表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の女神  作者: 永井有実
5/6


 末稀は眠りの中、暖かな兄の腕を思い出していた。

 長兄、夏樹。いちばん、末稀を愛してくれた兄。末稀を末姫と言ったのも――。

 先ほどの能力の爆発は、末稀に記憶を呼び起こした。失っていた遠い記憶。兄を――、兄という能力者を愛していた記憶。正史は『犯された』と言ったが、それは違う。末稀は優しい長兄のことを愛していた。

『まつき』――夏樹の呼ぶ声。

 末稀はほんとうに、夏樹のことが大好きだった。

 彼女を抱くことを必死で避けようとしていた夏樹、誘ったのは末稀だった。

『愛してる』――末稀は告げた。

 能力が能力を求めるなんて、そんなこと、末稀にはわかりすぎるほどわかっていた。でも、構わないと思っていた。夏樹を好きでいても構わないと思っていた。夏樹はどうにかして、末稀の想いと自分の想いを回避しようとしていたけれど、末稀は自分の想いだけを信じた。

 ――だから、誘った。

 おそらく、拒否をしたのは、血。だから、能力が爆発した。近親への拒否が血にあったのだとしか思えなかった。末稀はうれしくて愛しくて、兄の名を呼んだのに、呼んだのに――、兄は消えてしまった。能力を浴びて、兄は消滅した。末稀の記憶と能力と一緒に。

 能力が呼び合うという危機と、それを拒否する近親の血があることを末稀は思い出した。兄を亡くして知った事実、末稀は今まで忘れていた。でも、無意識のうちに能力が呼び合う危機を感じていて、だから、能力を持てば譲に愛されるかもしれないと思ったのだろう。そして、彩水の来訪が重なって、能力が復活をした。

 ――けれど。

 譲は能力が呼び合う危機を拒否する。惹かれあう能力を彼はいつまでも拒否し続けるだろう。

 兄さま、どうすればいいの?

 末稀は夢の中、夏樹の腕に抱かれて問いかける。夏樹はそして、困ったように笑った。

『キミはいつも自分の想いばかり。末娘はすっかり我が儘に育ってしまったようだ。――相手の想いを感じてごらんよ。キミが譲さんの気持ちをもっと感じ取れたら、こんなことにはならなかったと思うよ』

 夏樹の腕の中は心地よい。でも、譲の腕を求めていることが感じられた。

『キミの想いは真っ直ぐで、魅力的だ。でも、それは時々、ボクをひどく苦しめる』

 よく、夏樹はこう言っていた。その苦しみをようやく末稀は理解できる気がした。

 兄・夏樹の末稀を傷つけたくないという想いを感じられずにいたから、自分の想いばかりを優先して――、誘って抱かれて、兄を消してしまった。

 ごめんなさい。

 夏樹はそれでも笑って、末稀を包んでくれる。――穏やかな、眠りの中で。


 目覚めた末稀は掌にぬくもりを感じる。

 夏樹と同じ――もしかしたらそれ以上の、暖かさ。譲。

 能力のない末稀がいいと思い始めていた譲をわかっていたならば、きっと能力は復活はしなかった。末稀は望んで、無意識のうちに望んで能力を復活させてしまったのだ。

「――消せる?」

 末姫まつきと呼ばれたかつての能力があれば、消すことは可能だろうか? そんな風に考えた末稀は、違和感をおぼえる。自分の躰、そして能力に。

「譲さん、起きて」

 末稀の手を握ったままで眠る譲を揺り起こす。――おかしい、能力。変だ。感じられない。

「消えてしまった」

「え――?」

 目を覚ました譲、末稀の言葉をとらえて驚く。

「末稀。キミは……」

 ――絶句。そうして、末稀は強く譲に抱きしめられた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