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長耳娘と相棒と~現場監督の異世界害獣討伐記~  作者: スギタジュン
第二章 守人

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第14話 アラメ村の騒動

アクセスいただきありがとうございます。二章開始です。

(第一章の話数を整理したため、第13話は欠番となっています)


 大変なことになった。アラメ村の門前で、村人たちが二派に分かれて言い争いを始めてしまった。ただ、出てきているのは男ばかりで、女は家に隠れているようだ。


「きっと守人もりとさまだ」

「うそだろ、こんな珍妙な男が守人であるわけない。さっさとつまみ出せ!」

「でも黒髪黒目で伝承のとおりじゃないか」

「いや、あまりパッとしないし、違うだろ」

「だよな、なんか頼りない感じだしな」


 ――余計なお世話だ。ほっといてくれ!


「なんてこと言うんですか! 守人さまに失礼ですよ!」

「そうだぞ! アカリがいうには鬼猿を何頭も討ち取ったらしいじゃないか。守人さまが戻ってきてくれたんだ」

「いやいや、この男、なんか怪しくないか? 妖術使いといったほうが納得できるぞ。珍奇な黒い妖を連れているし」

「だから、あなたたち、失礼すぎますよ!」


 どうやら、おれの扱いを巡って、二つの派閥ができあがってしまったらしい。一方は、おれのことを妖術使いだと疑い、おれを排斥しようとする派閥。他方は、おれのことを守人もりとさま―?―と祭り上げて信奉し、おれを擁護しようとする派閥だ。


 守人もりとさまとやらが何なのかもわからないけど、いまのところ、排斥派が圧倒的に優勢だ。どちらの派閥の誤解も困るけど、排斥派はどうも荒っぽい。拘束でもされたらたまったものじゃない。だから……


 ――がんばれ、おれ擁護派!


 こんな騒ぎになったのは、半分はアカリのせいだ。北の岳を降りて谷間を下ったところまではよかったのだ。だけど、谷間を抜けたあと、草原に差しかかったところからがいけなかった。


 アカリのはしゃぎっぷりは、普段のクールな態度からは程遠く、目を疑うものだった。「行け! 行けー!」と、アカリはアクセルを強く踏み込み、草原を疾走した。さすがに危ないと、おれが制止すれば、一時は速度を落とす。しかし、しばらくすると、また、はっちゃけた。


 この草原は緩やかに下っている。起伏もほとんどない。岩や切り株などの障害物も見当たらない。だから、横転するようなことはないだろう、と半分あきらめ気味にアカリに運転を任せた。これが失敗だった。


 アラメ村の人たちからみれば、黒くて大きい珍妙なものが猛スピードで近づいてきたのだ。わけのわからないものが突然、襲来したのだから、静かな村が大騒ぎになったのは想像に難くない。


 村の門前でクルマが急停止したときには、五十人以上の村の青年たちが農具や棒切れを武器代わりに携え、待ち構えていた。弓を携えた者も少数いた。アカリに突然撃たれたときのことを思いだし、悪寒が走る。


 クルマを先に降りたのはアカリだった。村人らがアカリの姿を認めるとアカリの名を呼ぶ声が複数あがった。昨日アカリが戻らなかったので、心配をしていた人たちがいたらしい。


