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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
首都騒乱編
46/98

危険な情報

この話にも凰樹達ランカーズは登場しませんが、この章の重要な話なのでこんな形にしています。

楽しんで頂ければ幸いです。



 七月三十日、午後十一時三十七分。



 東京第三居住区域のある場所に三人の男が集まっていた。


 重要拠点を囲む壁の外で、内部に繋がる通路の遥か外にある危険区域に近い廃ビルの地下。


 まだこの辺りが一度GEに支配される前、その昔に元々はバーだった()()は現在、ある組織の集会所のひとつになっており、時折こうした集まりが行われていた。


 こういった場所は東京第三居住区域周辺に何ヶ所もあったが、その殆どは既に防衛軍の特殊部隊や防衛軍特別執行部のメンバーの手によって壊滅させられている。



 ここに顔を出すメンバーは全員本名は決して名乗らず、住まいや表の仕事なども決して口にする事は無い。


 そこから仲間の情報が洩れ、巻き添えで一緒に処理されるのを恐れているからだ。



「もう、同志は我々だけなのか?」



 ひとりは仲間に【天狗(てんぐ)】と呼ばれ、様々な場所に顔の効く三十代で研究者風の男。


 髪はボサボサで無精髭を生やし、ヨレヨレの白衣を着ている所から連日研究漬けなのはひと目で見て取れた。



「いや、あとひとりだけいる。しかし、東京第三居住区域(ここ)にいた他の同志はもちろん、地方に潜伏していた同志も、()()()()で軒並み処理された。この国にいるGE共存派ももう終わりだよ」



 ひとりは仲間に【(シシ)】と呼ばれる小太りの男で、常に食欲旺盛でこんな状況でありながら干し肉を齧っていた。


 まだ二十代でありながら頭髪は既になく、だらしなく膨らんだ腹をめんどくさそうな顔でボリボリと掻いている。


 どんな仕事に付いているのかは知られていないが、何故か情報収集能力に長けており、様々な場所に顔の効く天狗にその情報を流しては、見返りに幾何かのポイントを手にしていた。



「まさか()()から足が付くとは思わなかったからな。あんな物を利用するからだ」



 最後のひとりは【人鬼(ジンキ)】と呼ばれている、全身筋肉ダルマで体格のいい五十代の男。


 身体つきなどから格闘技をしているか、もしくは軍関係の仕事に従事している事は予測できた。


 元AGEという噂もあり、対GE民間防衛組織に通じる仲間を何人か従えており、その方面の情報には詳しい。


 このご時世でありながらガジェット系の扱いが苦手で、ノートパソコンや通信端末の機能すら使いこなしてはおらず、その手の仕事を全て猪に丸投げしていたりもする。



残影(ゴースト)所属の浅犬(あさいぬ)藤太(とうた)め。何が『人類の希望を無残に潰す作戦がある』だ」


「作戦自体は順調だった筈だ。あの場所は防衛軍の奪還作戦には上がっていなかったし、アイドルの卵とやらも随分と無力化できていた」



 人類の希望を無残に潰す作戦とは、広島第二居住区域のKKI地区を舞台に浅犬藤太が暗躍し、多くのアイドルの卵たちが石の彫刻へ姿を変えられていた事件の事だ。


 開始当初、作戦は順調に進んでおり多くのアイドルの卵を石像に変える事に成功したし、幾つかのアイドルグループを解散に追い込んでもいる。


 その歌声で勇気を与えられていた人々にとっては解散の二文字は心に大きな闇を残し、更にGEの恐怖を忘れてせっかく生きる気力を取り戻していた人々も、アイドルが石像に変えられるニュースを聞いて悲しみに暮れていたりもした。



 しかし、その計画はある人物を巻き込んだ為にあっさりと崩壊する。


 ランカーズの凰樹(おうき)(あきら)が浅犬の魔の手に掛かり石の彫刻へと姿を変えたアイドル、織姫(おりひめ)ヒカリをある場所から回収する依頼を受けた事に端を発する一連の事件。


 この事件をきっかけに、事態は大きく動いた。



 浅犬が凰樹を巻き込んだのがそもそも間違いで、凰樹をたかがAGEに所属する一学生と(あなど)った為に浅犬は足元を掬われ、トップランカーであった凰樹を含めるランカーズの処理に失敗しただけでは無く、自らが捕縛されるという大失態を犯した。


