文化祭へ向けて
この話から新章になります。
今回は文化祭など学園生活がメインの章となります。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月十二日、午後四時三十分。
永遠見台高校の本館九階にある大会議室には各部の部長とクラス委員が勢ぞろいしていた。
永遠見台高校は正門から正面、グランドを挟んで中央に建つ十階建ての本館と呼ばれる各学年のクラスがある校舎と、正面右側にあるGE対策部用の巨大な部室と呼ばれている建物、向かって左側に部室や音楽室など選択授業などを行う為の別館と呼ばれる校舎が存在する。
体育館は別館の更に奥に建っており、学食と購買部の売店は食堂は本館の裏手に建てられている。
各学年の教室の他にも職員室、当直室、生徒会の本部や放送室なども本館に存在し、大きな行事などではこの本館にある大会議室などで話し合いが行われていた。
今回の会議の目的は今年度第一回の永遠見台高校文化祭の為の話し合いだが、開始直後から既に暗雲が立ち込めていた。
議長は文化祭実行委員長、二年A組の搗本優衣で生徒会からは副会長の喜多川麗子が文化祭実行委員のひとりとして参加している。
AGE系の部とそれ以外の部は格差のある部費などで対立する事も多く、稀に手を組んで暴走する時もあるがその時は毎回生徒会と風紀委員が全力で鎮圧に乗り出していたからだが。
一年特別A組からは神坂、ランカーズからは部長で隊長の凰樹が忙しい時間を割いて参加しており、他にも瀬野を初めとした一癖も二癖もあるAGE系の部長たちが顔を揃えていた。
各クラスや各部の動向に注視しつつ、生徒会と文化祭実行委委員で行われた【文化祭のテーマと出し物について】、厳正に行われた投票の結果がホワイトボードに書かれている。
「えっと、今回の文化祭のテーマは【食と行楽】という事で決まりそうですね。この広島第二居住区域がかなり平和になっている事と、この先GEをこの国から駆逐しきった後に再び子供たちが笑って過ごせるような文化の再発掘という事です」
「そう……なりました。生徒会としては不本意ですが」
ホワイトボードには各クラスや部などから出た様々な案が書かれていたが、投票の結果【食と行楽】という結果に決定した。
これには色々裏があり、調理部の駄女神こと鹿波美雪や調理部の氷の妖精と呼ばれる井野上涼子、砂糖の妖精と呼ばれている芙実月杏子など強力な人材を擁する調理部部長の夜篠碧依がAGE系の部や弁当購入者に「文化祭のテーマが『食と行楽』に決まれば、うちの部は食の部分で真価を発揮できるんだけどな~」と言いながら出品予定のメニュー表をばら撒いて籠絡した事も理由の一つにあげられる。
調理部部長の夜篠は歴代でも類を見ない程に人心掌握術や謀略に長けており、鹿波に手を焼いているふりはしているが、実のところ重要な事以外では手の平で踊らせているだけだったりもする。
瀬野を初めとするAGE系の部の部長も、生徒会が提案した【滅亡の危機にある広島県の産業と文化について~】などというお堅いテーマを潰す為、あちこちに手を回して学食の特券や様々な情報を餌にして【食と行楽】に投票させるように動いてもいた。
結果二位の【花と緑の文化祭】に十倍以上の差をつけて【食と行楽】が文化祭のテーマに決まったという話だ。
生徒会の提案した【滅亡の危機にある広島県の産業と文化について~】にいたっては風紀委員など生徒会や下部組織が投票しただけで、僅か七票という散々な結果に終わっている。
「公平な投票の結果で決まった事だ、この『食と行楽』のテーマで行うのが筋だとは思うが」
「わかっています!! もう少し文化的な催しをしたかっただけです」
「あと開催期間は例年通り十月の七日から十日までの四日間で開催され、九日と十日は一般開放日になっています。一般の参加には例年通り入場チケットを販売しますが、今年は様々な要因から高騰する恐れがあります。しかし、当校の生徒による買い占めや転売などの行為は控えて頂ければと思っています」
