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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
居残り組編
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裏方の挽歌

武器を開発強化している窪内たちの話になります

楽しんで頂ければ幸いです


 八月九日、午前九時三分。



 武器技術研究部の研究棟の一室で部長の沢姫(さわき)真優(まひろ)とランカーズの窪内(くぼうち)龍耶(たつや)の二人は怪しい実験を繰り返していた。



「真優はん、もうこれ以上無理……やて……」


「もう少し絞り出せそうな気がするが……、四回目だとこんな物か?」



 ベットの上で様々な装置を付けられた窪内を沢姫か様々な機器を通して観測しているだけなのだが、声だけ聴くと何やら怪し事をしているように聞こえなくもなかった。



「十二時間ごとのデータがこれで四つ目か。使い続ければ(ヴリル)の数値は一桁にまで下がり、回復に約十二時間ほど掛かる事も確認されたな」


「まったく、今なんかあったらわては戦力にならへんやないか」


「だからこそ龍耶に頼んだのだろう。神坂(かみざか)霧養(むかい)に頼まなかったのは、いざという時の為だからな」



 窪内の手には(ヴリル)測定装置が巻かれており、その先には銃によく似た形のちょっと変わった物を握らされていた。


 その装置には小さなカートリッジが四つほど取り付けられており、そのカートリッジにはそれぞれ色分けされた数値が刻まれている。



「今回も試作型チャージカートリッジには(ヴリル)が五十ずつチャージされているな。チャージできる数値はMAXの半分程度という事だ」


「あまり割りにあわんのとちゃいまっか? チャージ後は十二時間ほど行動不能やし」



 窪内の言う通り、この試作型の(ヴリル)チャージカートリッジにはカートリッジの最大値である百のうち半分の五十程が貯められている。


 本数を減らせば最大値までチャージ可能だが、今は様々なテストを兼ねている為にこの本数のカートリッジを使用していた。



「揮発性が高すぎるのも問題だな。これを使った場合一時間も使用できん上に、計算ではこのまま放置していれば一週間も経たんうちにゼロまで下がるからな」


「何種類か試作型の(ヴリル)チャージカートリッジを作ったけど、一番長いのでそれやからな。短い奴は半日程度でカラやし」



 チャージしたカートリッジをユニットを増設したM4A1改参にセットしてテストを重ねた結果、様々な問題点が浮上したが、(ヴリル)チャージカートリッジの現状での最大の問題点は持続時間とこの揮発性だ。


 チャージした状態のままでそのまま何もしないで放置していれば、時間単位でどんどんチャージされた(ヴリル)は拡散されて消滅し、カートリッジの材質次第では百までチャージした(ヴリル)が僅かに半日程度で完全に消滅した。


 こんな状態では実戦投入など夢のまた夢で、(ヴリル)値の高い人間だけに完成したM4A1改弐を使わせた方がよほど()()だった。



「結局現状では画期的なカートリッジシステムが開発されるまで、改良型のM4A1改弐(これ)で頑張って貰うしかないな」


(ヴリル)回復剤でもありゃちゃうんでっけど、実験結果がこれやから」



 目の前のモニターに表示されているグラフは殆ど上下する事無く、左下から右上まで真っ直ぐに刻まれている。


 これは一度(ヴリル)を使い切った窪内が十分ごとに簡易型の(ヴリル)測定器で現在数値を図り、それをデータとして纏めた物だ。


 睡眠、食事、生命力(ゲージ)回復剤、など様々な手段を試していたが、回復量にはほとんど変化が無く、一度(ヴリル)を使い切った場合は十二時間ほど回復する時間を必要とする事まで突き止めていた。



「食事もダメ、睡眠もダメ、これでは(ヴリル)の数値が低い者など、一度か二度チャージしただけで(ヴリル)が底を突いて役に立たなくなるだろう」


「最低でも五十越えんと使い物にならへん。真価を発揮し始めるのが百以上の場合で、出来たら二百って割と絶望的な数値やと思うんやけどな」


「逆に考えると、ランカーズのメンバーや宮桜姫(みやざき)が異常なだけだが……。特に宮桜姫(みやざき)は活動期間に比べて数値が高すぎる。その辺りに何か秘密があるのかもしれないな」



 宮桜姫(みやざき)香凛(かりん)のAGEとしての活動期間は現時点で二月程度だ。


 (ヴリル)の数値がAGE期間と関係ないとするならば、一般人の中にももう少し数値の高い物がいてもおかしくない。


 しかし、一般人の数値はどう頑張っても六程度で一般的なAGEであっても十を越えず、それ以上の数値を記録したのはトップランカーや元トップランカーの二人だが、宮桜姫はその一部のトップランカーと比べても倍近い数値を記録している。



「一応、一度でも特殊マチェットを使った事のあるAGEは九から十という数値を記録しているらしい。宮桜姫は過去に一度だけ特殊マチェットを使った事があるらしいが、その程度でこんな数値になるなら、特殊マチェット使用者全員が既に四~五十程度の(ヴリル)を持っていないとおかしい計算になる」


