単騎の勇者
前の話で話されていた単騎による周辺環状石の破壊などの話になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
九月一日、木曜日、午後二時半。
授業内容に変更が生じた為、午後の授業に問題が発生した為にランカーズのメンバーは殆ど午前中で授業が終わり、GE対策部の部室で様々な話し合いをしていた。
議題となったのは八月二十四日に行われた凰樹の大暴走ともいえる、単騎による周辺環状石の破壊事件だ。
「で、あれはなんのまねだったんだ?」
「ああ、以前から邪魔だと思っていた環状石を纏めて処理しただけだ。新しい武器の実験にも丁度良かったしな」
アルミなどが主体として作られていたのが今までのGE用の武器ではあるが、氣を主としてチャージ機能を使う場合は銀やプラチナなどの貴金属をある程度混ぜたほうがいい事が防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵により発見されていた。
それに伴い、幾つものバージョンで新しい特殊小太刀が作り出され、その中のひとつを徹底的に調整を施して凰樹の首都滞在中に完成した氣対応型特殊小太刀壱式【穿空天斬】。
凰樹が何度か神穿波を使っても刀身や拵えにヒビひとつ付かず、全力でGEを斬っても刃毀れひとつする事の無い名刀だ。
それに氣対応型のオフロードバイクは氣をチャージした状態で走れば周りにいる小型GEは触れる事無く消滅し、中型GEですらその車体に触れるだけで消滅する程の力を有している。
これは凰樹の様な規格外の氣を持った者が操縦した時にのみ起こる現象で、他の防衛軍兵士やAGE達が同じ事をすれば普通に小型GEと接触しただけで崩壊が始まる代物ではあるが。
「まあ、何をしたいかは分かっているが、俺達が協力できることは言ってくれ」
「無茶やとは思いまへんが、万が一の為位には備えさせてほしかったでんな」
「すまないな、本番は力を貸してほしい。俺達の悲願だしな……」
破壊された環状石が何処と何処なのかを調べ、付き合いの長い神坂や窪内にはその狙いがはっきりと分かっている。
それに、どことなく凰樹が何かを気にして焦っている、そんなありえないような感覚も感じ取っていたからだ。
「ひとこと位相談があってもいいんじゃないですか?」
「そうです!! もし万が一輝さんに何かあれば私……」
宮桜姫や荒城が凰樹の身を案じてそんな事を言っていたが、内心では勝率が百パーセントでもない限り凰樹がこんな暴挙に出るとは考えてはいなかった。
それでも、作戦実行前に何か一言くらいあってもいいのではないかと思い、言いたくも無いこんなことを口にしていただけだ。
「輝さんっスから、確実に勝算の無い事はしないっス。だいたい事前に話を聞いたって何もする事は無いんっスから」
「そ・う・で・す・け・ど・も・っ!!」
「みんなあきらの事心配してたんだよ。あの日は何が起きてるのかはすぐに分かったけど」
次々に破壊されて奪還される廃棄地区。
多くの人がその異様な光景に目を疑い、何事が起きたのかと戸惑っていた。
TVの中継が入ったのは午前十一時半ごろからであったが、八時から始まったその作戦はその時点でほぼ完了していたという……。
その作戦の裏側には様々な欲望や策略が渦巻いていたのだが……。
◇◇◇
事の起こりは八月十一日に凰樹が首都からの帰還などを知らせる為に対GE民間防衛組織事務所の所長影於幾と面会した事に始まる。
「凰樹さんの首都での活躍、この広島第二居住区域まで轟いておりますよ。ところでなんですが……」
幾つか世間話をした後で、影於幾は唐突にその話を切りだした。
揉み手をしながらそんな事を口にした影於幾は一枚の地図を取り出してある話を持ちかけ、凰樹の反応を静かに待っていた。
「これは広島第二居住区域の地図ですね」
「はい、その通りです。実は再び再開発計画や農産物増産計画が持ち上がっておりまして、もし仮にこのKNHの環状石を破壊していただければ安全区域の空白が綺麗に埋まり、この辺りまでを一気に開発できるのですが……」
影於幾は地図の一角を刺し、少し下卑た笑いをうかべながら頭を掻いていた。
その話は事実ではあったが、実は影於幾の親戚がその周辺の土地を結構な広さで所有しており、再開発を理由に国に対して高額で買い取らせようと画策していたのも事実だ。
