夏のBBQ
この話でこの章は終りです。
次の章は来週あたりにはじめられればと思っています。
楽しんでいただければ幸いです。
八月十三日、午後五時三十分。
時期が夏という事もありまだ十分に日が高かったが、今回も永遠見台高校の小運動場を使って前回の規模を上回る大規模なBBQ大会が開催されようとしていた。
野球部やサッカー部などの運動部系部活動は午前中で終り、シャワーを浴びて着替えたのちにテントの設営などの力仕事を手伝い始めた。
昼前には参加する人間が集まり始めて準備を手伝ったりもしていたが、運動会などで使うテントや長机なども持ち出され、今回は増えた人数に対応する様に今回新たにBBQコンロも追加されている。
今はそのBBQコンロにも炭が入れられ、オレンジ色に燃え上がって乗せられた網の上で肉が焼かれる瞬間を待ち続けていた。
参加する生徒の総数は約二百人。
お盆前のこの時期に寮などにいる生徒の多くは家族をGEに奪われたままであるか、もしくは初めから近所に住んでいたかのどちらかだ。
参加できない生徒からは不公平だといわれかねない規模ではあったが、この場に参加出来ない者は帰るべき故郷が無事な者が多く、それ以外は家が夜間の外出などを禁止しているなどの理由などなのであきらめて貰うしかなかった。
今回も手ぶらでと知らせていたにも拘らず大量の肉や野菜などが持ち込まれた為、調理部の部員が持ち込まれた肉の状態や形状を確かめて様々な料理に変えて行ったが、その料理はテーブル分としては数が足らない為に何ヶ所かある大テーブルに置かれて、各自で取り分ける事となっている。
酒類は今回神坂や窪内達が大量に持ち込み、ジュース類は霧養が大量に用意していた。
大型の冷蔵庫だけでなく大量に余った発砲スチロールの箱も丁寧に洗われて氷や水で満たされて各テーブルの近くに冷えたジュースを用意されている。
調理部の氷の妖精と呼ばれる井野上涼子謹製のアイス類なども用意されたがそれは冷凍庫で保管され、後で希望者にのみ手渡す事にされていた。
「今回も監視というか、様子をうかがう事になった。よろしくな」
日本史担当の深山直弥が今回もお目付け役に抜擢され、小運動場で成り行きを見守っていたが、今回は前回と違って隣には二学期から復帰が決まった妻の弥生の姿があった。
今回は凰樹輝が主催するという事もあり、参加人数は前回の倍の二百人にまで達し、学校の周りには警備の為に一般人に変装したSPや防衛軍の衛兵までもが政府や防衛軍のお達しにより見張りとして駆り出されている。
「今回もよろしゅう。隣のは奥さんでっか?」
「ああ、その件は本当に世話になった。本当にありがとう……」
「助けていただいて本当にありがとうございます。妻の弥生です」
深山夫妻は深々と頭を下げたが、神坂達は別にそんな事はお礼をされる程の事とは考えてもいなかった。
「歳の差夫婦ですね。奥さんは……」
聞こうかどうか何度も悩んだが、神坂はその言葉を口にした。
それはけっして好奇心からでは無く、自らの手で助けた人がどんな運命を選択したか確認したかったからだ。
「私年上が好きだったんで、今の直弥さんとラブラブよ♡」
「おい、恥かしいだろ……。ま、こういう事でな」
惚気まくる深山夫妻の態度に少しだけ目を点にしたが、神坂達はこの光景が見れて良かったと心から思い、特に竹中などは自分の父親と再会した時の事を思い出して目に涙を浮かべていた。
「今回は焼肉や酒の他に、つまみ用の珍味もありますから楽しみにしておいてください」
「お。そいつは楽しみだな」
