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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
戦士の休息編
42/98

行く手を遮るモノは 二話

W・T・Fとの戦闘になります。

この話と次の話でこの章が終わります。

楽しんで頂ければ幸いです。


 七月二十五日、午後三時三十分。



 凰樹(おうき)(あきら)率いるランカーズのメンバーは、守備隊とAGE部隊が持っていたヴァンデルング()トーア()ファイント()との戦闘映像や、使用した武器の情報などに目を通し、W・T・Fの攻略作戦を考えていた。


 映像を見る限り、予想通りではあったがAGE部隊が持っていた低純度弾などは何の役にも立たず、四方から集中砲火を加えていた筈のAGE部隊が赤竜種(ドラゴン)の吐くブレスを浴びて断末魔の叫びをあげ、赤竜種(ドラゴン)のブレスが収まった時、その場にいたAGE隊員が全ての装備を破壊され、一糸纏わぬ姿で石の彫刻へと姿を変えていた。


「ご覧の有様だ」


「途中でこの作戦が無謀だと誰も言わなかったのか?」


「言ったさ。上からの命令は『AGE部隊と守備隊が壊滅しても市街地への進行は阻止せよ』だったがな」


「AGE部隊が壊滅したら、この先誰がこの居住区域を守ると思ってるんだ? こんな状況だと流石にうちの居住区域の対GE民間防衛組織事務所の所長や市長でも撤退命令位出すぞ」


 凰樹の居住区域にある対GE民間防衛組織事務所の所長影於幾(かげおき)之滋(ゆきしげ)は、こういった面では非常に優秀だ。


 以前、KKS二七六方面の防衛作戦時、被害状況を聞いた影於幾は「この作戦を考えた奴は誰だ!!」と、学生AGEを騙した守備隊の隊長、久地縄(くちなわ)(ともえ)を激しく非難し、生き残った鹿納(かのう)猿渡(さるわたり)の二人を即座に拘束した。


 AGE部隊は対GE用の消耗品ではあるが、無限に補充が効く物では無い事を十分に理解しており、各守備隊には効率よく消費する様に常に言い聞かせている。


 結果としてそれが人道的にAGE隊員を活用する事となり、【無駄な犠牲は出すな】と好意的に曲解した現場では影於幾の評判は(すこぶ)る良かった。


「羨ましい限りだな。あのサービスエリアにW・T・F(ヤツ)が移動しなけりゃ、俺達も間違いなく石像の仲間入りだった」


「そうなっていれば、次にW・T・F(ヤツ)が動き出した時がこの居住区域の最後だったな」


「同じ事さ。もう俺達には戦う力なんて残って無いしな」


 事実、獅子弩(ししど)の言う様に、この居住区域にいる守備隊やAGEにW・T・Fを倒す戦力など残っていない。


 と、いうよりは、元々守備隊やAGE部隊で何とかできるレベルの相手では無く、W・T・Fだと確定した時点で防衛軍辺りに任せるのが普通だ。


 仮に防衛軍に任せていたとしても、結果は変わらなかったかもしれないが。


(おう)さん、準備完了でっせ」


「問題は高純度弾でどこまでやれるかだな。奥の手は幾つか用意してるが」


「奥の手?」


「あまり使いたくないのも含めてな」


 記録映像を見ていたノートパソコンを索敵モードに切り替え、マイクロバス内に伊藤(いとう)楠木(くすのき)を残して通行止めで車が一台も走っていない高速道路の上に残りの隊員を集めた。


