凄腕ガンスミスと天才開発者
ゲート攻略へ向けたランカーズの活動です。
楽しんで頂ければ幸いです。
八月三日、午後一時。
GE対策部の部室には神坂達の他に連絡を受けて駆け付けた宮桜姫香凛が顔をだし、これで部室には東京第三居住区域へ遠征中の凰樹と荒城意外のメンバー全員が揃った。
「えっと、メールで事情は分かってるけど。私達だけで環状石攻略なんてできるんですか?」
「今の装備だけでも十分可能だと考えてるが、一応念には念を入れて出来るかぎり装備を強化しようと思う」
今神坂たちが持っている装備は氣に対応はしているが、チャージ機能自体はいまだに生命力を使用するひとつ前のタイプになる。
霧養辺りが最高純度の弾で攻撃すればかなり高い攻撃能力を発揮するが、霧養はある問題を抱えている為に色々と能力が制限されており、その力を完全に出しきる事は難しかった
「何か良い物があればいいんだけど……。あれ? 車の音?」
「また、新鮮海産物セットでも届いたとか言わないだろうな?」
「もう頼んで無いっス。他の部なんじゃないっスか?」
霧養の予想に反し、大型トラックはGE対策部の部室の前に停車し、助手席から配達員が飛び出してきた。
「えっと、GE対策部の窪内さん宛てのお荷物が届いています。結構大きめですが何処に運びましょうか?」
「わてでっか? えっと、送り主は防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵……。凰さん用の試作兵器やろか?」
「それだと直接渡すんじゃない? えっと大きいってどの位?」
「あれ位です」
中に何が入っているのかは分からないが、トラックの荷台には以前試作武器が入っていた箱の数倍の大きさの箱が二つ積まれていた。
「大きい……」
竹中のそのセリフに反応する神坂達と、その神坂達に冷ややかな視線を送る楠木。
状況を理解した竹中は少しだけ顔を赤らめていた。
「奥の倉庫に頼んます。クレーンも使こうたってや」
「たすかります。おい、裏の倉庫だ」
一緒に来ていた運転手はトラックを操作して裏の倉庫に車を停めて、荷台の天井を開けて大きな荷物をクレーンで運び出した。
そして伝票のサインを確認すると、すぐに次の配達場所へと向かった。
「で、これは何なんだ?」
「一緒に渡された手紙には氣チャージ機能対応型ブラックボックス内蔵試作トイガンって書かれてまっせ。氣って何の事やろ?」
「あの爺さんが訳わかんない事いうのはいつもの事っスよ」
「そうだな……とりあえず中身を確認してみるか」
凰樹同様に何度もメールなどのやり取りをしている窪内たちは、坂城の変人ぶりも十分に承知していた。
使える装備が多いのは事実だが、たまに「なんだこれ?」という様な理解に苦しむ新兵器なども混ざっており、窪内が大幅に手を加えて初めて使えるようになった武器も多い。
「こっちの箱の中身はガンケースが三十? 全部M4A1って……」
「二タイプ存在する見たいっスよ。こっちとこれ、それとこの二つはグリップに細工してあるし、変なメーターが増設してあるっス」
ひとつ目の箱に収められていたのは氣チャージ機能対応型ブラックボックス内蔵M4A1改二十六丁と、メーター増設型のM4A1改弐が四丁だった。
M4A1改弐の数が人数分無いのは、坂城が送れる分を大急ぎで窪内に送った為だろう。
「わて宛てっちゅう事は、こいつをカスタムしろって事やろ。ご丁寧に改造計画の草案までありまっせ」
「頼りにされてるな。卒業後の就職先は決定って感じだ」
「まあ、永遠見台高校受けずに、防衛軍付属高等学校を受けろって誘われた位でっから」
防衛軍付属高等学校、ここを卒業して防衛軍士官大学を卒業すると官位などが与えられ、大尉以上に昇進できるようになる。
逆にそこを卒業しない限り余程特殊でない限り将官にはなれないという事だ。
永遠見台高校卒業後に防衛軍士官大学を受験する事は出来るが、防衛軍士官などの推薦状などが無ければ書類選考の時点でまず落される。
「こっちの箱は……、一発五万円の最高純度弾が千発!! それと超小型氣測定器? 他にも色々入っているみたいだけど」
「今度の環状石攻略作戦に使えるけど、数が少ないな。ま、門番GE用と考えればいいか」
