表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
怒涛の文化祭編
89/98

波乱の文化祭デート宮桜姫香凛 一話

宮桜姫香凛との永遠見台付属中学の文化祭でのデートの話になります。

楽しんで頂ければ幸いです。



 十月二日、午前九時十七分。



 宮桜姫(みやざき)香凛(かりん)凰樹(おうき)(あきら)永遠見台高校(とわみだいこうこう)とは道路を隔ててとなりにある永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくを訪れていた。


 目的は永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくで行われている文化祭を回る為で、香凛(かりん)は昨日の夜から「凰樹君とデート♪ デ~ト♪」と屋敷の中でかなりの上機嫌ぶりを発揮している。



 家族用の入場チケットを持ち帰ってきた妹の鈴音(すずね)に抱き着きながら頭を撫で、「なにかあったらお姉ちゃんに相談しなさい。全力で力になるから」などと踊り出しそうな勢いで口にしたという。


 妹の鈴音(すずね)は「お姉ちゃんってこんな感じになるんだ~」と、恋に盲目どころか、猪突猛進中の姉の姿を見て「わたしも好きな人できたら、ああなるのかな?」と、頭の中をピンク色の妄想で塗り固めたいつもは聡明な姉の姿を溜息交じりにみつめていた。



◇◇◇



「あそこが入場受付ですね。流石に凄い人だかりです」


「これを下げてるから俺の正体はバレバレだろうが、無事な事を祈るか」



 私服姿の凰樹の腰には穿空天斬(せんくうあまぎり)が下げられており、これだけでも即座に目の前にいる者が誰なのか即座に判別がつく。


 全体に動きやすい恰好ではあったが、キッチリと一緒にいる香凛に恥をかかせない様なコーディネートを心がけており、少々無骨気味ではあったが全体としてはかなり整った服装をしている。


 最近ではひと昔前の特殊小太刀を似たような状態に加工する者もおり凰樹のフリをして女性を口説き落とそうとする者も多いが、凰樹は既に顔の方も広く知れ渡っている為に偽装した男達が素顔を曝した瞬間に逃げられるという事件も多数報告されていた。



 多分に漏れず、入場受付にも数人同じ様な特殊小太刀を腰から下げている者が存在し、それを咎められれば「俺からこれを取り上げるのか!!」などと高圧的な態度で威嚇していたが、今迄にそういった者は全員変装を暴かれた後で連行されて、自業自得とはいえ警察や防衛軍の手で長時間の説教を食らう羽目になっていた。



「下げなくていいならこんな物を下げたくはないがな」


「歩き辛かったりするから?」


「それもあるが、油断すると結構あちこちにぶつかるからなコレ。太刀よりは短いからマシだけど江戸時代とかの武士みたいに後に伸ばすと周りの邪魔になるし、結局こんな形にするしかない」



 左の腰に下げられている穿空天斬(せんくうあまぎり)は左足よりほんの少しだけ後ろに突き出してはいるが、あまり周りに邪魔にならないように配慮されていた。


 偽物はこれみよがしに横から見た時に腰と小太刀で十字が書かれているような状態になっているが、別に見世物にする必要も無いのでこういった形で腰から下げるようにしている。



「次の人……、またですか?」


「これを下げてる奴はそんなに多いのか?」


「今日だけでもう二十人目だな。特殊小太刀も安くないのによくやる……って」


「迷惑ならばここに預けて行っても良い。どうせ校内では使う機会は無いだろうしな」



 入場受付の係員は、今までの紛い物とは違う丁寧な拵えを見て、ようやく目の前にいる物が誰なのか気が付いた。


 ここで穿空天斬(せんくうあまぎり)を預かる事は出来るが、勲章の表彰式でさえ帯刀を許された凰樹からこれを預かりましたなどと報告すれば、後でどんな沙汰があるか知れたものではなかった。



「申し訳ありません。そのまま帯刀してください」


「そうか。お勤めごくろうさん」


「それでは失礼しますね」



 身体から時折(ヴリル)を放出して光の粒子を浮かべる凰樹と宮桜姫は無事に校内入り、入場口で渡されたパンフレットに目を通しながら何処に行くかを話し合っていた。


 同時刻、全警備員に凰樹が校内に入った事が伝えられ、帯刀について咎めたりしない様に厳重な通達がなされた。



◇◇◇



「えっと最初は校庭でしている出店や出し物を見て行きませんか?」


「付属の方のテーマは【遊びは文化】だったか? 広大な奪還区域が出来た為にあちこちの高校や中学で昔は多く存在した遊園地などの遊戯施設をテーマにしたらしいな」



 事実、第二居住区域にある高校や中学の殆どが似たようなテーマで文化祭を開催しており、中には小型動物園と称して捕まえてきたウリボウやウサギなどの小動物を飼育や展示している所まであった。


