その名はヴリル 一話
いよいよ凰樹達の姫たちからの測定開始です。
色々出てきますが楽しんで頂ければ幸いです。
八月一日、午前九時。
東京第三居住区域内にある、防衛軍特殊兵装開発部が管理するビルのうちのひとつ、総合運動センターの一室で凰樹輝は坂城厳蔵と約十一年ぶりの再会を果たしていた。
「おう輝、久しぶりだな。あの時はほんの小さな子供だったが、随分と大きくなったものだ」
坂城は頭を撫でるつもりだったが、凰樹の身長が高くなりすぎていた為に肩を叩くだけにとどめた。
防衛軍特殊兵装開発部から送られている装備のうち、対GE用の特殊素材で作られたタクティカルベストなどは他部署で開発や調整を行っている為に、坂城は凰樹の身長などを正確には把握していなかった。
「直接会うのは本当に久しぶりですね。いつも特殊小太刀などの調整で無理難題ばかり言ってすいません」
「なーに。それが無ければ此処まで武器は進化しておらんよ。気になる事は遠慮なく言ってくれ」
実際、特殊マチェット系の武器も、特殊トイガンに内蔵されているブラックボックスも、凰樹達の協力なくしては改良する事すら難しい。
ブラックボックスを発明した坂城厳蔵、大宮内幸村の両名でさえ、いまだに解析不能な謎をいくつか抱えており、そのうちのひとつを解明させる為に凰樹達を東京第三居住区域まで呼び寄せたのだから……。
「隣にいるのは、連絡のあった荒城佳津美さんか?」
「はい、はじめ……」
坂城は荒城の肩を叩きながら、「お主も久しぶりじゃな。元気そうで安心したぞ」といって、何か言いかけていた荒城の言葉を遮った。
「二人は知り合いだったんですか?」
「ああ、十三年前に、一度だけな……」
「お父様とお母様は都市安全技術研究所で働いてて、そこで事故に……」
東京第三居住区域内にある都市安全技術研究所。
GEの攻撃に耐える建設機材や素材の開発、紅点式GE探知レーダー、対GE用結界発生装置などの研究などを行っており、人々の暮らしを影で支える重要な研究所のひとつだ。
戦闘用では無く、あくまで都市の安全性を高める研究が主目的で、AGEや防衛軍が使用する装備などは別の研究機関が行っている。
ただし、回路や内部構造の複雑な対GE用結界発生装置は他では研究が難しく、創設以来この研究所でしか新型は開発されていない。
「それは……すまなかったな」
「いいえ、いいんですの。いずれ話さなければいけない事でしたし」
都市安全技術研究所では対GE用結界発生装置の開発中や建設機材の耐久テスト中などで、過去に何度も死亡事故を起こしている。
他の研究所でも特殊マチェット系のトリガーなどの開発中に何度か火災事故や爆発事故などを起こしており、都市安全技術研究所が特に危険という事では無かった。
「そんなことより、昨日届けた装備は見てくれたか? スポーツウエアのサイズは丁度良かったようじゃな」
「はい、でもこのウエア、一般素材ですよね?」
「当然だろう? 対GE仕様のスポーツウエアはまだ開発されておらんからな。今、最終調整をしておるらしいから、そのうち販売される筈だ」
対GE用の素材自体は生産を委託した会社などから様々な形で広まり、凰樹が好んで着ているような特別製の対GE素材製のシャツなどが販売されていたりもする。
坂城がここで言っているのは、市販されているスポーツウエアと同等以上の着心地や性能を維持したまま高度な対GE仕様の素材で作られた物の事で、今現在販売されている様な性能が数ランク劣る紛い物の事では無かった。
凰樹の身体能力を調べる必要があるのに、わざわざ能力を低下させる物を使用する筈も無かった。
「妥協は無しですか」
「そうでなければ実験の意味が無いだろう? 紛い物のデータなどいらんよ」
坂城は何を当たり前のことをといった顔をしてめんどくさそうにそう言った。
おそらく、今までにも数えきれない位に同じ様な事を聞かれてきたのは間違いない。
「武装の方も試してきたのか? 特殊トイガンの試射などは出来んだろうが」
「はい、この特殊小太刀、面白い機能が追加されたんですね」
