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王女のお荷物

 

「とりあえず、今すぐ変えるのは無理そうだし、話しない?」

「そうね……まずは、ロベリア = ルズベリーよ。ルズベリー王国第8王女になるわ」

「……は?」

「名前よ、名前」

 

 それはわかる。

 王女?いきなり王女が出てきたか……。そりゃドレスも高価そうなわけだ……。

 

「あ、えっとごめん、すみません?桜井空です」

「今更敬語なんて気持ち悪いわ……それに迷惑をかけたのはこちらなのだし」

「迷惑とは思ってないけど」

「まあ、どちらにしても話し方は今までどおりで構わないわ」

 

 その方がありがたいか。敬語は使えてもここの常識はわからない。古典に出てきたわけのわからない天皇陛下専用敬語とかあったら無理だ。

 というか、普通に日本語通じてるんだな?いや俺がしゃべってるのが日本語なのかも怪しいな……。読めないけど会話には問題なかった。落ち着いてくるといろいろ気になることが増えるな。

 

「あなた、召喚魔法の知識がなかったのよね?」

「召喚魔法だけじゃなく、魔法そのものがよくわかってないな」

「そう……男ってそういうものなのね」

 

 男ってそういうものなのか……。

 

「召喚は本来、召喚する側の要求に対して召喚される側が対価を求め、交渉ののちに成立するの」

「ほう、じゃあ俺も何か交渉したのかな?」

「してないわ」

 

 まあ、した覚えないしな。

 

「言うなればこちらの召喚魔法の手続きに勝手に飛び込んで来たのがあなたね」

「めっちゃ迷惑なやつだ!」

「そうよ!本当に迷惑だわ!」

 

 それであんなに態度がきつかったんだな……。いや、その辺は元々の性格もありそうだけど。

 

「えっと……ごめん?」

「いいえ、元々制御もしきれない召喚魔法に手を出したことが間違いだったの……。せめてなかったことにできればよかったんだけど、あなたは帰れなくなった。その点は本当に申し訳ないと思ってるわ」

「怒ったり謝ったり忙しいやつだな」

「あなたの反応がことごとくこちらの予想に反するから混乱してるのよ!」

「普通は帰りたがるって言ってたもんな」

「訳もわからず突然今までいた場所からこんなところに連れてこられたら、普通はそうなるでしょ」

「そうかもしれない……?」

「はぁ……まあいいわ。とにかく帰れるまでは責任を持って私が保護するわ。ルズベリー王国王女として約束する。あなたをしっかり元の世界へ帰らせると」

「それに関しては気にしない方向で……」

「いいえ、私は何としても帰らせる」

「えぇ……」

「とはいえ、すぐには無理だけど……」

 

 なんでこんな頑なに帰らせようとするのかねえ……。ほっといてくれればたくましく成長してハーレムを形成して上手くやってくというのに。異世界ってそういうもんじゃん?

 

「とりあえず、いくつか質問がしたいんだけど?」

「構わないわ。わけがわからないことだらけだろうし、しばらく生活する上でも困ることはあると思う。叶えられる要望は叶えるわ」

「じゃあ俺を元の世界へ帰すのはやめると」

「それは無理ね」

 

 仕方ないので気になる点を順番に質問していった。

 1. 召喚魔法を使った目的は?

 2. 魔法って何?

 3. なんで帰らせたいの?

