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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
波乱の新学期編
71/98

アメリカからの留学生 一話

留学生との話その一です。

楽しんで頂ければし幸いです。



 八月二日、午前七時二十九分。



 先日強制的に引越しさせられた豪邸といえる家から出た凰樹(おうき)は学校に向かう途中で偶然登校する楠木(くすのき)達と合流した。


 これが偶然なのか、それとも仕組まれた必然なのかは分からないが、同じ住宅街に住んでいるのだから十分にあり得る話ではあったのだが。



「輝、おはよう。相変わらず早いんだね」


「あっきら、おっはよう!!」


「輝さんおはようございます」



 ただ、この住宅街に住んでいるのは、凰樹、神坂(かみざか)窪内(くぼうち)霧養(むかい)伊藤(いとう)楠木(くすのき)竹中(たけなか)だけで、元々豪邸に住み警備員も雇っている大地主の宮桜姫みやざき香凛(かりん)と妹の宮桜姫(みやざき)鈴音(すずね)や、不動産王の祖父を持つ荒城(あらき)佳津美(かつみ)は今迄通り元の家に住んでいる。



「おはよう、学校が近くなったのは良いが、あの家にはまだ慣れないな」


「そうだね~。お父さんもそんな事言ってた」



 竹中などは家族も一緒にこの家に住んでいるのだが、それぞれの豪邸には対GE民間防衛組織事務所で採用されたメイドが結構な数で送り込まれている。


 家があまりにも広い為に学生である凰樹達には家事などの管理が大変だろうという事ではあるが、彼女達には護衛としての任務も与えられていた。



「メイドさんなんて~TVとかのドラマの中だけだと思ってました~♪」


「朝起きたら朝食が出来てたってお母さんが驚いてたよ。それに自宅なのにする事が無いって」



 料理、掃除、洗濯、などの家事は基本全部数人のメイドで終わらせられるために、楠木や伊藤の家ではまだそんな生活に慣れない母親が混乱していた。


 各豪邸にはメイド達用の一角があり、そこで暮らしている為に二十四時間体制で家は管理されている。



「私達はこの方が嬉しいけど、あきらはバイクで通学しないの?」


「そこまでの距離じゃないし、あのバイクは普段使いするにはあまりにも危険すぎるから」



 あのオフロードバイクは(ヴリル)をチャージしない状態でも、凰樹が常に纏っている(ヴリル)だけで時速六百キロ以上の速度が出る。


 しかも、その状態でも全体が金色に輝いている為に目立って仕方なかった。



「でもそれは下げてるんだよね」


「義務らしいからな……」



 凰樹の腰には(ヴリル)対応型特殊小太刀壱式【穿空天斬(せんくうあまぎり)】が下げられているが、柄糸に絹製の金糸などを巻かれているその割と豪華な(こしら)えは凰樹の趣味とは思えなかった。



「坂城の爺さんが趣味でこんな形にしてな、なんでも『いつもの無骨なデザインは仮の為に仕方なくだったからな。コイツは正式版だからそれなりの(こしら)えにしておいた』という事らしい」