凰樹は腰に下げていた特殊小太刀を鞘ごと外し、増設されていたゲージが緑色に染まっている所を見せた。
今朝もう一度特殊小太刀を手にした凰樹は、それが何なのかは大体理解していたが。
「……それで、リングの生命力はどうなっておる?」
「今朝のチャージ中も何故か減りませんでしたね。百のままです」
「ヴリル……か。減って……いないんだな。なるほど……うまく作動した様じゃな……」
坂城は小さく呟いた後で完全に研究者の顔になり、口にしてはいけないセリフを幾つも零しながら差し出された特殊小太刀を見つめていた。
「特殊トイガンの方にも細かい調整を施してある。その二つを使う実験は明日になる予定だが、状況次第では早める可能性もある」
「一応予定では今日は身体測定と体力測定という話しですね」
「ああ、一般人やAGEの身体測定はもう終わらせておるから、後はお主らと……」
「私達です。そちらがレジェンドランカーの凰樹さんと荒城さん?」
「随分とお若いんですね。自己紹介がまだでしたわね、私は同じAGEの智草千寿です」
九時五十分になってようやくこの場所に顔を出したのは、、現4位のトップランカー銀箭の魔女桃山那絵海と現ランキング十二位の元トップランカー智草千寿が姿を現した。
「凰樹輝です」
「荒城佳津美です」
上から下まで舐める様な視線を送っている桃山に凰樹と荒城は不快感をあからさまにし、名乗りもかなりぶっきらぼうな感じになっていた。
「桃山さん。そんなにじろじろ見るから、凰樹さん達が気分を悪くしていますよ」
「ふん、レジェンドランカーなんだから人の視線には慣れてると思っただけよ。悪かったわね、知ってると思うけど私は桃山那絵海、銀箭の魔女とか勝手に呼ばれてるわ」
「あ、あれは自称じゃなかったんですね」
「この歳になってあんな二つ名を名乗ってたら痛い子どころの話じゃないわよ!! 普通に名字で呼んで頂戴」
これでも以前よりは高圧的でなくなったと言われる桃山は、そう言った後で一層不機嫌な顔になり、用意された椅子まで歩いて行きそこに腰かけた。
「ごめんなさいね、彼女もう二十七だから……」
「まだ、二十六よ!! さらっと一歳増やしてるんじゃな~い!!」
「たいした違いは無いだろう」
「違・い・ま・す!!」
坂城の何気ない突込みに桃山は全力で反論していた。
たかが一歳されど一歳、女性にとっては聞き流せない一言だった。
「よくランクを維持できるな……。GEとの戦闘はそろそろきついだろうに」
「多分に漏れず、彼女も拠点晶の破壊と仲間が集めてきた魔滅晶の単独納入でポイントを稼いでるだけだから」
「歴代のトップランカーはみんなそうよ。ランカーズが異常なだけ」
トップランカーが百人以上のAGEを従えている事が多いのは、その部隊員のAGE達から魔滅晶を差し出させてランカーが一旦纏めて対GE民間防衛組織に納品し、後で再分配するという形を取るからだ。
トップランカーが享受する様々な特典を手下が貢献度によって受けとるという、持ちつ持たれつの関係を維持し、それが崩壊すればすぐにランキングに影響し、順位を下げていく。
危険な大型GEなどの討伐報酬よりも、拠点晶破壊後にエリア内で捜索する低純度魔滅晶の報酬を重視し、安全な場所に存在する拠点晶を巡って醜い縄張り争いも多い。
「首都のトップランカーには特殊スキル持ちも多いとは聞いてはいたが?」
「私の銀箭もちょっと威力のある魔弾に過ぎないわ。マスコミ連中が視聴率目当てで面白おかしく取り上げただけよ」
「私もトップランカーになった時に特殊太刀を使ってるって言ったら、破邪の聖剣とか書かれて困った事があったわ」
運よく智草の二つ名は広まらなかったが、一度広まると中々忘れて貰えないのがつらい所だった。
特殊スキルに関して本物は、凰樹を含めてごく少数に限られていた。
「俺が知っておる限りだが、まともな特殊スキルは輝の他にはランカーズの霧養君位だ。出来れば彼も此処に呼んでほしかったのだが」
「霧養はシールドが使えませんからね。残像はシールドとは微妙に違うスキルですし」
