小妖精の少女達 三話
小妖精の話はこれで終わります
楽しんで頂ければ幸いです
午後零時二十五分。
鈴音たちは迷宮の様な地下街を抜け出し、喧騒にまみれた表通りを歩いていた。
ちょうど昼飯時な為、みんなでそれぞれ思い思いの店を物色していたのだが、鈴音たちに気が付かれない様にゆっくりと近づいてくる男達の姿があった。
地下街の僻地とは違って表通りとなると人通りは多く、そしてそこにいる女性を狙うクズは何処にでも存在している。
最近は警備が強化されているが、時たま三々五々に分かれていたガラの悪い男達が少女を取り囲み、無理矢理デートに誘ってやりたい放題した後で最悪の場合は無残な姿に変わり果てた少女達を路上に放置したりされている。
当然、そのような行為が発覚すれば、どんなに軽くても無期懲役で普通は死刑となるが、その過程を省いて射殺される事も多い。
それらの犯罪の多くは夕暮れから夜間にかけて行われるが、その時間帯は犯罪者を警戒して武装した警備員の数が増える為に真昼間にそれを行う者もいる。
そんな事情もあり、昼間のこんな時間にも拘らず鈴音たち八人を取り囲むように十人のガラの悪い男が近付いてきた。
目的はもちろん、見た目の良い八人の少女にけがれた欲望を吐き出して満足する為で、腕に少しは自信のある男達は邪魔する者があれば力で捻じ伏せようと考えている。
「そこの可愛い嬢ちゃんたち、俺達とカラオケにでも行かねえかぁ?」
「俺達の行きつけの店でよぉ。ちょっとくらい羽目を外しても文句も言われねえいい店なんだぜぇ」
「大丈夫、だ・い・じ・ょ・う・ぶ!! 最初はちょ~っと怖いかも知れねえけどよぅ、絶対後悔させねえって!!」
どんな羽目の外し方をしようとしているのか、鈴音たちはある程度想像が出来たがそこから逃げ出すには少し無理がありそうだ。
鈴音や椎奈は逃げ切る事は可能だが、全員が無事に逃げるとなると少しばかり無理がある。
確実に一人か二人は男に捕まり、逃げ出せた自分たちの分も余計に悲惨な目にあわされる事だろう。
また、実力で切り抜けるとしても、如何に剣道をしている椎奈であっても一人二人ならばともかく屈強な男を十人も相手に素手で大立ち回りをする事はかなわず、マトモにやりあうのは無謀としか思えない為に、周りの誰かが特別保安部隊辺りを呼んで来てくれることを期待するしかなかった。
木刀でも持っていれば話は変わるが、男達がナイフなどで武装している可能性は高く、そうなればここで死人がでたり誰かを人質に取られる事態も容易に想像できる。
周りにいる人は男達を恐れて誰も携帯などを取り出す事もせず、遠巻きに取り囲んでいる事で作り出した人垣でその外にいる人に事態が分からなくしているだけだった。
「ちょっと幼ねえが、たまにゃこの位の奴も……、なんだお前?」
人ごみの中からサングラスをかけた優男が厳つい男達に怯んだ様子も無く、ひょうひょうとした足取りで鈴音たちに近付いてきた。
優男は男達を見回した後でため息をつき、「結構特別保安部隊が増えたった話なのに、こんなバカがまだいたんだ」とリーダーらしき男に向かってハッキリと言い放った。
「バッ……バカだと? この人数に一人で喧嘩売るテメエがバカだろう?」
優男は周りをサングラス越しに見渡し、「この人数? 俺とやるには一桁足りなんじゃないかな?」と、やれやれといった感じで挑発までしてみせた。
「足りないかどうか確かめろや!!」
「良い気になるなボケが!!」
ひとりの大柄な男が優男を捕まえようと手を伸ばした瞬間、その手を逆に掴まれて寄ってきたもう一人の男に向かって投げ飛ばされた。
優男は地面に倒れた男には即座に蹴りを入れ、トドメを刺す事を忘れていない。
「暇じゃないから、少し本気でいくっスよ」
そう言うと優男は繰り出されるパンチや蹴りを紙一重でうまく躱し、逆に顎先をかすめる様に掌底をおみまいして瞬く間に残り八人の男全員を戦闘不能にした。