喜多川にも考えがあり、今回の文化祭には凰樹輝を初めとするランカーズ目当ての来場者が多数訪れる事は確実で、実際、実験的に先駆販売した永遠見台高校の文化祭入場券はネットでは馬鹿みたいな価格で取引がされている。
最初に購入に成功した者がネットオークションで転売をはじめ、高校で行われる文化祭の入場権が最低十万ポイントからオークションが始まり最終的には数十万ポイントまで高騰する様は、そのチケットを裏で手にした者には笑いが止まらないに違いない。
そんな事情がある為、本年度の文化祭に喜多川は出来るだけ文化的なテーマを掲げたかったのだが、その情報が事前に漏れたのがすべての敗因だった。
「食に関してですが、屋台の出店や各クラスでの販売には数に制限を予定しています。三年生に優先券がありますが、一年、二年共にも十分な枠を用意する予定です」
「流石にそこは考えられているな。流石に最後の年に出店を出せないのもかわいそうだしな」
生徒数が千三百人、その上で外部からの来場者もいるとなるとかなりの売り上げが期待できる。
既に調理部などは売り出す料理などの材料調達の手続きまで済ませており、売上総額は予定通りなら歴代最高益になると予想されていた。
「食は良いとして、行楽とかは何が当てはまるんだ?」
「遠足やキャンプ、遊覧、その他のレジャー等ですね。確かに今となっては廃れた物も多く、思い出すにはいい機会かもしれませんが」
「昔、アスレチックランドという施設もあった。木や綱などで作った遊戯施設だが、自然と触れ合える上に身体を動かすのに丁度良いと、環状石からGEが出現するまでの時期には大いに賑わっていたそうだ」
アスレチックランドは八十年代初頭に流行した遊戯施設だが、入場料すらとらない様な簡易な物からしっかりと設備を管理された有料の所まで様々で、最盛期には何処も大いににぎわっていたという話だった。
GEの出現でほとんどすべての施設は破壊されるか取り壊されて、貴重な土地を活用する為の他の建造物に姿を変えている。
「確かに今はそんな施設見当たりませんね。遊園地や動物園なども閉園したり縮小されたりしていますし、平和だった時期のレジャー施設などの資料を探すのもいいかもしれません」
キャンプにしてもそうだが、ほんの少し前には自然と触れ合える場所など殆ど無く、何処かに花見やピクニックに行くだけでもひと苦労する程だった。
この広島第二居住区域で広大な居住区域や奪還区域がある為に最近ではあまりそういった息苦しさは無いが、いまだに猫の額の様な居住区域にびっしりと高層ビルを築き上げ更に地下にも開発の手を伸ばして迷宮の様な地下街を作りそこでなんとか暮らしているような人達が存在する事を忘れる訳にはいかない。
「よく考えてみれば確かに文化祭に相応しいテーマかも知れませんね。それでは週末までに各部やクラスでの出し物などの申請用紙を提出してください」
「出し物か……」
「一年特別A組とランカーズに関しては学校側から様々な制約を設けさせて頂きますが、校内の安全や平和の為に協力いただけると信じています」
氣対応型の武器をはじめ装備一式は展示する事を禁止され、軽食系の販売は許可されているがあまり大掛かりな物は認めないと書かれていた。
盗難の可能性もゼロでは無いし、もし仮のそうなった時に学校側に責任が追及される事を恐れたからだが。
そしてランカーズのメンバーでメイドカフェなどでもしようものなら教室の外から廊下の端まで行列が出来る事は確実だ。
そんな事になれば流石に他のクラスにも迷惑がかかる上に文化祭期間中を通して各地で大混乱が巻き起こる事だろう。
「伊藤に出店で特製ドリンクでも売らせればいいのか?」
あまりに制約が多い為に出来そうなこととして例を一つ上げた神坂に対して何も知らない喜多川は「え? 別にそれでも……どうかしましたか?」と答えて不思議そうな顔をしていたが、周りのAGE系の部や一度でもそれを口にした者達から聞こえる「待ってくれ。それはちょっと……」、「各方面からのクレームが……、保健室がえらい事になるから」といった声を聴き、AGE系の部員からその真実を告げられて顔を青くした。
