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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
首都騒乱編
55/98

騒乱の決着

この話でこの章は終わります。

楽しんで頂ければ幸いです。



 八月五日、午前十時十五分。



 八月四日まで続いた再度の健康診断や身体データ測定の為、凰樹(おうき)(あきら)荒城(あらき)佳津美(かつみ)はこの日になってようやく東京第三居住区域の墓所に赴き、荒城の両親の墓参りを実現させていた。


 この日は坂城が朝から特殊トイガンや特殊小太刀の改良の目的で防衛軍特殊兵装開発部直属の帝都角井の生産工場に出向いている為、朝から晩まで完全休暇という事になり、防衛軍で車を借りて墓所まで車を走らせて墓所の近くの駐車場に停めていた。



「ここに来るのは初めてですの。あの時はお葬式でもお父様とお母様の遺体は見せて貰えませんでしたし……、すぐに御爺様の居る広島第二居住区域に移住しましたので」


「確か実験中の事故だったか?」


「ええ、新型対GE用結界発生装置の改良で、それまでにも何度も事故を起こしている危険な実験だとは後から知りました」



 荒城の話に違和感を憶えた凰樹は頭の中にある情報を組み合わせ、ある結論を導き出した。


 そしてそれを口にしようとした瞬間、墓地に現れたひとりの女性が目に入った。



「…………似ている? まさか」


「お知り合いですの?」


「直接は知らん。だがある女に雰囲気がそっくりだ」



 女性は手に花束と水桶を持っており、普通に墓参りをしているかに見えた。


 しかし、二人の姿を確認して花束をその場に置き、手桶の中から改造した銃を取り出してその銃口を凰樹に向ける。


「このあたしが()()()()で殺しをするなんて、落ちたもんだよ!!」


 女が引き金を引くと同時に小さな炸裂音が響いたが、その銃弾が凰樹に届く事は無かった。


「なっ……何を……した?」


 怪我をして血を流しているのは凰樹ではなく女の方だ。


 引き金を引いた瞬間、凰樹が銃口目掛けて魔弾(カオス・ブレット)を飛ばして銃を破壊して無力化していた。


 当然、破片でダメージを受けないように荒城の周りにもシールドを展開している。


 今まで何度も銃で命を狙われている凰樹は殺気と共に銃口を向けられた場合、無意識でこの一連の行動を行う様になっていた。



「敵に話す馬鹿がいるか。誰の差し金だ? GE共生派か? それとも環状石(ゲート)崇拝教か?」


「話すと……思うかい?」



 痛みに耐えながら怪しい笑みを浮かべる女。



「思わないね。そんな事よりあんた、久地縄(くちなわ)(ともえ)って名に聞き覚えが無いか?」


「く……、ど…どこでその名を?」


 女は一瞬目を見開いていたが、その表情が全てを物語っていた。



「その女の正体はGE共生派のコードネーム酸漿(カガチ)。気を付けろ、そいつは有名な爆弾女(ボマー)だ」


 防衛軍特別執行部の松奈賀(まつなか)大嗣(たいし)狩夜(かりや)敬吾(けいご)が墓地の入り口から姿を現してそう忠告してきた。



 爆弾女(ボマー)、爆弾など爆発物を使った殺しを得意とする殺人鬼。


 ターゲットの殺しには必ず爆発物などを使い、それ以外の武器で殺しをする事を心の底から嫌悪していた。



「そいつがGE共生派最後のひとりさ。GEと共生出来るっていうなら、樹海か大陸にでも行けばいい。あそこはGEの天下だろう?」



 富士の樹海には国内最強レベルの環状石(ゲート)があり、とてもではないが人間が近付ける場所では無くなっている。


 隣の大陸でも多くの国が亡び、各地にはGEが我が物顔で蔓延っていると聞く。




酸漿(カガチ)……、爆弾使いのホオズキって事か。もっともそれだけじゃなく蛇の別称でもあるよな久地縄(くちなわ)



「何の事だい? あたしゃ爆弾使いの方さ」


「広島第二居住区域に居た久地縄巴はひと月半前、友軍を騙して甚大な被害を出した罪でその樹海にほど近い危険地区に送られた。弟の(たくみ)は石化から戻った後、本人の希望で同じ場所に送られている」



 KKS二七六の防衛時に宮桜姫(みやざき)香凛(かりん)をはじめとする学生AGE七十人を騙し、囮に使って犠牲にした罪に問われて九人の部下と共に樹海第二十九駐屯地に転属となった。


 僅かな物資が定期的に送られるだけの酷い環境の場所で、半年後に石像に変わっていなければ奇跡といわれる過酷な場所だ。



 希望すれば樹海第二十九駐屯地に移住する事は可能だが、余程の理由が無ければ申請自体が通らない。



「あの子達が……、バカな子だ、あたしの子ってだけで迫害され、各地を流浪して広島第二居住区域に辿り着いたんだろうに……」


「運がいいな。GE共生派であれば普通はその子たちも処罰の対象だが、あの場所に送られたのならおそらくそれ以上の咎めは無い。もっとも、半年後お前が共生できると主張しているGEに石に変えられていなければな」