「まあ、あそこも輝があまりにもボロボロの小太刀とか持たれると体面上よくないんだろうね」



 時の人どころか万人に注目されている凰樹が、TVや雑誌のインタビュー時に粗末で無骨な(こしら)えの特殊小太刀を腰から下げている事に違和感を感じる者も多い。


 それらの人物は特に対GE民間防衛組織の上役や防衛軍のお偉いさんなどなのだが、現場の隊員達からはそんな細かい事を気にされる事など無かった。



「そういえば、たまに見える()()なんなの?」


「もしかしたら(ヴリル)ですか?」


「伊藤が正解だ。どうも身体から少しずつ(ヴリル)が漏れてるらしい。少し制御を止めたらこうなるみたいだ」



 凰樹の身体からたまに薄らと(かがや)くごく小さな光の粒子のような物がふわふわと空に漂っていた。


 気にしなければそれが何かは分からない程だが、時折大きな粒子が出る事もあり何も知らなければさぞ驚く事だろう。


 ちなみに、その小さな粒子はその中の僅かひとつだけでも測定すれば、其々が軽く数値は千を超えるモノだった……。




「話は変わるけどあの話も納得して貰えたか?」


「ああ、お弁当ね……。私達も学校だとSS特券を使わないといけないから仕方ないよね……」


 食堂を別に作らせもした為に、ランカーズのメンバー全員が弁当を持参などという行為は諦めざるを得なかった。


 これで毎食食堂を利用されずに弁当などを持ってこられれば学校側の立場が無いからだが……。


「毎食SS特券でご飯食べ放題!!」


「最近はセミランカーも増えてるらしいから、食堂が結構すごい事になってるらしいけど」



 八月二十四日の高純度魔滅晶拾い(ハイエナ行為)で部隊の隊長に全部一括納入させたところなど、広島第二居住区域内だけではあるが結構な数のセミランカーが誕生している。


 他の居住区域から彼らはかなり嫌われていたが、生み出された状況を最大限に利用する事も大切なことではあった。



 防衛軍が環状石(ゲート)を破壊した際にも同じ高純度魔滅晶拾い(ハイエナ行為)が起きており、セミランカーの部隊などがGEに敗れて大量に石化しての離脱などが無い限り、セミランカーの順位が大幅に変動する時はだいたいそれが原因だ。


 トップランカーの一部などは首都圏奪還作戦時にかなりの量の拠点晶(ベース)産の高純度魔滅晶(レアカオスクリスタル)を掻き集めた事であの地位に辿り着いた者までいる。



「その件だけど、仕入れをかなり見直されて三日分を纏めて納品されるようになったから、品切れが殆ど無くなったって話だよ。十日とかの特売日以外だろうけど」


「うちの生徒も八百人近くはAGEじゃないからな……。食堂の業務用冷蔵庫が如何にデカくても仕入れには限界がある」


「ケーキセットとか、特定のメニューは売切れてるみたいだよね~。アレは人気だから仕方ない」


 調理場に十台以上ある大型のフライヤーで大量に揚げ続けられる唐揚げ定食やトンカツ定食と違い、デザートやケーキの数に限りのあるC定食系やケーキセット系のメニューは売り切れが早い。


 高純度魔滅晶拾い(ハイエナ行為)の分け前を貰えた女生徒達で懐に余裕がある者は優先的にその人気メニューを選んでいる。



「そういえば、調理部もお弁当の販売始めたらしいよ。一つ五百円なのに物凄い売れてるって」


()()鹿波(かなみ)謹製らしいからな。味は折り紙つきだ」



 食堂で働くおばちゃん達とは下拵えの段階で料理の腕に既にかなりの差がある、料理の天才で調理部の駄女神こと鹿波(かなみ)美雪(みゆき)


 仕入担当は食糧生産科や畜産科にまでパイプを持ち、方々から入手困難な食材を自在に入手してくる調理部の魔術師多華谷(たかや)美桜(みわ)


 別容器に入れた小型のデザートを用意しているのは調理部の砂糖の妖精、芙実月(ふみつき)杏子(あんず)と抜群のコンビネーションでアシスタントを担当する調理部の氷の妖精、井野上(いのうえ)涼子(りょうこ)


 そしてその一癖も二癖もある部員を統括しているのは部長の夜篠(よしの)碧依(あおい)で、授業の間の休憩時間などを利用して百個の弁当を毎日用意している。


 永遠見台高校(とわみだいこうこう)にはいくつか調理室があり、そのうちの第三調理室を調理部が専用の部室として完全に占拠し、そこに設置されている調理器具や冷蔵庫なども私物化している。


 これは七年程前に当時の調理部部長である伊藤(いとう)萌華(もえか)が、生徒会を相手に大立ち回りをして勝ち取り、その後文化祭の売り上げや校内にいるAGE隊員の協力などで調理器具を完全に新調して大量生産まで可能な状態にしたからだ。