 当然、行動を共にしていた二人の同志は凰樹の暗殺と浅犬の口封じに動いたが、欲をかいて二人同時に処理しようとした為に命を懸けた自爆も凰樹に防がれ、生きたまま浅犬を当局に引き渡されるという事態に発展する。




 ()()()()()()で浅犬から引き出した情報を元に、広島第二居住区域周辺で暗躍するGE共存派を一掃する作戦が実行され、近隣に潜伏していたGE共生派のアジトは残らず壊滅した。


 先に捕縛されていた浅犬含めるGE共存派数十名が対GE民間防衛組織の手で処理され、広島第二居住区域周辺で暗躍するGE共存派は完全に息の根を止められている。


 それだけであれば、GE共存派は一地方の実行部隊が消滅しただけで、此処まで壊滅的なダメージを受けなかったのだが、()()()の存在が明るみに出た為、そこから情報が洩れて息の掛かった同志が一斉に検挙された。



 超小型の対GE用結界発生器。



 普通であればこの便利な機械を入手した者は電池が切れるまで使用し、そして内部に充填された電力が尽きた三日後に証拠隠滅の為に自爆する仕組みになっているこの装置に巻き込まれて処理される事が多い。


 しかし、凰樹はまだ十分に電力が残っている状態でそれをあっさりと手放し、あろうことかそれを防衛軍特殊兵装開発部の坂城(さかき)に送った為に証拠隠滅の爆破処理をする前に内部構造を調べられ、それが何処で作られたかを突き止められていた。



 これを開発できる場所は日本国内でも限られており、浅犬が超小型の対GE用結界発生器を所持していたが為に、防衛軍特殊兵装開発部の各部署に潜入していた協力者や内通者が即座に発覚し、GE共存派だった協力者や内通者本人だけでは無く東京第三居住区域に住んでいた妻子も含めて一人残らず収監されている。


 現在は秘密裏に処刑も終わり、日本国内にいるGE共生派は資金源を断たれ、()()()()()()で再度引き出された情報を元に潜伏場所が特定され、その場所が僻地の危険区域内であっても当局の手が及び、抵抗した場合はその場で一人残らず処理された。



「あの騒動を無事に切り抜けたのは幸運だったが、このままではGE共生派は終りだ」



 天狗と呼ばれている男が悲観的にそういうと、猪と呼ばれていた男が干し肉を食べる手を止めてノートパソコンを取り出し、そこに映し出された画面を見せながら自信たっぷりに言い放った。


「生き残っているのは我々だけ。しかし、近日中に面白い事が起こる可能性がある」


「これは……、この情報、確かなのか?」


「ああ、既に当局の手に掛かった同志が、最後まで奴らの手に渡さなかった貴重な情報だ」



 そこには今まで知られていなかった貴重で危険な情報が表示されていた。


 もし仮に都心部で()()が発生すれば東京第三居住区域だけでなく、周りの居住区域にも甚大な被害が出る事は間違いない。



「コイツと同時にひと暴れすれば、死んだ同志に報いる事が出来そうだな」


「しかし、本当に起こるのか? 確率はどの位だ?」



 天狗と呼ばれている男は、冷静にそれを聞いていた。



「やけに突っかかるな、同志が命懸けで残した情報が信用できないのか?」


「そうじゃない。もし()()が起こらなければ、我々は何の手土産も残さず、同志の元へと向かう事になる。せめて成功確率だけでも上げておきたいのさ」



 猪と呼ばれていた男はノートパソコンの画面を変え、幾つもグラフが表示された画面を映し出した。



「状況が似ているのは他にも日本全土に十ヶ所以上あるが、この周辺でほぼ確実なのはこの二ヶ所だな」



 東京第三居住区域近郊にわざと残されている東京第一三三環状石(ゲート)と呼ばれているレベル一の環状石(ゲート)と、同じくレベル一の東京第三六六環状石(ゲート)


 両方とも都内でありながらGEに襲われて生命力(ゲージ)を奪われて石に変えられた犠牲者の数が比較的少なく、また、その多くが十年以上経過していた為に実験用に残されている環状石(ゲート)だ。



