アメリカからの留学生 三話
前話の続きになります。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月三日、午後一時半。
GE対策部の部室にある大型のテーブルを凰樹達九人と留学生であるクリスティーナが囲んでいた。
テーブルにはいつも通りに大量のお菓子と、それぞれが選んだ飲み物が目の前に置かれている。
「Oh!! 最新型のM4A1改がこんなにあります!!」
テーブルの上には十丁のM4A1改が置かれてあり、それを見たクリスティーナは興奮していた。
部室にあった完成したM4A1改弐など最新鋭の武器類は一旦倉庫のロッカーに仕舞い、以前使っていた生命力タイプのM4A1改などの武器を用意している。
このタイプであれば既にアメリカ側に引き渡されている為に問題にはならない。
「最新型ね……」
「間違っちゃいない。これを装備してるAGEなんてこの居住区域にいる奴だけだ」
生命力型チャージボタン付きの試作型次世代トイガン。
今となっては既に試作型でも次世代型でもない二世代以上前の武器だがアメリカではこれが最新鋭であるし、一般的なAGEでも安くなったとはいえ百万以上するこの銃を隊員分揃えている部隊など無い。
いまだに続けられている高純度魔滅晶拾いで得た資金を使って一部の部隊が隊長や副隊長用に数丁持っているのが精々で、宮桜姫鈴音率いる小妖精が例外的に全隊員にこのクラスの特殊トイガンを支給している。
一応、窪内の手により凰樹専用の物だけは中身にかなり手が加えられており、チャージ機能を使用しても爆散しない様にかなり強化されている。
「やはりレジェンドランカーの部隊は凄いですね!! その特殊小太刀も特別製ですか?」
「これは……、ちょっとな」
凰樹は氣対応型特殊小太刀壱式、穿空天斬だけはそのまま装備していた。
毎日教室で目にしている筈だし、これを隠すと他の装備も最新式では無い事にクリスティーナが気が付くかもしれないからだが。
「そういえば、俺達の事をどのくらい聞いてるっスか?」
「それは気になるな。向こうだと俺達はどのくらい有名なんだ?」
神坂と霧養が興味深そうにクリスティーナに話しかけていたが、目線は顔では無くテーブルの上からでも見えて存在感抜群の大きな胸に向いている。
楠木達は二人に生暖かい視線を向けていたが、冷たい視線を向けられるより余程に怖かった。
「輝の事は『クレイジー』『本当は実在しない人間で、CG』『日本製のサイボーグ』『人類の救世主』など、評価は様々で~す。ですが、圧倒的に信じてない人が多いですよ。ランカーズについても存在が疑われてますが、AGEでは無く防衛軍の特殊部隊という扱いで~す」
「当然でっしゃろな。わてでも実際に凰さん知らんかったらそう思いますわ」
「あきらだしね……」
「まあ、信じろって方が無理なのかな?」
実を言えば、アメリカ全土でも凰樹の存在自体が信じられておらず、防衛軍が何か強力な兵器を開発しており、それを隠す為にヒーローをでっちあげただけだと思われている。
凰樹の存在を完全に認識しているのはアメリカのお偉いさんと、軍やガンナーズ関係者、それと凰樹が活躍する動画を実際に見た一部の者だけだ。
動画を見てさえ、『アレはCGだろ? 人間があんな動き出来る訳が無い!!』『こんなやつ実在する訳無いだろ? あの国お得意の特撮ってやつさ』『ここ、こいつ百メートルを三秒で走ってるぜ!! 編集した奴は間抜けだな』などといって信じない者も多い。
まあ、人間離れした凰樹の存在を信じろという方が無茶な話ではあるが……。
「酷い言われようだな」
「当然の結果っス。もし輝さんが同じ話を聞いたとして信じるっスか?」
「……無いな」
「だよね~」
あまりの馬鹿馬鹿しさに、妄言だと切って捨てるだろうし、その映像を見ても即座には信じられないだろう。
もっとも、凰樹にはこの時点でもう一人異様な能力を持つ者がいると知っているし、その人物が何処にいるのかも気が付いていた。
「でも、私は信じています。あのヴァンデルング・トーア・ファイントを三体も倒したって話を含めて」
三体のW・T・F。
その言葉を聞いた瞬間、凰樹のクリスティーナに対する警戒のレベルが数段あがった。
何故なら、一般的には凰樹のW・T・F討伐実績は二体となっているし、防衛軍辺りから苦情が入ったのか今はAGEの撃破記録の方も大烏型超大型GEと名称を変えられていた。