周りにいるGEなどは一発五千円の高純度弾でも十分な為、攻撃の効きにくい門番GE対策のひとつと考え、ありがたく頂戴する事にした。
「その弾はデータ収集用とか書いてありまんな」
「そこまで甘くなかったか。で、その超小型氣測定器ってのは何だ? そもそも氣って……」
神坂は坂城に質問したら後悔しそうな言葉を窪内にかけていた。
「凰さんのあの力、どうやらあれが氣って力っぽいでんな」
「なるほど、生命力以外の力って事だったのか。道理でな」
付き合いの長い窪内や神坂も凰樹の力は自分たちが使っていた物と違うという事には気が付いていた。
しかし、それが具体的に何なのかという答えは見つかっていなかったが、どうやらそれがようやく坂城の手で解明されたという話だと理解した。
「で、その氣やけど、普通の人やAGE、それにわてらにもあるらしいって話でんな」
「マジっスか?」
データなども揃っており、先日測定したばかりの荒城たちのデータまで載っていた。
「一般人の数値やAGEの数値なんかも書かれとりまっせ。一般が一~六。AGEが四~十。トップランカーで五十七。荒城はんが……二百四十一?」
「二百四十一? トップランカーと一ケタ違うってすげえな……、で、輝は?」
「測定不能って書かれとりまんな」
「まあ、予想通りだな」
「輝だからね~」
この流れで測定不能以外の結果を想像する人など、この場所には誰一人存在しなかった。
「その超小型氣測定器で俺達の数値も分かるのか?」
「みたいでんな」
「よし、早速測ってみようぜ!!」
超小型氣測定器の外観は手首に巻くタイプの血圧計とそっくりで、内部は生命力表示機能を持つリングを改良した物だった。
スタートボタンを押すと測定が始まり、四ケタまで小型ディスプレイに表示されるようになっていた。
「お…結構上がるぞ!!」
「そこのM4A1改弐を装備して構えると、計測数値が伸びるって書いてあるね。どうしてかな?」
「ブラックボックス作動させると、氣が活性化するんとちゃいます?」
正確にはブラックボックスを作動状態にすることで、使い慣れていない者でも氣を効率よく引き出せるようになるからだ。
凰樹の場合、自分の力だけで溜め込んだ膨大な量の氣を自在に引き出せる為、ブラックボックスを使うと逆にオーバーロード気味になったりもしていた。
「えっと、俺が四百五十八か随分高いな」
「次はわいでんな。……四百十四。こんなもんでっか」
「次は私が……百五十六。思ったより少なかった」
神坂四百五十八、窪内四百十四、楠木百五十六、竹中二百十六、伊藤百五十九、宮桜姫百五と、全員高レベルではあったが流石にランカーズ内であっても窪内や神坂の数値は飛びぬけていた。
宮桜姫はAGE活動を始めて間もないにもかかわらず百五という数字を叩き出しており、AGE経験の長さが氣の数値と直結していない事も何となく理解できた。
「後は俺っスね……、下限値エラー? ゼロっスか?」
ひとり、霧養だけはなぜか途中までは数値が表示されていたのだがそれが突然反転し、マイナス方向に振り切ってエラーが発生して測定不能となった。
何度測定してもエラーが発生する為、神坂や窪内は頭を傾げていた。
「どういう事でっしゃろ?」
「霧養の氣も相当高い筈だ。何せ分身……」
そこまで考えて、神坂は「……霧養、分身出しながらもう一度測定してみろ」とアドバイスした。
「分身? 分かったっス」
神坂に言われた通り、霧養は周りにひとつずつ分身を生み出して測定を続けた。
今度は反転する事無く数値が伸びて行き、最高数値は五百七十一まで跳ね上がった。
「五百七十一か……」
「ど…どういう事っスか?」
「分からん。分身を発生させた時だけ氣が活性化するのか。それとも普段はお前が無意識的に氣の活性化を押さえているのか……」
専門家では無い神坂達にそれ以上の事は考え付かなかった。
もし仮に、今回凰樹に同行したのが霧養であれば、上から下まで細かく調べられた事だろう。
「シールドが上手く張れん事と何か関係があるんかもしれまへんな」
「とりあえず今はその位しかわからないし、とりあえずこっちの武器を試してみる?」
「ちょいまち。あの爺さんの試作兵器は色々欠陥も多いから、ちょっとわてに調べさせてもらえまっか?」
窪内はそう言ってM4A1改弐を一丁手に取り、慣れた手つきで分解し始めた。
