平穏な日常 四話
この話で平穏な日常編が終わります。
全員が囲んでいる大きなテーブルの中央には、伊藤聖華特製のバタークッキーとチョコチップクッキーが木製の小鉢に入れられて並べられている。
その他にも先ほど窪内が目の前のコンビニで買ってきた【ボス、タラコッス】という明太子を使用したスナック菓子と、【ヤマイモ&自然薯】という怪しいポテトチップスが並んでいた。
多くの視線が集まるこの商品は、当然、二つとも新商品だった。
飲み物は各自用意していたが、この部室にはミネラルウォーターとお茶それに珈琲は専用のサーバーがありコップさえ持ってくれば飲み放題となっており、楠木はそのサーバーを使って珈琲を淹れて楽しそうに鼻歌を歌いながら、そこに角砂糖を四つと珈琲用クリーミーパウダーを大匙で二杯も投入していた。
「お待たせしました。では、今日の活動を始めましょか?」
副部長で副隊長の神坂はこういった進行役にはあまり向いておらず、当然、その神坂よりも進行役に向いていない部長の凰樹に代わっておどけた声でいつもどおりに窪内が話し始めた。
「まずは、先週の戦闘の精算報告と、配分についてでんな」
部室にあるPC用の大型モニターに収支報告と、戦闘データなどが表示される。
以前、部隊で行動している時、GEの撃破を部隊の戦果とするかそれとも個人の戦果にするかその選択権は部隊で任されていたのだが、数年前、全戦果を一人の隊員に献上させて、強引にセミランカーに押し上げるといった不正行為が発覚し、拠点晶やGEの撃破実績は、撃破した本人のみ戦果として報告できるという決まりが出来た。
とはいえこのほかにも、隊員が掻き集めた無数の魔滅晶を一括納品させてポイントを稼ぐという手段もあるが、隊員数が余程多くないとランキングをそこまで引き上げる事は出来ず、作戦行動に参加した人数と納品人数の差であっさりと発覚する上にあまりやり過ぎると魔滅晶買取ポイントの下方修正という悪夢のような事態が待っている為におおっぴらにそれを行う部隊は少ない。
その為、拠点晶の撃破ボーナスやポイントは凰樹ひとりに集中し、中型GEの撃破実績も凰樹との共同撃破と言う形になる事から、凰樹の提案で入手したポイントを隊員に分配する事に決めた。
その他、小型GEの撃破実績は個人実績となり、回収した魔滅晶は部隊でまとめて精算して運営費を除いて公平に分配されていた。
「そんな細かい事は窪内と輝に任せたから。べつに今まで通りで問題ないでしょ」
「そうですよね~。私達は後ろでノートパソコンを見ていただけですから。おまかせしま~す」
「おいおい、確かに龍の仕事は信用できる。任せても問題ないが、楠木達も後で一応目を通しておけよ」
この部隊の原則として使用した弾は誰がどの位使ったとしても一切関係なく、まとめて精算する決まりになっている。
凰樹が全員無駄弾を使わない事を知っているからだが、これでも他の部隊だと諍いの種になったりしている。
つまり「俺はこの位弾を使ってGEを倒したんだから、アイツ等より分け前を多くしろ!」と言う奴や、「アイツが無駄弾を撃ちまくったんだから、アイツの取り分から差っ引け」、もしくは「アイツは見てただけだから、今回の取り分は無しだろうが」といった醜い言い争いをする部隊も少なくない。
この部隊の隊員の良い所に「細かい事を気にしない」や、「面倒な事はとりあえず任せる、後で文句は言わない」があるが、他の部隊に転属した時の事を考えて凰樹は毎回楠木達に注意を促すようにしていた。
セミランカーやランカーに期待して部隊に入り、殆ど戦闘に参加せずくっついてそのおこぼれを貰おうとする新入りが多く、どの部隊も隊員選びや補充人員選びには苦労していたりする。
「次の議題は、装備の不備、不満についてでんな。今の装備を何とかしたい人はいまっか?」
戦闘時に身に着けている服は、対GE用の特殊な繊維で作られた物だ。
窪内の様に特注サイズが必要な者はともかく、普通のサイズで事足りる者はデザインも含めてあまり選択の余地が無い。
