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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
波乱の新学期編
74/98

アメリカからの留学生 四話

前話の続きです。

楽しんで頂ければ幸いです。


 九月三日、午後二時三十分。




 部室前にある広場に凰樹(おうき)達九人と留学生であるクリスティーナが集まっていた。


 全員いつも作戦で使っている装備に着替えていたのだが昨日の話の流れで察したのかクリスティーナも自前の装備を持って来ており、その姿にほぼ全員驚いていた。



「カラフルでんな」


「GE相手に迷彩や地味なネイビーカラーは意味がありませ~ん。それなら、こういった格好の方がやりやすいで~す」



 一瞬、赤や青を散りばめたカラフルなボディアーマーだと錯覚したが、それはアメリカ国旗を胸に大きく描かれた物で、ズボンにはピンクや金色などで様々な模様が描かれている。


 クリスティーナの話では、アメリカのガンナーズなどは海兵等と区別する為にカラフルな色合いの装備に身に着けている事が多いという話しだった。


 無骨な装備を好む凰樹はともかく、おしゃれな格好が好きな女性陣などはその装備を羨ましそうに見ていた。



「ちょっとうらやましい……」


「オーダーメードで作らせますか?」


「輝次第だけど、どう?」


「クリスの言う事にも一理ある。性能が十分であれば色とかは特に気にしないぞ」



 凰樹は自身の格好は機能重視で無骨な姿を好むが、他の隊員にそれを強要する事は無かった。


 もっともそれは機能重視であればの話で元々デザインやカラーに殆ど選択肢は無く、たまに装備を送って来る防衛軍特殊兵装開発部の坂城(さかき)厳蔵(ごんぞう)もそういった点には無頓着な為に、余程に強く要請でもしなければ今後も変わる事は無いだろう。



 女性陣はその装備全体を見ていたが、神坂(かみざか)霧養(むかい)の二人は別の部分に目を奪われていた。



「ヤバい恰好っスね」


「あの胸の強調の仕方はヤバイな」


「ボディアーマー分もあるんじゃないかな~っ? ふたりとも~、ずいぶんと凝視し・て・る・み・た・い・だ・け・どっ!!」



 ランカーズの中ではちょっとなだらかな胸をしている楠木(くすのき)がこりない神坂と霧養の肩に手を置いてちょっと低い声で注意していた。



「まあ装備の話は今はいいだろう。今は一芸の方だ」


「そうっスね。俺からでいいっスか?」


「そうだな……、ってその分身は新技か?」



 いつも通り分身を数体出した霧養だったが、その分身はいつもの様にそこに存在するだけでなく、それぞれが個別に動き出していた。



「……こんな事は初めてっスね」


「動きが制御できるなら、色々な事に使えそうだな……」


「Oh!! すっごいで~す、ジャパニーズ忍者初めて見ました!!」



 どうやら、いまだにアメリカではそういったデマが横行しているらしい。


 霧養は霧養で、クリスティーナの反応で調子に乗って「ニンニン!!」とか言いながら分身を多数生み出していた。



「これはこれで戦略の幅が広がるな」


「あの分身、一体なんなんやろな?」


「宴会芸にも良いよな。他に出せる奴がいないのも不思議だ」



 あの分身だけは、他のだれにもマネが出来ない霧養独自のスペシャルスキルだ。


 それ以外の技であれば一度見れば大体再現できる凰樹でも、あの分身だけは真似が出来ない程だった。



◇◇◇



「それじゃあわたしね。【ホーリーバインド!!】」



 クリスティーナが手を翳してそう叫ぶと、十メートルほど先の地面に直径二メートル程の大きな光の輪が現れ、そこからまるで光の槍のような物が幾つも突き出していた。


 ()()が何なのか、凰樹は直ぐに理解した。



「足止め用の拘束型特殊シールドか……。アレで捕まえて中型(ミドルタイプ)GEをその特殊トイガンで仕留めてたって事だな」


「イエス!! ひとめ見ただけでそこまで見抜くなんてさっすがで~す!!」



 クリスティーナが手にしていたM16A2は五世代くらい前の特殊トイガンで、その銃で中型(ミドルタイプ)GE辺りを倒そうと思えば、こういった手段で無力化する他はないだろう。


