文化祭二日目 一話
文化祭二日目の一話になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
十月八日、午前九時。
生徒会及び文化祭実行委員、そして風紀委員の連合が幾つかのクラスの出し物の査察に出向いていた。
温情で文化祭開催一日目は見逃してきたが、流石に態度を改めないクラスに対してはこの日の査察によって厳罰をもって対処される事となった。
生徒会や文化祭実行委員だけでは無く、学校の立場としても明日以降外部から訪れる様々な来客にそんな出し物を見せる訳にもいかず、事前に手を打つという事でこの日の早朝にそれが行われていた。
三年F組で行われているサイコロの出目の予想、二年C組で行われている小型水槽で行われる金魚の豪華景品付き順位予想アンケート、二年G組で予定されているジャスト二十一を目指せ!! カードゲーム大会!! を筆頭に幾つかのクラスが文化祭実行委員や生徒会の手によって容赦のない追及を受けていた。
「まってくださいよ。うちがやってる出し物は健全なアンケートですよ?」
「建前は良いです。実態がそこの水槽の金魚で行ってる賭けレースだって事は分かっています」
「心外だ!! この可愛い金魚たちが懸命に泳ぐさまを愛でながらお遊びとしてのアンケートが一回百チケット、もし一着を当てれば人気などの要素でポイントが貯まり、そこにあるぬいぐるみとかボールペンと交換できるだけです」
そのボールペンは協力を頼んでいる別のクラスに持って行けばひとつ百チケットと交換されるのだが、その事もすでに生徒会によって調べられており、そのクラスも厳重注意を言い渡されている。
いわゆる三店方式に近いが交換されている物が現金では無くチケットであるため微妙だった、しかし、生徒会と文化祭実行委員などは完全に【クロ】と判断し、温情的措置がとられる事は無かった。
「そこのボールペンを景品から外すなら、開催を認めても良いわ。もっとも、それで昨日みたいにお客が入るかどうかは知らないけど」
「…………これで何とかなりませんか?」
二年C組の生徒のひとりが貴重なC定特券を十枚ほど束にして賄賂として差し出したが、風紀委員にそれをみられた為にその場で出し物の即刻中止と反省文の提出という罰が言い渡された。
C定特券十枚であれば賄賂としては十分な効果が期待できるが、流石にこの状況で買収に成功すると思うのは少々読みが甘すぎる。
「馬鹿!! この期に及んで奴らが賄賂で転ぶか?」
「それじゃあどうすりゃよかったんだ?」
「とりあえずボールペンを下げて、他の何かにすりゃよかったんだよ」
三年F組は教室を幾つかに仕切り、一番奥で丁半博打(名称は奇数偶数当てゲームだったが、内容は完全に壺振り)が行われており、この二つのクラスを初めとする幾つかのクラスが出し物を中止させられ、そして全員が反省文の提出を命じられた。
この日までに荒稼ぎされたチケットが没収されなかっただけでも生徒会に感謝するべきなのだが、出し物を中止させられた各クラスの生徒は不満を口にしながらも、一時間後には開き直って出店や他のクラスの出し物の見物に出かけてる事にした。
◇◇◇
「やっぱり生徒会の手がはいったみたいだな」
「当然でっしゃろ。AV流しとった映像系も軒並み出店中止らしいですわ」
一応映像系の出し物という事でGE対策部にも査察は来たが、映像内容を一通り見た後でおとなしく退散した。
映像内容はランカーズの異常な戦闘能力と比類する者など存在しない凄まじい戦闘記録の応酬で、特に凰樹がアメリカで倒した赤竜種型W・T・Fとの戦闘映像はアメリカ軍特殊部隊の手でロングレンジから撮影されたモノだけだったが、あまりにも高速で動く凰樹の姿など殆ど写されてはいなかった。
