ランカーズの実力は……
色々ありまして間が開きましたが再開します
楽しんで頂ければ幸いです
八月五日、午前十時三十分。
KSK環状石のある畑跡から数キロ離れた業務用スーパー跡。
そこの駐車場にマイクロバスを停めた神坂蒼雲はトランクから装備を取り出し、それを身に着けていた。
今回の作戦は、神坂、窪内、霧養、竹中、宮桜姫の五人が環状石の攻略に向かい、伊藤が周囲の探索を行って楠木が不測の事態に備えて護衛についていた。
楠木も今回はこの場に凰樹がいない為に護衛をする事に特に異議を唱えず、おとなしく伊藤護衛の任務に就く事にした。
ただ、楠木自身も最近は今のままでは凰樹の隣に立つのは難しいという事に気が付き、手渡されたキーホルダーを使って連日シールドを張る練習なども行っている。
「今回は途中に攻略していない拠点晶が二ヶ所存在する。安全の為に破壊していくが、あまり時間を掛けられないので注意してくれ」
「時間制限があるの?」
「それは無いが、今までの経験上、拠点晶の至近距離でGEを倒すと、周りの拠点晶に居るGEが拠点晶防衛の援軍として近づいてくる傾向がある。ひとつ目は拠点晶の破壊と同時に処理できるから問題無いんだが、二つ目は環状石のメイン支配範囲にあるから破壊しても集まったGEを纏めて処理できないから厄介なんだ」
環状石のメイン支配範囲でなければ、拠点晶を破壊した時点でその影響範囲にいるGEは急速に力を失って消滅する。
普通のAGE部隊で高価な特殊ランチャーの代金を少しでも回収する為の手段として、これを利用して低純度魔滅晶を大量に掻き集める方法もあるが、リスクに対してリターンが上回るかといえばそんな事は無かった。
むしろ大量の低純度魔滅晶を探す手間が増える上に、箒などを使って纏めて回収すると後で分別する手間も増える為に隊員たちもそんな作戦に手放しで賛同する事は無かった。
しかし、そうしなければ運営資金が不足する部隊が多い事も事実だが……。
「無視して通り過ぎるとか?」
「その手もあるが、地形的にそこを無視すると視界の悪い草むらを延々進まなきゃいけなんだ。まあ、十年近く放置されりゃ畑や田んぼはああなるよな……」
少し離れた場所に雑草がびっしりと生い茂る畑が存在していたが、そんな場所を延々進むとGEの接近や奇襲を受けやすい為に出来れば避けたい所だった。
田んぼと田んぼの間には畦道がありそこにも夏の日差しで伸びに伸びた雑草が生い茂っており、更に田んぼの周りには浅い溝が掘ってある為に足を取られる可能性も高い。
防衛軍などは溝は特殊な車両で潰して生い茂る草はそのまま走って薙ぎ払ったり、延焼の危険が無ければ事前に火炎放射器で焼き払ったりする事さえある。
「草刈り機を持って来るべきだったね」
「諦めて元農道を進んで途中にある拠点晶を破壊するしかないだろう。途中から道幅は狭くなるが……」
「装備は十分だし、その方が早いのかな」
草刈りは無理でも、小型GEであれば今装備している特殊トイガンと高純度弾で何とかなる。
しかも伊藤が最短ルートとGE密度の低い場所をナビしてくれるのだから、面倒な草刈りなどという行為に手を出す必要も無かった。
「それじゃあ、ひとつ目の拠点晶に向かうぞ」
「了解!!」
神坂を先頭に、霧養、竹中、宮桜姫と続き、最後尾を窪内が守っていた。
神坂と霧養はM4A1改弐、竹中はPSG-1改、宮桜姫が六十四式小銃改、窪内がM60E3改で神坂と霧養の銃は坂城が送ってきた特殊トイガンをベースにしてあるが、その他の全ての銃はバレル周辺だけでなく細かい所までほぼ別物に改良された強化型で、チャージ機能などは全て氣に切り替えられている。
「いつも使ってる銃と違うが、M4A1改弐も取り回しが良くて良いな」
