文化祭開催!! 一日目
この話から文化祭の始まりになります。
楽しんで頂ければ幸いです。
十月七日、午前九時。
文化祭実行委員の手によって大量の風船が放たれ、永遠見台高校の文化祭は幕をあげた。
校庭には無数の屋台が立ち並び、サッカー部や野球部が普段使っているグラウンドには各部が用意した様々な出し物が展示されている。
一応通行の妨げにならない様に屋台の場所には制限が設けられ、生徒会と文化祭実行委員が用意したテントの下などでしか出せない決まりに放っていたが、ある程度在庫が作られ始めるとその在庫を大きな運搬用のおぼんに乗せて移動販売する者が現れた為に一層カオスな状況が生まれていた。
永遠見台高校でも永遠見台付属中学と同じ様に現金取引では無く、チケットでの販売方式がとられていたが、大きく異なる点として一枚が百円のチケットの他に五百円チケットと千円チケットチケットなど高額なモノまで用意されている事だ。
その為高額なチケットの管理にはかなり気合が入れられており、何処から入手して来たのかレジスターなどまで用意されていた。
「買ってって、買ってって!! フライドポテトワンカップ二百チケットだよ!!」
「文化祭名物、永遠見台カレー!! 五百チケットで販売中だ!!」
「フランクフルトにヤキトリ、各二百チケットで販売中~。お買い得だよ!!」
各部の思惑として、調理部が弁当などを売り出す前に出来るだけ売り上げをあげておこうというモノがあり、最初から全力で物販を行っていた。
なにせ調理部と他のクラスや部では出している料理の質に天地の差があり、味はおろか大量購入して仕切り単価を押さえられている為に値段ですら勝負にならない。
しかも調理部は弁当だけでなくデザート関係でも他とは比較にならない物を出せるのだ、この機会に大幅な売り上げによる身入りを期待している他の部やクラスの焦りは相当なものだった。
「調理部がいるのに料理で勝負とは愚かだな。我々の様に出し物にすればいい物を」
「三年F組のお化け屋敷や、うちみたいにミニチュア展示にすれば後は来客数が増えれば増えるだけ売り上げが上がるからな」
出し物系の部は製作費以外はクラスの人間による作業なために人件費なんかを考慮しなくていい分利益率は高い。
特に木材などの材料を廃棄地区などから持ち出したクラスなどは材料費すらもほぼ掛かっていない有様だ。
「うちはよそのクラスと違って第七完全廃棄地区で遺棄物回収と称して必要な物を確保して来たからな。行動力の差だ」
「レジスターが軒並み狙われてるのってそのせいだよね?」
「中の現金は空だが、本体で使える物も多かったからな。それを手直しして文化祭用のレジとして貸し出す……、副収入として十分だ」
AGE系の部で部隊運営能力が高い部隊や隊員を抱える所で工作能力が高い所などはこういった行動にも出ており、普段は回収されない様なモノを掻き集めていたりもした。
拠点晶産の高純度魔滅晶を高純度魔滅晶拾いで入手してそれで購入した方が早いのだが、何処に転がっているか分からないそれを探す位ならと実力で入手する所も多かった。
完全廃棄地区も結構な数が奪還されている為に、今後はノーリスクで遺棄物回収が出来るのだが、現在では既にその事に気が付いた部隊にあらかた回収された後ではあった。
◇◇◇
GE対策部が用意した出し物、ランカーズ戦闘記録映像の上映には既に長蛇の列ができており、特にAGE系の部などに所属する生徒は「後学の為に内容を見といたほうがいいよな?」などと言う理由で、一回五百チケットという額を支払って入場チケットを購入していた。
「特製ドリンク~、特製ドリンクも数量限定で販売中で~す」
「一杯五百チケットで~す」
伊藤とクリスティーナがチケット販売受付とは反対側にもう一か所小さ目の屋台を用意し、ウエイトレス姿で特製ドリンクの販売を行っていた。
一応、一部の生徒には新生特製ドリンクが今までとは別物の絶品飲料である事は知られていたが、その事を知らない他の生徒は顔を蒼くしてそのドリンクの販売をみつめている。
しかし、見目麗しい伊藤と、大きな胸を強調した様な姿のクリスティーナの魅力には勝てず、男子生徒の何人かが勇気を振り絞ってそのジュースを購入した後で事態は一変した。
「うまっ!!」
「なんだこれ? 力が湧いてくるような、不思議ですげぇ美味いジュースだ!!」
「え? 普通に飲めるのか?」
「じゃあ、私も……。おいっし~っ!! これ、フルーツのピューレだよね?」