 とはいえ、流石にGE対策部の倉庫にあるレベルの冷蔵庫や冷凍庫は設置などの問題もあった為に手が出せず、同じYOSIZAKI製の中型冷蔵庫などで我慢していた。


 なお、やり手の部長として調理部で伝説となった伊藤(いとう)萌華(もえか)は、ランカーズの伊藤(いとう)聖華(せいか)の姉だったりもする。



「調理室なんかもかなり広いからな……。うちのだけじゃなくて調理室の冷蔵庫の使用許可も取ってるらしいし」



 文化祭だけの間かと思ったら、ちゃっかりと普通の日にも大量の食材をGE対策部の倉庫に仕舞い込み、そこから材料を持ち出している。


 その為に倉庫の鍵なども予備を受け取っており、調理部で厳重に管理しているという話だ。


 窪内たちはその光景に呆れもしたが、最終的にその行為が学校の同級生の為になると思って凰樹が了承した為に何も言えなかった。


 また、お礼と称して結構な数のケーキとアイスが届けられており女性陣などは大歓迎だったという。 



◇◇◇



 八月二日、午前八時二十一分。



 一年特別A組の凰樹(おうき)を初めとする九人は壇上に立つ一人の少女の姿に釘づけだった。


 正確にはほぼ全員顔では無く、そこから少し下がった位置にたわわに実った大きな二つの果実に注目していたのだが……。



「えっと……自己紹介いいか?」


「アメ~リカから来ました、クリスティーナ=アディントンで~っす♪ なかよくしてくれるとうれしいでぇ~す」



 わりと流暢な日本語で話している為、よくあるような片言の日本語を期待していた霧養(むかい)などは肩透かしを食らった形となった。


 しかし、今問題なのはそんな細かい事ではなかった。



「デカいっスね」


「セクハラで訴えられまっせ……」



 ノーブラでは無いのだろうが、少し体を動かすだけで大きく揺れ動く胸を男に見るなという方が無理難題だ。


 ちなみに、女生徒の中で竹中(たけなか)荒城(あらき)以外はそのあまりにも大きすぎる二つの膨らみに親の仇でも見るような視線を注いでいる。



 そんな中、神坂(かみざか)だけは何かに気がつき、ぶつぶつと独り言を繰り返していた。


 そして記憶の中からようやくその単語を思い出し、「アディントン? もしかして……」と、金髪碧眼なクリスティーナの顔を見つめながら呟いた。



「イエース!! ガンナーガールズのメインボーカルの文華(ふみか)は、私の従姉でぇ~っす」


「彼女にはアメリカに従妹がいるって話だったけど……」



 神坂(かみざか)が特にファン活動を続けているアイドルグループ、ガンナーガールズ。


 アメリカ人のハーフのみで構成されているこのアイドルグループ名もアメリカでのAGEにあたる組織、【ガンナーズ】から取ったモノだという話だ。


 メインボーカルの文華(ふみか)=アディントンはクリスティーナと十歳ほど離れた従姉で、幼い頃にはまだあった米軍基地経由で家族と共に日本に住み始め、アイドル活動を始めていた。


 今やガンナーガールズはAGEでセミランカー以下にはチケットが入手できない程の人気アイドルグループで、神坂はレジェンドランカー特権で毎回最前列の席を入手している。



 何故八月六日にガンナーガールズがこの居住区域でコンサートを行ったのか、勘の良い凰樹辺りはその辺りを察していた。



 ガンナーズ自体は海兵隊などと一緒にヴァンデルング()トーア()ファイント()赤竜種(ドラゴン)討伐に参加して何度も失敗した事により現在ほぼ壊滅状態だが、僅かな生き残りや新たに登録する者でギリギリ残された居住区域を何とか支えているという。


