツさんに同行してもらい、何度か、周囲の探索にも出かけている。


 このとき、北の岳と東の岳の谷沿いに湿地帯が拡がっているのを見つけたのは幸運だった。周辺の土地が水没したのか、立ち枯れた木がたくさんあったのだ。これも伐採して回収した。


 さらに、大きな収穫があった。湿地帯のそばには、竹っぽい植物が密集していたのだ。日本に自生している真竹まだけ孟宗竹もうそうちくとは少し見た目が異なり、表皮は黒っぽく、太さは十センチから二十センチくらいのものまで様々であった。厳密には竹ではないのかもしれないけれど、類似の植物であることは間違いなかった。もうめんどうなので黒竹と呼んでしまおう。


 シナツさんに聞いてみると、この植物があることは以前から知られていたそうだ。けれど、表皮が硬すぎて斧が入りづらいので、切り倒すことが難しい。これまではあまり利用されてこなかったらしい。鉈を振ってみると確かに硬く、片刃が表皮にはじかた。下手すると刃が滑り、とても危ない。でも、持参の竹挽き鋸で挽いてみると、多少時間はかかるけど、切れないこともなかった。


 竹材は万能の資源だ。とても役に立つ。食器やかごなどの暮らしの道具が作れるし、柵や建材などにも使える。おれはシナツさんと一緒に黒竹を伐採し、積めるだけ積んで持ち帰った。


 木材が補充できたところで、作業場づくりが一気に進んだ。まだまた手を加えなければならないところは残っているけど、当面の作業には差し支えないくらいには整った。軽トラから降ろした様々な電動工具や機械を作業場に運び込み、配置した。各種の大工道具も壁に掛けて収納した。作業台も設けた。


 それからは、作業が捗った。最初に作ったのは人力で動作する木工旋盤だった。主軸には弾み車を接続し、手回しで主軸を回転できるように構成した。クランクシャフトを介した足踏み式にすれば一人でも作業できる。だけど、構造が複雑になるのは避けたかったので、ごく簡単ななものにした。


 加工物の一端は主軸に固定し、他方は心押台しんおしだいで支える。心押し台は架台を左右に移動できるようにし、最大で二メートルくらいまでの加工物に対応できるようになっている。これで長尺物ちょうじゃくものも作れる。


 次に作ったのはろくろだ。ろくろは、駆動用の円盤のふちを人力で蹴って回すろくろだ。旋盤と本質的な機能は同じだけど、旋盤が水平軸を回転させるのに対して、ろくろは垂直軸を回転させる点で異なる。綺麗な回転体を削り出すことができるほか、陶芸にも使われる。電気があまり普及していなかった昭和初期頃までは、各地でよく利用されていたらしい。適当な砥石を載せれば、回転式砥石台にもなりそうだ。


 旋盤などが完成してからは、円筒状の部材の作製が容易になった。荷車の三号車から六号車までは車軸も、車輪もカクカクしていない。見た目もかなりすっきりしたものになった。


 それから、村の生活に役立ちそうなものはなんでも手当たり次第に作った。木皿や椀の食器類、梯子、脚立、踏み台、作業台、馬台うまだい、滑車、木槌きづち柄杓ひしゃく、農具の柄、などなどだ。錐や小刀も作った。刃の部分は釘や鋼の平板棒などを鍛冶屋の親父さんに渡して加工してもらった。


 変わったところでは穴掘り用のスコップも作った。青年団が村の門前の柵を修繕するので、杭を打ち込むための深くて小さな穴をいくつも掘る必要があるということだった。それで穴掘りに使える便利な道具はつくれないかと相談されたのだ。


 このスコップは、山芋堀に使うような細長いスコップを二つ向かい合わせにくっ付けたような形状をしている。重さを利用して地中に突き刺し、土を挟み込んで掬い取るのだ。このスコップの掬い部は単管パイプを縦に半分にしたものを利用した。


 あと、旋盤の作業が楽しかったので、太めのものから細めのものまで、たくさんの丸棒を作りまくった。


 この一週間はそんな感じで慌ただしく過ぎた。



 それで、今日は、おれの住まいを作業場へ移すことになっている。いつまでもアカリの家でお世話になるのは心苦しかったからだ。一応、作業場の一画を壁で覆い、夜寝るときは風が入り込まないようにはしてある。


 アカリの幼馴染のサギリが作業場を覗き込んできた。


「シノ君、荷物を運び込むのは終わったのかな?」

「ああ、うん。大丈夫、終わったよ」


 作業場は、元々はサギリの家の隣りにある家畜小屋を借りたものだ。だから、今日からはサギリのご近所さんということになる。まあ、アカリの家ともそんなに離れていないのだけど。


 オレが作業場に引っ越すと告げてから、アカリは何だか不機嫌になった。おれのお守り役を任されているので、保護の対象が遠くに行くと煩わしいと感じるのだろうか?