リュックやマガジンポーチ等も同様で、使う武器に合わせると殆ど同じ物になってしまう。
多少は色とかが選べるが、よくて四~五色程度しかない。
「はいは~い。私もそろそろちゃんとした装備が必要で~す。特に銃はあんなちっこいのじゃ無くて~、こう、たっちが使ってる様なおっきなのを使ってみたいで~す」
一応、伊藤には帝都角井製のMP7A1という銃を持たせている。
小型で軽量、フルオートも可能と小柄な彼女が使う分には申し分の無い武器を選んである筈だ。
一方、窪内が使っているのはM60E3のフルカスタム。
元は政府からAGE事務所経由で支給された試作銃だったが、窪内自らが長い時間をかけて調整して作り上げたものだ。
重量も十キロを越える為、部隊の中でも窪内以外にこれを装備してGEと戦闘が出来る者は居ない。
「なんでしたら、後で奥の部屋であれつこうてみまっか?」
窪内は満面の笑みを浮かべてそれを進めている。アノ顔は結果が分かってて言ってる顔だ。
「え~ほんとにいいんですか? ありがとうございま~す」
そしてそれに気が付かずに喜ぶ伊藤。
「何事も経験か……」
凰樹は説明するより早いだろうと思い、止める事無くあえてそのままにしておいた。霧養や神坂も横で苦笑いしている。
「では、最後に次の攻略拠点晶選びに入りましょか? 全員、端末に注目して~な」
端末の画面にゲートとそれを一定間隔で取り囲む拠点晶が表示された。
幾つかの地点が空白なのは、ここ数年で凰樹や他のAGE隊員が拠点晶を破壊してきた証でもある。
「ここか、もしくはこれを破壊できたら、この居住区域の安全性は格段に上がる」
「いやいや、輝さん、其処は危ないっスよ。無難にここか、この拠点晶がいいっス」
「私は護衛じゃなければ何処でもいいけど。あんまり強いGEの所はやめてほしいかな……」
幾つかの提案が表示され、提案した部員から提案した理由と攻略する為のルートなどが表示された。
反対意見を出す時には代案や明確な反対理由が必要な為に何となくでは意見が通らない。その為に凰樹の提案に対し他の部員から意見が出され、別の攻略ポイントが提案されてそれに対してまた意見が交わされる。
この点での問題点があるとすれば凰樹と他のメンバーでは経験に格段の差がある。
厳密に言えば、対GEや拠点晶に絶大な威力を誇る特殊マチェットを使える凰樹と他のAGE隊員との差なのだが、危険を冒してまで生命力を消費する武器をあえて選ぶ者は居ない。
また、特殊マチェット等の刀剣類は使いこなすまでに時間が掛かるため、使う決心をしたところで、すぐにどうにかなる物でもなかった。
凰樹は今の隊員を信頼し、やや攻略に時間が掛かりそうな拠点晶を攻撃目標として提案したりするが、自らの力をそこまで信用していない隊員たちはより攻略が簡単な拠点晶を選んだりしていた。
「多数決を取りましょう。目標の拠点晶を手元の端末で入力してくださいな」
画面に各々が入力した攻略拠点晶が点灯する。
廃棄地区KKS一一五、KKS二七六の二箇所に複数の票が投じられている。
「廃棄地区KKS一一五に五票、KKS二七六に二票。よって攻撃目標の候補をKKS一一五にしたいと思います。凰さん、いいでっか?」
最終判断は部隊長である凰樹に一任されている。
一応の形であっても採決を取るのは、独断と強要を避ける為だが、あまりにも現状とかけ離れた結果になった場合にのみ、否決を行う事となっていた。
「問題ない。採決通りに廃棄地区KKS一一五の拠点晶を次の攻撃目標とする。なお、他のAGE部隊によって先に目標拠点晶が破壊された場合には再度目標の選定を行う、以上」
部隊の方針が決まり、凰樹は目標になった攻略拠点晶周辺の状況や、その辺りを作戦行動範囲にしている別部隊の調査を行っていた。
まず第一に目撃されているGEの種類。小型GEや中型GEが中心なのか?
それともこの辺りのゲートでは滅多に出会う事の無い、大型GEが存在するのか?