 とはいえ、このままW・T・F赤竜種(ドラゴン)を放置すれば、残されている戦力はおろか全ての人間が一人残らず石像に変えられる事には間違いないが……。



蒼雲(そううん)の事も良く聞いてま~す。熱心なファンだって言ってました」


「アレから来る度に参加してはるから」


「仕方ないだろ!! そこにチケットがあるんだから!!」



 まるで山にでも憑りつかれた男の様に、コンサートに憑りつかれた神坂は事もなげにそういった。


 部活に参加していない休日で、居住区域内でコンサートがあれば必ずそこに神坂の姿があるほどだ。



「あなたが輝ね、噂は聞いているわ……」


 クリスティーナがあいさつ代わりにキスをしようと顔に手を触れようとした瞬間、目に見えない壁の様な物にその行動ははばまれた。


 意識的にやっていたか無意識でやっていたかは定かではないが、凰樹がクリスティーナからのキスを拒絶していた事だけは間違いなかった。



「ここにいる皆はシールドを張れるから、唐突にそんな事をすると下手をすると怪我をするぞ」


「凰さんがその気なら怪我じゃすまんでっしゃろ……」


「マッハで単車転がしても平気な男だからな」



 実はあのオフロードバイクに跨っていない方がはるかに速く動けるのだが、その事にはあえて触れていない。


 実戦では何が起こるか分からない為に、とりあえずの手段としてあのオフロードバイクを使っているだけだ。




「キスなんてただのあいさつで~す」


「普通はほっぺた!! 今あきらかに唇を狙ってたでしょ!!」


「ありえませんわ!! ここは日本ですのよ」


「宣戦布告?!」



 そんな事を言う竹中達に笑顔で「ただのあいさつで~す。シャイな日本の男性にはこの位しないとダメだって文華も言ってました」などと言ってのけた。



「まあ、確かにそうだろうけど」


「それでもっ!! 挨拶程度でキスなんてしようだなんて!!」



 凰樹に対して口約束(キス)をしている宮桜姫(みやざき)が素知らぬ顔でクリスティーナの行為を非難しているが、もし仮に楠木達が口約束(それ)を知っていれば感想は「どの口で言うかな?」だったに違いない。


 この中で凰樹の唇を奪った事があるのは宮桜姫と荒城だけだが、特に荒城からのくちづけに対しては凰樹は拒絶もしなければシールドでの防御などもしてはいなかった。


 その事を思い出した荒城は少しだけ顔を赤らめ、その意味を理解して心の中でその時の事を反芻しながら悶えていた。



「あ~、どうでもいいが、お前ら今はホームルーム中だと分かってるか?」



 担任の山形(やまがた)はホームルーム中でありながら勝手な行動を繰り返すクリスティーナに頭を抱えていた。


 ただでさえ色々な意味で問題児の多いこのクラスに、新たな火種が投入される事を歓迎する教師など居はしないが……。



「では、挨拶はまたの機会にしま~す」


「まだあきらめてへんのか」


「それにしても目の前であんなのが揺れてるのに、輝の奴よく我慢できたな……」



 キスをしようとした瞬間、目の前には屈んだクリスティーナの大きな胸があり、普通の男性であればそれに意識が集中してキスに警戒する事など無かっただろう。


 ただ、今まで何度も命を狙われてきた凰樹は悪意や殺意に非常に敏感な為、それが僅かでも感じられれば即座にシールドで身を守る様になっていた。



「へぇ……流石おっぱい星人」


()()()が胸しか見てないからじゃないですか~?」


「やっぱりあきらは凄いよね」


(あんた)がいうな~~~~~っ!!」



 最近の竹中は巨乳というアドバンテージを前面にだしてそれをアピールする事を忘れなかった。


 実はひそかに料理の本を何冊か買って簡単な料理から少しずつ憶えているのだが、その過程で当分楠木達には料理の腕では勝てない事をさとっての行動だ。



「もうこんな時間か。すぐに一時間目が始まるから、準備だけは忘れるな。アディントンの席は……、神坂の隣だな」


「私の事はクリスと呼んでください。輝のとなりはダメですか?」


「しばらく神坂の隣で我慢しろ。席替えについては考えておいてやる」



 今の席順は前列三人が窪内、伊藤、霧養、真ん中の列が神坂、楠木、竹中で、一番後ろの列が宮桜姫、凰樹、荒城だ。


 教室の広さにかなり余裕がある為に席と席の間は結構なスペースが開いているが、神坂と楠木の間にクリスティーナの席を作りそこに座らせた。


 意図していなかったとはいえ、左右を巨乳に囲まれた楠木の心情は結構複雑だ。



「それでは皆様、今後ともよろしくお願いします♪」


「ああ、よろしく」


「よろしくっス」


「よろしゅうたのんます」


「よろしくな」


 と、即座に返事を返した男性陣に冷たい視線を送りながら、楠木達も「よろしくね」と社交辞令の様な抑揚のない挨拶を返していた。



「さて、このまま何事の無ければいいが……」



 アメリカからクリスティーナが留学してきた訳、それをこの時点で凰樹達男性と宮桜姫、荒城達だけは完全に見抜いていた。





読んで頂きましたありがとうございます。

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