しかし、時折纏った氣で全身を黄金色に輝かせた凰樹が映し出された後、その攻撃で大きく抉り取られる赤竜種型W・T・Fの身体や穿空天斬の周りから放たれた光の小太刀などで原型を留めない程まで破壊された赤竜種型W・T・Fなど常軌を逸した映像が次々に流れ、そして要石がトドメとばかりに真っ二つに斬り裂かれたシーンが流された瞬間、映像をチェックしていた文化祭実行委員や生徒会の役員たちは言葉を失った。
あまりにも驕らず態度の変わらない凰樹は同じ学校に通う普通の生徒だと思っていたが、人型最終兵器、人類の希望、人類最強戦力と様々な二つ名で呼ばれる存在である事を再確認させられたからだ。
「うちはこれで無罪放免だが、瀬野の奴はまだ何かする予定だろうけどな」
「瀬野はんが一枚噛んどる賭場は無いっちゅう話でっせ。あのアスレチックランドと遊園地で流石に品切れでっしゃろ」
「あそこまで大掛かりな物を誰にも気付かれずに用意するって凄いですわ」
荒城などはその手腕を絶賛していたが、AGE系の部だけでなく様々な部の精鋭を引き込んだ結果に過ぎない。
その精鋭を纏め上げる手腕と掻き集めるだけの人望は確かに称賛されるべきものなのだが、素直に感謝される方法を取らないのも瀬野らしいといえる。
「特殊鋼材や他の材料費もタダやないやろうに」
「今はセミランカーらしいからそれなりにポイントを稼いでいるんだろう。アイツは真面目に活動してりゃ今頃ランカーでもおかしくない実力があるんだが……」
凰樹がセミランカー時代に感じていた違和感。
当時の凰樹に匹敵する実力を持っていながら、その力を十分に発揮せずにセミランカーにあと一歩の所で活動の手を緩める瀬野の態度に疑問を抱いたのは一度や二度では無い。
瀬野本人にも聞いた事があるが「同志凰樹、今はその時では無い。爪を隠すのは鷹だけでは無いという事だ」と煙に巻く言動で毎回何となくはぐらかされただけだった。
「変わりもんやから色々あるんやろ。運動能力や各教科の成績と知識、どの能力もトップクラスやのにどの分野でも名が出ない様に正体隠しとるし、分からん人やて」
「アイツがいたから百メートル六秒って数値が異常じゃないって思ってたんだけどな。他の奴ら全員が手を抜いてるとは考えなかったが、得手不得手があるんだとは思っていた」
「今はちゃうけどあの当時はそんな速度で走れるの凰さんと瀬野はん位でっせ。普通の人間の百メートル世界記録とやらはいまだに九秒台中盤やから」
今の窪内や神坂も百メートルなら五秒から六秒で走れる。
ただ、窪内達は高速移動にはまだ慣れていないらしく、あまり速く走るとまだ視界や予測がついて来ないので大体百メートル八秒程の速度で走る事が多い。
「氣を使える人間が増えたらその辺りの常識も変わるんだろうが……」
「流石に数年ではそこまで変わらないんじゃないかな?」
「そうですわね。ですが、私達の成長速度から考えれば十分あり得る可能性だと思いますの」
「そうなってくれると、アメリカも大助かりで~す。あの邪魔なGEを殲滅して国土を奪還できま~す」
楠木とクリスティーナが伊藤、霧養と店番を変わってGE対策部の部室に戻ってきた。
ランカーズが教室で流している映像は三十分程で、朝の一回目だけ伊藤の新生特製ドリンクとウエイトレス服姿目当てに男子生徒が詰め寄せ、暑苦しい状況を作り出していた。
その映像はSNSにも上げられたが即座にその画像などを削除された他、その映像をアップした生徒に一週間の停学が言い渡されている。
「交代の時間だったか。今日はクリスと行動だがあの時間で良いのか?」
「YES!! あの時間だと、コンサート目当ての客で他の出し物は空いてる筈で~す」
「……見事な予測だな。まあ、あの時間しかありえないが」
生徒会主催の四女神のコンサート。
神坂は瀬野からチケットを入手している為にその時間を知っているのだが、まだ一般生徒には正式には発表されていない四女神のコンサートの開催時間はこの日の午後二時から四時までの二時間程となっていた。