 五世代前の特殊トイガンなど元々の攻撃力も低く、アメリカに出回っているレベルの低純度弾を使うならそれしか方法が無いだけだが。



◇◇◇



「準備できましたで」


「了解。みんな向こうに行くぞ」


「は~い」



 安全面を考慮して窪内(くぼうち)は部室前の広場に臨時のシューティングレンジを作成し、その周りを即席の壁で覆っていた。


 即席シューティングターゲットの奥はでかい箱でふさがれている。



「万一考えて、最初はクリスはんにそれ試して貰いまっか」


「ああ、それが良いかもな」



 窪内はクリスティーナのM16A2を預かってM4A1改を渡し、シューティングレンジに立たせてみた。


 中に込められている特殊BB弾は一発十円のGE対策部の倉庫に仕舞い込んでいた最低ランクの弾で、後で凰樹に使わせる時のことを考慮しての判断だった。



「いきマース!! この銃、すごく使いやすいです!!」


「普通だな」


「普通でんな」



 チャージボタンを使わせなかったとはいえ、特殊BB弾が光弾化する事も無く、普通にぺちぺちとシューティングターゲットに命中しているだけだった。



「良い銃ね♪ これ欲しいで~す」


M16A2(これ)調整するよりそのほうがいいんとちゃいます?」


「流石にそれを直す位ならな……」



 一丁が最低でも百万するM4A1改とはいえ、この国でAGE活動をしていくクリスティーナにこのM16A2を使えるレベルまで直す位ならM4A1改(それ)を素直に渡した方が話が早い。


 流石にレベルが違い過ぎる為に一緒に作戦行動をする事はあまり無いだろうが、何処かでGEに敗れて石像に変えられていましたとか聞くのは流石に凰樹達であっても寝覚めが悪かった。



「それじゃあ俺が……、何故そこまで離れる?」



 いつの間にか全員が更に数メートル後方まで下がっていた。



「あの時と同じですわ」


「あはははっ、首都でのシューティングターゲットの映像、私達も見たから……」



 あの時とほぼ同じ銃で、しかも凰樹の能力はあの時とは比べ物にならない。


 事実として、M4A1改を手にしただけで全身の至る場所から小さな光の粒子が無数に舞っていた。



()()は何ですか?」


「最近始まった特異体質みたいなもんやな。凰さんの事やったら気にしたら負けでっせ」



 クリスティーナを除くそこに居た全員が窪内の言葉を聞いて一斉に頷いた。


 今まで散々常識外の異常な行動を見せられれば、気にしたら負けという考えでも無ければとても一緒に行動など出来ない。



M4A1改(この銃)でチャージ無しならそこまで威力は……、…………すまん」


 チャージ無し、一発十円の低純度弾、(ヴリル)非対応のM4A1改を使って放った凰樹の一撃。


 それは発射時既に光弾化しており、ターゲットに命中と同時に直径三メートル程の光球を生み出してその中にあるモノを綺麗に消滅させた。


 原因としてはリングの生命力(ゲージ)は減っていない為に、身体に纏っている(ヴリル)が勝手にブラックボックスに反応した為と考えられた。



「まあ、こうなるよね」


「ここにいてよかったっス」



 あらかじめ避難していた楠木達に被害は無かったが、クリスティーナはその威力に目を点にして呆れていた。



()()は本当に同じ銃ですか?」


「同じ銃で同じ弾を使こうても、凰さんやったらああなるっちゅう話や」


「流石にあの弾で()()なるとは思わなかったけどな」



 以前……、ほんのひと月前の凰樹であれば流石に此処までの威力は無い。


 増大する(ヴリル)の影響とはいえ、凰樹の能力は通常状態でも既に常識的な範囲では収まらなくなっていた。



「しかし、この位できないとヴァンデルング()トーア()ファイント()とは戦えんぞ」


「異常な再生力を無効化するにはそれ位必要という事ですね」


「そうだ。だがこの威力でもアメリカにいる赤竜種型(ドラゴンタイプ)W・T・Fにはおそらく通用しない。俺の推測が間違っていなければもう数段上の攻撃が必要だ」


「それを確認したかったのですか?」


「ああ、少し調べればわかるし、アメリカでも気が付いている奴はいるだろうが」



 W・T・Fの最大の特徴は鉄壁を思わせる硬い外装による防御力と、不死身かと思えるほどの異常な再生力だ。


 無敵とも思える防御力もさることながら、他のGEであれば十分に致命傷になりうる攻撃を受けても即座にその傷を癒して攻撃そのものを無効化する点が特に脅威で、戦う者の多くはその異様な再生力の前に戦意を挫かれ、そしてそのままなす術も無く身体を石の彫刻へと変えられている。



