脅威!! レベル七赤竜種型W・T・F
アメリカでの赤竜種型W・T・F戦になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月九日、午後二時三十分。
凰樹輝はアメリカ本土のある州に存在する廃工場跡から一キロほど離れた場所にいた。
九月九日にアメリカが用意して政府専用機でアメリカ副大統領のフォルクマール・ベーレンドルフなどと共に新広島西飛行場から直接アメリカ本土まで飛び、そして僅かな休息の後に大急ぎで討伐準備を行っての強行軍だ。
赤竜種型W・T・F討伐の手段として凰樹を頼ったフォルクマールに対して、国防省の長官であるデーヴィッド・アトキンソンはあからさまに不満そうではあったが、現状国防省にはあの赤竜種型W・T・Fを討伐する有効な手段が何ひとつ無いのも確かだった。
天候は運よく晴れ、風も凪いでおり作戦決行の為の好条件が揃っている。
通常、特殊トイガンは風を受ければ普通の自動小銃などから放たれた弾丸より遥かに風の影響を受け、風が一定以上強ければ武器としては成り立たない程だ。
雨の時も威力が落ちる為、春先や梅雨時期などに活動を控える部隊も多い。
特殊BB弾を氣の力で光弾化させれば風や雨の影響はほとんど受けないが、視界が悪くなったりと良い事など一つも無かった。
特に今回は失敗の許されない戦いであるため、僅かでもマイナス要素は含まれるべきでは無い。
「思っていたよりも時差ってのが面倒だったな。出発した時間と作戦時間がほぼ同じってのは……」
「急がせて申し訳ありません。滞在時間や時差の関係で、すぐに作戦行動に移さないと様々なリミットを超えてしまいますので」
軍の特別機で此処までの移動を助けてくれたミック・クィンシー少佐がそう説明してきた。
時差だけでなく、実際には移動時間なども含まれる為に今回はかなり無茶な討伐スケジュールになっている。
とはいえ、凰樹がいつも仕出かしている事に比べればそこまで無茶では無いのだが……。
急いでいる理由は制限時間の関係だけではなく、アメリカ側は討伐後に凰樹を招いた晩餐会と勲章などを授与する準備まで進めている為だ。
帰国する際には更に十四時間ほど時計の針が進む為に、ここで無駄な時間を掛けて貰っては困るという事でもある。
凰樹の体調的には問題はないが、また同じ思いをして帰らないといけないのかと思うと凰樹としてはわりと気が重かった。
赤竜種型W・T・Fが身を潜める廃工場。
こちらの様子を知っているのか知らないのか、赤竜種型W・T・Fがあそこから動き出す気配は微塵も感じられなかった。
「あの廃工場にはもう石像は無いんですね?」
「はい、あの赤竜種型W・T・Fがこの街を襲うのはこれで三度目でして、最初の一回で住民は全滅、一度襲われた街ならば安心だろうと考えて集まってきた住人が襲われた二回目の後に石像は全部回収されています」
「三度目の人は?」
「流石に今回は誰もいませんでしたが、人的被害の代わりに廃工場地帯は完全に壊滅させられてあの有様です」
目の前の元工場地帯であった場所には殆ど人工的な建造物は無く、赤竜種型W・T・Fが身を潜めている大きな建物を除いて他にはほぼ何も無い状態にまで破壊しつくされていた。
この工業地帯はGEに襲われた直後に食糧や工業品の一大生産拠点として活躍し、その最盛期にはこの街で数十万人が働いていたといわれていたが今は見る影もなかった。
「腹いせですか?」
「まあ、GEの考えは分かりませんよ。それより、討伐は出来そうですか?」
「あのW・T・Fにもう隠し技が無ければいいんだけど……」
「何か問題が?」
「今までは攻撃すら通用していなかった。その為に正確な再生能力などがつかみきれていない。討伐が不可能とは言わないけど……」
赤竜種型W・T・F討伐に関して最新映像まで見た凰樹の懸念材料はそれだけだった。