「今回も索敵は伊藤、防衛に楠木を残すが、今回はそれに加えて実働部隊として生き残った守備隊十人をここに残していく」


「全員でっか?」


 窪内が不思議そうな顔で、そう聞いていた。


 生き残りの守備隊が役には立たない事位は理解している筈だったが。


「ああ、範囲外なのは間違いないが、例の大型(ヘビータイプ)GEやその他のGEが近付いて来ないとも限らない。そっち方面の対応をお願いしている」


 万が一レベルではあるが、不測の事態は避けたかった。


 特に今回は討伐例のないW・T・Fの赤竜種(ドラゴン)が相手の為、そちらに貴重な戦力を裂く余裕など初めからありはしない。


「えっと、作戦はさっき聞いた()()でいいの」


「それでいい、予定通りにサービスエリアの入口方面を俺、(たつ)佳津美(かつみ)の三人、サービスエリアの出口方面は残り全員で対応する」


 広範囲に及ぶブレスを警戒し、正面から攻撃を加えるメンバーは最低限に絞っていた。


 三人だけであれば、最悪各自でシールドを張れば何度かはブレスをやり過ごす事が出来る。


「俺達は出口方面だが、こっちの問題はあの長い尾での一撃だ。アレを食らうと一撃で装備をすべて破壊されて石像に変わる事になる」


 ブレスだけを警戒して後ろから攻撃をしていた守備隊の多くもこの攻撃を受けて石像に変えられている。


 特殊マチェットに望みを賭けて接近戦を挑んだAGEもいたが、その多くはこの尾での一撃で赤竜種(ドラゴン)の胸元に辿り着く事無く、石像に姿を変えていた。


「予備動作も殆ど無い上に、攻撃速度も速い。だから、射程外から高純度弾で攻撃するだけでいい」


「チャージ機能の使用は各自に任せるが、生命力(ゲージ)残量が七十を切った時点で連絡を入れてその場から離脱して欲しい」


 こんな所で貴重な隊員を失いたくはない、それは凰樹や神坂(かみざか)の本音だった。



◇◇◇



 午後三時四十分。



 いまだにサービスエリアに我が物顔で居座り、動きを見せないW・T・F(ドラゴン)に対して、凰樹達ランカーズは戦闘準備を整え、戦端を開くその瞬間を待っていた。


 W・T・F(ドラゴン)が油断しているうちに初激で可能な限りのダメージを与える。


 一発五千円する高純度弾を使用し、チャージ機能も使用して狙う場所は胴体と、そして翼。


 赤竜種(ドラゴン)の飛行能力は低いが、空中に飛ばれると流石に手が出しにくくなるからだ。


「チャージ完了。五秒後に一斉射撃を開始する。………二・一・(ゼロ)


 昼間でもはっきりと分かる程に眩い光に包まれた特殊弾が放たれ、攻撃など効かないと油断していたW・T・F(ドラゴン)の身体に直撃して爆ぜ続けていた。


 チャージ機能は長く使い続ける事が出来ない為に、短時間で決着をつける必要があったが、次世代型トイガンに高純度弾を使用していても、W・T・F(ドラゴン)に致命傷を与える事は出来なかった。


「ホントに効かねえ!! 嘘だろ!!」


「全然って訳じゃないけど、中型(ミドルタイプ)GEに低純度弾使ってるみたいだね」


「嘘っ!! どうしてお姉ちゃんたちも()()持ってるの? 私なんてすっごく苦労して手に入れたのに」


 鈴音の言っていた秘密兵器は、凰樹達の予想通り究極システム社(アルティメット)のM4A1-U.S.W.-MAXの次世代ブラックボックス搭載型だった。


 チャージ機能まで搭載されており、銃口からは光に包まれた特殊弾が放たれている。


「色々あるんスよ。けど、このままだとジリ貧な気がするっス」


「そうですね。ダメージは与えていますが、このままですと倒す事は不可能ですね」


 宮桜姫(みやざき)香凛(かりん)は特殊弾で身体に赤黒い傷を作り出しているW・T・F(ドラゴン)の状態を冷静に分析し、おそらくW・T・F(アレ)を倒しきる前に此方の生命力(ゲージ)残量が七十を切る方が早いと判断した。


 頭部を攻撃している凰樹の攻撃力は異常で一発一発が他の隊員に比べても桁違いの威力を見せてはいるが、それを計算に入れても完全に破壊するのは無理がありすぎる。


「まずいな。このままだとW・T・F(ヤツ)は逃げ出すだろうが、倒す事は出来んぞ」


「これだけの攻撃を受けていながら、その全てが致命傷には至っていませんわ」


「各国の軍が壊滅したって話、どうやら嘘やないみたいでんな」


 凰樹の攻撃は着弾と同時に着弾点から眩い光の玉を生み出してW・T・F(ドラゴン)の身体を大きく抉り取っていたが、赤黒い傷は恐るべき再生速度で傷を治している為にいまだに致命傷には至っていない。