「彼女達もそろそろ学校に来て……」
「凰樹さん。お久しぶりです」
「凰樹さんひっさしぶりっ♪」
正体がばれない様にわざわざ永遠見台高校の制服を着たうえでサングラスなどで変装した織姫アカリと織姫ヒカリの二人がGE対策部の部室に姿を現した。
生徒会と文化祭実行委員には校内の見学と伝えているが、二人の目的はこの場所で凰樹に再会する事だ。
「久しぶり。元気そうで何よりだ」
「メールでのやり取りはほぼ毎週してるけど、こうして会えるのはホントに久しぶりだよ」
「あの後の四女神の躍進も、凰樹さんのネームバリューを利用したって事もありますので」
普通に仲の良い織姫姉妹と凰樹の会話に表情を曇らせたのはそこに居た女性陣全員だった。
まさかこの二人とあれからずっとメールなどでやり取りしているとは考えてもおらず、芸能関係に疎い筈の凰樹が、神坂の足元にも及ばないとはいえ四女神のTV番組などの話題にもついてきていた理由が何となく理解できたからだが……。
「カグヤとミノリは?」
「楽屋で打ち合わせ中。私達は無理言って抜けて来たんだよ」
「色々な意味での恩人にあれ以来直接会う事なんて無かったから」
今や世界的な有名人で、国民的な人気アイドルだろうと早々気軽には会う事が出来ない凰樹。
メールも凰樹の要望で承認されているが、他のアイドルグループや著名人からのメールでも容赦なくシャットアウトされている時点で他国の人間や他の居住区出身者との接触を警戒されているかが窺える。
「礼を言われる程の事でもないけどな。生徒会主催のコンサートにはいけないが、応援してるよ」
「え? 来てくれないんですか?」
「凰樹さんですと、チケット位すぐ手に入ると思うんですけど」
事実として凰樹が望めば生徒会は即座にチケットを用意する事だろう。
最前列と二列目までの半分を生徒会と文化祭実行委員がランカーズなどの要請があった時用に確保しており、もし求められなければそのまま生徒会や文化祭実行委員がコンサートに参加する事になっている。
そのうちの一枚は瀬野の手に渡り、そして瀬野はそれをダシにして神坂を釣る餌にして色々と協力を取り付けていた。
「皆も楽しみにしているだろうから、そこに割り込む事などしないさ」
「輝らしい素晴らしい判断で~す」
「権力を振りかざす様な真似はしないよね」
「そこが輝さんの素晴らしい所ですわ」
それが絶対に譲れぬ物であれば流石に凰樹も交渉を行うが、他者に譲っても構わぬ物であればそこまで固執する事は無い。
元々凰樹は物に対する執着心が薄く、大切にしているのはあの小さなキーホルダーだけで、腰に下げている穿空天斬ですら他にこれを凌駕する武器が出て来れば簡単に手放しただろう。
そして人が喜ぶ顔を見るのが意外に好きなこの男が、他者を押しのけてコンサートに顔を出そうとする筈も無かった。
「仕方ないか。そこが凰樹さんの良い所だし」
「折角新曲を聞いて貰えると思ってたんだけど」
星の女神織姫アカリと織姫ヒカリのデュエット新曲【未来は輝く光りと共に】。
新曲のジャケットには【く】の文字が不自然に丸く書かれ更に不自然な点がかかれている。
つまり歌の内容は、未来は輝【と】光りと共に~と書かれており、織姫姉妹と凰樹を題材にして歌った完全なラブソングだった。
この日の午後二時から四時までの二時間程のコンサートで流されたその映像は神坂と瀬野が設置した大型スクリーンにも映像を流され学校の何ヶ所かでみる事が出来たが、その意味に気付いたのは荒城たちを初めとする一部の生徒だけで、荒城を初めとする凰樹狙いの女生徒たちは部室に押しかけられた時以上に苦虫をかみつぶしたような顔をしたという。
波乱に満ちた文化祭の二日目は、まだ半分も終わっていなかった。
読んで頂きましてありがとうございます。
誤字報告、ブクマ、評価などありがとうございます。




