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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
第二章 守人

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第16話 守人の伝承 その一


「なにこれ? 何か禍禍まがまがしい感じがするわね。シノ?」

「まさか、どうして……」


 これは……銃だ。それも猟銃なんかじゃない。


 銃身と銃床じゅうしょうとが直線的に配置されていて、銃床とは別に、引金を引く手を置くための銃把じゅうはがある。弾倉だんそうは銃弾が何発も詰め込めそうなほど大きい。


 詳しいわけではないけど、これは軍隊が使う自動小銃と呼ばれるものだろう。たぶんそうだ。それに、そんなに古い形式ではない。少なくても第二次大戦よりも後の時代のものだ。


 アカリが小銃を手に取るおれを覗き込んでくる。ふと、アカリの腰に吊られているナイフ――村雨丸むらさめまるが目に入った。と、その瞬間、ナイフに抱いていた違和感が思い返された。


 ――そうか!!


 パズルのピースが綺麗に嵌りそうな感じがする。


「アカリ、そのナイフ、村雨丸むらさめまるをちょっと貸して」

「いいけど、どうかしたの?」


 アカリのナイフには普通のものより大きな鍔部があり、鍔部には指の太さほどの小孔が設けられていた。


 おれは、小銃を立てて、銃身の先端部にナイフの小孔を被せてみた。小孔の径は銃身の先端部の径とぴたりと合い、そのままナイフを押し込むことができた。ナイフの底部に設けられた切り欠きが小銃側の突起にカチリと嵌り、村雨丸むらさめまるはしっかりと小銃に固定された。


村雨丸むらさめまる、おまえ、銃剣だったのか!」

「えっ、ちょっと何? わたしのナイフ、槍になっちゃったの? どうして?」


 アカリがおれとは別の驚き方をしていると、村長むらおさが口を開いた。


「そのナイフはわしが子供のころ爺様からもらったものでな。アカリが欲しがるからくれてやったのじゃ。まさか、それも守人さまの持ち物だったとはな。愉快じゃのう」


 アカリがナイフの行く末を心配しているので、小銃からナイフ、いや銃剣を取り外し、アカリに返した。アカリは、あからさまにホッとした表情を見せた。小銃のことなどどうでもいいらしい。アカリらしいな。おれは小銃をそっと床に置いた。


「それはな、守人さまが持っていた『いかづちの杖』だと伝えられておる。シノや、それがどういったもので、どうやって使うのか、見当はつくかいの?」

「ええ、これはおそらく、おれのいた世界で自動小銃と呼ばれていたものです。兵隊が武器として使うものです。この弾倉に火薬が詰め込まれた弾を装填して、ここの引金を引くと、火薬が炸裂し、弾が目に見えないほどの速さでこの筒状の部分から次々と飛び出します」

「……そうじゃったか、これは飛び道具。守人さまは兵隊さんじゃったか」


 アカリが口を挟む。


「ねえ、分からないわ。どうして、飛び道具が槍になっちゃうのよ?」

「それは……」


 おれもよく知らないけど、非常時の攻撃手段なのかな? たしか、射撃の構えから予備動作なしで刺突を行えるので優れた攻撃手段だとも聞いたことがある。が、現在では銃剣の必要性は薄れて、銃剣が装着できるような自動小銃を使っている軍隊はとても限られているはずだ。


 まあ、とにかく、アカリの破茶滅茶な性格からすると、弓に剣をくっつけるとか言い始めかねない。だから、あまり興味を持たれないように、詳しいことは言わず、適当にぼかしておくことにした。


「それで、どうじゃ。おぬしはこの小銃とやらを使えるのか?」

「操作自体は難しくないと思います……が、長い間、整備されていないみたいだし、そもそも弾がないので本来の機能を発揮させるのは無理です」

「そうか、使えぬか。じゃが、強力な飛び道具ということであれば、これで良かった気もするのう」


 しばらくの沈黙のあと、村長が再び口を開いた。


「ところで、シノ。おぬしは守人さまと同郷の御仁か?」

「さあ、そこまでは……ああ、ちょっと待ってください」


 おれは、何か手掛かりがないか、小銃を手に取って詳しく観察してみた。そして、本体の左側面に何か銘らしきものが刻まれているのに気づいた。が、随分と酷使されたのか、消えかかっていて読みにくい。


 ――星、いや花の形のマーク? それに数字の6…か?


 だめだ。これだけじゃ分からない。小銃をひっくり返して右側面もみてみる。引き金の上側に切替金きりかえがねがあった。これはおそらく発射方式を選択するための装置だ。


 ――あっ! 何か文字が刻んである!


 かろうじて読めたその文字は、カタカナの「ア・タ・レ」だ。


 そうか、友人に聞いたことがある。サバイバルゲームなどが好きな奴で、この小銃の実物大の模造品をもっていた。たしか、アの位置は「安全」、タの位置は「単発」、レの位置は「連発」という意味だ。


 思い出した! これは、64式自動小銃、桜の刻印が押された自衛隊の装備だ! 主に陸自で使われていたもの。それじゃあ、さっきの「ソウチョウ」は……ああ「曹長そうちょう」のことか!


 守人さまは日本人……たぶん陸自の下士官だった人だ! 演習か何かのときに装備をもったまま、この地に迷い込んだ……のか?


 おれは、一回深呼吸をして気を落ち着かせた。そして、これまで聞いた話と小銃から読み取れた事実と自分の知識とを合わせて導き出せた結論をできるだけ平易に村長に告げる。


「村長殿、守人さまはおれと同郷の人物です。二百年前にこちらに来たということですが、たぶんおれよりも三、四十年くらい先に生まれた人だと思います。それから……」


 一通りの説明を終えると、しばらくの沈黙ののち、村長が口を開いた。


「そうか、やはりおぬしは守人さまと同郷の者じゃったか。遠いところからご苦労だのう」


 村長はそれほど驚いてはいない様子だ。おそらくおれの出自についてある程度は察していたのだ。一方のアカリはちょっとびっくりしているようだ。異世界から来たと言われてれも、普通、すぐには納得できないよな。


 おれは、ずっと昔この地に飛ばされてきた日本人のことが気になった。


「村長殿、守人さまについて詳しく教えていただけませんか?」

「ああ、いいじゃろう。アカリも縁のあることじゃ、一緒に聞きなさい」


 村長が守人さまの伝承を口述し始めた。さっきアカリから聞いたものとほとんど同じだった。が、村長はさらに続ける。


 「じゃがな、これは表向きの伝承にすぎん。ずいぶんと端折られておるし、事実と異なるところがあるのじゃ」


 村長はそういって、長老衆など村人のごく一部にのみ伝わる守人の真実について話し始めた。村長が語った内容には、村人一般が知る伝承では伏せられているものが含まれていて、生々しかった。


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