攻撃範囲や飛行能力はそこまで問題では無く、むしろ少し位飛んでくれた方がリビングアーマー装備のアラクネ型W・T・Fと同じ手が使える分、確実に討伐可能なのにとまで考えている。
「とりあえず、奴はあの建物の中ですね」
「はい、それは間違いありません」
「建物自体も大きいけど、半壊してるし何とかなるか……」
凰樹の装備は最高純度弾が装填されたM4A1改弐と、氣対応型特殊小太刀壱式、穿空天斬が一振り。
僅かにこれだけである。
アメリカ軍やガンナーズが総力を持って戦った結果、既に四十万人以上の犠牲者をだし、壊滅させられた州に存在した町に住む人も含めれば五百万人以上という犠牲者を出している赤竜種型W・T・F。
国防総省の中では日本が隠し持っている超兵器か何かでハリネズミのように武装してくると予想していた者も多く、この僅かな装備であの赤竜種型W・T・Fを倒せるものかと陰口を叩く者まで結構な数で存在していた。
「一か八かでここから神穿波を撃つって手もあるけど、確実な方法を選ぶ方が無難か……」
この場所から最大出力の神穿波を撃つという手もあるが、直線上に多くの人口建造物がある上にもし仮に赤竜種型W・T・Fがそれに反応して、回避した場合にかなり厄介な状況になる為その手は使えなかった。
「さて、それじゃあ始めるか」
「ご武運を」
「直線で一キロか……。行くぞ!!」
アメリカ出発前に防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵から送られてきた黒を基調としている氣対応型スワットモチーフ特殊BDUスーツとヘッドギアは氣対応型のオフロードバイクと同じ様に氣をチャージして金色に輝き、音速を超えて移動する凰樹の能力を最大限まで引き出していた。
勿論、この装備も一定以上氣を身に纏っていなければ普通の装備となんら変わらず、金色に輝く事など決してない。
防御方面の性能もある程度以上の氣保持者であれば通常の装備よりは格段に上がるが、そうでない者であれば通常の特殊繊維を使った装備の方がはるかにマシだった。
当然、凰樹が使えばその真価をいかんなく発揮し、中型GE程度ではダメージを与える事はもちろん傍に近づく事すら困難で、纏われて発散される氣に触れただけで消滅する事だろう。
傍にいた案内役のアメリカ軍兵士はその姿と異常な走力を目にして『あの動画は本物だったのか……』などと呟いて、以前見た動画の映像を思いだしていた。
「目標を肉眼で確認!! 掃討開始!!」
M4A1改弐に氣を最大までチャージし、それを解放しながら赤竜種型W・T・Fの身体に容赦のない銃弾を浴びせた。
今の凰樹の力で強化された特殊BB弾は発射する前に完全に光弾化し、アニメで見る様な光り輝く銃弾と化して着弾と同時に半径十メートル程の大きな金色の破壊球を生み出していた。
「これでも削りきれないなんてなんて再生能力だ……、普通の部隊じゃ数世代どころか完全に別の武器じゃないとこいつと戦うのは無理だな」
赤竜種型W・T・Fの全長は二百メートル程。
凰樹の銃弾は着弾と同時にその身体を大きく抉り取ったにも拘らず、その傷は僅か数秒で何事も無かったのかの様に綺麗に再生されている。
おそらく、通常の攻撃ではこいつを削り殺す事は不可能だろう、そう判断した凰樹はM4A1改弐を背中に固定し、腰に下げていた穿空天斬を引き抜いた。
「コイツなら……。なにっ!! 身体の中に何かあるのか?」
今まで多くのGEを斬り刻んでいたハーフトリガー状態の穿空天斬が赤竜種型W・T・Fの身体の中にある何かに当たって止められた。
そのまま少し角度を変えて斬り抜いた凰樹の目に、見た事も無いような色の鉱石がほんの一瞬だけ映った。
「要石に似てるけど違う……、まさか守護石か? あれまで体内に取り込んでやがるのか?」