 長年GE共生派の内偵を行っていた松奈賀が皮肉たっぷりにそう吐き捨てた。


 部下の狩夜も出来る物ならやってみろと言いたげだった。



「あんな場所に送られて半年も無事な訳ないだろう!? どうせもう石像に変えられてるよ!!」


「お前の親愛なるGEがその子供を襲うのか? まあ、襲われればGEなんてその程度の存在だったのさ」



 今まで、GEが人類や野生動物などと友好的だったなどという話は聞いた事が無い、例外なく襲われ、生命力(ゲージ)を全て奪われて石の体に変えられている。



「だいたいお前達は本気でGEと共存できると考えているのか? 意志の疎通も出来ない化け物相手だぞ?」


「試してみなければわからないだろう? 誰か試したのか? 殺し合いしかしていないだろうが!!」


GE(やつら)が何をしたか覚えてるか? それを試す前に、何十億人も石に変えたGEを一匹残らず殲滅するのが先だろうが!!」



 世界中で現在生き残っている人類は約五億人。


 この十年近くで防衛軍や凰樹達ランカーズの活躍で数百万人が石化から蘇ったが逆に新たにGEに襲われて石に変えられた人も多く、三度のGE大侵攻で石に変えられて十年経過し、二度と石の体から元に戻れなくなっている人も多い。



 凰樹は酸漿(カガチ)の犯行の手口と、子供である久地縄巴の年齢などいくつかの条件を頭の中で組み立ててある結論に辿り着いた。


 それは荒城にとって残酷な結論であり、また、知らなくてはいけない事実でもある。



「久地縄、……十三年前にお前、何処にいた?」


「十三年前? 決まっているだろう東京第三居住区域(ここ)さ」


「聞き方が悪かったな。何処の組織に潜入していた?」



 東京第三居住区域に居たという事実、久地縄がGE共生派として何をしていたのかを完全に見抜いた凰樹はある結論を口にした。


「都市安全技術研究所。もしかしておまえ、そこに居たんじゃないのか?」


「……どうして……それを」


「危険な実験を繰り返しているとはいえ、都市安全技術研究所の事故発生率は多すぎる。他の部署に比べて十倍以上、……先月まではな」


「なるほど、GE共生派が一掃された後は一件も事故を起こしていない。全部こいつらの妨害だったって訳か」



 凰樹が坂城に送った超小型の対GE用結界発生器により、内通者が一斉検挙された事件。


 その日を境に、都市安全技術研究所での対GE用結界発生器の開発現場で爆発をはじめとするあらゆる事故は発生していない。


 つまり、久地縄が内通者に渡した爆発物や偽の回路などが仕掛けられなかった為に、実験が正常に行われているからだ。



「新型対GE用結界発生装置の性能が上がれば、危険区域の多い居住区域でもある程度安心して人が暮らせるようになる。それが目障りだったって事だろう?」


「ああそうだよ。当たり前だろう? 支配区域はもうGEの物さ。人が我が物顔で踏み込んでいい訳ないだろう!!」



 GEとの共存を妄想するあまり、人よりもGEを一つ上の存在として考えているGE共生派。


 彼らにとって、環状石(ゲート)の支配区域は既にGEの所有物であり、人類は其処に立ち入ろうとする部外者に過ぎなかった。



()()だ。そのうち全部奪い返してやるさ」


「威勢がいいねぇ。低レベルの環状石(ゲート)如きに手を焼いてる人類が、GEに勝てると思ってるのかい?」


「勝てるさ。人類を、舐めるなよ」



 凰樹、松奈賀、狩夜の三人は、久地縄を睨み付けながら断言した。


 人類は必ずGEに勝ち世界を取り戻す、三人はそう信じて疑っていなかった。



 十三年前の事故……、久地縄が起こしたテロで両親を失った荒城はその美しい顔を怒りで染め上げ、ゆっくりとした足取りで踏み出した。


「この女が、お父様とお母様を……」


 しかし、それに気が付いた凰樹はそっと後ろから優しく抱きしめ、怒りで震えているその身体を包み込んだ。


「佳津美、この女が憎いだろう。しかし、その手で処理をするのはやめておけ」


「ど…どうしてですの?」


「これは俺の我儘かもしれない。でも、お前のその手をこんな外道の血で(けが)したくないんだ」


「あ…輝……さん……。私……、わたしはっ!!」


 もし仮に逆の立場なら、間違いなく自らの手で久地縄の首を取って両親の墓前に供えたであろう凰樹も、荒城がその手を血で汚す事を望んではいなかった。


 凰樹は荒城を自分に向けさせて、その頭を胸に埋めさせて両手で優しく抱きかかえる。



「それに……、お前が手を汚す程の相手でもないって事さ……」


「そうだな……」


 凰樹の動きに気が付いた松奈賀はM1911(ガバメント)を構え、躊躇する事無くトリガーを絞って久地縄の頭部、心臓、肝臓、胃に銃弾を一発ずつ撃ち込んだ。


 爆発物を抱えていた可能性もあったが、万が一の時は凰樹が即座に反応し、シールドでそこに居る全員を守った事だろう。



「という訳だ。仇を奪っちまって悪かったが、俺も一年以上こいつを追いかけてたんでな。始末させて貰った」



 松奈賀はもう事切れた久地縄から視線を逸らそうもせずにそう言い、狩夜は防衛軍特別執行部に連絡を入れ、日本国内に潜伏していた最後のGE共生派酸漿(カガチ)こと久地縄(くちなわ)清美(きよみ)の処理完了を伝えた。