 他にも似た様な環状石(ゲート)は首都圏に幾つも残されており、魔滅晶(カオスクリスタル)生産地として利用されていたりもする。



 環状石(ゲート)のナンバリングや名称などは各都道府県が作戦の便宜上で勝手につけており、正式な物はいまだに存在していない。


 昔そこに存在した地区名などを略称として取り入れている所もあれば、県内を将棋の盤面の様にいくつかのエリアに区切って○○の××といった呼び方をする所も存在する。


 東京を含める首都圏では都道府県名と発見した順番を続けて呼んでおり、一番違いでふたつの環状石(ゲート)が遥か遠くに存在したり、百番以上離れている環状石(ゲート)がすぐ隣に存在したりもしていた。



 ふたつとも周りに存在する拠点晶(ベース)は一つを除いてすべて破壊されており、既に環状石(ゲート)としてはまともに機能などしてはいない。


 小型(ライトタイプ)GEがまばらに姿を見せるだけで、拠点晶(ベース)にわざと攻撃を加えない限り中型(ミドルタイプ)GEも姿を見せる事は無い。



 残されている他の環状石(ゲート)も多少多目に拠点晶(ベース)が残されてはいるが、それぞれが完全に孤立させられており、大発生などは起きないように工夫されていた。



「……いつ位の予定だ?」


「八月前半、まあ両方とも十日を超える事は無い」


「少し早いが盆前か。奴らに殺された同志の弔いにちょうどいいな」



 天狗と呼ばれた男は顎を撫で、頭の中でいろいろ考えているようだった。



「どうした天狗、コレの出現に乗じて何か騒動を起こすアイデアでもあるのか?」


「ん……、ああ、もしそいつが現れた場合、どうするかを考えている」


「絶好の機会だからな、地下鉄などの移動手段を破壊するだけで被害は想像を絶する規模になるだろう」



 猪、人鬼と呼ばれている男も、頭の中でいろいろ考えているらしく、二人の瞳の焦点が(おぼろ)げになっていた。


 天狗と呼ばれている男はボサボサの頭を掻き、ついで背中と脇腹を掻いて腰を掻くフリをしながらそこに隠していたM1911(ガバメント)を取り出し、トリガーを絞って油断していた猪、人鬼と呼ばれていた男達に容赦の無い銃弾を浴びせた。



「な………ぜ…………」


「………く……ッ」



 倒れた男達にトドメを刺す為に更に頭部に二発ずつ銃弾を撃ち込み、更に二人の遺体を蹴り飛ばして天狗は二人が完全に死亡した事を確かめた。



「死んだか。貴重な情報をありがとよ」



 天狗と呼ばれていた男は二人の死体を調べて本名や表の仕事を割り出し、それを身に付けていた小さな手帳に書き記した。



「ここでの俺のコードネームは【天狗】。天の狗つまり、政府の狗って事だ。今の今までばれないか心配だったがな……」



 天狗と呼ばれていた男の名は松奈賀(まつなか)大嗣(たいし)


 表向きは防衛軍特殊兵装開発部に所属する技術者で、もう一つの顔はGE共存派や環状石(ゲート)崇拝教を取り締まる防衛軍特別執行部の一員。


 数年前からGE共生派に接触し、ようやく今日、GE共生派の主要メンバーだった二人の処理に成功していた。



 しかし、最後にGE共生派から入手した情報は松奈賀の手に余る代物で、もし仮に()()が起これば首都壊滅という事態も十分想像できた。



「おっ、他の仲間の情報もあるな。残りは一人だな、後で調べるとするか。……ん。しまった!!」



 その時、この場所に続く階段を駆け上がり、廃ビルから逃げ出した者が存在した。 


 その気配に気付いた松奈賀は急いで階段を駆け上がったが、そこにいた誰かの後姿すら確認する事は出来なかった。



「今の奴、残りのひとりに違いない。何処に隠れやがった」



 松奈賀は手にしたM1911(ガバメント)に装填されている残弾の少ないマガジンを取り出して全弾装填された予備のマガジンに入れ替え、それを構えて誰かが走り去った方を慎重に調べていた。