その情報を持っているのは、改変前の情報を知っている一部の人間、すなわちランカーズのメンバーと防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵を初めとする一部の人間だけだからだ。
「正確には二体だな」
「あの大烏型超大型GEがただのGEなら、アホウドリも同じ超大型GE? ありえないで~す」
大烏W・T・Fには一撃で葬り去った神穿波以外の攻撃を仕掛けていない。
故にW・T・Fの特徴である脅威的な再生能力などは確認できていない筈だ。
その為に通常ではあの大烏型GEをW・T・Fと断定する材料は殆ど無い筈だが。
「どうしてそう言い切れる?」
「蒼雲が教えてくれました」
にっこりとほほ笑みながら爆弾発言をするクリスティーナ。
凰樹達の視線が一斉に神坂に向き、鋭いその視線は冷や汗を流す神坂の顔に深々と突き刺さっていた。
「……蒼雲、何か弁解はあるか?」
何か言い逃れができるならしてみろ。
歴戦の殺し屋でもたじろぎそうな凰樹の目がそう雄弁に語っていた。
「輝だって、あのでかい胸を背中に押し付けられながら聞かれたらこの位は正直に話すだろ?!」
「それは仕方ないっス。俺だって……何でも無いっス」
凰樹は数秒目を瞑って熟考した後、「いくらお前でも次は無いぞ」と言ってこの件はそれで終わりにした。
凰樹はあきらかな失態は部隊の為に一応追求するが、一度そう宣言すればその事はもう追求しない。そう知っている神坂は思わず胸を撫で下ろしていた。
「まあ、いずれバレるだろうが他言は無用だ。方々に迷惑がかかる」
「わかりました。私もその位わかってま~す。あと、蒼雲の事、怒らないでほしいです」
「その話はもう終わったから問題無い。W・T・Fの情報の交換という事なら、アメリカで暴れている赤竜種型W・T・Fの情報も欲しいんだが」
凰樹は坂城などから映像を回して貰い、一応何度か赤竜種型W・T・Fの映像を目にしている。
しかし、三度W・T・Fと戦った凰樹はその映像に違和感の様なモノも感じていた。
「映像データなら、最新の物を持っています。でも、こういった情報はギブアンドテイクでは?」
「無いなら無いで構わない。別にあの赤竜種型W・T・Fと戦う訳じゃないからな。以前の映像で少し疑問に思った点があっただけで、最新のでなければそのうち情報が入るだろう」
あっさり情報を諦めた凰樹に驚いたクリスティーナは肩透かしを食らったようだった。
「普通、ここで交渉をしませんか?」
「戦わなきゃならん相手ならそうする。そうでないならとりあえず必要はない。情報としては役に立つがそれだけだからな」
違和感の正体に凰樹はほぼ確実にこうだろうという正解を導き出している。
その正解をより確実なものにする為にデータが欲しかっただけで、特に今すぐ必要という訳では無い。
今欲していたのは単にもし仮に戦う場合にどうするかシュミレートする為だったので、別に今すぐどうこうという話ではない為にそこまでは執着していなかった。
「明日の予定だけど、暫く攻略する必要のある環状石や拠点晶は無い。拠点晶に限って言えば幾つかあるにはあるが……」
「問題でもあるの?」
「主に俺と蒼雲に関係する話だが、これを見て欲しい」
大型ディスプレイに近隣の状況が映し出され、そこにはある一点の環状石が中心とされていた。
「故郷のレベル四か」
「ああ、今の俺達なら環状石の破壊位できるだろうが、俺が問題と考えているのは石化から復帰した人たちの救出ルートだ。現在ではあの場所はあまりに遠く、そして救出ルートである道路が以前の雨や台風などで落石や倒木が多すぎて通行不能な為に下手に環状石を破壊すると、助け出す前に犠牲者が出る可能性もある」
「確かに……、あの大通りとかの石像の群れは何とか先に回収しないと将棋倒しになって犠牲者が出かねないな」
環状石破壊後の問題点のひとつ。
それは毎回発生する生還者の捜索活動だが、今までは石像回収作業をする為には邪魔な拠点晶を凰樹が事前に破壊していた事で取り残されていた石像のうち九割以上の石像を回収できており、残された人達も復活後にほぼ問題無く回収されている。
しかし高レベルの環状石になればなるほどこの手の作業は困難を極め、防衛軍の特殊機動小隊が環状石の破壊数で劣るなどと陰口を叩く者はその過程をまるで見ていない者だけだった。
防衛軍は事前に石像回収用の経路にある拠点晶を掃討し、救出ルートを確保してから環状石破壊作戦に入る。
その地道な作業は莫大な時間が必要であり、高レベルになればなるほど難易度が上がっていく。