「バレルが短くても威力のある氣チャージ方式やと、わてのM60E3改より役に立ちまっせ。これも氣対応型やけど撃ち出す弾数が多すぎてM4A1改弐程威力を発揮せんのですわ」
「この程度の数ならそうっスけど、状況しだいっス」
ゴーグルに内蔵されたレーダーの紅点として見つかるGEの数は精々3~5匹単位で、その全てが小型GEだった為に今まで窪内の出番は無かった。
しかし、誰か一人が前後どちらかを押さえなければならない状況の場合、窪内の存在は必要不可欠である事を全員が理解している。
「五千円の高純度弾とはいえ、この威力は異常だよな」
「そうですね、凰樹君が使った時と比べれば少し威力は劣るかもしれませんが、これはもうトイガンとはいえない気がします」
それぞれの銃口から放たれる特殊弾は凰樹が使った時の様に氣と完全に融合し、光の弾と化して迫り来るGEを跡形も無く吹き飛ばしていた。
その後には低純度魔滅晶が転がっていたが、それを回収する事など無く先へと進んでいた。
「チャージ機能を使わなくてもこの威力。チャージ機能を使っても故障の心配はいらないってのもいいな」
「そこは信用しておくんなまし。わてと真優の苦労の結晶やさかい」
そう話す間にもトノサマバッタとアマガエルが融合した様な姿のMIX-Aが草むらの陰から五匹ほど姿を現したが、神坂と霧養が瞬く間に殲滅していた。
現時点で余程大群で押し寄せなければ小型GE程度は脅威では無かったが、GEとの戦闘経験の豊富な神坂達は警戒を怠る事は無かった。
「よし、問題無くひとつめの拠点晶に辿り着いたな」
「二ヶ月くらい前とは大違いっスね。あの時は一日がかりの事も多かったっス」
「そりゃ、武器が全然ちゃいまんがな。わてらの練度の差もありまんが」
GE対策部発足時に凰樹の手元に今の武器があり、神坂や窪内が旧知で霧養の実力を信じていたとしても慎重に作戦を練り、攻略が簡単そうな拠点晶しか狙わなかっただろう。
この作戦を立案して実行している神坂や窪内も、僅か数ヶ月で此処まで状況が変化するとは考えてもいなかったが。
「それじゃあ、最高純度弾に切り替えてチャージいくっス!!」
「頼むぜ」
霧養は最高純度弾を装填したマガジンに切り替え、窪内の手で改造された新型メーターがMAXのレッドゾーンを指すまで氣をチャージした。
そしてチャージボタンとは別の溜め込んだ氣を一気に放出する為のリリースモードをオンにし、十メートルほど先にある拠点晶に狙いを定めてトリガーを引いた。
「そこっス!!」
眩く輝く光の弾と化した特殊弾は拠点晶に向かって一直線に空を走り、そして着弾と同時に直径五メートル程の破壊球を生み出してそれが消え去った後にはもはやどこにも拠点晶が存在した痕跡は残されていなかった。
拠点晶だけでは無く周りの土や草木も綺麗に消滅し、半円形のクレータの中に高純度魔滅晶がひとつだけ残されていた。
「ヤバイ威力だな」
「これ、近くに誰かいたら使えないっス」
「ノーリスクの氣がこれやと、確かに能力低下や石化リスクの増す生命力方式は無意味でんな」
とはいえ、その生命力方式の特殊トイガンや特殊ナイフ系が発明されなければ、とっくの昔に人類が滅んでいた事は間違いない。
新しい技術を生み出す為の下地としては生命力方式の特殊トイガンは十分な成果を上げていると言えた。
「ただ、これは悪用されると人を殺せる兵器になるな」
人に向けてさっきの攻撃を行えばどうなるか、神坂達には容易に想像できた。
あの破壊球の内部にいれば死亡は確実で、一部の人間を除いて五体満足な状態など考えられないからだ。
「そこは問題っスね。出力を下げても人殺しには使えるし、逆にGEには役に立たないとか本末転倒っス」
「市販されるのはその辺りの法整備後からやろか? フレンドリーファイアでついうっかりも想定されるんとちゃいまっか?」