 次いで、おれがクルマから降りると、どよめきがあがった。アカリは、集まった村人にこれまでの経緯を簡単に説明したのだけど、おれに対する反応はさまざまだった。


 そうして冒頭の場面に戻る。おれは村人たちに近づけないでいた。一応の説得を終えたアカリが神妙な顔をしておれの元で戻ってきた。暴走娘がすまなそうに口を開く。


「シノ、あなたのこと、みんなに受け入れてもらおうとしたけど……説得に失敗した。あなたの立場が微妙になってしまったわ」

「アカリ、もっと慎重に行動していれば、ここまでの騒ぎにはならなかったんじゃないか?」

「ご、ごめんなさい」


 アカリは、ばつが悪そうに謝罪の言葉を口にした。


「まあ過ぎたことはしょうがない。それで、さっきから『守人もりと』という言葉が飛び交っているけど、一体どういうこと?」

「古い伝承にあるの。昔々、黒髪、黒目の青年が突然現れて、この村の危機を救ったって。その人のことを敬意と感謝の気持ちをこめて『守人もりと』さまと呼んでいるのよ」


 伝承には、いくつか異なる態様のものがあるらしいのだけど、アカリのよく知る伝承は次のようなものだった。


 昔々のある春の日のこと。

 アラメ村は、鬼猿おにざるの大群に襲われるという未曽有の危機に見舞われた。

 逃げるのも間に合わず、村人のだれもが諦めてしまった。

 ただ一人の村娘を除いては。

 村娘は、森の神がきっと手を差し伸べてくれると信じ、一心に祈りを捧げた。

 村娘の想いが通じたのか、突如、草原に守人さまが降り立ったという。

 守人さまは、黒髪黒目の若い男の姿をしていた。

 その戦いぶりは、まさに鬼神のごときであった。

 守人さまは、いかづちの杖を振るって、次々と鬼猿を薙ぎ払った。

 村は守られた。

 平穏が戻った後も守人さまは村を見守り続けた。

 そうしたなか、先の村娘は守人に想いを寄せ、のちに夫婦になったという。

 しばらくすると、村娘は守人の子を身ごもり、無事に産むことができた。

 だが、守人は、その子の成長をしばらく見守ると、いずこかへと旅立っていった。

 この地が災厄に見舞われようとするとき必ず戻る、という言葉を残して。


 以上が守人さまの伝承のあらましだった。


 ということは、村人たちの一部は、突然森の中に現れた黒髪黒目のおれのことを伝承に登場する守人さまに関連づけて考えているわけか。そんな誤解されても困る。



「それで、守人というのはどんな人?」

「ごめんなさい。詳しいことは知らない。あまり興味もなかったから。というより、わたしの家系は守人さまの子孫に繋がっていると信じられているの。だから、わたしのお婆様は村長むらおさを務めているし、わたし自身もちょっと特別な目で見られているのよ」

「そうだったんだ」

「でも、あまり実感もないし、過度に期待されるのも、なんだか……ね。そういったこともあって、わたしは守人さまの話をあまり聞きたくないのよ。あっ、でも、わたしの妹、カグヤは、守人さまの話が大好きよ」


 アカリとやりとりをしていると、村人の方でも動きがあった。

 集まりのなかから、二人の男が進み出てきた。アカリの耳打ちによれば、要するに、擁護派の代表と、排斥派の急先鋒であるらしかった。どちらも村の青年団の中心的な人物であるらしい。排斥派から、開口一番、荒々しい言葉が放たれた。


「おい、そこの珍妙な男。おまえ妖術使いだな。俺達の村に何の用だ! さっさと出ていけ!」

「おやめなさい、タダ。守人さまに向かって無礼ですよ」

「そうよ、タダ、乱暴すぎるわ! さっきも説明したけど、シノは妖術使いなんかじゃないわ。そもそも、妖術使いなんかいるわけないでしょ! ほんとにバカな男ね」

「女はだまってろ!」


 最初に突っかかってきた排斥派の方はタダというらしい。二十代の屈強な男で、なかなか精悍な顔つきをしている。粗野な感じはするけれど、下品というほどでもない。頼りがいがあるとも言え、付き従う者も多いのかもしれない。


「タダもアカリも少し落ち着きなさい。守人さまの前ですよ」

「ふんっ」「つられて熱くなりすぎたわ、ごめんなさい」

「守人さま、申し訳ありません。私はシナツと申します。この村の青年団を取りまとめている者です。以後よろしくお願いします」

「えぇと、おれは守人さまという方とは無関係なのですが、シノといいます。どうぞよろしくお願いします」


 タダを諫めた擁護派の方はシナツと名乗った。タダに比べれば細身だが、引き締まった体躯は力強く、風貌は知的だった。できる男、という感じである。


 それにしても、アカリからはさきほど耳を疑う言葉が飛び出した。おれのことを最初に妖術使いとみて怪しんだのはアカリなのに……。見事なまでに、自分のことは棚に上げていた。


 アカリのあまりの自由奔放さに苦笑いしていると、何か勘違いしたのか、タダがおれに噛みつく。


「ちっ! そこのおまえ、アカリからさっさと離れろ。アカリも危ないからこっちに来い!」

「いやよ。偉そうにしないで! 乱暴な人は嫌いといったはずよ」

「この売れ残りが! いいから俺の言うことを聞け!」

「ずいぶん前に振られたのをまだ根に持ってるの? 残念な男ね」

「だから、お前はナマイキだといわれるんだよ!」

「ふんっ、どうでもいいわ」

「ちっ」


 なにやら、この二人には因縁があるらしい。アカリは、意図していないのかもしれないけど、ちょうどおれを背にしておれを庇うような恰好となっている。それが、タダの怒りに火を注いでいるようだ。どうでもいいけど、おれを巻き込まないでほしい。