 

 このあたりでいいか。この世界でどんなところ?とか聞いても、比較対象がないなら説明は望めないし。その辺はすこしずつ理解していこう。

 

 1 から順番に聞こうと思ったが、ややこしいらしく全部一緒くたみたいになってしまった。

 

「父、現国王のロベルト = ルズベリーがアホなことを言ったのがはじまりなんだけど……」

「実の父とはいえ国王にアホって、いいのか?」

「いいのよ、アホはアホだし」

「国のトップがアホで大丈夫なのか」

「政治的なことは割とうまくやってたんだけどね……。とにかくなんというか……アホなのよ」

 

 笑みを浮かべながら語る様子を見ると、父親に対して負の感情で動いているわけではなさそうだった。

 

 話はこうだ。

 王位継承権のある子どもたちに、競い合って国王を目指せと宣言した。国王はまだまだ元気である。元気すぎて退屈だったらしい。国への貢献度が大きいものに国王になる権利を譲ると宣言したらしい。

 本来であれば第一王子のギルディアという人物が国王になるはずだったらしく、当然ながら猛反発。

 他の王子、王女たちはお互いの足を引っ張り合うことで自分を優位に持って行こうとしているらしく、国内は混乱の極みにあるらしい。

 

「アホなのって、国王というよりその子どもだな?」

「私の兄弟姉妹なんだけどね……」

「で、ロベリア様はどう対応してるん?」

 

 一応王女相手なので、呼び方だけは様をつけることになった。本人は嫌そうにしていたが……。

 

「あなたにロベリア様と呼ばれても、馬鹿にされているようにしか聞こえないわね……」

 

 とのことだった。まあ、呼んでるうちに慣れるだろう……。

 

「私は第8王女、王子もたくさんいるわけだし、王位継承権なんて考えたこともなかったから、放置するつもりだったわ」

「だった?」

「派閥が出来始めたのよ」

「派閥……」

「王位継承権の上位者たちは、年齢的にも身分的にも私たちより影響力が大きいの。それで、王位継承なんて元々気にしていなかった人たちが次々上位の人物に降る形で、派閥争いが始まったのよ」

「なんか不都合があったのか?」

 

 それならそれで派閥同士で争っていれば問題ないのではと思ったが、ややこしいらしい。

 曰く、興味がなくても勧誘を受ける。断れば角が立つ。ひどい場合自分に従わないのであればいずれ邪魔になるという判断を下す王子、王女もいるらしい。

 とか色々言っていた。けど、これは本当の理由ではなかった。

 

「王位継承権三位、第一王女ルナリア = ルズベリー、私はこの人につこうと思うの」

 

 これが全てだった。

 聞くと、幼い頃から性格の問題で周りに馴染めないロベリア様を支えてくれた恩のある姉らしい。言葉の端々から姉を尊敬し、慕う気持ちが溢れていた。

 

「じゃあすぐルナリア様のとこ行けばよくないか?」

「今のままでは行けないの」

「なんで?」

「この国の在り方に関係するから、そこから説明するわね」

 

 ルズベリー王国、世界地図を出してもらった。確認してパッと目につくものは、北西にある大国と、東にある森だった。

 森の全容はわからない。地図の東側はほとんど全て森で覆われていた。見切れた先がどうなっているかもわかってはいないらしい。

 未開拓の土地がある、ということにテンションが上がったが、この森が問題だった。ルズベリー王国は森に面している国の一つである。大国を守るように並ぶ小国の一つといった感じだった。

 森が未開拓なのはここに多くの魔物がいて、人間の力では踏み入ることができないからだそうだ。

 

「魔法が使えても魔物には勝てないのか?」

「魔法はそんなに万能ではないわ。戦うためのものではなかったわけだし」

「そうなんだ?」

 

 魔法のことはなおさらしっかり聞く必要がありそうだ。

 

「魔物の魔法は私たちのものと区別するために魔術と呼んでるわ。種族ごとに特徴的な魔術を使うの。私たちの魔法とは原理が違うみたいね……」

「ふーん?」

「魔法はね、火、水、土、風の四属性に分類されているの。それぞれを生み出すことが基本だけど、これらを組み合わせることでいろいろな現象を起こすのが私たちの魔法」

「なるほど」

「一方魔術は私たちが干渉できない精神攻撃を伴っていたり、影を操ったり、応用は利かないけど種族ごとに特徴のある強力なものが多いの」

 

