防衛軍特殊兵装開発部
この話から新章になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月二十九日、午後八時三十分。
この日、防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵は、朝早くからこの時間になるまで開発した次世代型ブラックボックス内蔵型の特殊トイガンや、特殊マチェット系の武器を使っている部隊から送られてきた映像や資料を見ながらデータなどを調べていた。
基本、坂城が試作品などを送る部隊や人物は、何か特殊な能力を有している個人、規模の割にあげている戦果があきらかにおかしい精鋭部隊、シールド機能を初めとするリングを介した様々な機能を使う事が出来る特殊能力持ち、坂城の個人的な知り合いなどであるが、AGEショップ幽玄など元AGEが運営する一部の店舗に販売していたりもする。
ただし、その居住区域内に有能なAGEが存在しなければ、発注を確認後もなかなか商品を送る事は無いが……。
有能だと思っていた人物に試作型兵器を送り付けてみたが、思うように戦果が上がらず、逆にその部隊にいる新人がめざましい成果をあげる事もあり、使用した者には全員データの提出などを義務づけていた。
ある意味モルモットとして扱われてるのが分かっていたとしても、送られてきた方は殆ど無料で最新鋭の武器や試作兵器が使える為に坂城に協力する事は多い。
「こんな能力じゃないだろう? 何故アレを使って大型程度が倒せんのだ?」
坂城が期待していたある部隊に凰樹達に渡した物と同じ次世代型ブラックボックス内蔵の新型トイガン四丁と特殊マチェットを二本送っていたが、拠点晶を護っていたヤゴ型MIX-Iタイプの大型GEと遭遇した所、討伐に成功するどころか部隊を半壊させて、何とか無事だった数名が命からがらそこから逃げだしていた。
部隊長以下数名が次世代型ブラックボックス内蔵の新型トイガンに正規でないルートから入手した一発百円程度の低純度弾を使用していたが、大型GEには殆どダメージを与える事が出来ず、逆にヤゴ型MIX-Iが放った伸びる顎の攻撃をマトモに食らい、装備も生命力も全て失ってその身体を石に変えられていた。
「貴重な試作武器を……。まあ、こいつらはデータだけでも送って来ただけマシな方か……」
坂城が武器を送った部隊の中には、今までより格段に強力な武器を手にした事に喜び、自分たちの分を超えた難易度の拠点晶の攻略に出かけて全滅などという事も珍しくない。
そういった場合は貴重な武器の回収も出来ないだけでなく、戦闘データなども回収できない為に武器を送った事自体が完全に無駄になる。
生存していた場合でも、多くの戦友を失った為にデータを送るなどとする為の気力も残っておらず、そのままAGEをやめて武器の行方も分からなくなるといったケースもある。
「やはりゴーグルの情報だけで戦況を読める程の経験も無い癖に、索敵を重要視しておらん馬鹿には武器は送れんな。帰還率が悪すぎるわい」
手元の書類には、全滅未帰還、半壊(データ回収あり)、半壊(データ回収無し)などと書かれた物も数多く存在していた。
その全てに次世代型のブラックボックス内蔵型の特殊トイガンを送っている訳では無いが、全滅や半壊した部隊の中にはここで実績を作れば次回から試作型を回してもいいと思っていた部隊もあっただけに失望を禁じ得なかった。
他の部隊では滅多に入手できない様な武器を使っているにも拘らず、武器のおかげで威力が上がったからといって特殊BB弾の純度を数ランク落したりする部隊もあり、その辺りも部隊崩壊の原因になってはいた。
当然、何の記載も無いままにそんな事をされればデータに狂いが生じる為に、送られてきたデータそのものが役に立たないなんて事もある。
「次は誰だ? おお、千寿か」
現ランキング十二位の元トップランカー智草千寿。
