突然の奪還依頼
広島第三居住区域などの話になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月二十二日、午前十一時三十一分。
凰樹は広島第二居住区域と広島第三居住区域の間に存在するレベル一からレベル三の環状石を手筈通りに破壊していた。
以前アラクネ型W・T・Fで奪還した新広島空港とその周囲の安全区域は危険区域と廃棄地区の中に孤立させたままであり、せっかく取り戻したにもかかわらず無駄に遊ばせているだけだったのが、その土地を活用したいと広島第三居住区域から昨日突然要請が入った為に凰樹はまたしてもバイクを走らせて広島第三居住区域方面の環状石を破壊し続けている。
「後三つか……。今の実力なら楽勝だと思っていたけど、意外にキツイな」
問題点は幾つかあり、一つ目は広島第二居住区域側から奪還区域までのゲートを順序良く破壊しないといけない事、二つ目は道路の崩壊状況が予想を上回っており、橋が崩壊している場所などはシールドを多用して切り抜ける必要があった事、三つ目はこの辺り一帯は長い期間放置されていた為に大型GEなどが多数存在してそれが行く手を阻んだ事である。
今の凰樹にとっては大型GEは強敵でも何でもないが、それが何体も行く手を塞ぐとなると訳が違う。
飛行タイプの大型GEなどが攻撃をして来ればその攻撃を回避するのが一苦労で、バイクを運転しながら片手にM4A1改弐を持ち、高速で移動しながら上空の大型GEを撃破するのは無理ではないが面倒な事この上なかった。
「さっき奪還した区域を捜索するヘリとか多いから上空に向かって神穿波は使えないし、こうやって一体ずつ潰すしかないってのが……」
危険区域の上空であってもたまに間違えて侵入した後で旋回するヘリも存在する為、射程の短い特殊トイガンでの攻撃しか出来ない事もGEの殲滅に時間がかかっている理由のひとつだった。
流石にこの周辺で石に変えられている人は少ないが、いまだに回収されていない石像が多かった為に生還者の捜索活動を何度も担当してきた広島第二居住区域の守備隊や防衛軍でも難航している。
その上、この辺りで活動しているAGEなど殆どおらず、捜索活動を手伝わせようにも居住区域から連れ出す必要があり、生還した者の搬送用の車両などの事も考えればその辺りも頭の痛い問題ではあった。
「一応、広島県と第二、第三居住区域からの依頼なのに、割と今回はその点が甘いな……」
前回は各居住区域だけでなく山口からも人員を集めていたが、今回はそういった要請もしていなかったそうで、生還者の手続きも捜索活動以上に難航する事だろう。
石化してから十年以上たつ土地も多く、奪還地区から生還する人の数がかなり少ないと予想されている事もあり、その点を考慮されていなかった事も大きい。
「だけどこれで一応、広島第二と第三居住区域が繋がる形になるのは大きい。県北は今年の秋までに奪還しないと来年の春まで手が出せないけど」
中国地方で有数の豪雪地帯で積雪量の多い県北側は冬季の作戦行動が難しく、雪が降り始めた場合は春まで静観する方が無難という考えが強い。
折角石化から復帰した者が凍死してはたまらないという事もあるが、作戦行動中に雪中からGEが襲い掛かって来る事もある為に警戒を何段階も強める必要がある。
防衛軍は計画を立てて奪還する地区を決めている為にそういった心配はないが、AGEや守備隊などは雪の季節には活動を休むところも多い。
かなり昔は炭酸ガスのタンクを使った方式のエアガンも多く、冬季にはタンクが凍結してエアーの供給が止まるなど性能が安定しないという問題点も多くその頃の名残であるという話もあるが、そんな時代から活動しているのはAGEの中でもごく一部だろう。
「次で最後か……。これで福山あたりから東広島方面の奪還は終了するな。後は世羅とか三次辺りを全て奪還できれば広島全域を取り戻せる目途が立つんだが」
瀬戸内海に点在する無数の島を除けばわりとほぼ長方形な広島県。
広島市内とその周辺が第一居住区域。東広島市と中心部、そして海岸線に存在する呉市の一部が広島第二居住区域、福山の一部とその周りが第三居住区域。