「確かに。まあ彼のデータは昔集めておるし、今更再検査してもそこまで変わる事は無いだろう」
確かに、霧養も凰樹の部隊に入る前に坂城の指示で身体検査を受けているが、それは広島第二居住区域の病院で行われている。
データ収集には坂城の部下が出向いているので、集めたデータの数値に間違いがあるとは思えなかった。
「まあ、トップランカーって言ってもそんな物よ。協力してくれる仲間の有無と、運よく高純度の魔滅晶を大量に見つけられるかどうか」
「拠点晶の破壊もこの辺りですと難しいですから。もう攻略しやすい拠点晶は残ってませんし」
首都圏で、攻略完了していない拠点晶はまだ多いが、トップランカーや防衛軍のおひざ元でいまだに存在しているという事は、何処かの企業の管理区域だったり、高レベルの環状石の支配下だったりと攻略できない事情がある場合が多い。
高レベルの環状石の支配区域では一瞬も気が抜けない為に、防衛軍以外での拠点晶攻略すら不可能だった。
「千寿は頑張っておる方だろう? 仲間がいても大型GEとやりあおうなんてAGEはそこまではおらんぞ」
「大型GEと戦えるんですか? わりと強敵ですよ」
「普通の人間にとっては、わりとどころじゃないのよ!! 大型GEは。特殊能力も攻撃範囲も脅威そのものでしかないわ。アンタや千寿がおかしいだけ!!」
今の凰樹にとっては既に大型GEはそれほど強敵では無い。
油断さえしなければ単独で幾らでも撃破が可能だ。
「私もそろそろ接近戦は引退かなって思ってるわ」
智草は凰樹と同じ様に腰に下げている大太刀を撫で、寂しげな表情でそう言っていた。
GEとの接近戦が恐ろしいという事は、長年AGEを続けている者ならだれでも知っている事だ。
中型GEや大型GEのトドメ専用とはいえ、続けていくにはそろそろ体力的にも精神的にも限界が来ていた。
「そうなると特殊小太刀系を使うのは俺位になるのか……、学生AGEの間でも特殊マチェットが流行ってはいるが、一過性の物の可能性が高いしな」
今、広島第二居住区域内では特殊マチェットや特殊小太刀が大流行中で、毎日どこかしらの部隊から対GE民間防衛組織に発注申請が届くという異常事態が発生している。
山口や岡山といった近隣にある県でも徐々にこの傾向が始まっており、小型GE相手とはいえ、中国地方だけ接近戦の経験が豊富なAGEが一定数生まれつつあった。
戦果を挙げる部隊も存在しているが、本当の意味で特殊マチェットや特殊小太刀系の武器を使いこなしているAGEは智草や凰樹の他に存在しない。
ただ、このまま我慢して使い続けてくれれば、数年後には強力な特殊マチェット使いが量産されている事だろう。
「特殊トイガンが強化されれば、接近戦なんてしなくてもいい筈ですわ。ほかの部隊は安全に戦闘して欲しいものです」
「荒城君の言う通りだな。昔、接近戦用の特殊ナイフが戦果を挙げた為にいまだに改良し続けておるが、元々は特殊トイガンの代用品に過ぎなかった代物じゃ」
「という事は特殊小太刀はこれが最終バージョンですか?」
「安心しろ、輝がいる限り改良は続く。改良を止めたら俺は防衛軍を追い出される」
今現在、ヴァンデルング・トーア・ファイントなどの特殊GEや大型GEの切り札は、特殊小太刀を手にした凰樹である事は間違いない。
凰樹は今後も成長を続ける可能性が高い為に、調整や改良を止める訳にはいかなかった。
「そこまでなの?」
先日、凰樹がW・T・F赤竜種を討伐した事はAGEや防衛軍などには知られているが、どう討伐したかはまだあまり知られていない。
更に言えば一般人やマスコミにもその情報自体が教えられておらず、その理由としてはアメリカ本土で1万人以上の兵を失ったのと同種のW・T・F赤竜種が日本国内に出現したという事実をあまり広めたくない為だが、防衛軍など一部ではすでに有名になっている。
「後で先日輝が討伐したW・T・F赤竜種の戦闘記録を編集した映像を渡してやろう。驚くぞ」
「まあいいわ、それで、身体測定とやらはいつ始めるの?」