守護石はメイン鉱石の周りを取り囲んでいるレベルを示す特殊な鉱石だ。
守護している環状石のレベル次第だが大きさは二メートルから十メートル程で、環状石と同じ様に破壊不可能といわれている。
「あの守護石を避けて要石を破壊するしかない? いや、でもあのアラクネ型W・T・Fは神穿波で倒せた。という事はアレは言われているように砕けない訳じゃないのか?」
考えながらも何度も赤竜種型W・T・Fの身体を斬り刻み、反撃や逃亡の機会は与えない。
常に音速以上の速度で移動を繰り返す凰樹の姿を捉える事は困難で、身体を斬り刻まれ続けている赤竜種型W・T・Fでさえ、一体何が攻撃を仕掛けて来ているのか判断できないような状況だった。
戦況は膠着状態で一方的に攻撃を繰り広げている凰樹が若干有利だが、このままではいつまで経っても埒があかない。
凰樹の持つ氣が如何に無尽蔵でもそのうち底を突く可能性もゼロでは無い。
そう考えた凰樹は一旦更なる超高速で赤竜種型W・T・Fの視界から完全に消え、正眼に穿空天斬を構えて少し特殊な形で氣を特殊小太刀全体に満たした。
「神聖な十の剣!!」
霧養の分身を参考に、神穿波とは別の凰樹が考え出したもう一つの技。
神聖な十の剣は氣で作り出した金色に輝く十振りの穿空天斬を生みだし、それを目標に向かって放つというものだ。
脳内で目標を定めればそこに向かって突き進み、確実に目標を捉える凄まじい追尾能力も持ち合わせている。
神穿波に比べれば射程範囲は短いが、一点に対する破壊力や貫通力はほとんど変わっておらず、放たれた十本の特殊小太刀は赤竜種型W・T・Fの体内にある六つの守護石とシッポや頭部を深々と貫いた後で眩い光と共に爆散した。
その身に突き刺さった光の小太刀の爆散で頭部や尻尾を失い、そして身体中に赤黒い大きな穴をあけた赤竜種型W・T・F。
しかし今までと違って数秒経っても傷の再生は始まる事は無かった。
「再生力が落ちた。これなら」
無敵の再生力と広範囲の攻撃力を誇っていた赤竜種型W・T・Fは見る影も無く弱体し、抉り取られた傷はいつまでもそのままの状態で再生すら始まっていなかった。
今は赤黒い傷跡からその身体の中心に隠されていた要石を剥き出しにし、それを隠す事すらできない状態だ。
「コイツで……トドメだ!!」
ハーフトリガー機能で光の太刀と化した穿空天斬による斬撃。
それを正面から受けた要石は今度こそ真っ二つに斬り裂かれ、そして断末魔の悲鳴の代わりに眩い光と共に爆散した。
今までとは比べ物にならない程に巨大な光の柱が其処に作り出され、そしてその瞬間、四十万人の兵と一般人五百万を石像へと変えてきた赤竜種型W・T・Fはここに消滅した。
「終ったか。予想以上の強敵だったけど、得る物も多かったな」
氣対応型スワットモチーフ特殊BDUスーツとヘッドギアのデータ。
赤竜種型W・T・Fの体内に隠されていた守護石の存在。
新技である神聖な十の剣の実戦投入とその結果。
これだけでも十分だが、アメリカ政府からの依頼料である百二十億ドル。
そして世界初となるレベル七W・T・Fの討伐実績。
僅か十六歳の凰樹がアメリカで打ち立てたその功績は、今まであからさまな態度で接してきた一部の者の態度を一変させるには十分過ぎる内容だった。
◇◇◇
「討伐完了? 本当に彼はやってくれたのか!!」
「まさに奇跡でした。彼以外にあんな事は不可能でしょう」
同時刻、アメリカホワイトハウス内の執務室で赤竜種型W・T・F討伐完了という報告を聞いた副大統領のフォルクマール・ベーレンドルフは、その瞬間を喜ぶと同時に自身の大統領代理としての役割が終わった事を悟った。
本来の大統領であるアルフォンス・グッドオールが石化から復帰すれば元の副大統領という地位に戻る為に、最高権力者としての栄誉の全てが本来の大統領へと戻されるからだ。