この辺りの情報をほんの少し見落としただけで、部隊が受ける損害は計り知れない。
第二に行動する範囲に特に問題は無いが、他の部隊が展開している戦場を荒らすのは快く思われ無いからだ。
苦労してGEを排除した後で、拠点晶だけ破壊されるのはいい気がしない。
例え、その部隊が拠点晶を破壊できる手段を持っていなかったとしてもだ……。
◇◇◇
奥の小部屋で、楠木、竹中、伊藤の三人が様々な標的を使った射撃練習を行っていた。
伊藤の試射は楠木の後という事になり、まず試射レンジに楠木が立ってエアーガンを構えた。
ここで使用するエアーガンは改造されていないノーマルタイプで、マガジンに装填されているBB弾も一万発千円程の普通の弾だが、安全の為に練習用のゴーグルの着用が義務付けられている。
「夕菜さ~ん。それじゃあはじめますよ~」
「OK。それっ!!」
伊藤が手元のボタンを押すと地面の仕切り板が倒れ、その影から鼠や蜥蜴などのターゲットが現れる。
元々はゴム製の玩具だったそれを加工し、仮想GEの標的に作り変えたのは窪内の仕事だ。
蜥蜴と蝙蝠、鼠と蜘蛛等を上手く組み合わせて、魔族合成動物種と同じ姿に仕上げてあった。
「夕菜さ~ん、空撃ちしてませんか~?」
「あれっ? 弾切れ? 弾倉弾倉っと……」
エアーガンの多くは空撃ちが出来る為、本物の銃と違って弾切れに気が付きにくい。
今は射撃練習中なので許される行為だが、実戦中にコレをやられると伊藤の護衛は務まらない。
凰樹は戦闘時に空撃ちが起き難くなるように、窪内にカスタムさせた帝都角井製のG36Cという銃に五百発の特殊弾が入る多弾倉を楠木に使わせている。
「楠木も良く頑張ってるじゃないか。そろそろ前線で戦わせてやったらどうだ?」
小部屋の外で神坂が凰樹に話しかけていた。
防音を施されている中の会話は直接は聞こえてこないが、緊急連絡用のマイクやスピーカーがある為に中の様子を伺う事は出来た。
「確かに腕は上がってるが、俺はもう少し様子を見たい。護衛なら十分に勤まるし、今はまだ無理をさせる必要もない」
一度GEの前で弾切れを体験させてやれば、二度と空撃ちをしなくなるとは思えたが、無理に体験させてやりたい事でもなかった。
「それに楠木を前線に出すとすれば、代わりに誰かが伊藤の護衛に下がらないといけない。今のメンバーだと誰が護衛に回っても戦力のダウンが大きすぎる」
四ヶ月前、凰樹は以前所属していた部隊を抜けている。
正確には以前所属していた部隊が全滅に近い損害を出し、無事に帰還したのが凰樹、窪内、神坂の三人だけだったという事だ。
前部隊の部隊長を含めるAGE隊員十一名は、あの山の中腹にあるゲート周辺で今は物言わぬ石像と化している。
前部隊の部隊長による自殺行為とも取れた作戦だったが、GEの少ない地点を選んで突撃し、ゲートの目前まで辿り着けた事は十分に評価できた。
しかし、部隊長の本当の目的を知った時に全員が呆れ返って戦意を失い部隊が崩壊し個々の戦闘力を頼りに撤退を繰り返した結果、三人以外に無事だった者は居なかった。
その後、永遠見台高校に入学し、楠木、竹中、霧養、伊藤の四人を加え、GE対策部を再建させて、新たに部隊を発足させた。
入部時の射撃訓練のレベルを見て、楠木と伊藤の両名は前線での戦闘が難しいと判断した為に後方での索敵任務につけていた。
いつまでもおとなしく後方で護衛が出来ない楠木の性格くらい分かってはいるが、それ以上にGEの索敵や増援となるGEの出現ポイントの予測に力を発揮する伊藤のバックアップとしての存在は大きかった。
「何度も撤退時に苦労させられた身としては、常に安全な退路の確保はしておきたい。四ヶ月前の事を忘れた訳じゃないだろう?」
「まあ、それに関しては俺も同感だが……」
四ヶ月前の苦い記憶がよみがえる。
お互いよく無事に生き延びられたものだと、その奇跡に感謝したくなる程だった。
「あ~疲れた。訓練の後に食べるお菓子っておいしいよね」
新商品のボス、タラコッスに手を伸ばし、一枚摘んで口に運ぶ。