「ちょっと待ってください!! そんな危険なドリンクの販売なんて……」
「いや、アレは少し飲みにくいが、生命力が少しだけ回復する身体にいいものなんだぞ」
神坂をフォローするつもりで凰樹は発言したが、その発言に今までそのドリンクを口にした者は顔を青くしていた。
「あれ飲めるの伊藤さんと凰樹さんだけだよな?」
「伊藤狙いの奴が爽やかな顔であれ飲んで、そのまま気絶した話を知ってるぞ」
「コップ一杯飲めたら勇者って話があるけど、あれ一口以上はきついよな」
など、今まで伊藤の容姿や普通に飲む凰樹の姿に騙されてそのドリンクを口にした犠牲者たちは、あれが売りに出される様子を想像し全員顔色を真っ青にしていた。
凰樹と友好的な関係になりたい者やランカーズに憧れる者の多くがそのドリンクを購入する事は簡単に予測され、その結果どんな地獄絵図が其処に展開されるか想像しただけで背筋に冷たい汗が伝う程だ。
大人だけならばまだ見ていられるが、ランカーズに憧れる純朴な少女辺りが笑顔で購入しようとするのを全力で止める周りの学生という構図はあまりみたい光景では無い。
「もう少し規制の緩和をしてくれればこちらも譲歩位しても良いんだけどな」
「あ…後で条件を改めて提示しますので、その……」
「建設的な話し合いに出来ると信じてるぞ」
伊藤に対して失礼な事だが、特製ドリンクについては一部の生徒にはトラウマとして心の奥に刻み込まれており、AGEに所属する彼らがもし回復剤を必要とした時には特製ドリンクの僅かな生命力回復効果にかける位ならば入手困難とはいえ正規の回復剤を手に入れる事だろう。
現在は広域に安全区域が広がっている為に学生AGEでは移動手段がなかなか確保しにくい事もあり、最近では既に安全区域となった元支配区域を回って放置されている魔滅晶や高純度魔滅晶を探し回っている部隊が殆どだった。
その為戦闘での生命力消費のリスクは無く、何か問題があるとすれば同じ様に高純度魔滅晶拾いをしている他の部隊と口論や暴力沙汰になったりする時だが、その場合の多くは人間同士のけんかで終わる為に生命力に影響はない。
◇◇◇
「で、結局なにをするの?」
「話し合いの結果、特に制限はないがメイドカフェなどは勘弁してくれという事になった」
「まあ、うちのメンツがメイド姿になったら校外まで行列が出来るに決まっとりまっからな」
「もう、龍耶ってお世辞が上手なんだから~」
「事実だと思うっス。特にゆかりんや荒城さんの……いえ、何でも無いっス」
胸が小振りな私達はお呼びでは無いと? と言いたそうな氷点下な眼差しで楠木と宮桜姫が霧養達を見つめていた。
「一番勧められたのは今までの戦闘記録を映像作品として上映して欲しいって事だったんだが、まあ、今まで何度もTVで放映されてるし今更感はあるよな」
「それやけど映像用機体とかの大掛かりな準備は流石に無理でっせ。アメリカで凰さんがやった所はまだ放送されてへんから、もし仮に流すんやったらあの辺りでっか?」
「そろそろ氣の情報も流れ始めてるからいまだとそれ程は機密ってほどでもない。だいたい輝の身体から出てるそれを見て首をかしげてる生徒も多いんだぞ」
凰樹の身体からは制御していても割と最近は時折金色の氣の粒子が幾つか漂っている事が多い。
これは氣の回復による余剰分が体内に溜めきれずに外部に放出されているだけなのだが、超がつく程高出力の氣粒子を勿体ないなと思っている人物も何人か存在する。
防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵達や武器技術研究部部長の沢姫真優とランカーズの窪内龍耶がそうで、「アレをなんとか保存できればカートリッジの開発が出来るんだが」などと考えられていた。
「上映を無料にするか有料にするかはともかく、受けは良いだろうな。一部の映像をカットしてあのアラクネ型W・T・F戦も良いとは思うっス」
「私達の裸とかをカットしてくれるならいい事だと思いま~す。W・T・Fの脅威を知らせる意味も大きいで~す」