 凰樹達ランカーズが高速道路で戦った赤竜種型(ドラゴンタイプ)W・T・Fと、アメリカで猛威を振るう赤竜種型(ドラゴンタイプ)W・T・Fでは若干その能力が異なり、凰樹は今まで何度か見たし像記録のデータを元にその秘密に気が付いていた。



「アレを倒すにはもう数世代先の武器が必要だし、その前にアメリカがどうなっているかは容易に想像できる」


「石化自体は赤竜種型(ドラゴンタイプ)W・T・Fを倒せば何とかなるだろう? 問題は破壊された施設や食糧問題か?」


「被害がデカくなればなるほどその問題は浮き彫りになる。食糧や金が何処かから沸いてくる訳じゃないからな。一度完全に破壊された経済や金融市場、それに食糧生産力を元に戻すのは難しいぞ」



 この広島第二居住区域で食糧問題が表面化しないのは、対GE民間防衛組織事務所所長である影於幾(かげおき)之滋(ゆきしげ)が県知事の黒佐季(くろさき)基成(もとなり)と通じて各地に裏金を掴ませて友好関係を構築しているからであり、不足分に関しては食糧生産地である北海道などに、今まで散々稼いできた莫大な資金の中からほんの一部を投入して、居住区域を支えられるだけ買い付けているからだ。


 この辺りも凰樹が影於幾を信用している部分ではある。


 もう一つの問題である住宅問題は荒城(あらき)の祖父が安全区域に多くの居住区域営住宅などの半公営住宅を建設しており、十万人規模で石化から蘇生されても当面の住居は何とかできるように手を打っている事が大きい。


 荒城の祖父だけでなく、他にも多くの土地成金が同じ様な居住区域営住宅を建設しており、そこからの家賃収入で結構な利益を得ていた。



 こうして住宅問題などの厄介事が片付けば、復活した人々は新しく手に入れた労働力として都市機能は大幅に向上し居住区域を支える大きな力となるが、それが出来なければ厄介事が増えるだけな事もある。


 もし仮に、それらを一から入手しようとすれば、多くの住人を避難所などで長期に生活させざるを得ず、また食糧に関しても十分な蓄えが無ければ折角石化から解放された物を今度は飢えで苦しめる事になりかねない。


 御伽話やゲームなどの世界と違い、人の世はかくも世知辛く一筋縄ではいかない構図が出来上がっているのだから。



「ぜ~んぶ自然に片付いてめでたしめでたしとか、魔王を倒したその後が語られて無いゲームじゃないんだ。何かをすれば何処かで問題は起こるし、そうならないように手も打たなきゃいけない」


「そうなるとアメリカは今が踏ん張り時か?」


「あれだけの国を支えるっちゅう話なら、もうすぐ分水嶺(ぶんすいれい)やね。ここ間違うと滅亡せんでも後はジリ貧でんな」



 経済規模が大きいという事は利点でもあるが、こういった時には不利に働く事がある。


 この時代になっても株式市場などは若干規模を縮小して存在しているが、GEの脅威にさらされた地区に本社などがある銘柄などは即座に売りが入り、そのまま経営状態が悪化して倒産する場合も多い。


 為替も同じ運命で国が傾けば即座に叩き売られ、外国との取引が成立せずに国そのものが枯死するケースもいくつか存在した。



 この時点のアメリカはまだ十分に市場を保っているし、為替もそこまで大きく下げてはいない。


 赤竜種型(ドラゴンタイプ)W・T・Fさえ処理できればまだまだ在りし日の姿に返り咲く事も可能で、アメリカ全土とは言わないまでも今いる国民が十分に暮らせるだけの土地を取り戻す事も可能だろう。