凰樹と同じ接近戦を得意とするAGEで、使っているのは刀身が一メートル近い特殊大太刀だ。
凰樹の様に規格外の威力は発揮してはいない為に以前使用していた太刀では攻撃力不足で中型GEまでしか倒せなかった。
しかし、トドメ専用ではあるが今まで多くの中型GEを接近戦で討伐している為に、一時はランキング九位のトップランカーにまで上り詰めていた。
トップランカーにしては非常に礼儀正しく、一時期などはトップランカー唯一の良心などとまで言われていた。
危険な場所の拠点晶を重点的に攻略していた為に部隊の損耗率も高く、現在は少人数で行動している為にランキングが十二位まで後退していた。
「ここでも、次世代型ブラックボックス内臓特殊トイガンはそこまでの威力を発揮しておらんな。千寿は割と健闘しておる方だが……」
智草が隊長を務める部隊の隊員数は二十五名。
トップランカーの多くが百名近い部隊を率いて人海戦術でポイントを稼いでいる事を考慮すれば、二十五名という隊員数はささやかな規模だった。
隊員が手にしている武器のうち八丁までが次世代型ブラックボックス内臓特殊トイガンで、残りは二世代前の特殊トイガンが使われていた。
正規ルートで入手した一発二百円ほどの高純度弾を全員使っているが、次世代型ブラックボックス内臓特殊トイガン以外ではダメージを与えられない事を十分に理解しており、通常の特殊トイガンを持つ隊員は支援射撃や近づいてきた小型GEの討伐を行っていた。
そのおかげで次世代型ブラックボックス内臓特殊トイガンを持つ隊員八名と智草は大型GEの討伐に専念する事が出来ていた。
智草であれば次世代型ブラックボックス内蔵の新型トイガンの支援射撃で弱体化した大型GEをなんとか討伐をする事が出来る。
コレが他の人間であれば、最新型の特殊小太刀や特殊大太刀を使ったとしても大型GEの討伐など夢のまた夢だった。
逆に今の凰樹であれば、支援射撃など無くても大型GE程度は一太刀で真っ二つだ。
熟練度の差や元々の才能の差もあるが、智草が特殊大太刀のチャージ機能を使っている場合と比べても、凰樹が何もしないで特殊小太刀を使った方がはるかに威力がある。
それでも、智草はかなり健闘している方で、防衛軍には何人か存在するが、ほかのAGE部隊では特殊小太刀系の武器を使って中型GE以上を複数撃破している者は存在しない。
「最後は……、輝か。装備の方は点検したしレポートも読ませて貰っているが、何を仕出かしたかは実際に見た方が早いようだな」
坂城は先日送られて来たヴァンデルング・トーア・ファイント討伐時に凰樹輝が使用していた装備一式を点検し終えた後、実際にこれを使用している映像データを見ながら首を傾げていた。
「さっきの奴らと同じ次世代型のブラックボックス内臓の特殊トイガンだが……。報告通り、奴らが使った場合は確かに兵器になっとるな」
まるでアニメに出てくる光線銃の様に眩い光を纏った特殊弾が撃ち出され、それはW・T・Fの体に着弾と同時に激しい爆発を起こし、今までどんな攻撃でもびくともしなかったW・T・Fの身体が削り取られていた。
なお、既に同じ装備を防衛軍の特殊部隊も持ってはいるがここまでの威力は発揮しておらず、他のAGE部隊の場合でも使われている銃は全て特殊トイガンの域を出ていなかった。
何度も見た銃撃戦の映像記録から、坂城はランカーズのメンバーの能力が揃って異常だという結論に辿り着いた。
宮桜姫香凛の妹で鈴音はランカーズのメンバーではないが、調整したブラックボックスとの相性が良かったのか、一番威力が低かったとはいえそれでも防衛軍の一般兵の数倍の威力の攻撃力を発揮している。
これは使用している武器が究極システム社のM4A1-U.S.W.-MAXの次世代ブラックボックス搭載型である為に、鈴音の身体にあわせて完璧な調整を施されているからだと納得していた。
「で、ここからが輝か……、これは……同じ純度の弾なのか? 信じられんな」
他のメンバーと一線を画す凰樹の銃撃。