 この日の夜は晴天で、夜空には三日月と星が出ている。


 新月では無い為に周りは少しは見えるが、満月とまではいかない為、僅かな明かりで逃げ出した人物を見つけなければならなかった。



 小型で高出力のLEDライトは常備しているが、これを使えば松奈賀の位置が丸わかりで、相手も銃などで武装していれば此処を撃ってくださいと言っている様なモノなので迂闊に使う訳にはいかない。



 虫の声すら聞こえない夏の夜中。


 逃げ出した人物の足音を掴む為に耳を澄ましたが、コンクリートを擦る靴音さえ聞こえては来なかった。



「ちくしょう、逃げられたか、……っ!!」



 松奈賀が逃げた人物を追いかけ廃ビルから少し離れた場所の周辺を調べている時、集合場所にしていたバーが爆発し、残してきたノートパソコンや今始末した二人の男の遺体まで粉々に吹き飛ばしていた。


 爆発は廃ビル全体にまで広がり、激しい炎を上げている。



「これじゃあ足音も消えるし、遠くまでよく見える明かりになるだけか…………。完全にやられたな」



 そう言いつつも、このチャンスに松奈賀の命を狙って来ないか期待したが、逃げ出した誰かはそんな愚かな賭けに出る事は無く、いつまで待っても仕掛けて来る事は無かった。



「まあいい、一番重要な情報は手に入った。あのノートパソコンが無くても、うちのデータを使えば()()の兆候は事前に調べられる」



 手にした情報の内容があまりに危険だった為、これを上にあげるかどうかは考え物だ。


 もし仮にこの事が情報として流れればたちまち首都圏は蜂の巣をつついた様な大混乱が発生し、近隣の居住区域でも凄まじい規模での騒乱が発生する事は間違いなかった。



「孤立化させ、一定期間経過し特定の条件を満たした環状石(ゲート)からはヴァンデルング()トーア()ファイント()が発生する……。米軍がこの前一万人以上の兵を失ったって話だ。うちの防衛軍でも似た様な結果になるだろうな」



 現在W・T・Fの討伐実績があるのは広島第二居住区域の対GE民間防衛組織に登録しているランカーズだけで、仮にランカーズがいたとしてもトドメを刺した凰樹がいなければ完全討伐には至らない事を理解していた。


 八月十日までに首都圏に存在する環状石(ゲート)の中から二つを事前に破壊するか、そこから出現する二体のW・T・Fを討伐しなけばならない。



 W・T・Fが発生するまでに環状石(ゲート)を破壊できれば問題無いのだが、それが出来ない理由も存在している。



「今首都圏に残されている環状石(ゲート)を破壊するなどといえば、魔滅晶(カオスクリスタル)生産地として利用している一部の企業などは猛反発するだろう。といっても放置してW・T・Fが発生すれば討伐など……」



 首都圏の重要拠点を支配下に置く環状石(ゲート)は奪還作戦時にすべて破壊されている。


 近郊にある環状石(ゲート)も同じ状況で、逆に今残されている環状石(ゲート)には奪還される土地以上に何かしら利用価値があるという事だった。



 そういった利権の塊である環状石(ゲート)をW・T・Fが発生する可能性があるから破壊しますなどと申し出ても、「何処の企業の差し金だ?」、「以前も似た様な脅威を騙った輩がいる、いまだにそんな事は起こっておらんがな」などと言われ、体よく追い返されるのが目に見えている。



「一体でもW・T・Fが発生すれば、一気に首都圏近郊存在する環状石(ゲート)の全排除の動きが起こるだろうが、W・T・Fが発生すれば、討伐なんてまず不可能だ……」



 と、その時、松奈賀は坂城が進めているある実験の事を思い出した。


 この日も午前中で完成した測定器を使って、数十人呼び寄せたAGE達から様々なデータを取っていた為、GE共生派との接触がこんな時間になっていたのだから。



「凰樹が首都にいる一週間が勝負か。さて鬼が出るか蛇が出るか……」



 ランカーズ抜き、ひとりは同行してくるはずだが、僅か二人で米兵一万人以上を壊滅させたW・T・Fを討伐できるかどうか、それは既に賭けでしかなかった。


 松奈賀も流石に凰樹といえど、援護射撃も無いままW・T・Fに肉迫し斬り倒す事は不可能だろうと考えていた……。



読んで頂きましてありがとうございます。

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