 遊園地を題材に選んだクラスや部はその殆どがテーマに沿った出し物に難航しており、最終的に遊園地で売られていた食べ物と言い張ってポップコーンやフランクフルト、フライドポテトなどを販売している所すらある有様だ。



「そうだったんですね。うちの文化祭も似たようなテーマでしたし、違いを楽しめていいかもしれませんね」


「瀬野がいないだけで警戒しなくて済むのは良い事だ。アイツは悪い奴じゃないが、善意だけで動いている奴でもない」



 瀬野と凰樹の関係は味方七割の敵三割といった感じで、あまりに羽目を外した場合は凰樹が生徒会側に付いたりすることもあるし、また逆に少しまずい状況に陥った瀬野を裏からこっそりと助ける事もある。


 二人が永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくに在籍していた時もこの関係は変わっておらず、瀬野が作り上げた伝説的悪行の数々はいまだに禁則事項として永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくの校則に刻み込まれている。



「あ、あそこで何かやっていますよ。えっとストライクアウト……、的をボールで射抜くゲームみたいですね」


「あのゲームも昔に流行ったって話だ。なかなか的を射抜けないらしい」


「何人か挑戦していますね。えっと一回三チケット?」


「ああ、永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくでは今はポイントや現金を文化祭実行委員や生徒会が管理する両替所でチケットを購入する必要があるんだ。主に瀬野のせいだが」



 これは瀬野が三年の時に大掛かりな賭博系イベントを企画し、現金やポイントで派手にやり取りをした為に【文化祭での金銭授受は原則禁止とし、ポイントや現金を生徒会及び文化祭実行委員の発行するチケットを購入しそれで支払いを行う事】という一文が刻まれており、いまだにその弊害でこのシステムが使用されている。


 チケット制にした事で売り上げなどの管理がしやすい他、持ち逃げなどが発生しない為に真面目な部やクラスでは歓迎されていたりもする。


 瀬野も主目的が【毎年売り上げを誤魔化して持ち逃げする生徒が多い為、これをなんとかしたい】という事だったので、そのもくろみは成功したといっても過言では無い。



「あそこでポイントをチケットに交換してるみたいだ。少し交換しておくか」


「大丈夫かな?」


「まあ驚くだろうな、ポイントの残高はまだ六千億以上あるし」



 ポイントの残高もそうだが、凰樹の名前が表示されればどんな反応をするのかは想像できる。


 チケットは十ポイント、五十ポイント、百ポイントが販売されており、出口に余ったチケットを買い取る場所が用意されている為にここで少し多めに買っていく者が多かった。


 偽造防止用にチケットの束ごとに通し番号が印刷されており、購入時にその番号を記録する事で偽造防止などを防いでいる。



「百チケット交換して欲しい」


「は~い、ありがとうございます。そこの端末にAGE登録証明カードか電子マネーカードをタッチしてください」


「……これでいいな」


「はい……って!! え? え? えええええっ!!」



 十二桁もあるポイント残高もそうだが、表示された凰樹輝という名前に驚き、機械と凰樹の顔を何度も見直していた。



「百チケット三百十五番記録したよ。驚いてるのは分かるけど、後ろが(つか)えてるから」


「あ……ごめん。こちらチケットです楽しんでいってくださいね」


「ありがとう。楽しませて貰うよ」



 この時間の受付の番号記入担当の生徒は小妖精(プチ・フェアリー)のメンバーの一人、天陣(てんじん)佐緒理(さおり)だった為にそこまで大きな混乱は無く、無事にチケットの購入をする事が出来た。