「なんと声をおかけすればいいか……」
「いや、これでよかったのだ。私が大統領代理をするよりも、四十万人以上の勇敢な兵士たちや五百万人以上の国民の命の方がはるかに大切だ。それに私には副大統領の地位が似合っているよ」
「いえ、この難局を切り抜けられたのは副大統領の采配があればこそでした」
アルフォンス・グッドオールが石化したのは半年前。
それから半年もの期間、アメリカを復活させる為に方々に手を尽くして必要と思われる情報は全て彼の指示で集められた。
当時は日本のAGEでセミランカーに過ぎなかった凰樹の存在に気付き、そして山口で同種の赤竜種型W・T・Fを討伐したという報告を聞いた時から、ありとあらゆる手段を使って凰樹の情報を掻き集めた。
そして、もしかすればこの人物であるならば、赤竜種型W・T・Fを討伐し、この国を救ってくれるのではないか? そう考えたフォルクマールは全力で日本との交渉を行い、ひと月以上の時間を掛けてその上で多くの代償を支払って『僅か三日の遠征許可』という内容を勝ち取った。
周りにいる大臣クラスの連中には「僅か三日に払う代償がデカすぎる」「で、たったの三日でそいつは何が出来るんだ?」「百二十億ドル? どこからその金が湧いてくるんだ?」等、散々な言われ様であった。
しかし、赤竜種型W・T・F討伐完了の知らせを受けた瞬間、間違っていたのが誰なのか、そして、その奇跡を手繰り寄せる努力をしてきた者が誰なのかを悟っていた。
「彼を労う式典などの手配までが私の仕事だ」
「今日はこの後で祝勝会を兼ねた晩餐会を予定しております」
本来であれば料理人が精魂込めて作り上げたコース料理を振る舞うべきなのだろうが、今回は凰樹に配慮して様々な料理を用意した立食パーティーという形にされている。
それはまだ若く幼い頃からGE討伐にその身を捧げてきた凰樹に堅苦しいテーブルマナーなどを求めるのではなく、肩の力を抜いて全力でパーティーを楽しんでほしいという思いからだった。
「それもあったか。大統領は出席できないだろうか?」
「様々な検査もありますし、今日中の公務復帰は無理でしょう」
大統領であるアルフォンスだけでは無く、石化復帰者は全員病院などで健康診断などを予定されていたが、人数が人数な為に軍医などまで総動員して処置にあたっている。
食糧の配布や復帰者の住居への移送なども急ピッチで行われており、現場では石化から復帰したばかりであっても健康な者であれば自ら率先して様々な仕事に協力し、アメリカ人のフロンティアスピリッツといえる行動力と団結力を如何なく発揮していた。
「石化からの復帰した者たちへの食事や住居問題は?」
「それは以前から準備しておりましたので問題ありません。それと、赤竜種型W・T・Fが出現したレベル七環状石の支配区域が解放された為に、かなり大きめの居住区域が発生しました」
「副産物という訳か。まあ、副産物というには過ぎた代物だが」
レベル七環状石の支配区域ともなればかなり大きめの居住区域が誕生した事になり、その居住区域を開発する事が出来れば様々な問題が一気に解決する。
また、それは人類初であるレベル七環状石の破壊成功という偉業の瞬間でもあった。
「ただ、そこに繋がる環状石はまだ健在です」
「それはわが軍で何とかします。あの少年に、アメリカ人の実力を見せてやりますよ」
国防省の長官であるデーヴィッド・アトキンソンはそう言ってその場から立ち去った。
今後は彼の指揮で環状石破壊計画及び支配区域奪還計画が行われる事だろう。
「彼には感謝以外の言葉は無いが、それだけではまるで足りないな」
「本当に……」
副大統領を初めとする多くの人が、今は用意させた軍用機でワシントンD.C.に向かっているであろう凰樹の事を考えていた。
読んで頂きましてありがとうございました。
誤字指定など助かっています。