アラクネ型W・T・F戦でのホテル軟禁後の事ではあるが、クリスティーナは一応正式にランカーズの一員として登録されている。
ホーリーバインドなどの特殊スキルなども含めて戦力として認められたからではあるが、胸の大きさに圧倒的な差のある楠木と宮桜姫辺りはあまり歓迎はしていなかった。
その辺りの事情はともかくとして、リビングアーマー装備のアラクネ型W・T・F戦の情報はそこまで流れておらず、ランカーズのメンバーにすら強敵と呼ばれたその能力は一見の価値がある映像に仕上がる事だろう。
「アメリカの赤竜種W・T・Fの映像は、撮っとる凰さんの動きが早すぎて米軍提供分しかないのが難点やけどな」
「あの氣対応型スワットモチーフ特殊ヘッドギアにはかなり高性能のカメラが内蔵してた筈だけど、それでもダメだったのか?」
「基本動きがマッハやからな。音速対応しとる大型のカメラでもない限り無理やろ」
ランカーズの戦闘中は周りの仲間などに配慮して速度を押さえているが、単独で行動させると何処まで速度を上げるのか分かったモノでは無かった。
戦闘速度の最低マッハも画像の映像から割り出せただけで、たまにそれでも凰樹がどの位の速度で動いているのか分からないシーンも存在している。
「それじゃあ、ランカーズの出し物はそれで決定?」
「そうだな。俺達は特に文化祭で部費なんかを稼ぐ必要が無いし、他の部やクラスの出し物を回るのもいいかもしれない」
「そうですわね。でしたら輝さん、一緒に私と文化祭を回りませんこと?」
「ちょ……抜け駆けはずるいよ!!」
「そうで~す。こういった事はきちんと決めるべきで~す!!」
「私だって独占したいけど、ここは曜日ごとって形にわけない?」
開催期間は四日。
凰樹狙いの荒城、楠木、竹中、宮桜姫、クリスティーナの五人だと誰か一人は貧乏くじを引く事になる。
「ちょっと待ってくださ~い。それだと誰か一人があぶれてしまいま~す」
「クリスは遠慮してくれるよね?」
「NO!! 無暗に胸の大きなライバルを敵視するのは感心しませ~ん」
クリスティーナは大きな胸をみせつける様に大きく揺らしながら、アメリカ人らしい大きなジェスチャーで両手を広げながらそう言い放った。
「喧嘩……売ってる?」
「では此処は胸の大きい順で決めましょ~。これなら公平で~す」
「くっ! あ…あの胸を削れれば……」
持つ者と持たざる者の戦いは熾烈を極めたが、クリスに及ばないまでも十分に胸の大きい竹中、荒城辺りはその徴発を聞き流していた。
「輝の選択権は無いみたいだな」
「以前みたいに公平にカラオケで勝負すればいいだろう。文化祭を誰と見て回るか決めるだけだろ?」
事態を収拾させる為、当事者である凰樹は一応解決策を提示してみた。
別に当日はこれといった予定も無い為に誰とまわろうとそこまで問題無い為だが、この提案に凰樹がOKを出したと理解した荒城たちは刹那のアイコンタクトで一時休戦を了解し、この場での争いを即座に止めた。
この場で下手に言い争いを続けた結果、凰樹が「俺は一人で回るから」などと言いだしても困るからだ。
「輝さんもそう言っていますから、公平にカラオケで勝負しますの」
「そう……だね。ルールは?」
「フリータイムポイント勝負でいいんじゃないかな?」
クリスティーナの歌唱力は未知数だが、あのカラオケの癖を知らなければ余程の事でもない限り敗北は無い。
そう考えた荒城たちの暗黙の了解の結果だった。
「OKで~す。私も歌には少し自信がありま~す」
「だったら大丈夫だね。じゃあ時間はあるから十九日あたりに行かない?」
「そうですわね。その日でしたら問題ありませんわ」
ランカーズのメンバーでアイドル好きの神坂だけがクリスティーナの従妹がガンナーガールズのメインボーカルの文華=アディントンという事を覚えていた。
そしてその日、女性陣の全員がクリスティーナの歌唱力と適応力を甘く見ていた事を後悔する結果となった。
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