「いえ、ありがとう……ございます」


佳津美(かつみ)、今日はこのまま引き上げて帰るまでにもう一度ここに来よう」


「そうですわね。では、失礼します……」



 凰樹と荒城はその日の墓参りを諦め、血で染まった墓地を後にした。


「今日は……ありがとうございました」


 ホテルに着くまで荒城は終始無言だったが部屋の前で別れる瞬間に、そう一言だけ残して部屋へ入った。



 久地縄の犯罪を暴かず、何も聞かずに処理しておけばこの事は永遠に謎のままだったかもしれないが、荒城や凰樹であれば都市安全技術研究所での事項発生率などからやがて真実に辿り着いただろう。


 その時、過去に戻ってあの時にと考えぬように真実を知っておいて良かったと思う反面、知らずにいれば幸せだったとそう考えてもいた。



◇◇◇



 八月十日、午前十時三十分。



 坂城による装備の強化と凰樹の身体能力などに関するデータ蒐集が完了した為に、この日の午後に来た時と同じ特別機で広島第二居住区域に向かう手筈となっていた。


 八月五日に中断された墓参りを居住区域に帰る前に済ませる為、朝早くから準備を終わらせた凰樹と荒城は再び荒城の両親の眠る墓所へと向かった。



「遅くなりました。今日は、何事も無く花を供える事が出来ます」


「せめて墓の周りの草刈りでもと思ったが、きれいに掃除されているから必要は無かったな」



 墓地には血の一滴すら痕跡は残されておらず、防衛軍特別執行部が裏で処理を済ませた事が窺えた。


 ついでとばかりに草刈りなども行ったのだろう。



「お父様、お母様。先日、事故に見せかけてお父様たちの命を奪った久地縄清美が処刑されました……。これで思い残す事無く、広島第二居住区域に戻れます……」


 事故から今までの事を思い出していたのか、荒城は其処で言葉を切って大粒の涙がにじむ瞳を数秒程閉じ、そして首を軽く振りながら言葉をつづけた。


「嘘ですわ。でも、もう仕方がないんです。時間は戻りませんし、お父様やお母様も生き返っては来ません……。次にいつこちらに来れるか分からないので、紹介しておきますわ。隣に居るのは凰樹輝さん。私の命の恩人で、共に戦う仲間で、そして未来の夫ですわ」



 戦友から随分と段階を飛ばして紹介された凰樹は少し驚きはしたものの、それに対しては特に反応を示さなかった。



「否定……、なさらないんですのね?」


「保留してる選択肢の先にある結果を肯定や否定などしないさ」



 告白に対する返事を保留している凰樹は、その先にある選択肢に対しても確定させるつもりは無い。


 母親と姉を救出するまではという大義名分もあるが、凰樹としては母親に()()()を確認するまでは誰かの想いに応える訳にはいかなかった。



「ふふっ、いいですわ。必ず輝さんから私の事を好きって言わせてみせますわ」


「時間だな。坂城の爺さんも待っているし第一宿舎に戻るぞ」


「もう、ずるいですの……。お父様、お母様、いつになるか分かりませんがまたここを訪れますわ」



 荒城は少し先で待っていた凰樹の元へゆっくりと歩き、そして二人は車で坂城達の待つ第一宿舎へと向かった。



 GE共生派の残党とその置き土産、そして八岐大蛇(ヤマタノオロチ)大烏(オオガラス)、二体のヴァンデルング()トーア()ファイント()により齎された騒乱は全て決着がついた。


 その殆どに凰樹は関わっていたが、その事を知る者は意外に少なかった。



 表向きの話になるが、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)W・T・Fは防衛軍第三特殊機動小隊との共同撃破という形にされ、大烏(オオガラス)W・T・Fは被害が出なかった為に大型(ヘビータイプ)GEという事にされ、石化した人の復帰などは環状石(ゲート)破壊による結果と発表された。


 防衛軍から対GE民間防衛組織経由で凰樹に支払われた報酬は四百億ポイントで、大烏(オオガラス)W・T・F出現情報などの口止め料などが含められた額となっており、荒城にも八岐大蛇(ヤマタノオロチ)W・T・F共闘での報酬で五十億ポイントほど支払われ、十一秒の援護射撃の代価としては十分過ぎる額となっていた。



 夏休みももう半分過ぎていたが、ランカーズの暑い日はまだ続きそうだった……。


読んで頂きましてありがとうございます。

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