新広島空港周辺はどちらかと言えば第二居住区域が近いが、第三居住区域が拠点晶を破壊して作り上げた細長い奪還地区を持つために所有権を主張し、その為に今までどちらからも新広島空港とその周辺を奪還に乗り出す事は無かった。
「これで……作戦終了。破壊した環状石は全部で十一か……。後は守備隊や防衛軍とかに任せればいいな」
今回の依頼で東広島市から空港と福山までの間にある環状石を直線で完全に潰し、かなり遠回りではあるが福山から東広島までが安全区域でつながる事となった。
しかし、第二居住区域と第三居住区域は食糧事情や住宅問題、それにそれぞれの居住区域に住む人口に格段の差がある為、もし仮に合併した場合は広島第二居住区域に第三居住区域が吸収されるという形になる事は明らかで、第三居住区域側からはかなり反発される事が予測されていた。
「広島第三居住区域から広島第二居住区域の半公営住宅への大規模な移住が始まるだろうな。現状十分な生活環境が揃っているとは言い難い」
現在進められている再開発計画で、更に広大な半公営住宅団地が建設されるという話だ。
そうなれば一千万人規模の住宅問題が解決する他、今後居住区域を運営する為の十分な人材の確保が出来る事となる。
最終的には西日本の覇権を狙っている対GE民間防衛組織事務所所長の影於幾之滋は既に様々な準備を進めており、広島奪還後にどの方面に手を伸ばすかまで計画を進めていた。
◇◇◇
九月二十二日、午後二時十八分。
凰樹は地続きとなった広島第三居住区域に足を踏み入れていた。
今後この辺りを攻略する事になれば事前に状況を把握する必要があった為、一応市街地の確認の意味も含めて散策を行っていたのだが、あまりにも目立つその風貌に何度も現地の守備隊や警備員などに声を掛けられる事態となっていた。
「まあこの格好とこのバイクを使う限り仕方ないだろうが……」
常に氣が放出され続けて黄金色に輝く戦闘服とバイク。
話には聞いているだろうがそんな異常な光景を目にすれば警備員や守備隊であれば市民の平和と安全を守る為に声をかけざるを得ないだろう。
「失礼しました!! 貴方があの凰樹さんとは知らず……」
「この責任は自分にあります。もし責を追う場合部下は見逃して貰えませんでしょうか?」
「まあ、気にしてませんし、そんな事を言うつもりもありませんので」
土下座でもしかねない様な警備員や守備隊の謝罪の言葉をたびたび聞きながら、凰樹はある程度市内を散策して様々な事に気が付いた。
まず、市内全体が再開発を行わずに必要な建物を増築した結果、街全体がまるで迷路のような形になっている事。
その為に商業地区や工業地区が混ざった形で存在する為に大きなスーパーの横に同じ様な大きい工場が建っていたり、学校の近くに歓楽街が作られていたりもしていた。
こんな状況では最初に建てられたであろう区域にはスラム街の様なモノや、裏社会で生きていた者が多く住み着いた場所がある事も予想されたが、今のこの居住区域ではおそらくそんな勢力を排除するだけの戦力的な余裕はないだろう。
しかし今後広島第二居住区域と合併を行えば、多くの守備隊員や防衛軍の兵士が投入されてそのスラム街は一掃される事は間違いなく、そこに巣くっている外道どもは一人残らず逮捕されるかその場で射殺される事は間違いない。
「これでも他よりマシって話だし、首都とうちの居住区以外はかなりひどい状況なんだな。そりゃ食料の生産どころじゃないだろう」
食糧の生産については海岸沿いを結構な広さで確保している為にそこから得られる海産資源と、ビルを改良した植物育成プラントのおかげで最低限の食料品を確保する事が出来ている。
しかしそれでも十分な量とは言えず、この街で遅くなった昼食をとろうとした凰樹が食堂などを利用する事を諦めたほどだ。
食堂などの入ったビルもすでにボロボロで、おむすび一つが千ポイント以上する所も多く、とてもではないが余所者に提供するコメなど一粒たりとも存在して無さそうだからだが……。
この広島第三居住区域でさえあいている土地は殆ど無く、主要道路以外の土地にはビルが立ち並び、学校などもビルの区画を利用して存在していた。
広島第二居住区域の様に学校が昔の形を保っている居住区域は少なく、今となっては一定以上に土地に余裕が無ければそこにビルを建設してその中の一部を学校として開放して貰える程度の物でしかない。