「多分、その状態なら防衛軍とか守備隊に所属する人とか、セミランカー以上とかにしか購入できないように制限かかるんじゃ無いかな?」
実銃と同じ扱いにされるか、販売そのものに制限がかかるかどちらかだろうとは考えられる。
実の所、氣の最高値が十程度の一般AGEではチャージ機能を使っても特殊BB弾が光弾化する事は無く、威力もそこまで上がらないのだが、それでも人に向けて撃ったりすれば大怪我をさせる事は間違いなかった。
一度痛い目を見れば理解できるだろうが、その前に身に着けている装備そのものを完全に改良し、氣の攻撃をある程度軽減できるように改造するか、対象者にキッチリと講習などを行い氣対応型の知識を叩き込むしか無いだろう。
しかし、その状況でも射線に入るAGEが怪我などをする事も考えられ、全部隊への装備転換はかなりの時間を要する事が想像できた。
「とりあえず、俺達はこの作戦を終わらせちまおうぜ。あまりぼやぼやしてると日が暮れちまう」
「そうでんな。明日は登校日やし、早いとこ片付けまひょ」
八月六日は登校日だが今までの状況から考えれば、環状石破壊作戦が成功した場合明日は間違いなく休校となるだろう。
今回の環状石の支配区域で石化から解放される人の数は四万人程と考えられているが、全員の社会復帰手続きは容易では無く役場の人間だけでは対応など出来ないからだ。
「あそこが環状石で、その少し手前にあるのが問題の拠点晶……」
「環状石内部でGEに囲まれるより、外で片付けた方が楽っちゅうのは分かるんやけど、面倒な事になりそうでんな」
「最悪内部には俺と霧養だけが突入する。他のみんなは外でGEを押さえてくれないか?」
環状石内部には門番GEがいるが、低レベルの環状石内部に他のGEがいる事は滅多に無い。
その為、環状石周辺を押さえてGEが近付かない様に出来れば、環状石の攻略はかなり楽になる。
「今まで中型はゼロ。離れた場所の拠点晶にいるのか、伊藤からの警戒情報も無いし」
「GEが少ない場所を選んでくれてたっスね。おかげで余計な弾を消費せずに済んだっス」
弾が無限にある訳でもなく、またバッテリーなども使用できる時間に限りがある。
余計な戦闘は避けるに越した事はないし、こういった連戦を強いられる状況で最短且つ交戦確率の少ないルートをナビゲートしてくれる伊藤の存在はありがたかった。
「えっと~、拠点晶の右前方に大きな紅点がありま~す。MIX-Pだと思うんですけど、なにかありますか~?」
「まあ、居るよな。あの松の木がそうなのか?」
「そうでんな。いかにもな枝ぶりしとるから気が付かんとこやったわ」
拠点晶の傍、そこに生えている松の木は時折風も無いのに枝を揺らしていた。
目を凝らしてよく見れば根元に石化したセミらしきものが大量に転がっているが、それを隠していた為だろう。
「拠点晶とアイツを倒した後、俺と霧養はそのまま環状石へ走る。竹中は拠点晶の破壊後に支援射撃、窪内と宮桜姫は周囲の制圧を頼む」
「分かりました。お気をつけて」
「わてらも人の心配なんてしとる場合やおまへんで!!」
竹中がマガジンを切り替え、最高純度弾を装填した後でPSG-1改に氣をチャージし、拠点晶とその前に居たMIX-P中型GEをそれぞれ一撃ずつで倒し、その隙に神坂、霧養はチャージ状態を維持したまま「「うぉぉぉぉっ!!!!」」という掛け声と共環状石へ走り、一気に内部に突入した。
窪内達は環状石を背にして押し寄せてきた小型GEに高純度弾を浴びせ、目の前に集まり始めたおびただしい数の小型GEに押し負ける事は無く、一匹たりとも環状石内部への侵入を阻止し続けた。
「大発生よりマシだけど、これって、今の装備が無かったらきつかったよ」
「逆に言えば、この装備ですとそこまでは問題無いですよね?」