 部活がある生徒やクラスで出し物をする生徒も多い為、文化祭実行委員や各部の担当者が交代で入場受付などをしている。



「あの子、小妖精(プチ・フェアリー)の……」


「妹がいつも迷惑をかけていますから挨拶位したかったんですけど、忙しそうでしたのであきらめました」


「挨拶ならあとで小妖精(プチ・フェアリー)の部室に行けばいいだろう」



 香凛も最後に小妖精(プチ・フェアリー)の部室にいる筈の鈴音を訪ねようと思っていた。


 鈴音からも最後に部室に来てほしいような事を言われていたので、何か仕掛けを用意しているのではないかと予想している。



◇◇◇



「それじゃあ凰樹君、()()やっていきますか?」


「俺がやると反則の様な気はするが、手加減すれば大丈夫だろう」



 さっき見たストライクアウトは割と客の回転が速く、少し人がいない状況が出来ていた。


 時間は結構あるとはいえ長蛇の列に並ぶのは気が引ける為、凰樹もあの状態であれば遊んでいくのも良いかとおもった。



「一回頼む」


「は~い、ルールは其処読んでね。全部落せたら景品もあるよ」



 横の看板にはルールが説明されていた。


 一、白線より内側の投球エリアには入らない。


 二、ボールは同時に何球投げても良いが、持ち球は九個まで。


 三、投球に時間をかけすぎない、三分で遊戯終了。


 四、全然落とせなくても怒らない。腕を磨いて再チャレンジだ!!



 などと大きく書かれていた。




「一度に何球投げても良いのか」


「何球も投げれるんですか?」


「まあやり方次第だが、あの的だとマトモな方法だとどうやっても四球以下では落とせないな。最低五球必要だ」



 的は真ん中の五だけ太枠でガードされており、かなり正確な投球でないと落とせない仕組みになっている。


 後はただ枠にはめられているだけなので、一度でも二枚抜きをすれば全部の的も落とす事が難しくないようには見えた。


 しかし実際は真ん中がかなり狭くなってる為にそう簡単には全ての的を落とす事は出来なくなっている。



 的事吹き飛ばすか、魔弾(カオス・ブレッド)を使えば落とせない事はないが、流石にそれは反則だ。


 また、凰樹の場合は手加減しないとこの程度のボールであっても殺人兵器に変貌する為、かなり手加減する必要があった。



「この大きさの球ならいけるな」


「五個も一度に投げれるんですか」


「この位の大きさなら大丈夫さ」



 周りの係員は『彼女の前でええ格好しいか。一度に五球投げるとか』『はずせはずせ!!』『無理無理一球ずつした方がいいって……』などと、投球姿勢に入った凰樹に冷ややかな視線を送っていた。



「よっ……と」


 凰樹が投げた球は十メートルほど離れた場所にある的の一と二、三と六、四と七、八と九の二枚抜きを同時に成功させ、更に真ん中の五も他の四球と同時に打ち抜いて見せた。


 裏技と言っていた魔弾(カオス・ブレッド)やシールドなどの反則技は一切使わず、普通に投げただけでそれを成功させ、見事に全てのプレートを落した。


「え? 嘘だろ……」


「一撃で全部の的落しやがった」


「四球残してクリアって新記録だぞ」



 絶対に失敗すると思っていた周りの男子生徒は驚きの声を上げ、女生徒たちは黄色い声援を送っていた。


 今のご時世から言ってもスポーツをする男性がモテるという事はないが、流石に此処までその高い運動能力をみせつけられれば女生徒たちもまんざらでは無く、好意的な視線を周りから送りまくっていた。



「凰樹君、行きますよ!!」 


「景品は良いのか?」


「ここから離れるのが先です!!」



 始めからこうなる可能性は否定できなかったが、香凛は無自覚にみせつける凰樹の身体能力の高さを侮っていた事を後悔していた。


 回りで騒いでいる少女たちがいつ凰樹の正体に気が付き、取り囲んでくるかわかったモノでは無い。



 音速で移動しつつGEを撃破する男にとって、止まっている的を射ぬく事など目を瞑っていても出来そうだとは香凛自身も分かってはいたのだが……。




◇◇◇




 午後三時三十分。



 色々な屋台で出されていた料理を食べていた香凛(かりん)と凰樹だったが、腰を下ろして少し休む為に二年A組が運営している喫茶店に入っていた。


 メニューは手軽に用意出来るカップケーキやホットケーキで、一応トッピングにアイスなども用意されてはいたがかなり割高になる為に頼む者は少数だ。



 香凛はストロベリーのアイスをトッピングした小さ目のホットケーキと紅茶、凰樹はカップケーキと紅茶を注文してテーブルでくつろいでいた。



「なかなか楽しかったな」


「そうですね。体験シアターとかは裏方さんが頑張ってましたね」



 三年F組の体験シアターは映像を流す生徒の他に、映像に合わせて客席の椅子を揺らしたりブロワーで風を送ったり太鼓などで音を演出する生徒を用意しており臨場感のある演出を再現していた。