小さ目のプラスチックハンマーや木製ハンマーで何ヶ所も軽く叩き、ひずみやゆがみが発生しないか調べていた。
一通り調べ終わった後、窪内はやれやれといった感じで両手を広げてため息をついた。
「思った通りに強度不足や。試作と言いながら、次に控えた量産を視野に入れた開発をしとる証拠でんな。帝都角井製以外の共用パーツも見据えて色々手を出した結果、攻撃力と耐久性のどっちつかずで歪な兵器が出来上がるっちゅう寸法や」
「そりゃ、メインのブラックボックス周辺を作って周りは急拵えが多いけど、そのままでも十分使える完成度だろ?」
「ちゃいまんな。坂城の爺さんは帝都角井製のラインで量産出来る事を前提にしとるから、結果試作段階で何ヶ所も故障の可能性があるパーツが存在してはるんや。前に送られとった新型も、あのままやと凰さんが長時間使こうたら爆発してまうわ」
とはいえ、氣の数値が最高で十程度の普通のAGEが使うと想定した場合はこの状態でも十分な強度があり、今すぐこのタイプを量産したとしても運用には本来何の問題も無かった。
坂城が気が付かなかった耐久性の問題や、予想外の力に何処まで対処できるかという部分。
その辺りに吟味した素材を削り出した専用パーツを組み込む窪内が異常なだけで、窪内の持つカスタマーの異名は伊達では無かった。
「そうは言ってもだな、いくらおまえでも特殊バレルやブラックボックスには手が付けらないだろう?」
「そうでんな。流石にそこはわてには無理でっせ」
ブラックボックスを完全に理解しているのはは防衛軍特殊兵装開発部の坂城達三人だけであり、世界中の国で莫大な国家予算を使って解析を続ける研究者たちでさえB級のコピー品を生み出す事が精いっぱいだ。
しかし、世には変人も多くブラックボックスを完全に理解しないまま、別ベクトルに進化させる者がただ一人だけ存在していた。
「彼女に頼るのか?」
「それ以外になんかありまっか?」
彼女……、武器技術研究部部長、沢姫真優。
脳内に溜めこんだ膨大な知識と天性の勘でフィーリング開発を行い、現在使わているブラックボックスとは全く違う物へと進化させていた。
現在はブラックボックスの出力や特殊バレルの開発にシフトしており、そこでも斬新で独特な理論を展開し、常人には理解できない論理を披露していた。
「それじゃあ、これ幾つか持って彼女の所に向かいまひょ」
「そうだな、部室には鍵をかけて行くぞ」
◇◇◇
特殊部室棟の端、そこに大きな倉庫と小型の工場を持つ武器技術研究部。
武器技術研究部に所属する沢姫は入手困難なレアアースやレアメタルなどを何処からか手に入れ、様々な機械を使って新兵器の開発などを行っている。
GE用結界発生器とは真逆にGEを誘き寄せる為の装置なども開発に成功しているが、誘い出して挟撃する以外にあまり使い様が無い為に利用する者は少ない。
「誰かと思えば龍耶か。なんだ? 開発中の新兵器でも見に来たのか?」
「まあ、それは後で見せて貰えまっか。とりあえずこれ見て貰えへんか?」
「特殊トイガン? あのブラックボックス内蔵型か……」
沢姫はブラックボックスの性能に疑問を抱き、独自の論理でまったく別ベクトルの新兵器を開発中で、今更ブラックボックス内蔵型の特殊トイガンを持ち込まれるとは思ってもいなかった。
「真優には悪いとおもうとるんやけど、いろいろ事情があるっちゅう事でひとつ」
「まあ、他ならぬ龍耶の頼みとあってはきかぬ訳にはいかんだろうな。貸しだぞ」
「お手柔らかに頼んます……」
大きな体を小さくし、窪内は沢姫の後に続いて武器技術研究部の部室へ姿を消した。
「随分仲良さそうだね」
「あんなもんじゃないのか?」
「そうっスね」
神坂達も他の銃などを手に、部室の中へと足を踏み入れた。
武器技術研究部の部室。
情報技術部と同じ様に応接間の様な場所が用意されており、そこのテーブルに全員ついた。
窪内は坂城から送られてきた氣に資料や超小型氣測定器、そしてM4A1改弐をテーブルに並べ、此処へ来た経緯を話した。
「なるほど、生命力以外の力か……。盲点と言えば盲点だが、その氣を使えると実際はどの位威力が上がるんだ?」
「まだ見てへんのやけど、幾つかの実験映像が入ったメモリーもありまっせ」