先ほどまでの映像では撃ち出された特殊弾が眩い光を纏っていただけだったが、凰樹の銃から撃ち出されたそれは既に特殊弾が形を保っておらず、完全に光の弾と化して目標のドラゴンタイプW・T・Fに向かって突き進んでいた。
当然着弾時の爆発の威力も桁違いで、現時点で最高の攻撃力を誇っていた防衛軍仕様の高純度特殊ランチャーを使った砲撃を遥かに凌ぐ威力にまで到達していた。
坂城の見立てでは、この威力であれば平均的な能力を持つ大型GEが相手でも一撃で討伐可能なレベルだった。
「リングのデータも送らせてはいるが、やはり生命力とは別の力が存在する事は間違いないな。でなくてはこれの説明がつかん」
画面に表示されているあらゆる数値が最高値を超えており、コレを完全に解明するには一度凰樹を此処に呼んでもう一度上から下まで調べる必要があった。
凰樹は過去に二度ほど坂城と会い、様々なデータを提供した事がある。
父親がまだ健在だった四歳と五歳の二回で、特殊ナイフとの相性を調べられたり、血液なども含めた身体データなどを調べられたりもしている。
電話やメールでのやり取りは現在も続いている為に、近況などは十分理解しているつもりだったが、どうやら凰樹の成長速度を計り間違えていた様だ。
「次は特殊小太刀だな。…………まて、今の映像をもう一度……。見間違いでは無かったか、百メートル程の距離を約三秒!? 時速百十八キロ以上か!!」
サービスエリア入り口付近からドラゴンタイプW・T・Fまでの距離はおよそで百メートル。
それをどんな方法を使ったのかは知らないが、目の前で再生された映像で凰樹はその距離を僅か三秒程で駆け抜けていた。
「オリンピックがあった時代なら、二度と塗り替えられない世界記録が出てただろうな。ま、アイツは短距離走世界新記録に興味は無いだろうが」
次に画面に映し出されたのは、眩い光の太刀と化した特殊小太刀と、それを使って一閃しただけでW・T・Fの身体を真っ二つにした凰樹の姿だった。
映像から、これを見ていたのは入り口側にいた誰かだと気が付いた坂城は、幾つかの映像データの中から凰樹のカメラで撮影されている物を選び、それも再生してみたが先程見た映像が大きくなっただけで、特に変わりは無かった。
「何をどうしたらこんなことが起こるんだ? そういえば、ハーフトリガーとか書いてあったな」
凰樹からのレポートに『ハーフトリガー機能に対しての追加要望』などという項目があり、その機能をチェックしていたが、坂城は特殊小太刀に元々そんな機能を実装したつもりは無く、凰樹の言うハーフトリガー機能とはトリガー部分の接続部に異常があってそこが偶々引っかかって中間部分でうまく機能していただけだった。
今はその状態を維持させる為の部品を追加しており、意図的に中間地点でハーフトリガー機能が作動する様に調整されている。
「しかし、それだけでこの威力か……。輝の事はガキの頃から見ておるが、この数値や威力はあまりに異常だ……」
映像で凰樹が戦っていたGEはW・T・Fの赤竜種。
同タイプがアメリカにも出現しており、現時点で既にいくつもの州を壊滅させている。
これだけの被害を出しているにも拘らず、現在まで討伐されていない理由はただ一つ、他のW・T・F同様に現在米軍が使用している兵器では攻撃が全く通用しないという一点に尽きる。
半月前、米軍が威信をかけたW・T・F討伐作戦を実行する為に過去の安保条約などを持ち出して防衛軍特殊兵装開発部のブラックボックスを強引に徴発し、一発五万円する防衛軍仕様の特殊弾とほぼ同じ物を使用して討伐に向かいその結果新たに一万人近い兵を失った。
凰樹が使用していた三世代前の特殊マチェットに何か秘密があると誤解し、同タイプの特殊マチェットやひと世代前の特殊マチェットまで持ち出して接近戦を仕掛けたが、誰一人ドラゴンタイプW・T・Fの硬い鱗を斬り裂いた者はいない。