学生寮に至っては一人部屋など逆立ちしてもあり得ない状況で、四人部屋や六人部屋まで存在するすし詰め状態な上に殆ど個人スペースの無い部屋まで存在していた。
そんな状況で勉強など出来る筈も無く、この辺りであっても多くの学生は出来るだけ遅くまで学校で勉強して学生寮には寝に帰るだけだった。
「こんな状況じゃ、近場の環状石でGEが大発生した時に守りにくいな。大型の対GE用結界発生装置はあちこちで見かけたけど、アレも絶対って訳じゃないから」
対GE用結界発生装置は年々進化しているが、割と高価な上に街全体を守るとなると莫大な数が必要になる為に重要拠点などの周辺に最新鋭の物を設置し、そこまで重要では無い場所には旧式を移設する場合も多い。
小型GEによる数での圧殺戦法は広島第二居住区域などの装備が一定上の地域以外ではいまだに有効な戦法で、今でも日本全体で月に数ヶ所は甚大な被害を出し続けている。
環状石は当然破壊出来ないとしても、拠点晶の破壊にも苦労している居住区域はまだまだ多く、この一点だけを見ても広島第二居住区域の住人達が如何に恵まれているのかが分かるというモノだ。
「市内の観察はこの位で良いな。それじゃあ来た道を戻るか……」
あまり道路状況が良くないので気乗りはしなかったが、来た道を戻る以外には高速道路を通るしかなく、高速道路を通るには結構離れた場所の合流地点まで走る必要があり、そこまで行く位であれば元来た道を走った方が時間の短縮になる事は確実だ。
凰樹の乗っているバイクはエンジン内部や駆動系に氣を供給するシステムが採用されている為に、異常な量の氣をその身に宿している凰樹が運転している時に限ってではあるが燃料切れという事は無い。
「全速ならそこまで掛からないが、今は捜索活動中だからそこまでとばせないか」
上空にはまだ捜索を続けるヘリが多数展開され、リングの信号を頼りに救出されていない人を探し続けている。
広島第三居住区域のAGEなどは救助活動を二の次にして残された拠点晶産の高純度魔滅晶の捜索を続けており、現場はかなりカオスな状況に陥っていた。
広島第二居住区域であればこんなことは日常茶飯事な為にそこまで血眼になって高純度魔滅晶を探したりはしないが、今回が初めてな広島第三居住区域のAGEや守備隊たちはこの幸運な状況を最大限に活用する為、AGE登録をしてい無い者まで駆り出して奪還区域に散らばっていた高純度魔滅晶等を掻き集めていた。
「あさましいというか、貧すれば鈍するとい言った所だな。人命救助が先だろうに」
今回の依頼でも千億ポイント以上は確実に入手する凰樹と違い、三世代以上前の旧式の特殊トイガンと低純度弾で活動を続けている様なAGE達とは比べられる筈もないが、それでもこの有様は見ていて呆れる程だった。
彼らの手持ちの端末には所属するAGE事務所などから緊急用の警告音が鳴り響いており、その端末に捜索要請の通知が届いている事は間違いなかった。
凰樹の場合は所属が広島第二居住区域になっている為にAGE事務所から捜索要請が届く事は無く、今回はその環状石の破壊自体が凰樹の功績という事もあり、所属していたとしても捜索活動まで手伝えなどと言われる事など無いのだが。
「行くか……」
凰樹はバイクのスロットを絞り、一応法定速度を守ってその場を走り去った。
今の状態では速度を押さえる事がひと苦労ではあるが、それでも出来る限り速度を押さえようと必死で氣の制御を続けていた。
「なんだアイツ? 足元に転がっている高純度魔滅晶に気が付いてただろうに」
「馬鹿!! あのバイクとか姿を見て気が付かないのか。あの人が凰樹さんだよ!!」
「え? あの人が世界最強で伝説のレジェンドランカー? ……もう後姿も見えないか」
凰樹はバイクの目の前に転がっている大型GEや拠点晶産の高純度魔滅晶ですら拾おうともせず、周りの状況に注意しつつバイクを走らせるだけだった。
走り去った後には少しのあいだだけ黄金色の氣が残されていた為、初めてそれを目にするAGE達はその不思議な光の粒子を消えるまで眺めていたという……。
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