凰樹は影於幾のこうした腹黒い点も十分に承知していたが、特にその事に不快感を示す事は無いので、影於幾も今まで何度か安心してこういった話を持ちかける事が出来ていた。
凰樹に言わせれば「結局誰かが儲けるのだからそれが誰でも関係ない。影於幾さんならその金を有効に使ってくれるだろう」という事だ。
しかし今回凰樹は即答を避けて、地図を見ながらあることを考えていた。
「KNHですか……」
「難しいですかな?」
KNHは中間を占めるだけあり膨大な地区の中に存在し、その中心部である環状石を破壊するとなると通常であれば相応の戦力が必要だからだ。
流石に此処は厳しいか、そう考えた影於幾に対して凰樹は少し考えた後、地図にペンで印をしても良いかと尋ねた。
何をするのか理解できなかった影於幾はとりあえず了承したが、凰樹の手によって地図上に書かれている赤丸が何を意味するのか次第に理解していった。
「ま、まさか……」
「気が付きましたか? これは全部レベル一であり居住区域と隣接する環状石です。KNHやKKS周辺に存在する十五の環状石が全部破壊されれば、これだけ広大な廃棄地区が解放されます」
それは広島にある居住区域を全て足したよりも広大な土地で、広島県の中心部に莫大な広さの安全居住区域が出現する事になり、それは首都の居住区域を凌駕する広さでもあった。
もし仮にこれだけの土地が奪還されれば、今後の再開発計画は一からやり直す必要がある。
「可能……、なんですか?」
いくらこの話を口にした相手が凰樹であっても、流石に馬鹿げた話だった。
全てがレベル一とはいえ、こんな数の環状石を地方のいちAGEの部隊が破壊できるならば、防衛軍の特殊機動小隊の立場が無くなる。
防衛軍には防衛軍の思惑や奪還する区域の優先順位や戦略的価値なども考慮する必要がある為に単純に破壊するだけでは無いという話もあるが……。
しかし、この作戦を口にした凰樹は、「ええ、今の装備なら問題はありません」と事もなげに即答した為に、今のランカーズであればこれだけの環状石が破壊できるのか、そんな事を考えながら影於幾はもう一つの疑問を口にした。
「で、いつごろまでに可能ですか? それ次第では再開発計画を見直す必要がありますので……」
とは表向きの言い訳で、『これだけの土地が解放されるのであれば買い取れそうな場所で再開発に向いた土地は買い占めておこう。これだけの数であれば準備に相応の時間がかかだろうし時間は十分にある』などと心の中で考えていたのだが……。
地図を睨んだまま少し思案する凰樹の言葉を待ち、影於幾は机の上に用意されていたアイスティーを口にした。
「今月末、八月二十日前後でどうでしょうか? おそらく全てその一日で破壊出来ます」
「げほっ!! は…二十日……、い…一日でですか!?」
口にしていたアイスティーを思わず噴き出した影於幾だが、凰樹に飛沫がかからない様に咄嗟に顔を横に向けた事はリッパだった。
咽かえす影於幾が落ち着いた後、凰樹は「規模が規模ですので、復活した人を探索する人や手続きをする人員の補強をしてはどうですか?」と提案した。
「そ……、それはそうですな。広島第一、広島第三居住区域の他に、以前貸しがある山口の居住区域からも応援が呼べそうです。千人近い規模になりますが、彼らの宿泊先等も必要ですので……」
この土地を全部買い占めるのは不可能だし、影於幾が土地の買い占めの為に少しでも動けば鼻の効く便乗犯どもが同じ様に土地を買い漁る事は今までの前例から考えても間違いない。
その点を考慮し頭の中で様々な策を練り、影於幾の手の者や息の掛かった企業などを巻き込んだ上で十分な利益を得るプランが完成していた。
「二十四日あたりでしたら可能ですな」
「影於幾さんにはお世話になっていますんで、その日程で行きましょう」
凰樹は影於幾が裏でやっている事にも気が付いているし、今回も何かしようとしている事は百も承知だった。
しかし、荒城の祖父や宮桜姫の父親も似たようなことをしている為にその行為を別段咎める事は無いし、ある程度は協力しても良いとすら考えている。
影於幾も本能的にその事に気が付いており、今回の件も可能な限り便宜を図る持ちつ持たれつの関係だと考えてもいた。
その後も影於幾は自分の情報網を総動員して集めた県外で起こっている事件も含めて様々な情報を凰樹に提供した。
こうした情報は貴重で、方々に裏金を掴ませている影於幾でなければ入手が不可能な内容のモノまで存在している。
「これは別の話なのですが、今、ランカーズ用の住居を全力を挙げて建設中でして、完成次第そちらに引っ越していただくつもりですが、問題はありませんか?」
