英雄の帰国
この話でこの章は終わります。
楽しんで頂ければ幸いです。
今まで行間を開けていただけの場面転換に◇◇◇の記号を入れて有ります。
九月十一日、午後七時三十分。
凰樹輝を乗せた特別機はアホウドリ型W・T・Fと遭遇する事無く新広島西飛行場に到着した。
この時代、飛行機の航路は国際線など殆ど存在せずに殆どすべてが国内線だったのだが、諸事情もありこれから先はこの新広島西飛行場とアメリカを繋ぐ定期便が出来そうな雰囲気だ。
アメリカを朝二時に出発したにも拘らず十四時間以上の時差と飛行時間の為に、こんな時間に到着する事となった。
「ようやく着いたかって、なんだあれ?」
飛行機から降りた凰樹を待ち構えていたのは高そうなカメラを構えたマスコミ陣と、帰国を労う県知事の黒佐季基成、対GE民間防衛組織事務所の所長である影於幾之滋などがずらりと顔を並べていたりもした。
対GE民間防衛組織などから撮影許可を取っているらしく、凰樹の姿を確認した瞬間凄まじい数のストロボが焚かれていた。
既に日本国内にもレベル七赤竜種型W・T・Fの撃破と単独による二十もの環状石の破壊により首都ワシントンD.C.の大規模奪還などは伝えられており、アメリカでも前人未到の大活躍をした凰樹の写真が明日の朝刊を飾るのは間違いなく、もしこの場にいるカメラマンが撮り逃しましたなどと報告すれば翌日まで首が繋がっているか怪しい位だ。
「凰樹さ~ん。目線お願いします!!」
「初めての国外でしたが、何か印象に残った事などありませんか?」
「ワシントンD.C.では大活躍でしたが、アメリカに五十億ドルも寄付したって話は本当でしょうか?」
何か一言でもコメントが貰えれば各新聞社やTV局内で表彰される事はもちろん、今後の出世に大きく影響を及ぼす為に集まっていたマスコミ陣からの質問などが辺りにこだましていた。
「あの腰の小太刀が例の穿空天斬だ!! カメラマン撮り逃すなよ」
「アレがW・T・Fを二体も葬ってるって噂の……」
凰樹が使う事が前提ではあるが、事実上世界最強の武器でレベル三とレベル七のW・T・Fを葬った穿空天斬も大人気で、一部のホビーメーカーではクリスマスや正月商戦向けに防衛軍に許可を取ってよくできたオモチャまで売りだそうとしている程だ。
当然カメラマンも凰樹を一緒に一番いい角度での写真を望み、隣り合わせた他の新聞社やTV局などと激しいバトルを繰り広げていた。
人ごみとは別方向から出迎えとして黒佐季と影於幾が近付き、凰樹の肩を叩きながら帰国を喜んでいた。
また、黒佐季は次の県知事選の為のパフォーマンスも兼ねており、各新聞社などには「一番前の列は私と彼が並んでいる写真を使って貰えないだろうか?」などと話していたという……。
「いや~よく帰国してくれた。君があのままアメリカに留まるかもしれないとひやひやしていたよ」
「まさか、今回の一件は三日の遠征許可に過ぎませんからありえませんよ。やらなきゃならない事も多いですし」
やらなければならない事とは当然母親と姉の救出だが、三日のアメリカ遠征中に事態はほんの少しだけ好転していた。
「故郷のレベル四ですね。実はこの三日で色々ありまして道路の整備や石像の回収は割と早めに終わりそうです」
「石像の回収も?」
「はい、防衛軍の協力で拠点晶の破壊と石像の回収が急ピッチで進められていまして……」
これには裏があり、アメリカ政府からの強い要望があったからだ。
凰樹が遠征を渋る理由として母親と姉の救出がある事に気が付き、石像の回収辺りまでは済ませる様に圧力をかけてきたせいで、アメリカとは友好的でいたい政府閣僚からの要望で防衛軍に拠点晶破壊命令と広島第二居住区域に道路などの整備も命じていた。
「いつごろまでに完了しそうなんですか?」
「それでも相手がレベル四という事もあり手間取っていまして、今回は特殊機動小隊などが参加していない上に地元の防衛軍だけでの作戦行動な上に道路の整備なども並行して行っている事も災いして……。今月いっぱいかかる予定ですね」
「と、なると環状石破壊はその後……、十月の頭か」
「そうなりますかな。しかしその時は広島第一居住区域とほぼ隣接する形になります」
故郷のレベル四さえ潰してしまえば広島第一居住区域と間にある環状石の数は僅かに三つ程だ。