重要拠点ではレベル五やレベル六の環状石もあり、出現する大型GEなどを処理しながら石像回収ルートを確保するのは如何に経験豊富な特殊機動小隊とはいえ至難の業だった。
「今まで破壊したレベル一の環状石は、殆どの石像が回収されていた為に大きな問題は無かったが、あそこの環状石は違う。先に石像が回収できるように状況を整えなければならない」
「それであの大暴走でっか。まあ、破壊した場所みりゃ予想できまっけど」
「まあ、防衛軍の奪還作戦に組み込まれていないとそれしかないからな。しかし環状石の破壊だけじゃなくて救出する事まで考えるとは、流石だな」
神坂や窪内は破壊された環状石の殆どが凰樹の故郷に繋がる道路沿いである事に気が付いていたが、その先の救出する為のルートの確保という考えには至っていない。
この辺りも凰樹が常人離れしている感覚であり、通常は学生AGE辺りがその辺りの事まで考え付く訳はなかった。
「と、まあ校内での部活動自体はこんな感じだ。流石にM4A1改で射撃訓練をする訳にも行かないしな」
「それ試射レンジで使こうたら流石にわても怒りまっせ」
今の凰樹が使えばM4A1改を使った場合でも仮想ターゲットだけでなく、試射レンジそのものまで大ダメージを受けるのは間違いない。
他の部員が使っても後始末は大変だろう。
「情報の交渉は失敗でした。じゃあ私の一芸の方はいかが?」
「一芸……、スキル系だとランカーズだと俺と霧養か」
「わてのカスタマイズや伊藤はんの索敵能力は別もんやしな」
その辺りは一芸ではあるが、戦闘向けのスキルとしては扱いにくい。
凰樹が使う魔弾や霧養が使う分身などがスキル系にあたるが、霧養の分身の場合はあまりにも使用者が少ない為にそれをスキルなどと呼ぶ必要はなかった。
その時神坂が小声で話しかけてきた。
「そうだな。なあ輝。彼女の氣値って気にならないか?」
「……そこはまだグレーゾーンだが。まさかここにも測定器があるのか?」
「簡易型を爺さんが送ってきた。パッと見は血圧計っぽいからバレ難いとは思うけどどうする?」
「今日の所はまだ様子見だな。機会を見て調べるしかない」
氣の情報も、この時点ではおそらく正式にはアメリカには流されていない。
首都でのW・T・F討伐時の映像が流れていれば、日本政府や防衛軍辺りに直接その力が何なのかは追及してくると思うが、坂城達がそう簡単に情報を渡すとは思えなかった。
「そういえばクリスってこれ付けてないの?」
楠木が左腕に装備している銀色リングを指してそういった。
アメリカ人であるクリスティーナの左腕にはリングなど見当たらなかったからだが。
「なんですかそれは?」
「日本国内であっても、リングは日本国民と帰化してる一部の外国人しかつけていない。アメリカでも海兵隊などの正規軍は日本から強引に譲り受けたリングを装備してるらしいが、ガンナーズや一般人には装備させてないそうだ」
日本人であれば全員身に着け、生命力の残量を知らせて貰える上に様々な機能付きのリング。
しかしその特殊な機構や素材の入手経路の難しさの為に日本でも国民分くらいしか用意できてはいない。
今は十年経過した石像からも回収しており、それを再利用して新品として使っていたりする。
「無いと生命力の残量が分からないから怖くない?」
「ん~、確かに怖いですが仕方ないです」
「リングが無いとシールドも?」
「無理でっしゃろ? でも、例のキーホルダーがあれば使える可能性もゼロやないで」
「アレで霧養君も使えるようになりましたし、凄いですわね」
凰樹抜きでの環状石破壊で何かに目覚めたのか、霧養は例のキーホルダーを使っての練習で何とか普通にシールド機能などを使える様になっているし、神坂達の氣値もそれぞれが五十から百ほど上がっていた。
リングには様々な補助機能も付いているので、リング無しで特殊トイガンを使えば通常は性能が数割は落ちる。
アメリカでAGEに相当するガンナーズの戦果があまり奮っていないのは、装備が二世代以上前という事実もあるがリングを装備させていないせいではないかという話も一部では上がっているのだが、とてもでは無いが人数分のリングなど用意できない為に現状ではどうする事も出来ない有様だ。
「では、こちらは隠さずに外でお見せしますね」
「ほう……」
「どんな技か楽しみっね」
クリスティーナの思惑としては情報は渡せるが出来ればスキルに関してはもう少し隠しておきたかったのだった、しかし、情報での交渉に既に失敗しているクリスティーナは流石に二度も出し惜しみして交流の機会を逃す事を出来る筈もなかった。
読んで頂きましてありがとうございます。