強引な引き抜きは不可能っだと分かっているが、竹中や楠木辺りの家族などを巻き込まれては何をされるかわかったモノでは無い。
またそんな事態になれば、凰樹がどんな行動に出るか十分に理解しているからでもある。
「別段問題は無いと思いますが……。ガレージタイプの駐車場があればいいんですが」
「その位すぐ用意させますよ。今後ともよろしくお願いします」
こうして過去に前例の無い【AGE隊員単騎による周辺環状石破壊作戦】という馬鹿馬鹿しい計画が起ち上げられた。
最初にこの話を方々に話した影於幾への返事は、「冗談はやめてください」「いくら彼でもそれは無理でしょう」「いや、以前の借りがありますから人員を寄越せと言われれば送りますが、正気ですか?」などといったモノばかりだ。
実際に当日になるまで半信半疑だった者も多かったが、彼らは全員、僅か十分から十五分程で次々に破壊されていく環状石が発する光の柱を見て絶句し、開いた口がふさがらなかった。
「彼は本当に人なのか?」
「ありえません!! こんな事って……」
「街が……、俺達の故郷が帰ってくる!!」
その状況だけを見る者は凰樹の行動が異常としか思わなかったが、当の凰樹は今やっている事が不可能だとか欠片も思っていなかった。
◇◇◇
氣をチャージする事で金色に輝くオフロードバイクに跨り、次から次へと環状石を破壊してゆく凰樹。
次に攻略する予定の環状石を確認し、凰樹はほんの少しだけ表情を曇らせた。
「KNHか……。今まで攻略できなかったのは訳があったからだけど。今ならいけるな」
目の前に立ちふさがる小型GEや中型GEは金色に輝く車体に触れる前に、纏っている氣に触れて悉く消滅していった。
前方を塞がれた場合、ハンドルの前方に氣対応型の小型特殊トイガンと同じ機構が内蔵されている為に、そこから銃弾を放てばすべて一撃で撃破する事が出来る。
山道を十分ほど走り抜けると、そこの崖の上にピンク色の環状石が聳えていた。
今までここを攻略対象に選ばなかった理由がこれで、マトモに攻略しようとすれば先日のハンバーガーヒルよりも過酷な攻略戦が待っていただろう。
「今までだと此処の攻略は諦めざるを得なかったけど、今はこのバイクがあるしシールドにはこういう使い方も……あるのさ!!」
凰樹は崖の少し手前から環状石に向かって橋代わりにシールドを展開し、そこを駆け抜けて一気に環状石内部へと突入した。
物理干渉が可能でそれほどに広大なシールドを展開できる凰樹以外には不可能な作戦で、しかも今跨っている攻防一体型のバイクがある事も条件の一つといえる。
環状石への突入に成功した凰樹は門番GEと思われる大型GEと要石を確認し、門番GEから要石までM4A1改弐を一掃射し、ただそれだけで一般的には超が幾つも付く強敵である門番GEと特殊ランチャーを数発撃ち込まなければならない要石を破壊した。
既に今の凰樹であれば、氣チャージ機能を使うまでも無く、身体に纏った余剰分の氣だけでこのクラスの門番GEや要石までも破壊できるレベルに達している。
光に包まれ、元の場所に出た後で凰樹は地面に残された環状石と門番GE産の超高純度魔滅晶のみを回収し、凰樹は次の環状石を破壊する為にバイクを走らせ続けた……。
◇◇◇
該当するエリアで作戦行動をしているAGE部隊や守備隊も多く、突然目の前で崩壊を始める拠点晶や中型GEの姿に驚きを隠せず、何が起こっているのか理解するのに暫く時間が必要だったという……。
端末に次々と危険区域解放の情報が入り、そしてその意味が理解出来た者は即座に周囲に散らばる魔滅晶や高純度魔滅晶を探し始めた。
「拠点晶産の高純度魔滅晶が拾いほうだいだと!!」
「この機会を逃すな!! AGE以外の知り合いにも連絡して協力させろ!! 後でポイントはわけてやるから!!」
「そのおはじき大のゴミはいい。大き目の魔滅晶や高純度魔滅晶だけを回収しろ!! どうせおはじき大のゴミはひと月以上放置される」
展開していた部隊だけでなく、その日は活動を休んでいた部隊もたちまち駆けつけ、捜索協力等の要請が掛かる僅かな時間まで存分に高純度魔滅晶拾いを続けていた。
何せ拠点晶産の高純度魔滅晶であれば百万円の札束が地面に転がっている様な物である。
しかもそれが広範囲とはいえ数千以上の数で存在するのだ、皆が我先にと該当エリアに殺到する事は無理の無い事かもしれない。