流石にその珍味は人数分ない為に、酒飲み用として一部のテントだけに用意させて貰っている。
しかし、多くの生徒はそんな珍味より焼かれる肉の方を選ぶことは疑いようも無い事実だった。
「凰樹さん今回はお邪魔してごめんなさい。お姉ちゃんが行くっていうからつい」
「アレが凰樹さん……、やっぱり素敵だわ」
今回、特に呼んだ訳では無かったが宮桜姫香凛の妹の鈴音と椎奈紬を初めとする永遠見台付属中学の小妖精のメンバーも参加していた。
彼女達が参加出来るかどうかは凰樹の判断に任されたが、ヴァンデルング・トーア・ファイントで鈴音とは共闘した仲であった事もあり、小妖精全員の参加が認められた。
準備は順調に勧められ、大テーブルの料理がある程度揃った所で調理部部長の夜篠碧依のOKが出た為、BBQ大会の開始が決められた。
「よし、それじゃあBBQ大会を始めるぞ!!」
「「「「「「おーーーーーーっ!!!!」」」」」
凰樹の合図と同時にBBQ大会が開始され、各テントの下で事前に油を塗られた金網の上に凄まじいサシの入った牛肉が並べられて焼かれていく。
各テントから一斉に上がる煙と牛肉が焼かれる匂い。
生でも食べられるレベルの牛肉はある程度焼かれた時点で各自がタレにつけて即座に口に運ばれた。
「すげえ!! こんな牛肉食った事ねえよ!!」
「前回も凄かったけど、今回はさらにすごいよ!!」
「角煮と唐揚げと牛肉……、どれから食べるべきか」
「角煮はあるだけらしいぞ。牛肉は各テーブルにこんなにあるけど」
「おむすびと豚の角煮が美味すぎ!! あっちのテーブルの回鍋肉や棒棒鶏も美味そう」
まず牛肉が大量に消費され、口の中が脂っこくなったところでサラダやホタテなどの海産物を食べる生徒が多かった。
焼き肉用のタレも甘口や辛口などから醤油ベースや味噌ベースの物、ポン酢に塩など様々な物が用意されている。
それぞれが好みに合わせたタレで肉などを頬張り、今まで食べた事の無いレベルの肉に舌鼓を打っていた。
「凰樹さ~ん、今回はありがとね♪ これっ、あまり用意は出来なかったんだけど~っ」
調理部の駄女神こと鹿波美雪はホタテとウニ、伊勢海老などを握り寿司にし、皿に盛り付けてランカーズのいるテーブルへと運んでいたのだが、鹿波は料理の腕も凄いが寿司を握らせても寿司職人顔負けの腕前をしていた。
伊勢海老はその他にも半分に割って殻ごとグラタンにしてあり、その他にも多くの料理をランカーズのいるテーブルへと運び込んでいる。
凰樹がGE退治に異様な才能を発揮するのと同じ様なレベルで鹿波は調理の腕や知識にその全てが特化されており、大テーブルの上に用意されている料理もその殆どが鹿波の指示で作られた物だった。
「ウニの握り寿司……」
「ウニを軍艦にせずにちゃんと握れるなんてすごいな……。しかも形が綺麗だ」
「美味いっス!! これ凄いっスよ!!」
鹿波の握る寿司をうまそうに口にする凰樹の姿を複雑な表情でみつめていたのは女性陣で、特に楠木、荒城、宮桜姫香凛の三人はその姿を苦々しく見守っていた。
実際生ウニの形を崩さずにここまで見事な握り寿司を出す店など、この辺りでもそう簡単に目にかかる事は無い。
「新しいライバル登場?」
「美雪にはそんな話は聞かないけど……、あのこは色んな意味で最強だから」
「あの身長であの胸は反則……」
「竹中がそれ言うかなっ!!」
竹中の言葉に楠木などは反応していたが、ランカーズの女子勢は随分と親しくなった事もあり既に遠慮など其処には存在していなかった。
鹿波のバストは脅威のH65!!