「いますぐだ。とりあえず輝は俺が直接引き受けよう。千寿達は向こうで女性スタッフが担当する事になっておる」
「良かった……、ちゃんとそこは気を遣ってくれたのね」
白衣を身に付けた看護師風の女性スタッフ十名が凰樹達がいる部屋に入り、荒城側に三人、凰樹側に七人付いた。
「逆じゃないの?」
「今回の身体測定は凰樹さんがメインですから……」
「俺が直接受け持つが、サポートは必要なんでな。悪く思わんでくれ」
こうして、坂城待望の身体測定が開始された、身長、体重、視力、聴力といった基本項目だけでなく、肺活量や血液検査、髪の毛や皮膚、爪などの採取まで行われ、精液については今回も拒否された為に断念した。
荒城たちの方も、身長、体重、スリーサイズ、など身体測定というよりは健康診断クラスの内容だったが、採取されたのは血液だけで、それ以外の物は求められなかった。
「血液などの検査結果は後日だな。とりあえず昼食後にトレーニングルームと屋外の競技場で体力測定を行う」
「相変わらず上から下まで容赦の無い身体検査だったな」
「普通の健康診断でしたよね?」
「定期健診と変わらない内容でした」
MRIまで使用して徹底的に調べられた凰樹と違い、荒城たち三人の内容は健康診断などとほぼ変わらなかった。
◇◇◇
八月一日、午後一時三十分。
昼食後、トレーニングルームに集められた四人は、怪しい機械の前に立たされていた。
「これは何ですか?」
「これは、ペンです」
「いや、そんな英語の教科書みたいなネタはいいから……」
桃山の疑問にボケで返したのは智草で、ちゃんとその後桃山もそのフォローをしていた。
目の前の機械の大きさは二メートル四方で、入り口は前後に二ヶ所、全体から無数のケーブルが出ており怪しさ満点だった。
コードの幾つかは手前に用意されていたノートパソコンと、別口のディスプレイに接続されている。
「これはヴリル測定器、以前は生命力測定用の機械だったのだが、改良してヴリルを測定できるようにしている」
「ヴリルってなんですの?」
「よく聞いてくれた!! ヴリルとは、元はサンスクリット語で生命力と同じ生命力や活力を表す言葉なのだが、プラナという力が我々が知る神話などでは神力という名称で伝わっており、その時神話に使われたという神力とよく似た性質をもつ疑似神力の一種をヴリルなどと呼ばれてもいた。正確には我々が氣と呼ぶ力の事で…………」
事前に用意してあったホワイトボードに坂城は生き生きとした表情で色々と書き始め、神力≠生命力≠氣などと記号付きで書き殴りそれについて詳しい説明を挟みながら、やがてさまざまな化学式の様な物をホワイトボード中に追加した。
「生命力は俺と大宮内が苦労して発見した物だが、インドでは既に生命力によく似た力を使ってGEと戦う人物がいるという話も入手していた。元々はプラナと呼ばれた力が伝承などで神力と訳されたと考えられておるが、過去に起こった事件を調べると、確かにこの力を用いて……」
ホワイトボード中を所狭しと様々な文字で塗りつぶした坂城、その幾つかは環状石学などの授業で目にした事もあるが、おそらく大学の教授クラスでもこれを完全に理解する者はいないだろう。
「我々は比較的早い段階で生命力という秘密に辿り着き、それを基準にしていた事でもう一つの可能性に……、ん? どうした」
「いえ、迂闊な質問をした私が悪かったのかなと思いまして、反省していましたの……」
両手を目の前で合わせ、頭を下げていた荒城の姿に気が付いた坂城はようやく講義を止めた。
「まあ、これはヴリルを測定する機械だと思ってくれ」
当然、二度もそこに質問する者はいなかった。
◇◇◇
「では私から……」
最初に測定器に入ったのは桃山那絵海で、手には弾の入っていない特殊トイガンを握らされていた。
「……通常状態は測定できたな。では、銃を構えてくれ」
「分かりました……」
最初ディスプレイに二十五と表示されていた数値が少しずつ上昇をはじめ三十一という数値で完全に止まった。
「最高値は三十一か、やはり高いな」
「その数っ……、んんっ!!」