「生まれつきの才能か何かって事やろな……。凡人にはきっつい現実やけど」



 才能という壁を突破するには相応の努力が必要だが、どんな努力をしたらそれを突破できるかという方法自体はまだ見つかっていない。


 凰樹のとってきた行動を真似すればいいと思うかもしれないが、三歳児に特殊ナイフや小型の特殊トイガンを持たせてGE討伐に向かわせればどうなるか理解できない者は殆どいないだろう。


 無茶を承知でそれをやり遂げた凰樹やその両親の行動力があればこそだが……。



「宮桜姫など、AGE活動はおろかGE関連の訓練など行って来なかっただろうからな。情報ではシールドも使えないという話だが」


「他にもシールドが使えない隊員もおますが、全員一定数値でとまっとりまんな」


「シールドを使えるかどうかも目安でしかないという話か。厄介だな」



 何をどうすれば(ヴリル)の数値を伸ばせるのか、その方法が無ければ今後この力を使った兵器の開発は難航する。


 その為にチャージカートリッジの開発が急がれるのだが、こちらの方も一向に目途が立たない状況だ。


 もう少し長時間チャージした(ヴリル)を保存可能な触媒か何かが発見されるか、(ヴリル)の使用量を押さえたり(ヴリル)ブースター的な増幅器か何かが発明されない限りGEとの戦闘はそれほど有利にはならないだろう。



「そういえば、龍耶達が軟禁中に完全改良版のM4A1改弐を爺さん宛に送ったが絶賛していたぞ。当面、防衛軍にはあれを量産したタイプを支給するそうだ」


「これで防衛軍はしばらくまた対GE戦では世界最強の軍でんな。そういや、真優はんが開発しとった武器ってどないなや?」


「アレか……、アレは元々生命力(ゲージ)をほぼ直接銃弾にするシステムで現在も(ヴリル)方式に切り替えて改良中だな。完成すれば威力は折り紙つきなんだが」



 完成すればと言っているが、そこまでの道のりは厳しい。


 生命力(ゲージ)タイプが完成しなかった理由に、【使用する生命力(ゲージ)が多すぎて実戦では投入できない】という物もあったのだが、その辺りは(ヴリル)の発見で解決したが、問題はチャージする(ヴリル)の量が千以上必要というところだ。


 凰樹であればその辺りの条件はクリアできるが、旧タイプの生命力(ゲージ)方式では流石に試射させる訳にもいかず、(ヴリル)方式のチャージシステムが完成すれば一度位試射させてみたいと考えていた。



「そういや、いま特殊ランチャーの値段が駄々下がりらしいでんな。まあ、特殊トイガンで何とかできるようになったらアレはもう用済みでんな」


「いや、アレも(ヴリル)方式に切り替えれば十分に……、そうか特殊ランチャーか!!」



 特殊ランチャーは特殊トイガンとは少し違うチャージ方式が採用されている。


 でなければ数世代前のフル装備で固めた普通のAGEや、防衛軍に比べても格段に装備の劣る守備隊辺りの人間に拠点晶(ベース)を破壊出来る筈も無く、大型(ヘビータイプ)GE戦などで威力を発揮する訳も無かった。



「あれには特殊な増幅器が使われているはずだ。中の触媒や特殊弾も特殊トイガンとは別物」


「でないと、通常の特殊トイガンいくら強化しても普通のAGEに拠点晶(ベース)の破壊なんて無理な話でっからな。アレ入手して構造調べまっか?」



 窪内もある程度は特殊ランチャーの構造を知っているが、最新型の特殊ランチャーを調べなければ意味が無い。


 申請すれば即座に送られてくるだろうがそれでもう数日必要になるだろう。



幽玄(ゆうげん)に頼むか。あそこなら遅くても明日には届く」


「はやけりゃ午後便で送って来る可能性もありまんな。しかし真優はんもあそこのコードをしっとったんやな」


「私の知る限りはあのコードを渡されたのは瀬野(せの)と私と、ランカーズ位だな」



 新たにコードを渡された鈴音達の事はまだ知らなかったが、その他の全てが永遠見台高校(とわみだいこうこう)の生徒であるという事実は驚くべき事だったが仕方の無い事なのかもしれない。


 最近は高純度魔滅晶拾い(ハイエナ)行為で結構なポイントを入手する部隊も多く、実力も分からない部隊に貴重な兵器を売る程幽玄(ゆうげん)にも在庫が無限にある訳では無かった。



「とりあえず、特殊ランチャー待ちでんな」


「そうだな……、と言いたい所だがこの時間にランカーズの武器の調整でもしておくか」


「全員分の武器の調整となると、待ち時間なんかすぐでんな」


「凰樹の分は特に丈夫にしておく必要がある。奴に何かあれば流石に私でも命が危ない」



 今の凰樹であれば、物理的なダメージはほぼ無効化されるので至近距離で爆発しても無傷なのは間違いないが……。


 それでも、凰樹に怪我でもさせればどこからどんな迫害が来るか知れたものでは無い。



「この国の切り札っちゅうてもおかしゅうない位でっからな。2学期から学校の体制も楽しみでっせ」


「この高校に誘致した連中も今は逆に凰樹の扱いをどうするか戸惑っているだろうからな。それだけじゃないが」



 高校側は今や最重要人物となった凰樹だけでなく、神坂(かみざか)や窪内たちランカーズのメンバーについても随分と扱いに困っているらしい。


 安全に食事をとらせる為にも専用の食堂を作るべきだの、犯罪防止の為に衛兵付きの専用のトイレなどを用意するべきだの、体育の授業で校外を走らせるのは危険ではないかなど細かい事まで様々な対策について連日話し合いが続いている。