元々、特殊マチェットや特殊小太刀系の近接戦闘用の武器は高レベルなブラックボックスを内蔵した特殊トイガンが出るまでの繋ぎで開発された武器あり、一般的に誤解されている様な威力のある武器では無い。
通常であれば、現在の次世代型ブラックボックス内蔵型の特殊トイガンで高純度弾を使用した方がはるかに威力があり、GEとの接近戦などという危険極まりない行為を行う必要など何処にもなかった。
その証拠に、特殊マチェット系でマトモな戦果を挙げているAGEは、日本国内では凰樹と智草の二人くらいだった。
凰樹はその特殊小太刀を使いドラゴンタイプW・T・Fを一太刀で真っ二つに斬り裂き、そのまま内部に隠されていた要石まで破壊している。
もし仮に凰樹が坂城の部下であれば何処をどうしたら特殊小太刀でこんな真似が出来るのか、一日がかりで問い詰めたい所だった。
「厳さん、ま~だ仕事してんのか? 若ぇ奴らはとっくに帰っちまってるじゃねえか」
「おう、大嗣か。おめえもまだ若けぇだろうが」
松奈賀大嗣。
一九九一年に魔滅晶とアルミ等を組み合わせて作る武器がGEに有効な事を発見した、大宮内幸村の親友である松奈賀伊造の息子で、その才能や実績から防衛軍特殊兵装開発部の次期部長と目されている。
坂城厳蔵と並ぶ正真正銘のマッドサイエンティスト。
現在、防衛軍特殊兵装開発部のブラックボックス開発はこの三人の手で行われており、この三人が手を組んだ直後からブラックボックスの性能は飛躍的に向上していた。
「俺はもう三十台半ばだぜ。もう若くはねえさ」
「定年を撤廃されたワシ程じゃねえだろう。まあ、こんな状況じゃ辞めるに辞められんが」
坂城はまだ六十歳で、防衛軍特殊兵装開発部の定年規定は元々六十五歳だったが、『貴重な人材がまだ働きたいというならば、定年など無くてもいいだろう』という事で、本人がやめたいと思うまでいつまでも現役というありがたいお墨付きを頂いている。
なお、この規定が決まるまで坂城は一言もこの仕事を続けたいなどとは言っていない。
「ここ数年で、ブラックボックスがようやく形になって来たからな。チャージ機能をはじめ、まだ謎も多いが」
「その謎なんだが、ようやく糸口が見えたぞ」
「…………なるほど、こいつは盲点だったな」
坂城は目の前にある端末の画面を指してある部分を何度か小突き、その画面を覗きこんだ松奈賀は其処に映し出された物を見て坂城が何を言いたいのか一目で理解した。
「だろう? 早い時期から生命力なんて秘密に辿り着いたおかげで、ワシも今の今までこいつの存在に気が付かなかった」
生命力。
リングに計測表示されているこれをGEなどに全て奪われると人は何故か石に変わる。
十年経つまでは石に変えられた場所を支配下に置く環状石を破壊すれば元に戻れるが、十年経つと何故か元には戻れず、犠牲者は環状石が破壊されても永遠に石のままだった。
ヴァンデルング・トーア・ファイント、特殊GEで独立型の要石内蔵門番GEのW・T・Fに生命力を全て奪われて石に変えられた場合は、W・T・Fを討伐する事で元に戻る事が出来るという事実はつい先日凰樹の活躍で判明した。
ついでに言えば、W・T・Fが出現した環状石の支配下で石化していた人も元に戻り、その支配されていた区域も奪還されるという事も確認できている。
今回坂城が発見したのはその生命力以外の物であり、対GE戦闘において画期的な発見である事は間違いなかった。
「装置は以前開発した物を流用すれば明日にでもできる。問題はそれを使って取るデータの方だが……」
それを確定する為にはある人物の協力が必要不可欠だった。
また平均的なデータや、一般的なデータも収集する必要があり、そちらの方は多ければ多いほどいい。
「で、何人必要なんだ?」
「輝は当然として、ランカーズの隊員を最低一名。あまり多く要望すると現地の対GE民間防衛組織が悲鳴を上げるだろうからそれ以上は無理だろう」
凰樹の住む居住区域、正確には広島第二居住区域と呼ばれている所だが、ランカーズ以外の戦闘能力は他の居住区域のAGEと比べて特に高くも低くも無い。