パリパリとした食感、明太子風味に少し辛く味付けされたそれは意外においしく楠木は一人で何枚も食べ進んでいた。
「そういえば、聖華のアレ。そろそろ始まると思うんだけど」
「持ち上がらない、にB定食の特別食券二枚っス」
霧養の一言に楠木が目を輝かせる。
「それじゃあ私は、少し持ち上げて暴発させる、に同じくB定食の特別食券二枚」
「まったく、人の不幸をネタに賭け事をするなよ。ちゃんと射撃できるけど反動で転ぶ、にB定食の特別食券二枚」
季節のデザート付きのB定食は値段も人気も高く、咎めながらも神坂はつい賭けに参加していた。
このB定食の特別食券は通常の食券と違い日付の刻印がされていない。
通常、学食で購入した食券には日付と時刻、更にモーニング・ランチ・ディナー・デイの刻印がありデイと書かれた食券以外はその時間でしか使えない様になっている。
B定食の特別食券系の食券は、AGE報酬で入手するか一般生徒では成績優秀者に学校から配布される。
B定食の特別食券の他は、A定食の特別食券、C定食の特別食券、スペシャルトンカツ定食特別食券、スペシャルうどん定食特別食券などが存在している。
期限無し、使用制限なし、定食系のセットメニューの場合はゴハンの大盛り&特盛無料、小さなパックのジュース付きと様々な特典がある為に生徒間で頼み事をする時の最終手段として非常に人気がある。
また、賭け事のチップとしても頻繁に使われており、あまりにも大掛かりな場合生徒会や風紀委員から取り締まられる場合すらある。
今回はささやかな規模ではあるが竹中は「私はいい」と一言で断り、凰樹は部隊長の立場を考えて辞退した。
「たっち~。持ち上がらないよ~」
「はいはい。がんばって持ち上げましょ」
伊藤の身長は百四十二センチ、体重は四十一キロ。それに対し、M60E3フルカスタムは全長一一〇〇ミリ、重量十キロオーバー。
小柄な伊藤では使う以前に射撃姿勢に入る事すら難しい。
また、万が一に撃てたとしても、射撃時の振動に耐えられるか、甚だ疑問でもある。
「そんなこといったってぇ……。え~~~~~~~~っ!」
突然、パパパパと発射音が響く。
楠木の予想通り、ほんの数センチ持ち上げたところで伊藤は間違えてトリガーを引き、そのまま地面に向かって無数の弾を撃ち出した。
放たれたBB弾は床や天井に当たって砕け散り、割れたBB弾の欠片が生足や腕をかすめて、薄っすらと赤い筋をつける。
みかねた窪内は手を伸ばし、M60E3フルカスタムのスイッチをセーフティに入れて切り、伊藤は涙で瞳を潤ませて、弾が出なくなったM60E3フルカスタムを床に置いた。
「これでもう大丈夫。聖華ちゃんにはこいつは扱えんでしょ? 凰さんも前に言ってましたが、小柄な聖華ちゃんにはMP7A1がいちばんでっせ」
窪内は代わりにMP7A1を取り出して、次々にターゲットを撃破していく。
その姿に伊藤は瞳を輝かせ、宝石をちりばめた指輪の様にMP7A1を受け取った。
「ありがとう、たっち~。私、これでがんばるね!」
「別に礼はええですって。今度それもカスタムしましょ」
窪内と伊藤が奥の小部屋から出ると、妙に顔を綻ばせた楠木と渋い顔をした霧養が立っていた。
「せ~いかっ。お・つ・か・れ♪ あっちで一緒にお菓子でも食べない?」
「ど、どうしたんですか、夕菜さん? 何かいい事でもあったんですか~?」
「おつかれっス……」
「今日は厄日でんな」
なにがあったか一瞬で察した窪内は霧養の肩をぽんぽんと静かに叩いた。
◇◇◇
「輝さん。遺棄物回収に行きませんっスか? 第十二完全廃棄地区だったらまだ色々残ってると思うんスよ」
突然、霧養がそんな事を提案した。
【完全廃棄地区】とは壊滅して十一年以上経った地区の事を指し、其処に残されたすべての遺棄物は所有権が放棄されている。
これは、【石化後、十年経過した者は、二度と元に戻る事が出来ない】という事から生まれた制度だが、その多くは商店街等に残された物資の回収が目的とされている。