 結構人気があるのか一回五チケットも取る割に来場者の数は多く、その殆どの客が演出に満足している様子だった。



「色んなお店がありましたね」


「タピオカドリンク、チョコバナナ、タコ焼き、焼きそば、お好み焼き、はし巻、ベビーカステラ、フライドポテト、ポップコーン、少ない材料と機材でよくあそこまで揃えたもんだ」



 タピオカの原料であるキャッサバは百パーセント輸入されている物で、現在ではGEに完全に支配されて人が誰もいなくなって十年経過した離島などをアメリカと日本の連合軍で奪還した東南アジア方面の島で珈琲などと同じ様に栽培されているという話だ。


 この辺りは貪欲な食に対する執念の賜物で、胡椒なども含めてスパイス類の産地の島の一部を確保する事にも成功しているが、こうした産地が限られる果物などを含めた幾つかの食物も産地ごとアメリカや日本などいくつかの軍が連合軍として奪還を成功させている。


 現在では連合軍に参加した国の幾つかは滅亡しており、生産物に対する利権などはアメリカと日本で管理されていた。




「市販のジュースをただ売ってる店もありましたね」


「イベント向けではあるし売り方次第だけどな。あそこはひと缶40円程度の格安小型缶ジュースをじゃんけんに勝つと二~三個貰える売り方だが、一チケットなら余程の事が無ければ赤字にはならない。余っても缶ジュースなら困らないし、イベントの出店としてはいい方法でもある」



 この日は朝から凰樹を独占できている為に香凛は今までにないほど上機嫌で、更に言えば校内に入ってからは腕を組んだりしているが凰樹がそれを拒否しなかった事をいいことに、べったりとよりかかって甘えていたりもしている。


 周りから聞こえる「恋人同士なのかな?」「お似合いだよね~」「あの腰の小太刀、もしかして凰樹さんに恋人?」などと聞こえる度に踊り出しそうな程ではあった。



「この後は小妖精(プチ・フェアリー)の見学ですね」


「部活動自体は休んでいるだろうけどな。それより他にも幾つかAGE関連の部があったと思ったが」


「大きなところが吸収して今は小妖精(プチ・フェアリー)の他に一つあるだけですよ」



 はじめは副隊長の椎奈(しいな)(つむぎ)などの入部を断ったAGE系の部なども存在していたが、小妖精(プチ・フェアリー)が戦果を挙げる度に存在意義を疑問視され始め、一番大きな所以外は吸収合併されて消滅している。


 多くの部員は統合されたが、今までおんぶにだっこで優秀の人にくっついて碌に戦果をあげておらずお荷物だった部員は全員追い出され、精鋭だけにした事でその最大手も少し前からはそこそこ戦果をあげているが、今はあちこちに落ちている魔滅晶(カオスクリスタル)高純度魔滅晶(レアカオスクリスタル)を探す高純度魔滅晶拾い(ハイエナ部隊)と化していた。


 これはこの広島第二居住区域に存在するAGEすべてに言える事だが、近場にGEが出現する場所が無いというのも大きいがそれ以外にする事も無いのが問題ではある。


 こんな平和な状態は他の居住区域のAGEが聞いたらふざけるなと言われそうな程に恵まれた環境で、近場にある拠点晶(ベース)の何処から手を付けるか保有する戦力とGEなどの強さを天秤にかけて苦悩している他の居住区域と比べられるような状態ではなかった。



「さて、そろそろ小妖精(プチ・フェアリー)の部室に行くか」


「そうですね」



 名残惜しいが、今日は此処まで六時間以上凰樹を独占して来たため、香凛は割と素直に小妖精(プチ・フェアリー)の部室に向かう事にした。




◇◇◇




 小妖精(プチ・フェアリー)が現在部室にしている空き教室……、と言っても他の教室よりもセキュリティを何段階も強化され、GE対策部の部室や凰樹達の教室同様に警備員が周りに何人も配置されていた。


 部室に向かう廊下の入り口に二名、廊下に更に二名、部室の入り口に二名といった状態で、更に途中にある空き教室が警備兵の待機所となっておりそこには十名ほど予備の兵士が待機している。