「こんなバカげた再生能力持ちだとはな。何か攻略の手掛かり……が。ん?」


「どうしたんですの?」


 凰樹の目に映った物。


 それはこの場所にいるメンバー外では窪内、荒城、竹中、伊藤、霧養(むかい)しか直接は目にした事が無い物だった。


「なるほど、そういうカラクリか。幾ら攻撃しても無駄な訳だ」


「なにか、わかったんでっか」


「ああ、W・T・F(アイツ)の正体は、独立して行動する要石(コア・クリスタル)内蔵型の門番GE(キーパー)だ」


 胴体部分に出来た赤黒い傷跡の奥に、見覚えのある要石(コア・クリスタル)の一部が覗いていた。


 門番GE(キーパー)であれば通常のGEなどと比べても防御力が桁違いな為に、高純度弾を使ったとしても攻撃が通用しなかった訳だ。


「それ間違いないんですの? もしそうだとしましたら」


「ああ、あの要石(コア・クリスタル)を砕く以外にW・T・F(ヤツ)討伐する方法(たおす手段)が無いって事だ。特殊小太刀(これ)で破壊するしかない」


 先日、防衛軍特殊兵装開発部の坂城(さかき)が再調整を施して送り返してきた特殊小太刀。


 それには()()()()が追加されていたのだが、坂城からはその事について何の説明もされてはいなかった。


「ランカー用特殊生命力(ゲージ)回復剤。ガンタイプの無針注射でコイツを使えば一気に二十生命力(ゲージ)を回復する事が出来る……」


 凰樹は鞘に収めたまま特殊小太刀のチャージボタンを押し、リングの生命力(ゲージ)が八十になった所で生命力(ゲージ)回復剤を使って一気に百まで回復させた。


「ここからW・T・F(アイツ)までの距離は約百メートル。全力で駆け抜けるから、それまで援護射撃を頼む」


「了解ですわ。絶対に、無事で帰ってきてください」


「分かった。龍!! 蒼雲(そううん)にも援護射撃を頼んでくれ。狙いは頭だ」


「了解でっせ!!」


 凰樹は全身に生命力(ゲージ)が行き渡る様に意識を集中し、右手で特殊小太刀の柄を握り人差し指をトリガーにかけ、左手で鞘を持ち、要石(コア・クリスタル)の一点に意識を集中してアスファルトの上を全力で駆け抜けた。


 凰樹が走り出すと同時に、全隊員はチャージ機能を使ってW・T・F(ドラゴン)の頭部を狙い撃ちにし、ブレスなどで攻撃する事を妨害していた。


 少し前まで百メートルを六秒ほどで駆け抜けていた凰樹だったが、生命力(ゲージ)の使い方が更に上達している事もあって、アスファルトの上を倍近い速度で走り続ける。


 それはもはや人としてはあり得ない速度だった。


「はやっ!! 世界新なんてもんやありまへんで」


「もうあそこまで!!」


 僅か三秒後、電光石火の速さでアスファルトの上を駆け抜けた凰樹はW・T・F(ドラゴン)が迎撃する暇さえも与えないままに懐に潜り込み、トリガーを半分引きながらW・T・F(ドラゴン)の身体を右斜め上に向かって斬り上げた。


 ハーフトリガー機能。


 特殊小太刀や特殊マチェット系の武器はチャージボタンを押すと内部に力を溜めこみ、引き金を引ききるとそれまでに内部に貯め込んでいる力を一気にバーストするが、ハーフトリガー機能搭載型であれば半分引いた状態で特殊小太刀を使えば本来解放する力を刃に乗せたまま攻撃する事が出来、攻撃力はチャージボタンを使っていた時に比べて数倍にも及ぶ。


 ハーフトリガー機能を使って眩い光の太刀と化した特殊小太刀の一閃でW・T・F(ドラゴン)の身体は上半分以上を失い、身体の奥に隠していた要石(コア・クリスタル)を無防備なままで晒していた。