 元の知識で言うなら、闇魔法みたいな感じか?森に入ることすら難しいようだしその辺はよくわかってないんだろう。

 要するにこの世界の人間は結構弱いわけだ……。町外れの森の魔物って普通なら初心者向けのスライムとかから始まるもんだよな。ハードモードな異世界にきてしまったようだ。

 

「で、それが国の在り方にどう影響してるんだ?」

「位置関係を確認してほしいの」

 

 地図に目を向ける。

 

「森から先が魔物の領域だとすると、ここは人間と魔物の境界線なの」

「そうだな」

「この国は代々、森からはぐれた魔物を狩り、隙があれば森に攻め入って戦い、開拓をすすめて来たの」

「なるほど」

「この国の領土の半分は、東の森から切り取ったものよ」


 魔物ってのは元の世界のイメージとしてはヒグマとかか……。それが大量発生していると。

 武器を持って、この場合魔法も立派な武器として数えるが、森に発生している害獣を排除し、開拓をするわけだ。


「私は女なのに魔法が使えないの」

「えっ?男が使えないのはわかったが、女は当たり前のように使えないといけないのか?」

「そうではないわ。でも、私は王族よ」

「王族はみんな魔法が使えるのか」

「私以外は、ね。魔法が使えない代わりに、他の王子と同じように剣は扱えるようにしてあるわ。でも、魔法なしではだめなの」

「そんなに大切なのか」

「どうしても力で劣る、大きさで劣る、身体能力でおとる。魔物に対して、私は足手まといにしかならない」

「それで、召喚で魔法使いを私兵にしようとしたわけか」

「そうね」

「さっきの黒づくめの人たちじゃダメなのか?」


 召喚魔法って話だけ聞いてたらほとんど魔術だろうし、そこまでの力がある魔術師が何人もいたのにわざわざ増やす必要は感じない。


「あぁ、あれは私の私兵ではないわ。もっと正確にいうなら、私には私兵がいない」

「まじか」

「あの人たちは国に所属する魔法使いよ」


 国がこうして魔法使いを派遣しているあたり、普段は私兵なんて必要ないんだろう。元々王位継承にも興味はなかったようだしそう考えると妥当か。


「あの人たちは国の戦力であって私の戦力ではないわ。私の陣営としての戦果は、私自身があげるしかない」


 国が森の魔物との争いの中で発展してきた背景を考えるとわかりやすい国への貢献はそうなるんだなぁ……なるほど。


「ちなみにロベリア様、戦えるの?」

「一応はね。所詮女の剣だし、1匹を相手するのがやっとよ。剣士は複数を相手取るのが苦手というのもあるけど」

「じゃあ戦力はほとんど女になるのか」

「そうでもないわよ。男性でも剣士として修行を積めば斬撃を飛ばしたりはできるしね」


 それは魔法じゃないのか……。


「私の武器はもうこの膨大な魔力だけだったの。それで、色々試したり調べた結果、協力者を通じて私の魔力を頼りに召喚を行うことだった」

「ん?魔法は使えないのに魔力は膨大なのか」

「そうね、魔法が使えないから生まれてからずっと貯め続けて来たってだけかもしれないけれど」

「そういうこともあるのか」

「さあね?」


 つまりロベリア様は召喚魔法で得た配下を森の魔物にぶつけ、その戦果を土産に姉の元へ行こうとしたわけだ。


「で、せっかくの召喚魔法でこんな役立たずが釣れてしまったわけか」

「役立たずどころか課題が増えたわ。お荷物ね」

「もう少し優しくして!?」


 お荷物から始める異世界生活……。前途多難だなぁ。

 魔法は男だと覚えられないみたいだけど、斬撃を飛ばすとかもロマンがあるよね。比較対象がいないからわからないけど、この世界では俺はめちゃくちゃ強いみたいな設定かもしれないし、その辺早く確かめたいな。


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