守備隊が上手く機能している分、他の居住区域より生存率は高いが、それだけの存在にすぎない。
一方、ランカーズはその存在自体が奇跡の様な物で、隊長の凰樹輝は勿論、残り八人全員が他のAGEなどとは比べ物にならない能力を有しており、ここから数人引き抜いただけで、移住先の居住区域の戦力は数倍になるとまで言われている。
その為、移住の誘いなど他の居住区域からのメールや手紙などは上で止められる形になっており、それを凰樹達が目にする機会は無い。
「まあ、あそこはこいつらがいないだけで戦力ガタ落ちだからな。で、他には?」
「一般的なレベルの人間が数十人、これはその辺りのAGEを要請すればいいだろう」
「そいつらは明日にでも何とかなるな。装置が完成次第集めてデータを取るとするか」
モルモットという訳では無いが、新装備などのデータを取る場合、一般的なAGE隊員や防衛軍の隊員からデータを取る事が多い。
これは平均的な能力を有する者を基準にしないとデータが意味をなさない場合も多く、事実、ランカーズのデータをそのまま基準にしてしまえば、ほかの部隊で一切役に立たない装備が出来上がっている事だろう。
ただ例外として、特殊マチェットや特殊小太刀は凰樹の物でなければデータが取れず、一般人が幾ら使っても回路に負担がかかる事も焼ききれる事も無い為、どこで何が起こっているのか判明する事は無かった。
「輝との比較対象で特殊小太刀系の智草千寿、あと、例の魔弾使い。銀箭の魔女桃山那絵海辺りが適材だな」
「元トップランカーとランキング四位の現トップランカーか、難しいな」
「お情けで返り咲いた連中だ。輝が来るとなれば断らんだろう」
トップランカーはほぼ全員プライドが高かったが、レジェンド枠が出来た事により、一度その天狗の鼻を完全にへし折られている為、以前よりは扱いやすくなったと評判だった。
相変わらずCMなどでテレビに出ていたりもするが、今まで威張り散らしていた相手からは『お情けトップテン』だの『早くレジェンド枠に行ければいいですね』だのと、散々言われていた。
ただ、現状ランカーズのメンバー以外で環状石破壊も、W・T・Fの討伐も不可能な為に、如何にトップランカーといえども残り七億ポイント以上という膨大なポイントを稼ぐことは容易では無かった。
なお、凰樹の現在の総獲得ポイントは二百五十六億ポイントで、この下に数千万ポイントあるのだがそれを切り捨てて話されている辺り、感覚がマヒしているとしか思われなかった。
今後他のAGEが何をしても追い付く事は不可能だろうとまでいわれている。
「あれだけ稼げば、普通は引退するよな?」
「輝には目標があるからな。今年の初めに防衛軍の方で輝の母親と姉を解放する為に、例のレベル四環状石の破壊計画が持ち上がったんだが……」
「ああ、計画自体は進んでいたんだが、最近になって助けた後で引退されてはたまらないという事で却下されたらしいな。英断だ」
事実として、人類全体の事を考えた場合でも、凰樹は国士無双の存在だ。
国どころか世界レベルで代わりの存在しない稀有な人間であり、凰樹を戦場に留める為に人道的には目を瞑られている事も多い。
護衛を付けるという話もあるが、住居の周りや学校周辺には既にSPが配置してあり、これ以上は逆に本人の負担になるだろうという事で最低限しか行われていない。
不測の事態であっても咄嗟に特殊なシールドを展開できる凰樹を倒す事など、ほとんど不可能ではあるが……。
「何処までやれると思う?」
「輝なら、広島全土の奪還位やりかねんな。ワシの目の黒いうちに実現して欲しい物だ」
「ははは、そりゃ難しい注文だな。でも、不可能じゃないだろうぜ」
松奈賀は笑いながら端末の画面を小突き、そんな事を言っていた。
そこに映し出されていたのは、人類の希望だったのかもしれない……。
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