ガラの悪い男たち十人全員が地面で蹲った後でようやく騒ぎを聞きつけた特別保安部隊が駆け付け、「そこまでだ!! とりあえず喧嘩はやめろ」と間に割り込んできた。
「喧嘩か? にしても十人相手に……」
「署の方で幾つか聞く事があるかいいか?」
優男は、「まあ、暇じゃないんっスけどね」と言いながら軽く頭を掻いていた。
まあ、状況的にどう話が転んでも蹲っている男達に非があるのは間違い何のだが。
「あの……、その人は私達を助けてくれただけです」
「そうです。絡んできたのは其処の人たちで……」
鈴音たちは助けてくれた優男が誰なのか気が付いていないらしく一生懸命擁護していたが、優男がサングラスを少しずらして小声で隊員に名を告げると特別保安部隊の隊員は全員敬礼し「失礼しました!!」と謝罪した上で何度も頭を下げて地面に倒れていた男達に手錠をかけて連行し始めた。
「鈴音ちゃん、危なかったっスね」
「え? まさか……」
鈴音たちの前でもサングラスを少しずらして「俺っスよ」と言った優男の正体。
それはランカーズの霧養敦志だった。
流石にレジェンドランカーでも霧養クラスがその気になれば地方の署長あたりでも簡単に首を飛ばす事が出来る為に、ヒラの隊員や警察官では強く出れる筈も無く、それだけではないがランカーズを尊敬する者も多い為、正体をあかせば大体同じような対応をされる事が多い。
そのうえ、ランカーズ全体ではあるが家族や恋人を助け出して貰った者が最低でも百万人以上程存在する為、迂闊に手を出せばどうなるか知れたものではなかった。
「霧養さん?」
「そうっス。この辺りも物騒だから、気を付けた方がいいっスね。じゃあ」
霧養はそういうと軽く手を振って人ごみの中に消えて行き……、そして今の騒ぎで簡単に正体がばれて、またしても大勢の人に取り囲まれる事態となっていた。
黄色い声援が響いてスマホで動画や写真を取る人が続出し、SNSに大量に動画が投稿され始める。
そして十分程で警察が姿を現し、大勢の警官に囲まれてその場を後にしていた。
「やっぱり霧養さんクラスだとサングラスだけだとダメなんだよね~」
「あの人が霧養さん? あんなに強かったんだ……」
ランカーズで対人戦闘能力の高さは人外な強さを持つ凰樹は別格として次が霧養で、神坂、荒城と続く。
特に霧養は先読みが出来る為に攻撃を事前に察知して殆どの攻撃を紙一重で交わす事が可能な上に、元々格闘センスがずば抜けている事もあり、ランカーズ以外では他の追随を許さないレベルにまで達していた。
神坂もその気になれば霧養といい勝負をするが、やはり先読みが出来るかできないかの違いで明暗が分かれ、更に分身まで使われるともう手に負えない状態だ。
それでも凰樹と模擬戦をした時にはあまりの攻撃速度に対応すら出来ず、凰樹に本気を出された場合は霧養ですら数秒で勝負が決まっている。
凰樹の場合、本気になれば自身の動きだけでなく物理干渉の出来るシールドを使った相手の拘束や不意打ち、魔弾を使った攻撃など多彩な技を持ち、その上攻撃をいくら繰り出しても直前で物理攻撃を遮断できるシールドに阻まれるために、有効打に繋がる事は決してない。
それどころか本気を出した凰樹の動きを追う事も予知する事もほぼ不可能で、向き合って勝負を始めた瞬間の対戦相手が地面に倒れているようなありさまだ。
「あそこの人はみ~んなああだから。気にしたら負けだよ♪」
既に達観してきた鈴音もランカーズのメンバーの異常な能力や行動に耐性が付き、あまり深く考えない事にしていた。
「全員?」
「そ、お姉ちゃんはまだまともだけど、後の人はみ~んなオカシイの」
そういう鈴音自身も、そのオカシイ連中の仲間に片足を突っ込んだ状態なのだが、幸か不幸か本人はそれに気が付いていなかった。
◇◇◇
午後一時十五分。
鈴音たち八人は話し合いの末にパスタが美味しいと評判のイタリアンカフェ『パスタ&ピッツア』で昼食をとっていた。