「私の国が滅ぶとでも?」


「今のままなら遠くない将来そうなるだろう」


「ありえないです!! アメリカはそこまで弱くありませ~ん!!」


「あれだけの戦力を有していた時代なら人間相手には無敵だっただろけどな。今は主力と呼べる戦力は海兵などが精々数千人いるだけだ。本国の防衛を諦めてハワイあたりに首都移転させりゃ何とか国自体は存在出来るだろう」



 栄華を誇っていた過去を思い出せば、悪夢としか思えない現状だろう。


 W・T・Fが出現した多くの国が同じ道を辿ってきたが、彼らも最後まで国がまるごと滅ぶとは考えてもいなかっただろうから。



◇◇◇



「W・T・F。昔は大量に発生した小型(ライトタイプ)GEだったが、今はアレが人類最大の脅威だ……、ん? 緊急通信?」


「わてらのも鳴ってまんな……。これって凰さん」



 全員の端末が一斉に緊急事態を知らせるメールが届き、そこにはあまり歓迎できない内容が記されていた。



「広島第三居住区域内にあるレベル三環状石(ゲート)にW・T・F出現の兆候あり。最大級の迎撃態勢を用意されたし……」


W・T・F(アレ)の出現前の状況はデータが取れてるから間違いないんだろう……。近場だったのが不幸中の幸いだが」



 以前首都にある環状石(ゲート)からW・T・Fの出現状況を記録したデータがあるので、出現するという情報は間違いない。


 これは、以前入手した情報の中にある環状石(ゲート)の中でW・T・Fが出現しそうな場所にうち、広島県の分だけ故意に破壊していなかったのだが、これはワザとと言いうよりもあそこなら討伐可能だろうとして放置されていたに過ぎない。



 また、より多くのW・T・F戦のデータを欲している防衛軍に言わせれば、『凰樹(カレ)なら何とかするだろう』『もう一度成功すれば、国や上も認めざるを得んだろう』という話でもあった。



「不幸中の幸い? 最悪の事態じゃないんですか?」


「遠出しなくて済むからな」


 隣の県などの場合はいろいろ手続きが面倒で、しかも対GE民間防衛組織にもかなり迷惑がかかる。


 その迷惑は主に帰還の際に予測される引き抜き行為で、首都東京ですら引き抜くかどうかを防衛軍の矜持と首都圏の安全を天秤にかけたという……。



「防衛軍から援軍要請が来てまんな。明日の朝に迎えに来るっちゅう話やて」



 事前にそこから出現するという情報があった為に既にいろいろ準備は済んでいた様で、防衛軍により石化した住人の回収までほぼ終わり、周りにある拠点晶(ベース)まで綺麗に破壊済みだ。


 流石に此処までされればランカーズの隊員ほぼ全員がその事実に気が付いた。



「これ、わざとじゃないっスか?」


「可能性は高いな。余程高額なポイントを支払いたいらしい」



 事前に掲示されたポイントは討伐報酬三千億ポイント、部隊ボーナス三百億ポイントという物だった。


 逆に言えば防衛軍や対GE民間防衛組織辺りからは、この作戦にはそれだけ出す価値があると判断された訳だ。



「現金と同じ様には使えるけど、実際には現金化できないと分かってるからやりたい放題だな」


「個人で使う分には限度があるからな。使われてるポイントで様々な商品を購入したとしてもそこまで腹は傷まないらしいし」



 特殊BB弾などはもちろん、対GE民間防衛組織のサイトやその息の掛かっている寿買(じゅかい)で購入する物の価格は割と高額に設定してある為に、その差分はかなり対GE民間防衛組織の懐に入る。


 実際に使われる金は支払ったポイントで購入される額の半分以下とまで言われている程だ。



「みんなおかしいです!!」


「ま、ここにいたらみんなそうなりまっせ。クリスはんは今回どないしまっか?」


「見学という事なら同行させても良い気はする。許可する防衛軍次第だが」



 今回の作戦はあくまでもランカーズでは無く防衛軍が主体な為に、作戦の権限はおそらく全権委任されてはいない。


 実際に戦闘を担当するのがランカーズだけだとしても……。





いつも読んで頂きましてありがとうございます&ブクマ感謝です。


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