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放たれた魔法

「これ、俺が出る幕ないんじゃないの?」


 薄暗い霧がかかり、一見しただけで如何にもという雰囲気がある魔物の森へたどり着いたのが一時間前くらいだろうか。

 森へと踏み込んだ討伐隊は一方的に魔物を蹂躙していた。


「魔法使いが女性しかいないっていうから、女性ばかりが戦力になると思ってたよ」

「そういえばご存知なかったですね。女性しか魔力を有していないのに対し、男性にも気と呼ばれるエネルギーが備わっています」


 呼び寄せられた村や町のただのおじさんはともかく、騎士の格好をした男性たちは明らかに全員オリンピック選手もびっくりな身体能力で戦っていた。


「魔力は体外にてその力を発揮しますが、気は体内で力を発揮します。気を扱える男性は最大で一般の男性の5倍程度の身体能力を持ちます。まあほとんどが2倍まで引き出せたらいいとこ、ですが」

「うわぁ……唯一魔法使える男っていう優越感が一気に崩れ去ったよ……」


 全体での作戦は提案者のルナリア様が決定するが、実際の森の討伐は作戦などあったものではない。作戦終了時間だけ伝え、檄によって士気を高めることだけが総大将ルナリア様の仕事だった。後は集った貴族や他の王族がそれぞれ持ち場を分担して散っていくだけだった。

 討伐隊の全体人数は5000人程度だった。ルナリア様は自らの陣営として3000の兵士を連れて来ており、王女直属の魔法騎士団が500人程度、5人の貴族が私兵をそれぞれ100人ずつ用意していた。あとはうちと同じように、領民が招集されただけであった。

 他の陣営にも目を向けると、一際目を惹く集団を見つける。


「あそこの偉そうなの、誰?」

「第四王子ロクサス=ルズベリー様ですね。遠征には毎回参加されており、最も戦果を挙げられる陣営です」

「そんなに強いのか」

「王子自身は戦うことはありませんが、7人の騎士がそれぞれ200人ずつを束ねています。1400人全員が兵士ですので、今回も最大戦力ですね」


 騎士、魔法使いは別格としても兵士と領民の差は大きかった。なんせ戦闘用に鍛えられた人間たちは大体気を扱える。それだけで一人当たりの働きは大きく差が出る上、、装備、連携、その他すべてで鍛えられた兵と寄せ集めの領民の差は顕著だった。

 領民は森の入り口でスライムやよくわからない植物のような魔物を何人かで囲んでなんとか倒しているのに対し、兵士たちは5人一組で森の中へ入り、魔物を見つけ次第囲んで排除、危なくなったらすぐに近くの5人組が助けに入るという連携を見せていた。実に危なげなく戦闘が進んでいく。


「うちはろくな装備も連携も取れない村人50人か」

「魔法使いにとって間に立ってくれるだけでもありがたい存在ですよ、足止めしてくれている間に準備を」

「了解」


 確かに彼らがいなければ魔物達は真っ先に俺たちのところへ殺到したことを考えれば、領民の存在は非常にありがたい。

 森を水素で埋め尽くすイメージをもって、原子の操作を行う。領民がもらした魔物が魔力に引き寄せられるように俺のところへ向かってくるが、シャノンさんがすべて的確に処理してくれている。

 ロベリア様も気は使えないものの、普通の男性の2倍は強そうだった。一人で二足歩行する植物の魔物一匹と互角にやりあっている。

 領民は二足歩行する魔物に対して必ず5人がかりで戦うよう指示されている。スライム程度ならただの人間でも相手できるが、魔物はそもそものパワーが違う。また、二足歩行型までくると魔術を使う。植物の魔物の場合自分の身体である木を無限に伸ばして攻撃してくるので、一人で相手しているとどうしても押されることになるのだ。


「そろそろいこうと思うんだけど、本当に大丈夫なのか……?」

「大丈夫です。私を信じてください」


 森全体で爆発を起こす魔法だ。当然味方への被害を懸念して対策を考えていたが、その点はシャノンさんがなんとかすると言ってくれている。こないだのことがあるから心配な部分もあったが、まあ大丈夫だというなら任せるしかないだろう。


「聞け!勇敢な戦士たちよ!」


 シャノンさんが拡声機のような効果を持つマジックを用いて森の中で戦う味方に呼びかけを行った。


「こんなことまでできるのか……魔法すごいな」

「風の魔法で音を行き渡らせています。ソラ様もこのマジックは使えると思いますよ」

「なるほどなぁ……」


 驚くべきはその原理ではなく効果範囲である。5000人の遠征部隊全てに声が届けているらしい。森の奥地まで踏み込んだ兵士がいれば届かないが、連携をとって戦っているので位置は確認できていた。


「国を代表する魔法使い、伊達じゃないな……」


 シャノンさんのすごさをようやく実感していると、続きがはじまった。


「これより第八王女、ロベリア=ルズベリー様の第一騎士、ソラ=サクライによる大魔法を発動する!味方を巻き込む恐れがあるため私が発動する盾の魔法の中へ逃れよ!」

「えっ?!」


 こんな宣言するなら打ち合わせしといて欲しかった!無駄にハードルを上げられた上失敗も許されない。シャノンさんは宣言どおり盾の魔法を起動している。この魔法も規格外の範囲だ……どれだけ繊細かつ大規模に魔力を展開させられるんだこの人……。

 思っていたより広範囲で爆発を起こす必要ができたので、さらに水素を生成する。同時に原子に流れをつけ、森全体に行き渡らせるイメージを作る。軽い気体なので上へ上へと行こうとする感触があるが、これを押さえ込んでこちらの誘導に従ってもらう。さすがに森全体を覆い尽くすほどの量は生成できないし、効率が悪い。ある程度の間隔をあけて一箇所ずつ水素の塊を森の中に散りばめた。


「全員が盾の中に入った」


 集中を乱さないように最終確認を行う。遠征に来るまでに原子の生成とそのコントロールを学び続けてきた。見えていない距離でも自分が生成した原子、分子はコントロールできる。唯一シャノンさんに勝てる要素である。


「いきます。エクスプロージョン!」


 名前はまんまだが、ないより発動が楽だからつけてある。水素の塊に一斉に火をつける。

 鈍い音を立てながら、森は“崩壊”した。


「は?」


 思わず間抜けな声を出した。吹き飛ばされた木々と魔物が大量に横たわっている。この魔法は何度もシャノンさんのもので試してきたが、物理的に何かに影響を及ぼしたのは初めてだった。

 だからこんなことになるとは想像していなかった。思ったよりも甚大な被害をもたらした魔法に、シャノンさん以外、俺自身も含め、誰もが驚きを隠しきれずにいた。

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