味がいいという事が一度知れ渡ると、伊藤やクリスティーナ目当ての生徒まで押し寄せ、百杯分用意していた特製ドリンクは瞬く間に売り切れた。
購入できなかった生徒などは後悔したが、「毎日百杯限定の販売で~す。明日以降も文化祭中は販売しますよ~」という言葉を聞き、「明日は朝からここだな……」と、強く誓ったという……。
ドリンクが無くなったあともウエイトレス姿の伊藤やクリスティーナを一目見ようと噂を聞きつけた男子生徒が廊下を埋め尽くした為、生徒会及び文化祭実行委員からの通達により【ウエイトレス姿での行動はドリンク販売期間中に限る】という制限が設けられた。
しかし、その為に明日以降ドリンクの販売中には男子生徒が押し寄せると予想された。
◇◇◇
「それじゃあ、行って来るね♪」
「行ってらっしゃい……」
満面の笑みで凰樹と腕を組んで文化祭の見学に出発した楠木を苦々しい表情でみつめる竹中達。
各自二時間という少ない持ち時間で楠木が選んだ時間帯は十時から十二時。
食べている間は殆ど会話の無い凰樹の性格を考慮して食事どきを外し、午後になって食糧販売系の屋台や調理部の弁当販売などの追い込みが始まって混乱する前の時間を選んでいた。
「何処かみたい出し物とかあるか?」
「情報技術部に行かない?」
「瀬野の所か……。まあ奴は部室にはいないだろうが……。どっちだ?」
「二時間だとアスレチックランドで遊んじゃうとすぐ終わるから、コンピューター占いの方」
凰樹の読み通り、瀬野は情報技術部で行っているコンピューター占いの他に即席のアスレチックランドを小運動場の殆どを占拠して建設し、そこで入場料も取らずに生徒達を遊ばせていた。
意外な事に安全性は十分に考慮されており、綱の強度も丸太などの強度はもちろん、丸太の角などで怪我をしない様に厚手のウレタンなどで保護までしてある。
それを見た生徒会などは「これなら普通に申請してくれれば普通にとおったのに……」などと少し肩透かしを食らっていたが、瀬野の真の目的が文化祭実行委員や風紀委員に看破されるとそうも言っていられなかった。
「これ、女性が遊んだ場合スカートとか覗き放題じゃない?」
「あっちの縄を使った網くぐりは胸が大きい生徒はやめたほうがいいな」
男子生徒は無邪気に遊んでいたが、その事に気が付いた一部の生徒はワザと女生徒の後から付け回したりしたため、生徒会と文化祭実行委員からも人員が派遣されて順番などが管理された。
しかし、アスレチックランド自体は結構な人気だった為に中止という訳にはいかず、四日間生徒会や文化祭実行委員、それと風紀委員から監視用の人員が派遣される事となった。
それこそが瀬野の目的ではあったのだが……。
◇◇◇
「結構並んでるね」
「しかもカップルばかりな」
情報技術部の出し物である一回三百チケットのコンピューター占い。
いかにも行っても古すぎるコンピューターではあったが、内容が恋占いという事もあってカップルには大人気で、恋人がいる生徒の多くはこぞってここを訪れていた。
これだけ人気なら他でも同じような占いをしてもよさそうなものだが、この如何にも古臭くてもし悪い結果が出ても笑い話で済むクオリティが重要らしく、これだけの機材を揃える所は他にない為に情報技術部が恋占い目当ての生徒を独占している。
「え? 六パーセント? 何かの間違いでしょ?!」
「やった~!! 百パーセントだよ!! 百パーセント!!」
「おめでとうございます、あちらで百パーセント記念のアクリル板も制作しております」
酷い時には一桁を叩き出す容赦のなさと、極稀に百パーセントが出た時のみ二人の名前を刻んだハート形のアクリル製アクセサリーを贈呈されるとあり、占いを申し込んだ生徒にはおおむね好評だった。
楠木の狙いは当然百パーセントの結果と特製アクリル製アクセサリーだが、これまで前に並んでいる生徒で成功したカップルは一組だけだ。
「私達の番だね。えっと此処に生年月日と血液型と名前を入力するのか」
「意外に時間がかかった訳だな」
占い用のコンピューターは三台用意されていたが、どこでもその入力に手間取っていた。
しかし周りのカップルは嬉しそうに情報を入力し、プリンターの前で歯の浮くような会話を繰り広げながら出力される占いの結果を楽しみにしている。
周りが全員カップルなこの状態だから許される行為で、他の場所やクラスや部が運営する喫茶店などで同じ事をすれば周りにいる生徒は堪らないだろう。
「あ、結果出たよ。……五十一%?」
「半分より少し上か、後ろが閊えてるから話の続きは何処かのクラスの喫茶店でするか」