看板メニューでは無いがジェラート系のドルチェも人気があった為に中々行列が進まず、結局はこの時間になってようやく昼食という事になった。
「ランカーズの人に助けて貰ったのは二度目だけど、霧養さんってあんなに強かったんだ」
「前の時はGEが怖くてあまり他の事は覚えてなかったんだけど、私達と殆ど歳が変わらないのに凄い落ち着いてるっていうか大人だよね……」
霧養も真面目モードであれば、そこまで羽目を外す事は無い。
ランカーズのメンバーで言えば、真面目モードで羽目を外すのは神坂で、真面目モードで常識から外れるのが凰樹だった。
「霧養さん達って恋人とかいるのかな?」
「付き合ってた人がいるって話は聞いたよ。神坂さんは年上趣味でおっぱい星人だから無理として、窪内さんも恋人がいるって聞いた気がする」
実際には今はフリーなのだが一時期霧養が付き合っているといわれた少女の名は笠原美亜。
実は笠原の行動はランカーズの紫と同じで、報酬が後払いか先払いかの差だったに過ぎない。
KKI地区を支配する環状石で石像に変えられて囚われていたのは笠原が目に入れても痛くない最愛の弟で、その弟を助ける為にKKIを支配下に置く環状石を破壊して貰える様に、色々な手を使っていたのだ。
色々な黒い噂があるが本番までには至っておらず、声をかけた者には全員口と手だけで完全に絞り尽くすほどのテクは持っていた。
霧養は一時期付きあってはいたが、肉体関係は求めず「この辺りのゲートなら輝さんがそのうち破壊するっスよ」などと言って、それっきり笠原と会う事は無かったという。
「恋人いるんだ~」
「後は凰樹さんだけど、あの人と付き合うとなると大変だよ? 私はあの海水浴の一件で憧れの人ではあるけど恋人は無理かなって思ったから……、いまだに恋人になろうとしてるお姉ちゃんは凄いなぁって思ったくらいだし……」
ほぼ人外……、少し眼を離しただけで何を仕出かすか分からない凰樹と付き合うとなると相当に太い神経をしているか、それとも最後まで凰樹を信じ切れる強い心を持っているかのどちらかしかない。
隣にいる事の厳しさを即座に気が付いた鈴音は憧れの対象として凰樹を見ていたが、恋人にするにはちょっと難しいかな? と現実的な思考で自らの恋心に終止符を打たせていた。
「恋人欲しいよね~? 誰かいい人いないかな?」
「同級生の男の子はなんか子供っぽいし、AGEやってると敬遠してくる子も多いから」
「GEに恋人が石像に変えられたら悲しいからだっけ? 大丈夫僕が助けるよ!! 位言ってほしいよね~」
「そのセリフ言えるの、ランカーズの人位だよ」
無責任にそんなセリフを言う男も信用できないが、AGEをやっている女性と付き合うのであればその位の台詞はいって欲しかった。
ランカーズのメンツであれば環状石のレベル次第で本当にやって見せる所だが……。
「でもでもっ、クリスマスまでには恋人欲しいでしょ?」
「あの高級ホテルのロイヤルスイートに部屋を取ってあるんだ。とか言って欲しいよね」
「……ランカーズの皆なら泊り慣れてるんじゃないかな?」
あの高級ホテルとは、毎回軟禁に使われているホテルの事で、ランカーズのメンバーにはこの先も何度も利用されると考えられており、最上階のフロアでは一般客の宿泊を見合わせているほかに誰がどの部屋といった所まで決められている。
しかしホテル側も多少の損益は目を瞑って【ランカーズ愛用の当ホテルにようこそ】【凰樹輝推薦!! 最高級ステーキコース!!】【ランカーズ女性陣愛用のエステコースはこちら】などとランカーズを散々宣伝に利用していたりもする。
入り口周辺にはホテルの支配人や従業員と記念撮影されたパネルが展示され、色紙にサインなどまでさせてそれをフロントに飾っていたりもする。
売店では愛用のグッズやお勧めの商品と並んで、写真入りのステッカーやランカーズの公認タオルなどまで販売されていたが、軟禁でお世話になっていた事もあり皆協力的だったとか。
「石像から元に戻った人も多いけど、私達の年齢位から上はいまだに女性の方が多いじゃない?」