 ほぼ全員が人外な能力を持つランカーズのメンバーと違い、小妖精(プチ・フェアリー)に所属する隊員の身体能力が普通の女子中学生である事も大きく、警備状態もどちらかと言えば永遠見台高校(とわみだいこうこう)より厳重にされている印象さえ受けた。



「厳重な警備だな、まあ、この位が普通なのかもしれないが」


「最近うちの警備は割とゆるいですよね」



 そこまでゆるくなっている訳ではないが、凰樹を初めとする神坂かみざか霧養(むかい)荒城(あらき)辺りのメンバーは警備兵よりはるかに強く、敵が出現した場合でも任せていた方が話が早いという事もあり、現在では主に近付いてくる一般生徒などの対応がメインとなっている。



「この先は小妖精(プチ・フェアリー)の部室で、関係者以外は立ち入り禁止だ」


「妹に用があってきました。これAGE登録証明カードです」



 香凛はAGE登録証明カードを取り出し、それを警備員に提示した。



「妹……? み……宮桜姫香凛? ランカーズの?」


「ちょっとまて、隣の人、もしかして……」


「凰樹だ」


「失礼しました!!」


「部室まで案内いたします」



 凰樹がAGE登録証明カードを提示した瞬間、警備兵は二人とも見事な敬礼をして二人を小妖精(プチ・フェアリー)まで案内した。


 すぐに予備の兵士が廊下入口の警備を担当し、ここの警備体制が厳重である事を理解させられた。



◇◇◇



 警備兵に案内された香凛と凰樹は小妖精(プチ・フェアリー)の部室のドアをノックし、返事を待って室内へと足を踏み入れた。



「は~い。ってお姉ちゃん!! それに凰樹さんも」


「久しぶりだな」


「えっとあのBBQ大会以来かな? お肉も美味しかったけど、デザートとか凄かったよね~」


「うんうん、特にあのデザートとかケーキ!! ショッピングモールの店以上に美味しかったよ」


「アレに対抗できるの甘味帝位じゃない?」


「え~。流石に甘味帝以外にも対抗できる店あるよ。でも、全部高級店だよね?」


 流石に女子中学生の部だけあって、一度何かのきっかけがあればにぎやかなおしゃべりが始まり、それはなかなか収まる事は無かった。



「もう!! お姉ちゃんたちの前なんだからもう少し……ってあれ?」


「椎奈さんがこういう時は抑え役に回るのに……」


「あんな風にボーっとしてるなんて珍しいよね?」



 副隊長で副部長の椎奈がこんな状況で黙っている事は珍しく、さらにいえばこんな状況で何処かを見つめて気を抜いている事はさらに珍しかった。


「椎奈、もしかして体調悪い?」


「副部長。体調悪いならだれか呼びましょうか?」


「え? ああ、違うの、少し考え事をしてただけよ。……って凰樹さん? どうしてここに?」



 椎奈は今まで見た事の無い位に取り乱して部室の隅に逃げ込み、手鏡を取り出して髪や服に何処かおかしなところが無いかチェックしていた。


 部室にいた他の部員は全員首を傾げて何が起こったのか理解できない様な状況だ。



「なんだ?」


「椎奈らしくないな……、ねえホントに大丈夫?」



 流石に気になった鈴音(すずね)は椎奈に近づいて声を掛けたが、その声が聞こえなかったのか椎奈はそのまま凰樹の前に優雅な足取りで移動した。



「あの、私は椎奈紬と言います。あの……、うちの母か凰樹さんのお母様から何か聞かれていますでしょうか?」


「母さんから? 六年前に石に変えられて今はまだ助け出せてないからうちの母からは何も聞いて無いし、君の母親ともおそらくだがあった事は無い」


 もし椎奈の母親が石化から蘇れた事を感謝して凰樹にお礼の言葉か何かを伝えたかったとしても、周りにいる警備兵の手によって阻止されていた事だろう。



「そう……ですか。あの、こんな事をこの場で言おうかどうか迷ったのですが……」


「えっと、なんだろうか?」


「親同士が決めた事ですが、婚約者の紬と申します。いまだに未熟な不束者(ふつつか)ですが、よろしくお願いいたします」




 椎奈は頬を主に染めて凰樹の前でお辞儀をし、最大級の爆弾発言をその口から紡いだ。






読んで頂きましてありがとうございます。

誤字報告、ブクマ、評価などありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