「うん、やっぱり百パーセントなんて出ないもんだね~」
◇◇◇
凰樹と楠木は比較的近くで喫茶店の出し物をしていた一年G組に入ると、以前一年A組でクラスメイトだった何人かの生徒が声を掛けてきた。
現在、各学年がJ組まで存在する状況だが、意外にもまだ教室は全部使い切られておらず、上の階にはまだまだ空き教室が存在している。
しかし、上の階に行くには数少ないエレベーターを利用する必要があり、階段で上がるにはきつすぎる為にそこで店を出したり出し物をしているクラスや部は無かった。
再編成の時に三年の多くのクラスは上の方の階から振り分けられており、一年は割と玄関に近い好条件で喫茶店などを出店できていた。
「夕菜ひっさしぶり♪ 元気してた?」
「ゆっこ~、久しぶり。クラス替えしてから会えなかったね」
「夕菜たちの教室には近づけないし、学食も別だし、体育の授業も無いから」
同じ学年であっても凰樹達は殆ど隔離されているような状況なので他の生徒と接触する機会は少ない。
他の生徒が特別A組に近づこうとしても警備兵に阻まれるために、遊びに行く事さえ容易では無かったりもする。
「で、とうとう凰樹君と付き合い始めたの?」
「もしそうなら大ニュースなんだけど……」
「ううん。まだ。今日は一緒に文化祭を回ってるの」
「な~んだ。前から狙ってたのは知ってるから、とうとう付き合いはじめたのかと思っちゃった」
楠木達は凰樹には聞こえないように小声で話してはいたが、割と筒抜けだったりもする。
楠木と仲の良かった女子生徒は当然楠木が凰樹狙いである事には気付いており、陰ながらにこっそり応援していたりもしていた。
元クラスメイトは注文を聞いた後仕切りの向こうの厨房にそれを伝え、ほかの客を席に案内して水を出したりしている。
厨房と言っても煙が出たり大掛かりな物は第一と第二調理室で行う様に生徒会と文化祭実行委員から通達が出されており、まだ真面目に一年はその通達通り調理室でケーキやクッキーを焼いてそれを出したりしていた。
注文後すぐに用意されていたカップケーキがテーブルに運ばれてきたが、楠木のカップケーキにはお子様ランチなどに刺さっているような旗が立っており、そこには何故かブイ型の中央にカタカナでルと書かれている上に、楠木側には「ファイト!!」とかわいらしい文字が書かれていた。
最初はそれが何か分からなかったが、その意味を理解した楠木は元クラスメイトに手を振り、『ありがとう』と周りには聞こえない様にお礼の言葉を送った。
◇◇◇
「そういえばさ、以前から気になってたんだけど……、どうして私がGE対策部の入部テストに受かったの?」
「今更だな。確かに、あの時テストに参加した生徒の中で、楠木より優れた者がいないでもなかった。しかし、あのテストで最後に仕込まれた罠に気が付いた者は殆どいなかったのも事実だ」
「罠? ああ、最後終了間際に十秒程間を開けて仮想敵が動いた事?」
神坂、窪内などの戦友、霧養の様な元々凰樹が引き抜こうしていた隊員、竹中の様に正確無比な射撃を披露した者、可もなく不可も無かったが余裕で合格ラインに達していた伊藤と比べても、楠木の成績は決していい方ではなかった。
しかし入部テストの最後に仮想敵がほんの少しだけ動くギミックが仕掛けられており、竹中や伊藤は残された弾で撃破する事に成功し、楠木は反応した上で射撃する所までできた。残念な事に残弾が無かった為に撃破までにはいたらなかったが、他の参加者はそもそのそのギミックに気が付く事無くテストが終わったと考えて気を抜いていた。
「アレはトドメをさしていなかったGEが反撃の予兆を見せた時にどう行動するかを見極める為だったんだ。生命力に余裕があっても、ああいった反撃を受けてパニックになる奴も結構いたからな」
「じゃあ、私が受かったのは反撃したから?」
「そうだ。弾切れは減点対象だが、あの状況下でもし周りに誰かいたら、異変に気がついて駆け付けただろう。敵が本当に動かないかどうか、気を抜きそうな場面でそういった見極めが出来るという余裕がある事は大きいんだ」
GE対策部が部隊として稼働した直後は編成や作戦などに毎回頭を悩ませてきた。
伊藤の突出した索敵能力に気が付き、その護衛として楠木を万が一の護りとして固定した後はスムーズに作戦を行えるようになったが、その状況でさえも今では考えられない事だが凰樹が他の隊員の状況を気にして僅かな隙を見せる事があったほどだ。