数世代前の装備をまだ使っている部隊、隊員数が多すぎ弾薬代にすら困っていた零細AGE部隊、装備の強化を目的として参加した守備隊、高純度魔滅晶拾いを繰り返してでもセミランカー入りを目指す無数の部隊……。
多くのAGEが現場に急行し、各地で警備兵や防衛軍の救出部隊と様々な場所でもめ事を起こしたが、最終的には全員高純度魔滅晶拾いを後回しにして捜索協力等の要請に協力した。
◇◇◇
環状石がひとつ破壊されるたびにけたたましく鳴るサイレン、そして破壊された環状石周辺にいるAGE達へ届けられるの捜索協力等の要請。
各地に設置されていた対策本部はあらかじめこの事を知らされていながらも半信半疑であった為に初動が遅れ環状石の破壊自体は午前中で終了したにも拘らず、現場で高純度魔滅晶拾いをしていた全AGEや守備隊の協力があってすら、全ての作業が終了したのはこの日の夜遅くの事だった。
この事件で石化から解放された人の数は約四十万人。
破壊した環状石の数の割に生還者が少なかった訳は、襲われて既に十年経過した者が結構な数で存在していたからだ。
あと数日で十年経過する所だった人も多く、諦めて心が死にかけていた人は奇跡の帰還に涙を流していたという……。
また今回は奪還された土地があまりにも広大な為に当初予想された額よりも安い価格で土地が買い叩かれるといわれていたが、それでも結果的には事前に手を打っていた影於幾や荒城の祖父などの多くは一族が末代まで散在しても使い切れぬ程の莫大な金を手にしていた。
先見の明を持つ者や嗅覚に優れた者はこの手の動きを見逃したりはしない。
何の行動もせず、こうした動きが出来た者を批判する者の方を凰樹は嫌っていたりもする。
なお、ランカーズのメンバーには凰樹からこの日の部活の休止だけしか伝えられておらず、ニュースで大々的に報道されていたその事を目にした楠木達は当分テレビの前から動けなったほどだった。
◇◇◇
「お父さんの機嫌がやけによかったのはそういう事なんですね」
「御爺様もお屋敷の自室で踊り出しそうな程でしたわ……」
宮桜姫の父親や荒城の祖父などは以前から所有していた土地が山二つ分以上あり、平野部にある荒れ地や農地なども所有していた為に影於幾以上の利益を得ていた。
他にも多くの者が莫大な金を手にしており、今回の一件で億単位の金を持つ土地成金が百人以上誕生したのではなどと噂されてもいる。
また、再開発計画に伴うリベートや利権関係でも十分にリターンがある事は間違いなく、関係者の間では濡れ手に粟のボロ儲けはこの先数十年は続くと思われている。
広島第二居住区域で生活をしている遊園地や動物園などの行楽施設の元職員などは平和だった頃を思い出し、奪還地区の一部に新しい遊園地などが建設されないかと問い合わせていた。
ホテルやショッピングモールが併設されるタイプの遊園地など現在では日本中のどこにも無く、もしその計画が実現したならば広島第二居住区域の新たなランドマークになる事は間違いない。
奪還された土地があまりにも広大だった為、そういった施設の建設も検討されているという話だ。
「今回の作戦の映像はあるから、後で見てくれればいい。まあ、神穿波は使っていないけど……」
「あの技?」
大烏W・T・F戦のデータは様々なノイズが混ざっていた為に完全なデータとしては扱われず、現在は防衛軍特殊兵装開発部の端末にしか保管されておらず、また、そのデータは部外秘のSSSシークレットファイルに指定されており、坂城達一部の人間以外には存在すら知らされていない……。
神穿波に関しては実験で何度か放ったが、出力を数パーセントにまで下げた状態で放っていた為に最大出力でどこまで被害が出るか予測できない為、「頼むから最大出力は市街地に向かって撃ってくれるな」「必要時は使わざるを得んだろうが、周りの被害には気を付けろよ」などと釘を刺されていたりもする。
「奥の手だ。多分W・T・Fでも一撃の……」
「あの技ですね……」
ランカーズで唯一神穿波で大烏W・T・Fを撃破する瞬間を見ていた荒城だけはその技の威力を知っていた。
ただ、あの時は空に向かって撃っていたからいい様なものの、見通しの悪い場所では使えないだろうと考えている。
「W・T・Fが一撃って……」
「まさにに必殺技だな……」
今迄散々凰樹の異常な行動を見てきた神坂達だが、今回の一言には流石に呆れていた。
世界規模で言ってもW・T・Fを討伐できる人間など他に存在しないからだが……。
読んで頂きありがとうございます。