 タダがおれのことをギッと睨む。


「おい、妖術使い! お前の目的はなんだ!」

「シノは妖術使いじゃないわよ。そんなものいないとさっきから言ってるでしょう!」

「いるかもしれねえだろ。守人も不思議な術を使ったと言われてるじゃねえか! 人に仇なす妖術使いがいてもおかしくないぜ!」

「いないわよ!」

「二人ともいい加減にしなさい! 守人さま、申し訳ありません」

「けっ!」「ご、ごめんなさい」


 どうもアカリは排斥派のタダと相性が悪いらしい。そのアカリが擁護派のシナツに対しては従順なのが気になるけど……。


 そして、タダの矛先がシナツに向いた。


「なあ、シナツ。こんな珍妙な男、そんなにバカ丁寧に扱う必要もねえだろ!」

「そうはいきません」

「コイツは、さっき自分で守人とは無関係だといったじゃねえか」

「守人さまには守人さまのお考えがあるのです」

「あのな、守人なんかいるわけねえよ。伝承なんてただのおとぎ話。眉唾ものだ」

「タダが知らないだけで、守人さまは確かに実在していたのです」

「ちっ、話にならねえな!」


 これでタダのイライラは頂点に達したようだ。今度は矛先がおれに向いた。


「なあ、そこのおまえ! おまえがもし守人だっていうなら、何か特別なことやってみせろよ」

「タダ、さきほどから何度も言っているでしょう。失礼な態度はやめなさい」

「うるせえよ」


 擁護派のシナツは、物腰が柔らかく、理性的な人物のようだ。

 が、次にろくでもないことを言い始めた。


「はぁ、困りましたね。ですが、タダの言葉にも一理あります。守人さま、どうでしょうか? 我々にあなた様のお力の一端を示してはいただけないでしょうか? そうすれば、この者も納得するでしょう」


 えっ、急にそんなことを言われても……。シナツの期待に満ちた眼差しが痛い。


「あの、シナツさん。ご期待に沿えず申し訳ありませんが、おれはごく平凡な一般人です。何も特別な力などありません。守人さまとは無関係だと思います。それに、もし何か特別なことができたとしたら、タダさんでしたか、そちらの方はおれのことを妖術使いと決めつけるんじゃないですか?」

「『シナツ』で結構です。守人さま。私はあなた様が守人さまであると信じています」


 シナツはほんのわずか落胆したように見えたけど、考えを変えるつもりはなさそうだ。思ったよりも頑固だ。おれ自身は何もしていないのに厚い信頼が寄せられて居心地が悪い。


 それにおれ自身、混乱してきた。守人さまと妖術使いの違いが分からない。これまでの話からすると、この村に伝わる守人さまというのは、こちらの世界に転移してきた異世界人の可能性が高い。


 そうすると、結局、異世界人のもつ文明を利用して自分たちの社会の発展に役立てようとした人たちが異世界人を敬って守人さまと呼び、異世界人の知識や行動を恐れて排斥しようとした人たちが異世界人のことを妖術使いと呼んだのだろか? それとも異世界人の性質や行動によって守人さまか妖術使いかに区別されるのだろうか? よく分からない。


「シナツ! 俺はこいつが守人だろうが妖術使いだろうがもうどうでもいい。とにかく、俺はコイツが気に食わねえ。こんな役たたず、村に入れるのは反対だ!」


 その言葉を聞いたアカリがすかさず反論する。


「タダ、横暴よ! シノが役立たずなんてことはないわ! シノはすごいのよ。とても器用だし、何でも作れるのよ! それに、みて、こんな傷を負いながら鬼猿の群れを討ち取ったんだから! あの群れがもしこの村まで到達していたら、村人が何人も犠牲になったはず。シノはこの村の恩人でもあるのよ」


 アカリの手放しの称賛は嬉しいが、ウソはいけない。


「アカリ、助け船を出してくれるのはありがたいけど、おれはなんでも作れるわけじゃない。それに、この腕の怪我は別に鬼猿に付けられたわけじゃ――」

「うるさい! あなたは黙ってて!」

「あっ、はい……」


 なんて理不尽だ。おれに怪我を負わせた張本人に怒られた……。


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