元々GE対策部の部長に就任するまで凰樹は隊長として行動した事は殆ど無く、戦友を何人か引き連れての遊撃部隊や個人的な戦闘能力の高さを生かしての単独行動が多かった。
その為に、入学して隊長になった後はかなり苦労しており、どうすれば【被害を最小限に留めてGEを倒せるか】や、【この隊員で拠点晶を破壊する為には何が必要か?】などを考え、実験的に様々な作戦を試していた為に余裕が無かった事は間違いないのだが。
「今は前線で戦って貰っても良いとは思っているが、次のレベル四までは伊藤の護衛を頼む。近くの環状石からW・T・Fが出るとは限らんが、それでも警戒するに越した事はない」
「レベル四の門番GEってやっぱり強いの?」
「今となってはそこまで強敵でもない。しかし油断は禁物だ」
流石に先月出現したアラクネ型W・T・Fより強いうという可能性は無い。
でなければ今まで防衛軍による奪還作戦など成功する筈も無いからだ。
◇◇◇
午前十一時四十五分。
持ち時間が後十五分に迫った時、急に校内のスピーカーからファンシーな曲が流れ、物凄く聞き覚えのある声が鳴り響いた。
「校内の全生徒に告ぐ。情報技術部プレゼンツ!! 現時刻をもって本館屋上にて懐かしの屋上遊園地の開催を宣言する!!」
校内放送をジャックし、そんな放送を流した主犯は予想どおり瀬野であり、しかも情報技術部の部員や他のAGE系の部まで巻き込んで校内二ヶ所に大型のスクリーンを設置し、そこで屋上の映像を流し始めた。
映像は各教室に設置されているテレビでも受信可能で、いつの間に作り上げたのか、本校の屋上には小さ目のジェットコースターや動物の形をした小型電気自動車、射的などの出店などが映し出されている。
「ごらんのとおり、様々なアトラクションを用意している。安全には十分に考慮されているほか、可能な限りダイナミックな仕掛けも要されている」
そしてカメラはジェットコースターへ向けられると、そこにはジェットコースターに乗っている神坂の姿が映し出された。
「蒼雲の奴、何やってるんだ?」
「ジェットコースターの試乗に立候補したのかな?」
「まさか。……昨日のチケット騒ぎ、あれがおそらく交換条件なんだろう」
凰樹の読み通り、神坂は瀬野にゲリラコンサートの時間及び最前列チケットの交換条件として、ジェットコースターの安全性のアピールと客寄せの為の試乗の為の役を引き受けさせられていた。
規模は十分に小さいながらも、起伏のあるコースが設計されており、スピードも限界ギリギリまで出る様に工夫してある。
安全にはかなり配慮されており、土台や基礎に至っては文化祭開始にひと月以上前から普段は誰も立ち入らない屋上に忍び込んで入念に準備されていた。
「学校のみんな見てるか? 今からこのヘルメットに搭載されたカメラで驚きの映像をお届けするぜ!!」
「同志神坂の快い返事もいただいた。興味のある者は近くのテレビ画面で確認してくれたまえ」
瀬野が合図をするとジェットコースターは動きだし、一旦数メートル上までレールの上を引き上げられ、そして次の瞬間、勢いよくレールの上を走り始め、一周約三十秒のコースを二周してスタート地点で止まった。
瀬野が設計をしただけあり、かなり本格的に仕上げられており、ジェットコースターが止まった瞬間にはカメラの前で拍手をする生徒が大勢現れたほどだ。
その半数は瀬野の仕込んだサクラではあったが、あまりに盛りあがった為に生徒会もこの瀬野の屋上所以地の開催を即座に中止という訳にはいかず、「何が起こっても学校側は一切責任を取らない」などと書かれた誓約書にサインして続行を認めさせた。
「…………瀬野さんってすごいんだね」
「あの位はやる奴だ。それに校内に設置している大スクリーン。あのうちの二つはうちの部の備品だ」
「無許可で持ち出したの?」
「蒼雲辺りの手引きだろうな。予備だから問題無いが」
夜中皆が寝静まった後で部室の倉庫に忍び込み、予備の大型スクリーンを二つほど運びだし、それを校内に設置していた。
この程度の事であれば凰樹は許可してくれるだろうと読んでの行動だが、瀬野には文化祭中の環状石崇拝教の監視や対応を任せている手前、強く出れないという事も理解している。
「名残惜しくはあるが時間だ。教室で店番をしている龍と変わるとするか」
「そうだね。それじゃあみんな、またね♪」
二人は元クラスメイトに手を振り、凰樹と腕を組んで1年特別A組まで戻った。
開始直後から様々なトラブルに見舞われたが、こうして大波乱の文化祭が幕を開けた。
読んで頂きましてありがとうございます。