文句があるなら誰かに持って行かれる前に回収しろと言われる為、AGE隊員を雇って遺品や思い出の品の回収を行う者もいるが、そのうちの何割かは新たな石像と化しその場に取り残される事となった。
一円玉や建材として多く使用されているアルミや、車両や玩具に使用されている各種バッテリー等は特に回収が奨励されている。
個人の住宅に残された物に手を付ける者は少ないが、店舗等に残された商品や、戦闘後に回収されずに放置されたままの魔滅晶は完全廃棄地区に進入したAGE隊員の収入にもなっていた。
完全廃棄地区の回収行為はGEが出現する可能性も高く、一般人は進入自体に制限がある為に敬遠する行為ではあるが、時として思いがけない物が見つかるためAGE隊員の間では人気がある。
「第十二完全廃棄地区か……。確かにあの地区は守備隊の弾薬庫があった場所だし、結構大きな商店街もある。伊藤、第十二完全廃棄地区までのルートと、周辺地区の状況は今どうなってる?」
「え~っと、国道沿いは安全ですから、いつも通りに輝さんと神坂さんが車を出してくれたら問題ないで~す。第十二完全廃棄地区内も商店街周辺だけでしたら問題なしで~す」
予想していたのか凰樹の質問と同時に伊藤がそう答え、端末にその情報を表示させる。
凰樹はセミランカーになった時に、移動と運搬用として車の運転免許を許可され神坂は同じ部隊の補助運転手として運転免許が許可されている。
しかし、移動手段があったとしても守備隊の弾薬庫周辺はGEの数が多く、とてもではないがこのメンバーでは進入が難しいと凰樹も判断した。
「凰さん、いきましょ。守備隊の弾薬庫は無理でも、商店街の中にあるAGE事務局には行けそうでっせ」
回復剤や高価な武器等の貴重品は、十年経つまでにAGEの事務局に編成された回収部隊によりその殆どを回収されている。
しかし、回収用の車両に積み込めなかった試作武器や、ランクの低い特殊BB弾等の弾薬はそのまま放置されている事が多い。
「よし、今週の日曜日に第十二完全廃棄地区の探索を行う、ただし、賞味期限が切れた菓子等、食料品の回収は禁止する」
「「「え~~~、そんな~~~」」」
伊藤と楠木、それに霧養から不満の声が上がった。
「いやいや、輝。そこまで厳しくしなくてもいいだろ? 塩やコショウ、砂糖といった調味料はいいし、蜂蜜や漬物も保存状態が良く、虫が湧いていなければ許可してもいいだろ? 皆、缶詰はよく確認してから持って帰るように」
「「「了解しました!!!」」」
一ヶ月程前、ゴールデンウイークの真っ只中の五月三日、凰樹は逆方面の第七完全廃棄地区で遺棄物回収を行った。
GEの影響力も殆ど無く比較的に安全と思われた為に、親睦を深める意味も込めたちょっとしたピクニック感覚の探索だったが、問題は探索中ではなく帰還後に起こった。
大きなデパートの食料品売り場の倉庫から、漬物類、缶詰や瓶詰め等の保存が利く食料品や、塩、砂糖といった調味料を大量に発見した伊藤と楠木は拾ってきた幾つかの箱を並べて、板状のチョコレートや果物類の缶詰を中心に、蜂蜜、砂糖等のお宝を手当たり次第に詰め込んだ。
霧養や窪内たちも肉系の缶詰を探し、かなりの量の缶詰を入手してた。
その中に、今朝のジュースなど比べ物にならない危険物が混ざっている事も知らず……。
「賞味期限以前に、アレはああいう物らしいぞ……」
とは、その危険物の注意書きを後で読んだ神坂の台詞だった……。
「今週の日曜日は第十二完全廃棄地区に探索。来週は廃棄地区KKS一一五の拠点晶破壊。AGE本部に申請を出しておくから各自準備を怠らない様に」
「りょうか~い。たっのしみだな~」
「これで今月は食事に困らないっス。たっち! 銃の調整頼む!」
「先約がありますから、あとになりまっせ」
週末の予定も決まり、いつも通りの時間が流れ始める。
一人、凰樹だけは心の中で『こんな事でタイムリミットまでに救出が間に合うのか?』と問い続けていた。
読んで頂きましてありがとうございます。