 おれとサギリが話しているのを見て、アカリが近づいて来た。


「ねえ、シノ、ほんとにここで生活するの? 夜寒いわよ。別にいまと同じようにわたしの家で暮らせばいいじゃない」

「アカリの家にも迷惑になるし……それに、これから夏に向かって暖かくなるらしいから、まあ平気だよ……」

「そうそう、アカリは心配しないで! シノ君、今日からはあたしんちとご近所だね。寒かったらうちにおいでよ。歓迎するよ」


 サギリの心遣いはありがたいけど、アカリがムッとしてしまった。


「サギリ、少しは控えなさいよ! シノの世話役はわたしにまかされているのよ」

「わー、アカリ、こわっ! じゃあ、シノ君、夕ご飯はうちに食べに来てよ。うちの方が近いし、それがいいわ」


 サギリの言葉で、アカリの表情が抜け落ちたように見えた。


「シノ、分かってるわね? 夕ご飯はこっちにくるのよ、いいわね?」

「はぁ……」

「はっきりしなさいよ!」

「は、はい」


 ――なんで、責められてるんだ? おれは作業場で仕事に集中したいだけなのに……。


 そういえば、サギリに頼まれていたものがあったのを思い出した。おれは隅の方に置いてあったそれを取るとサギリに渡す。


「サギリ、これ、出来たよ」

「わーい、ありがと!」


 サギリは、罠猟を時々しているらしかった。罠にかかった獲物にとどめを刺すときの手段がほしいというので、止めさし用の槍を作ってあげた。


 穂先は、八ミリ厚の鋼平板を三十センチほどの長さに切り、先を尖らせて鋭く研いだものだ。鋼平板は建材用でおそらく普通鋼なので、鍛冶屋の親父さんに焼入れ、焼き戻しをしてもらっている。刀の身厚も十分だし、刃物として十分に硬く、粘りのあるものとなっているはずだ。


 柄は、旋盤で作った赤樫あかがしの丸棒を使った。柄の先端に切り込み溝を入れて、柄と同形状となる茎子なかごを挟み込む。ボール盤のドリルで小孔を三つほど貫通させ、びょうでかしめた。合せ柄型または本通しといわれる高級な包丁などに使われる固定方法と同じで、おれが知る限りはもっとも丈夫で確実な方法だ。ちょっとやそっとの力では穂先が外れることはないと思う。


「これいいわ! 丈夫で使いやすそう」


 サギリが喜んでいるのをみて、アカリはなんだか憮然ぶぜんとしている。


「シノ! わたしの分も作りなさいよ!」

「ええ!?」


 ――アカリは弓使いなんだから、止めさしは必要ないと思うのだけど……。


 おれと同じことを思ったのか、サギリが口を挟んだ。


「ねえ、アカリ、弓と槍は同時に持てないわよ。森の中で邪魔になっちゃうよ」

「そ、そうね」

「だろ?」

「あっ! シノ、いいこと思いついた。弓に槍をくっつけましょうよ! それなら一本ですむわ」


 アカリが何かバカなことを口走っている。


「あ、あの、アカリ? 大事な弓なんだろ? それで何かを突いたりしたら弓が傷むか、最悪、折れるかもしれないぞ。よく考えた方が……」

「それもそうね。だったら、わたしの新しい弓つくってよ。お願いね!」

「あ、ああ、そのうちにね」

「なによ! サギリのはすぐに作ったのに! わたしのはどうして後回しなのよ!」


 ここでサギリがまた余計な口を挟む。


「シノ君、うれしいわ! あたしは特別なのね」


 ――どうしてそういうこというかな? 反応に困る。


「いや……そういうわけじゃ……」

「ううっ。シノ君、ひどい」

「あ、いや……」


 サギリがしおらしく、傷ついたふりをしている。


 ――ああ、もう、なにがしたいんだ、サギリは……。


 アカリの機嫌が目に見えて悪くなった。もうそこそこ付き合いも長いので、このあたりでなだめておかないと大変なことになることは分かっていた。


「あ、あの。弓は作ったことないから、少し下調べが必要になるんだ。いま抱えている作業がひと段落したら、新しい弓を作るから。ちょっと待ってて」

「そう、ならいいわ。できるだけ早くしてね」

「は、はい。善処します」


 ――最近、アカリのいいなりになっているように感じるけど、気のせいか?


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