その殆どはレベル五なのだが、それを排除すれば二つの居住区が完全に繋がり、一般道路などだけで往復が可能になる。
そうなれば物流や食糧関係も更に改善され、北海道などで奪還された広大な農地を別にすれば日本で一番大きな居住区域が誕生する事となる。
「いずれ広島県全域を奪還できるでしょう。離島とかが難しいですが」
「瀬戸内海の離島については結構な比率で奪還されていますから問題無いでしょう。あまりにも小さな島は放置されていますが」
瀬戸内海は特殊トイガンと特殊ランチャーが開発された後、かなり早い段階で低レベルの環状石が破壊された場所でもある。
離島にはひとつかふたつしか拠点晶が無い場合もあり、孤立化させるのが楽だったからだ。
「では問題はレベル七ですね」
「ああ、あの街が奪還されるのは防衛軍の悲願でもある。彼らも協力を惜しまないだろう」
レベル七の環状石が支配している嘗て数十万人という人口で満ちていた街の名は呉。
旧海軍の頃より軍港として有名で、大きな商店街のある都市だった。
しかし、今は広島県内で最高レベルの環状石に支配され、完全に廃墟に変わっている。
初期の特殊ランチャーなどの装備でなんとか港から続く幾つかの拠点晶の破壊に成功して製鉄所など重要拠点へのGEの侵攻は阻止したものの、製鉄所で働く社員への社宅などをその周辺に無理矢理増築し、食料品など生活必需品は船便で纏めて届けている有様だ。
防衛軍も今は海岸線を死守するだけで精一杯で、市内までは手が回らない状況を悔やんでもいる。
今まで何度か奪還作戦も持ち上がったが「他に奪還しないといけない土地は多いだろう」という意見が出た為に、その度に作戦は先送りにされているという。
「防衛軍のプライドよりも各地の住宅問題や食糧事情の方が大事って訳ですね」
「まあ、仕方ないだろう。うちはかなりいい方だが、いまだにギリギリの運営状況な居住区域も多い」
「自由と平等を旗印にしているアメリカ方式も悪くは無いんだが、それを最初に導入して滅んだ国も多いからな」
GEが世界中の国を襲い始めた当初、アメリカ式で国内の食糧等を公平に分配していた国も結構な数で存在した。
日本も最初は同じ様な政策をとっていたが、『力を持つ誰かが戦えばいい』『多少窮屈でも別に俺達は生きていければいいから』『ヤバくなれば引越せばいいだろ』などと、GEと戦いもせずに大量の物資だけを要求する自治体も多くあらわれた為に、最終的に居住区域ごとの採算制がとられたという事情もある。
努力しても力が及ばない県や居住区域には防衛軍が援軍を送る事も多いが、碌に守備隊も編成せずに逃げ回って援軍要請を繰り返す居住区域などには「GEと交戦の意志が確認されず、まずはその手に銃を持って勇気を示す事を望む」という一文と共に数世代以上前の装備を送り付ける事もあるという。
十年程前までは割とゆるかった他の居住区域への移住等も近年ではほぼ不可能となり、余程の事情が無い限り永住許可などが発行される事は無かった。
広島第二居住区域へは電車が使われ、駅からはパトカーの先導車付きでランカーズ専用の住宅街まで移動する事になった。
◇◇◇
九月十二日、午前八時十分。
永遠見台高校の一年特別A組には十人の生徒が揃っていた。
霧養も家が近くなったことと毎朝起こしに来てくれるメイドさんの存在もあり、最近では遅刻寸前なんて事は無くなっている。
「で、留学はまだ続くのか?」
「What? 何か問題がありますか?」
「いや、あのレベル七赤竜種型W・T・Fの討伐依頼の為の留学だったっスよね? だからまだいる事が不思議だっただけっス」
クラスには相変わらずクリスティーナが出席をしており、今回の一件で帰国すると思っていた楠木や宮桜姫はあからさまに不満げな顔でその大きな胸を見つめていた。
「Yes!! 確かに私は輝にあのレベル七赤竜種型W・T・Fの討伐を頼む為にも留学していました。しかし、その任務は失敗した為にこのまま手ぶらでは帰国なんてできませ~ん」
「新型の武器とかが目的か? まあ、俺はガンナーガールズと話すネタが増えるからいいけど」
「新型の武器は交渉でライセンスを買い取ったって聞いてま~す。今持ち帰っても土産にはなりませ~ん」