「今の装備でこの位やったらわてだけでも何とか支えられるレベルでんな。考えただけで恐ろしゅうおますが」
ランカーズのメンバーであれば、今の装備さえあればこの位は問題無く処理できるようになっていた。
つまり、広島第二居住区域の存在する他のAGEや守備隊の全部隊を集めるよりも、凰樹抜きでもランカーズのメンバーの方が殲滅力に勝るという事だ。
「今回のこれで、私達も凰樹君並みの扱いに変わりそうですね」
「なんかあった時に嬉々として凰さんを県外に呼び出すに違いありまへんな」
今までは県内の戦力が下がるという名目で、近隣から援軍要請があった時でも凰樹達の県外への派遣は許可されていなかった。
居住区域の対GE民間防衛組織事務所所長影於幾之滋が首を縦に振らなかった事も大きいが、日本全土に残り7ヶ所存在するヴァンデルング・トーア・ファイントの出現予測がある限り、今後は要請を断る事など出来ないだろう。
一方、環状石内部に突入した神坂と霧養は、内部に存在したGEをようやく処理した所だった。
今回は環状石内部にも無数のGEが存在していただけだは無く、タコの卵の様な物に包まれていたGEが次々と孵化して神坂や霧養に襲い掛かって来たからだ。
「……GEってこうやって発生するんっスね」
「今回の戦闘記録は割と貴重な映像だと思うぞ」
GEの発生自体は以前の首都奪還作戦時に何度か環状石の内部映像を無人カメラで撮影している為にそこまで貴重な映像という事は無い。
しかし発生直後に襲いかかるGEを撮影した映像は無く、発生からどの位の時間でGEが戦闘力を獲得するのかという資料としては貴重な物だった。
「後はあの門番GEと要石の破壊っスね」
「ヤスデ型リビングアーマーGEか。また厄介な奴がいたもんだな」
以前戦った百足型のリビングアーマーの近種で、動きは百足型よりもはるかに鈍いが百足型よりも更に堅硬な鎧で身を護っていた。
レベル一の環状石にここまで強力なFタイプの門番GEが生まれる事は極稀だが、今回運悪くその稀な門番GEに遭遇したといいう事だ。
「あの時は攻撃が通じなかったけど、今のこれなら……いけるっス!!」
氣がチャージされ、銃口から光の粒子に変わった特殊弾が十数発撃ち出された。そしてその全てがヤスデ型の門番GEに命中し、眩い閃光と共に破壊の光球を生み出してその身体を原型が留めない程に破壊した。
元々防御力が高く、今までの特殊トイガンや通常兵器では傷がつきもしないヤスデ型リビングアーマーの門番GEはその身に隠された特殊能力を発揮する事無く、僅か数秒で光の粒子と化した。
「異常な再生能力を持つ門番GEが……、あんなに簡単に?」
「これ、凄いっスね。まるで輝さんみたいな力が手に入った気分っス」
M4A1改弐の威力に興奮する霧養。
しかし、それに近い事を二世代以上前の装備でやり遂げた凰樹がどれ程異質な存在であるか、神坂は改めて考えさせられていた。
「要石も破壊しちまおうぜ」
「そうっスね。あ……確かに此処だとチャージ機能が上手く作動しないっスね」
以前の凰樹の時の様に、霧養が氣をチャージしようとしても思うようにはその機能が働かなかった。
生命力方式ではないにも拘らず環状石内部ではチャージ機能が作動しにくい事を発見した事も、今回の作戦での重要な情報だった。
「まだチャージされたままの俺のでやるか。なるほど、こりゃすげえな」
まだチャージ状態を維持していた神坂のM4A1改弐で要石を撃ち抜くと、僅か一撃で要石は砕け散り、環状石内部に光の粒子が溢れ始めた。
また、この瞬間がランカーズのメンバーが凰樹がいない状況で初めて環状石の破壊に成功した瞬間であり、凰樹のワンマン部隊で残りのメンバーは一緒の部隊にいるだけという対GE民間防衛組織や他のAGE達の認識を塗り替えた瞬間でもあった。
読んで頂きましてありがとうございます