先日行われた物の中で、百メートル走とシューティングターゲットを編集した映像だけ収められたメモリーカードも同封されており、端末のスロットにそれを入れて映像を流し始めた。
凰樹が百メートルを一秒程度で走る映像や、同じ銃、同じ純度の弾を使用したにもかかわらずそれぞれの持つ氣によって威力が変わるシューティングターゲットの映像を見て、窪内や沢姫は坂城が何を言いたいのかを正確に理解した。
「とりあえず、もう二度と生命力を触媒に利用した兵器は開発されないという事だな。特殊トイガンを全て早急に氣対応型にしたいが為に、本来は外部に持ち出したくないであろう資料まで付けて龍耶にカスタムを依頼して来たのか……」
「もう二度とって、そうなのか?」
「生命力をチャージ機能に使うのは元々諸刃の剣で、しかも氣使用時よりも威力が劣れば、触媒に使う意味など無いだろう。むしろ害悪ですらある」
「せやけど、問題は幾つもある。ブラックボックスやバレルの耐久性、それとAGE個人の持つ氣に依存する為に、生命力よりも安定させて扱いにくいっちゅう事や」
生命力に関して言えば、ほぼ全員が百という数値を持っており、病気やけがをしてもこの数値が大きくさがることはない。
生命力が減るのはチャージ機能などを使った場合と、GEなどの攻撃を受けた時だけだからだ。
その為に生命力を触媒にすれば特殊トイガンなどの安定した運用が可能だが、生命力の消費による石化リスクと常に隣りあわせであったりもする。
沢姫は解体したM4A1改弐のバレル部分を持ち上げ、何度か叩いて見せた。
「そう簡単にいたりはしないだろうが、凰樹の様に異常な数値の氣を持つ者が使えば、この特殊トイガンはバレルにヒビが入るか回路が焼き切れて簡単に爆散するっだろう。威力を落とせば兵器として成り立たず、威力を上げれば爆発。厄介な武器だな」
「坂城の爺さんの改造計画の草案には、一旦内部もしくは専用カートリッジにチャージして一定以上の氣を供給しないモデルと、過供給した氣を排出もしくは再チャージさせるモデルがありまんな」
「どちらも折角氣で実現した高出力による攻撃力をわざわざ無駄にする様な発想だな。これなら私が開発している兵器の方が上だ」
最終的には使用者にデメリットの大きい生命力対応型から、石化や身体能力低下などの心配の無い氣対応型に変わって行く事は間違いないだろうが、そこへたどり着くまでの道のりは険しそうだった。
「とはいえ、氣という力は十分魅力的だ。今開発中の新兵器を氣方式に改良すれば……」
沢姫は意外に可愛らしいデザインのメガネに光を纏わせ、既に頭の中で改造計画を立案しているのか氣対応型のバレル……、カートリッジ、リミッターなどと呟きながら怪しい笑みを浮かべていた。
「大丈夫なの?」
「ああ、いつもの事だ。そのうち考えを纏めてこっちに帰ってくる」
心配した楠木が小さな声で神坂に尋ね、神坂も沢姫の邪魔にならないように小声で返した。
沢姫はそのまま部屋の中をうろうろと何周もし、そして考えがまとまったのか立ち止まって「これか……」と呟いた。
「少し考えに没頭したのはすまなかった。とりあえずこちらは何とかなるので、その氣対応型の特殊トイガンの改修箇所を考えるか」
沢姫はバレルに使用する素材や銃身を含めた改修案をだし、更にそれを窪内が調整して瞬く間に特殊トイガンの改造計画が出来上がっていった。
坂城の作り出したM4A1改弐の原型が残っていない程に隅から隅まで改良され、特殊トイガンを形成している素材も一部分はアルミから特殊繊維を成形した物へと変更されていた。
「必要な素材の調達やパーツの成形はこちらで行おう。今から全力でやればGE対策部の部員分ならば今日中には出来上がるだろう」
「それをわてが調整して組み込んで……、装備が完成するのは八月四日。環状石攻略作戦は八月五日ってことになりまんな」
環状石攻略に必要な装備は確保できる目処が立ち、後は進行ルートを考えるだけとなった。
「それまでに侵攻ルートを決めなければいけないな。元々レベル一が相手だし、問題はどの位の小型GEがいるかだが」
凰樹抜きでの環状石攻略、その日ランカーズのメンバーははじめてそれに挑戦する事となる。
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