一部の生徒からは駄女神という名の他に【最胸の女】という二つ名で呼ばれている。
サラダダイエットで食べた分が全部胸に行くともっぱらの評判だ。
「凰樹さん、今回の報酬で欲しい物があるんです。移動式の石釜なんですけど……」
「石釜?」
「はい!! ピザとかぜんっぜん仕上がりが違うんですよ~っ」
移動式石釜は寿買で買う事は出来るがかなり高価だ。
凰樹やランカーズの予算であれば何の問題の無い額ではあるが、鹿波達調理部の予算では少し購入は躊躇われる。
「み・ゆ・き!! あんたはまた凰樹さんに迷惑をかけてるの?」
「迷惑なんてかけてません!! ね~? ただのおねがいで~す♪」
鹿波が料理を運ぶふりをして何をしているのか気が付いた夜篠は血相を変えて駆け付けてきた。
もし万が一に凰樹やランカーズのメンバーを怒らせでもすれば調理部など明日にもでも廃部にされる可能性まであるからだ。
「なに、話は単に今回の報酬の交渉だ。報酬としてもし必要な物があれば後で知らせてくれ」
「さっすが凰樹さん!! はっなしがはっや~~~い♪」
交渉が終わったと察した芙実月と井野上の妖精コンビがすぐに駆けつけハイタッチをして鹿波の手を取り、怪しい踊りをおどりながらはしゃぎまくっていた。
「美雪!! さっすが~っ!!」
「これで文化祭で出すメニューに石釜で作った焼きプリンとかデザートの幅が広がるよ!!」
しかしその言葉に反応したのは荒城や竹中達で、話を小耳にはさんだ周りにいる女生徒は全員目を光らせていた。
「……それは食べてみたいですわね」
「うん、文化祭で絶対ゲットしなけりゃ」
「絶対おいしい。食べないと後悔する……」
調理部の砂糖の妖精と呼ばれている芙実月杏子渾身の焼きプリン……、それは女生徒による学食戦争を上回る激しい争奪戦が十分に予想された。
◇◇◇
「場違いだったかな?」
「ううん、大丈夫だよ。凰樹さんや窪内さん達はダメな時はダメってハッキリ言う人だから」
「そういう所も凄いよね。同級生の男の子たちも、あと数年であんなふうになるのかな?」
鈴音たちの同級生の男子生徒達はまだ遊びたい盛りでまだ落ち着いた大人という感じでは無い。
窪内や神坂達が落ち着きすぎているだけだが、アイドルのコンサート会場で神坂辺りに会えばまた印象は変わってるくだろう。
「食べてまっか? ええ機会でっから欲しい物があったら遠慮したらダメでっせ」
「あ、いただいています。あの……、凰樹さんってどんな方ですか?」
副部長で三年生の椎奈紬はそんな事を訪ねていた。
「あそこでホタテを焼いてまんな。戦闘時以外はあんな感じやで」
七輪でホタテを焼いている凰樹は普通の高校生にも見える。
しかし、見る者が見れば氣を常に全身に纏う凰樹の姿は猛獣が食料となるホタテと戯れているかのように見えただろう。
「あの戦闘映像とはまた別人ですね。なんていうか、落ち着いてて優しそう……。うん、あの人なら……、わたし…………」
「ああ、作戦中や戦闘時はほんまに別人でっせ。あの雰囲気からゆうて、何かとんでもない技か力を手に入れたんでっしゃろ」
流石に付き合いの長い窪内は今回の様な凰樹の提案や態度には何か裏がある事を見抜いていた。
それがなんであるかまではまだ予測はつかないが、とんでもない事なのは間違いない。
「椎奈がそんな事言うのなんて珍しいよね」
「婚約者がいるのに浮気?」
「ちっ……、違うから!! 浮気なんてそんな……」
顔を真っ赤にして否定する椎奈の態度をおかしく思った者は多いが、特にそこには言及せずに美味しい肉や料理などを食べ始めた。
思春期の少女の胃袋は底無しで、周りの男子生徒に負けない程に色々な料理を平らげていた……。
◇◇◇
少し離れたテントでは深山夫妻は教職員やAGEに混ざって酒を呑み続けていたが、その豪華なつまみにも驚いていた。
「本物のカラスミか……、こっちは松前漬けとくちこに生くちこまで……」
「贅沢よね~。美味しい、どれもこの日本酒に合う物ばかりね」
三年生で呑兵衛のAGE隊員が数名、深山たちと用意されていた様々な日本酒を飲み比べている。
深山のグラスが空になった所で新しい升に綺麗なグラスを置き、「さっすがは先生。ま、一杯いかがですか?」などと言いながらそこに賀茂滝酒造の純米日本酒を注ぎ始めた。
「貰おうか。おっっとと、升で受けてるからいいが、零れたら勿体ないだろ?」
「流石に酒飲みですね。しかし升まで用意してあるとか、この一角だけ居酒屋みたいですね」