アメリカ政府……、というよりも国防省長官であるデーヴィッド・アトキンソンが最後まで実力でのレベル七赤竜種型W・T・F排除にこだわっていた為に防衛軍と氣対応型M4A1改弐完全調整版のライセンス契約を結んでいる。
今後氣対応型カートリッジ方式内蔵M4A1改参完全調整版が開発された場合は、追加で幾らか払えば同じ武器をアメリカ国内で量産する事も認めている。
「じゃあ土産ってなんやろか?」
「俺の装備もアメリカで散々調べられたからな。俺以外は使いこなせないって結果も出ている」
氣対応型スワットモチーフ特殊BDUスーツとヘッドギアに至っては、予備をそのままアメリカ国内に進呈されている。
これは防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵も了承済みで、「予備位置いて行ってもかまわんよ。どうせ使いこなせまいて」などと氣の数値が万に届く人物など居る筈も無いアメリカでは無用の長物になるだろうという事まで予測されていた。
「装備なんてお粗末な物ではありません。それは輝、あなたで~す!!」
「え?」
「輝さんですの?」
「どういう事だ?」
クリスティーナはポケットから小さなメモリーカードを取り出し、それを凰樹に見せた。
それがなんであるかを凰樹はひと目で見抜いたが、今となってはそれがもう無用の長物である事は分かっている。
「あの時、輝は私がこの映像データを渡さなかった事を黙っていてくれました。もしその事がバレていれば私は任務放棄で強制的に帰国させられたかもしれませ~ん」
「帰国すればよかったじゃない」
「そうですわ。輝さんを騙してアメリカに連れて行こうとしたなんて許せませんわ」
宮桜姫や荒城などはあからさまに嫌悪感を顔に出して、クリスティーナがこのまま留学する事を歓迎してはいなかった。
凰樹に好意を抱いているかいないかは別としても校内の女生徒は大体そうで、主にその大きな胸が原因とはいえ意中の男性がいる者などは好意的になれる筈も無い。
「あの時は討伐する気も無かったからな。それに、その事を話したところでクリスの立場が悪くなる以外の変化はない。必要な事でなければ黙っている方がいいだろう?」
「それでも、出会って僅か数日の私の事を庇ってくれた事は嬉しかったで~す。私のハートはあの時輝に奪われました」
「あきら、返品。熨斗付きでね」
竹中がそう言い、楠木達は全員頷きながら同意した。
「ひっどい言われようで~す!! 乙女のハートは返品なんてさせませ~ん」
そういいながらクリスティーナはその大きな胸で凰樹の頭を挟み込んだが、好意百パーセント&物理攻撃力はゼロなのでシールドは発動しなかった。
まあ、普通はそれを食らえば男性に対して絶大な威力があるのだが……。
「そろそろやめんとシールドが発動するぞ」
「Oh!! 今日はこの位でやめておきま~す」
極薄い物理攻撃遮断用のシールドは常に展開されているが、それが無意識下で魔弾の様に変化して目の前の目標を排除しようとしている。
触れた後は何とかシールドを強制的に抑えていた凰樹も、息がし辛いという理由で目の前の目標を弾き飛ばそうとして半強制的に発動しようとするシールドの制御がそろそろ限界に達しようとしていた。
「あのアピール方法は十秒が限界。覚えた」
「紫も覚えなくていい!!」
クリスティーナと同じ様なレベルの胸を持つ竹中と荒城は密かにその限界値を覚え、今後のアピールに役立てようと考えていた。
「紫はともかくそんなプリティな胸だと、押し付けたら硬くて痛いに決まっていま~す」
「す……少し大きいからって!! 私の胸だって今から大きくなるに決まっています」
「胸の成長はだいたい十四歳で決まるらしいっスね」
「そんな話を聞いた事がある……、いや、可能性を信じようじゃないか」
氷点下どころか絶対零度を思わせる宮桜姫や楠木の視線を感じ、霧養と神坂はその口を噤んだ。
わざわざ虎の尾を踏みに行く勇気は称賛されるかもしれないが、それは蛮勇というより愚かな行為でしかなかった。
クリスティーナの留学からはじまった様々な大騒動、しかし、これはまだ新学期に巻き起こる波乱の序曲に過ぎなかった……。
読んで頂きましてありがとうございます。