迂闊に質問しようとした荒城の口を、凰樹と智草の手が塞いでいた。
ここでそんな質問をしようものなら、どんな展開が待っているか即座に予想したからだ。
「好奇心は猫を殺しますよ」
「……んっ」
耳元で囁いた智草の言葉に、荒城は素直に首を上下に動かした。
「次は私ですね。特殊大太刀が少し扱いにくい気がします」
「特殊大太刀は振り回す必要はない、最初は腰に下げた状態で測定する」
「分かりました……、どうぞ」
次に測定器に入ったのは智草千寿で、特殊大太刀を腰に吊るした通常状態で既に三十まで伸びていた数値は、特殊大太刀を鞘から抜いて構えただけで一気に五十七まで上昇した。
「高いな、やはり特殊マチェット系を使い慣れている者は氣の数値も高い傾向にある」
「私より二十六も高いという事ですね……」
「一般人は一から六、通常のAGEが四から十程度という事を考えれば、桃山君も十分に高い数値ではあるのだがな」
「一般的なAGEの最高値の三倍以上。確かに十分な数値だ」
反対側の扉が出口になっており、そこから出てきた智草はそこに表示されている数値を見て驚いていた。
「こんなに高かったんですか?」
「次は荒城さんですね」
「では行きますわ……」
三人目の荒城佳津美も特殊トイガンを手にして測定器に入ったが、測定を始めた瞬間、いきなり数値が百まで上昇した。
「百?」
「まだ銃を構えてませんが……」
「まあ、当然じゃな。では銃を構えてくれ」
「分かりましたわ」
銃を構えた瞬間、数値はどんどん上昇し、最終的に二百四十一という数値で停止した。
「二百四十一って、計器の故障じゃないんですか?」
「いや、想定の範囲の数値だ。で、なければあの現象の説明がつかんからな」
「あの現象?」
「それは後説明する。よし次はいよいよ輝だな。そうだ、そのチャージ状態の特殊小太刀では無く、この通常状態の特殊小太刀にしてくれ」
「分かりました。こちらをお願いします」
測定器から出てきた荒城はやはり数値に驚いたが、坂城は別段驚いていないので想定の範囲だとは理解した。
坂城から受け取った特殊小太刀を腰に下げて、凰樹は持っていた特殊小太刀を鞘ごと坂城に預けた。
「では入りますね……」
凰樹が測定機に入っただけで、最初のディスプレイの数値は九百九十九と表示されて測定不能という文字が点滅し、僅かに数秒で氣最大値の測定オーバーを記録した。
「いきなりこれか、まあ想定内だ、もう一つのディスプレイを作動させる」
坂城は念の為に用意していたもうひとつのディスプレイを測定器に接続し、そこに数値を表示させた。
最初と同じ様にあっという間に最高値の九千九百九十九まで到達し、測定不能の文字が画面上で点滅していた。
「……これでもダメか、輝の能力を低く想定しておったようだな」
「九千九百九十九で点滅って、こちらでも測定オーバーですか?」
「ああ、しかも輝はまだ特殊小太刀を構えてもいない。何もしないでもAGE千人分以上の氣を発している計算だな……。輝もう出て来てもいいぞ」
「いいんですか? まだ構えてませんが」
「ああ、俺のミスだ。次はもっと桁数の多い測定器を用意する」
坂城は頭を掻きながら、九千九百九十九と表示した測定器を眺めていた。
「さて、どこまで改良するかが問題だ」
「あの……、初めから無制限に測れる測定器は用意できなかったんですか?」
「顕微鏡で大きさを観測するようなものをノギスや物差しで測定しようとするか? しないだろう? まあ、輝の奴はそのノギスや物差しクラスの存在だったようだが……」
測定器から出た凰樹を、桃山と智草は少し怯えたような視線で迎えていた。
「何かあったんですか?」
「気にしたら負けですの」
荒城はその辺りを心得ており、まあ、輝さんの事ですから~と、いつも通りに細かい事は気にしない事にしていた。
一旦ここで休憩となり、一時間後に屋外の競技場で残りの体力測定を行うという事になった。
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