「ここまで豪華な居酒屋は無いがな。用意された七輪でホタテを焼きながら日本酒で一杯とか、今のご時世じゃまあ他にはな……」
他の居住区域よりも充実しているこの居住区域でさえ、居酒屋などはまだそこまで営業を開始してはいない。
ショッピングモールから続く一角には何件か居酒屋はあるが、流石に学校が近い為に永遠見台高校周辺には一件の居酒屋さえも存在しない。
近場の商店街には何件かあるが、このレベルのツマミを提供しているかと言えばそんな事は無かった。
「カラスミやくちこなんてどうやったら手に入るのよぉ!! くぅ~~~~~っ!! このカラスミのおつまみ、このお酒に合うわっ!!」
「これ全部調理部製らしい」
「永遠見台高校最胸の女か、料理上手くてあの胸は惹かれるけど」
「「「「性格がなぁ~~~~~~」」」」
調理部の女神と呼ばれている鹿波美雪は、アイドルというよりも調理部の砂糖の妖精と呼ばれる芙実月杏子や調理部の氷の妖精と呼ばれる井野上涼子の三人ひっくるめて調理部のマスコットとして認識されている。
見た目が可愛くまたスタイルの良い三人でありながら性格に難がありすぎ、近付いてくる男性は意外に少なかった。
◇◇◇
サッカー部や野球部など運動部系の部員が多く集まるテントでは料理の消費が激しく、大量に用意された肉などの消費に貢献していた。
それだけでは無く調理部の部員が用意した唐揚げ丼やカツ丼まで平らげ、普段は発揮したくても発揮しきれない食欲を次々に運び込まれる料理に全力でぶつけている。
「は~い。お残しは厳禁だからね~。唐揚げ丼三つにカツ丼四つ。それに牛丼二つだよ~!!」
「うおっしゃあ―――っ!! 食うぞぉ―――!!」
「焼肉も美味いけどこの丼物も最高だな!!」
焼肉やテーブルに並んでいる料理までほぼ食いつくし、調理部に追加で丼物まで追加注文する男子運動部員。
前回参加できなかった者などはその分まで食い尽くそうと、手当たり次第に目についた料理を腹に詰め込んでいた。
「わかってる~ぅ♪ みんなが頑張って作ったんだからあそこの料理も完食してよね」
「まっかせとけ~っ!!」
焚かれた米も十キロ以上あったがおむすびや丼にされた事で無事消費され、前回の勢い以上の速さで無事殆どの料理は集まった皆の腹の中に納まった。
そして料理がほぼ食べ尽くされた後で待望のデザートタイムとなり、甘いにおいの漂う大量のケーキや彩りも美しいアイスが運び出され始めた。
「デザートの登場だぁ――――――!!」
「美味しいアイスもあるよっ!! さあ並んだ並んだっ!!」
芙実月と井野上冷蔵庫や冷凍庫から大量のケーキ屋アイスを取り出した瞬間、殆どの女生徒と一部の男子生徒が其処に集まった。
流石に世界最高水準とまで言われ高級店で知られる甘味帝のアイスやケーキには及ばないが、それに近い味という事もあってケーキ屋アイスを無事に手に入れた女生徒たちは顔を蕩けさせている。
「う~ん。やっぱり芙実月さんにはかなわないな~」
「聖華のクッキーとかも美味しいけど、流石に本職じゃないし仕方ないんじゃない?」
「芙実月さんの腕なら、明日からでもケーキ屋が開けますわ。このクリームブリュレなんて絶品です」
ケーキは数種類用意されていたが何度か並んだ生徒でさえも全種類を制覇する事はかなわず、かなりの数が用意されていたアイスやケーキも数十分で完全に売り切れていた。
「ごっめ~ん、もう品切れなのっ。次の機会か文化祭にはもっと大量に用意するからまたお願いね♪」
「またよろしっくねー♪」
大人気のデザートタイムはこうして幕を閉じ、美雪たち三人は文化祭へ向けた十分な手ごたえも感じていた。
◇◇◇
テントから離れた一角などでは花火が開始され、夏の夜を彩っていた。
「ひゃっほ――――――――」
「綺麗……、最近は花火する事も無かったし……」
「花火大会が開催されなくなってずいぶん経つし」
会場の確保の難しさとか予算の縮小など理由で花火大会が中止をはじめて随分と経っていた。
個人手頼む規模の花火位はコンビニやスーパーで買えなくもないがそんな物を買う位なら食糧を買おうとする者も多く、こうして花火を楽しむ余裕すら忘れ去られていた。
「みんな楽しんで貰えたかな?」
「凰さん……、最高のBBQでっせ」
「ね、あきらも一緒に花火しよう♡」
「よし、みんなでやるか!!」
「おおおっ!!」
神坂や霧養達も様々な花火を箱から取り出して次々と火をつけ、色とりどりの花火が夜空を飾り始める。
一瞬ではあるがGEが現れる前の様な平和な夜が永遠見台高校には訪れていた。
読んで頂きましてありがとうございます。