「男の人はAGE活動に積極的に参加した時に、結構犠牲者でたからね……」
これはこの国では歴史的事実で、十年程前から数年前までの期間、【男であるなら手に銃を取れ!!】などのキャッチフレーズで集められた当時の高校生や大学生などのAGEが無理な作戦に参加して多くの犠牲を出したのは確かだ。
対GE民間防衛組織事務所の影於幾之滋が副所長の時代の話で、この一件も影於幾が副所長から所長へと昇進できた切っ掛けでもある。
全国の対GE民間防衛組織で行われたこのキャンペーンでの犠牲者はあまりにも多く、結婚率や出産率の低下など多くの社会問題を生み出している。
この時にAGE活動に参加せず、不当に後ろ指を指され続けた者は元々社会不適合者が多く、不法移住などを繰り返していたりもする犯罪者だ。
「いい人は争奪戦激しいから……、霧養さんはちょっと軽そうだし、上手くいけば恋人になれるかも!! って思ったひとたちに取り囲まれる事多いよね」
「霧養さんやさしそうだし。金持ちだしね~」
「四十億ポイントだっけ? それとも五十億?」
「高純度弾とか使ってるみたいだから使う方も湯水だろうけど、使いきれるポイントじゃないよね~」
ランカーズのメンバーであればこのショッピングモールで売っている物で買えない物など無いだろう。
もっとも、ランカーズの男性陣と付き合うにはいろいろハードルが高すぎるが……。
「強くて格好良くて懐の広い同年代の男の人っていないかな~」
「それって美人でスタイル良くて大和撫子な女性いないかな~って男の人が言ってるのと同じだよね?」
「だね……」
世に男性は多いが、そんな条件を満たす男性を探し出す事は難しすぎた。
それだけでは無く、優しかったり格好良かったりする男性の多くには既に恋人がいる事が多く、先見の目を持ち先物買いで幼馴染や近所のお兄さんあたりを確保するかどうかによって勝敗は分かれている。
「椎奈さんは婚約者がいるんだっけ?」
「うちは古い家系だから……、私自身に選択権など無く、まだ一度もあった事など無い婚約者だが……」
椎奈家では神のうちを終えた時……、七つを迎えた歳に決められた家同士で婚約者が決められ、決められた家に適齢の子が存在しなければ、分家などの中から誰かが選ばれ、大体は十八になる歳に結婚させられる。
「それ酷くないですか?」
「まあそうだが、大体うちの婚約者は心身を鍛えあげた者が多い。家を継ぐにはその位の婿を迎える必要があるんだ」
「羨ましい……」
「代われる物なら代わってあげたい位よ」
古い家には古い家なりのしきたりなども多く、今どきの女子中学生には厳しすぎる事も多い。
こうして一緒にお茶をしているだけでも、幼い頃から徹底的に礼儀作法を教え込まれてきた椎奈の振る舞いと他の隊員達の行動には雲泥の差がある。
「隊長にはいい人いないんですか?」
「私は少し前まで凰樹さんがいいかな~って思ってたけど。ちょっと無理って分かったから」
「素敵ですけど、恋人は確かに無理ですよね……」
少しはAGE活動を通じてあの活躍がどれだけ出鱈目であるか理解出来た者は、凰樹を恋人に~などとは考えない。
凰樹に恋をするのは何も知らない一般女性か、どれだけ険しい道でもついて行くという覚悟を決めた一部の女性だけだ。
「決めた!! このままAGEを続けていい人をGETするんだ!!」
「そうだね。やっぱり彼氏にするなら同じAGEでないと」
恋人がAGE活動をする事を嫌う事は多く、誰かと付き合い始めた途端にAGE活動から遠ざかり引退する者も多い。
しかし、運営がうまくいっている一部の部隊などではその魅力的な身入りを諦めきれずにAGE活動を続ける者も多く、小さな行き違いから口論となりそのまま破局するカップルも多かった。
年頃の少年少女によるAGE活動。
それは青春を彩る一ページとしてはあまりにも灰色で、そして苦難の多い道ではあった。
読んで頂きましてありがとうございます