 また時折その会議には対GE民間防衛組織事務所所長である影於幾(かげおき)之滋(ゆきしげ)や県知事の黒佐季(くろさき)基成(もとなり)まで忙しい公務の合間を縫って顔を出していたりもした。



 黒佐季は広島第一居住区域と広島第二居住区域の間にある廃棄地区を全て攻略して貰い、二つの居住区を合併させてしまおうという考えだ。


 現在でも裏では第二首都とまで呼ばれている広大な完全安全区域を持つ広島第二居住区域の評判は高く、移住申請してくる人間の数は毎日数万人を超えるとまで言われている。


 また、それに伴って各地に点在している命の惜しい金持ち連中もこぞって移住申請をしており、其処から流れてくる裏金で議員や黒佐季の懐は大いに潤っていたりもする。



 県知事である黒佐季は莫大な裏金で良い思いをしておきながらも県庁所在地である広島第一居住区域では当然その事を面白く思ってはおらず、凰樹を引き抜けないのであればいっそのことその間にある邪魔な廃棄地区を全て奪還させてしまえばいいなどと考えていた。


 完全安全区域に対して唯一の脅威であるヴァンデルング()トーア()ファイント()を討伐可能な凰樹という戦力まで備えている為に、一部の不動産業や居住者の間では広島第二居住区域の安全神話が不動な物と化している。


 当然、広島第二居住区域の中心部では首都とそこまで変わらぬ程に地価は上がり、居住区域周辺でまだ環状石(ゲート)が存在する為に今はまだ危険区域の一部では通常では売り買い出来ない筈の土地にまで激しい争奪戦が始まり、見事にその土地を比較的安値で買い取った者は、その土地が一日も早く安全区域になる事を望んでいた。



「私や龍耶は卒業後の進路は決まったも同然だが、各地の大学では神坂達をなんとか取り込めないかと様々な特例を模索中らしい」


「勉強嫌いやからな……。だいたい今のポイントがあれば進学も就職もせずにぶらぶら生きても一生どうにでもなりまっせ」



 既に数十億持ってる人間を満足させる事の出来る年収が払える企業がどれだけ存在するか……。


 防衛軍に引き抜こうにもこれだけ資産がある人間であれば断られる可能性の方が高い。


 凰樹であればおそらく生涯GEとの戦いを辞める事は無いだろうが、十分な報酬や地位を約束できるかと言われればかなり難しい所でもある。



「まあ、それはあと数年猶予がある、それまでに何とかなるだろう。問題は二学期からだろう」


「あ~、なんかクラス替えとかされるらしいでんな。復帰した生徒も含めてかなり大幅に……」



 永遠見台高校(とわみだいこうこう)にも復帰する生徒の数が多く、校舎が別で分校扱いされている食糧生産科も含めれば二百人近い生徒が新たに編入される予定だという。


 当然生まれた年や石化した年数に差がある為に随分とジェネレーションギャップがある者も多く、当時習っていた事が今では正反対の事を教えられている事など珍しくは無いために、復帰する生徒達はそのギャップを埋める為の勉強をこの夏休み中に済ませるという話だ。



 なお、GE対策部の先代部長である堀舘(ほりだて)護哉(もりや)と元GE対策部の部員七十名は全員転校申請しており、別の高校に行く事が決まっている。


 今更どんな顔をして学校に通えばいいか分からないという事だったが、当時の状況を知る者の多くはこの転校騒動も仕方ない事と受け止めていた。



「ランカーズのメンバーは全員、特別クラスになるという話もでているな」


「体育の授業とか、凰さん基準にされたらかなわんからな」


「最新情報ではどうやらマッハを越えたらしい。百メートル走などは測定できまい」



 走力だけでなく跳躍力や投擲能力も常人の域に留まってい物など何一つなく、野球やサッカーなどの球技に参加させる事も他の生徒が危険ではないかと思われている。


 ランカーズの他のメンバーも気が付いていないがこのひと月の間にかなり能力が伸びている為に、凰樹とまではいかないが常人というにはあまりにかけ離れた能力を有しているのだが……。



「それは二学期になってからのお楽しみでんな。と、こっちのパーツはまだでっか?」


「今マシニング中だ。その後で研磨作業と微調整が待っているぞ」


「いつもの事でんがな。ま、予備パーツもいくつか作っときまひょ」



 こうして、ランカーズのメンバーが知らない内にも装備は強化されている。


 活動を続ける裏方を重視し初期から報酬などで十分に報いている凰樹だからこそ、窪内などの人材は十分にその腕を発揮する事が出来た。






読んで頂きましてありがとうございます

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