「これで……トドメだっ!!」


 凰樹は光り輝く特殊小太刀を剥き出しになった要石(コア・クリスタル)に突き立てて、その状態でトリガーを完全に引いた。


 特殊小太刀に貯め込まれていた力が一気に解放され、要石(コア・クリスタル)に無数のヒビが入った後で甲高い音をたてて粉々に砕け散る。


 体内にある要石(コア・クリスタル)を失った事でW・T・F(ドラゴン)の体は崩壊をはじめ、少しずつ消滅していた。


 消滅したW・T・F(ドラゴン)からは光の粒が降り注ぎ、このW・T・F(ドラゴン)の攻撃を受けて石の像へ変えられていた人が次々に元の姿へと戻り始めていく。


「この光の粒、やはり生命力(ゲージ)が回復するんだな。となると他の隊員も全員回復する事だろう」


 夏に降る雪の様に、天高く舞い続ける光の粒は地上に降り注ぎ続けていた。


 戦闘が終わった事から凰樹は被っていた特殊ゴーグル付きのヘッドギアを外して左手で抱え、右手で腰に吊るしたままの鞘に特殊小太刀を収めた。


 戦闘開始から僅か十五分。


 今まで世界中の軍が総力を挙げても討伐がかなわなかったヴァンデルング()トーア()ファイント()は僅か十名の学生AGEの部隊によって倒された。


 凰樹がいなければ倒す手段を持ちえなかったとはいえ、流石に凰樹ひとりでは此処まで簡単にW・T・Fを倒す事など出来なかっただろう。



◇◇◇



「ねえ、お姉ちゃん」


 サービスエリア出口に待機していた鈴音が、姉の香凛(かりん)に抑揚の無い声で話しかけていた。


「どうしたの鈴音?」


「凰樹さんっていつも()()()()してるの?」


 あんな事とは、自分と同じ次世代型特殊トイガンの攻撃で着弾と同時に着弾点から眩い光の玉を生み出してW・T・F(ドラゴン)の身体を大きく抉り取っていたりとか。


 百メートル近い距離を三秒程で駆け抜けてみたりとか。


 体長七メートルほどの赤竜種(ドラゴン)を斬り上げの一閃で真っ二つにしてみたりとか。


 特殊小太刀で要石(コア・クリスタル)を粉々に破壊したりした事だ。


「私も最近入ったばかりだから、あまりよくは知らないけど……」


「いつも()()だぞ。はじめてみるとやっぱり驚くよな」


「驚くよ!! って、それで済ませちゃうの? いろいろおかしすぎない!? 人間ってあんなに速く走れないし、特殊小太刀使ってもあんな事って絶対にできないよ!!」


 神坂がそういうと、鈴音は常識的な感想を興奮気味に捲し立てていた。


 散々凰樹の非常識な活躍を目にしてきた神坂などは、色々麻痺してきているだけに特に驚く事では無い。


 人間、異常な能力の仲間と付き合うには諦めが肝心だという事だ。


「まあ、輝さんのやる事っスから」


「世の中にはな、深く考えたら負けな世界が存在するのさ」


「ホント、輝さんのやってる事を、深く考えたら負けっスよね」


 凰樹との付き合いの長い神坂などは、そう割り切って特に気にもしなかったが、比較的付き合いの短い霧養もそろそろその辺りを弁えて来ており、完全に達観していた。



◇◇◇



「アイツら……、本当に……、討伐しやがった……」


「アレが、ランカーズの凰樹輝か……」


 マイクロバスで不測の事態に備えていた獅子弩(ししど)鷹侔(たかひと)と僅かに残っていた九名の守備隊員は、光の粒を放って消え去ったW・T・F(ドラゴン)を信じられない物でも見る様にみつめていた。


 僅か一日前、この居住区域の全AGEが総力を挙げて戦い、そして壊滅させた相手を見事に倒して見せた凰樹。


 この場所からでも微かに見えるその後ろ姿は神々しくもあり、W・T・F以上の畏怖の対象でもあった。


「獅子弩さん!! 回収されていたAGE達が全員元に戻ったって連絡が!!」


 端末に来た通信を確認した守備隊員のひとりが、涙で瞳を潤ませながらそんな事を叫んでいた。


「なに!! 誤報じゃないのか?」


「間違えありませんよ~。全員ランキングにも復帰していますし、命に別状は無いそうで~す」


 伊藤はノートパソコンの画面で探索を続けながら、別画面で復帰した守備隊の情報なども集めていた。


 環状石(ゲート)を破壊した時と同じ現象が、W・T・Fを倒した事で起こる事が確認されている。


「えっと、それと昨日の海水浴場周辺が奪還区域になっています。あの近くにあった環状石(ゲート)がW・T・Fの発生源みたいですね」


「という事は? 以前と同じ様に緊急招集がかかっていますね。石化から元に戻った人の探索願いです」


 居住区域内でサイレンが鳴り響き、環状石(ゲート)の消滅と、探索に協力を願う放送などが繰り返し流された。


 ヘリなども上空に旋回し始め、陸と空から奪還区域内にいる生存者を探し始めたようだ。


「索敵範囲に休眠中も含めて大型(ヘビータイプ)GEの反応はありません。作戦終了ですね」


「出来ればそいつも片付けて欲しかった所だが。これ以上贅沢は言わないさ」


 W・T・F退治だけで十分につりが出る働きなのは間違いない。


 大型(ヘビータイプ)GE討伐はこの居住区域に所属するAGEの仕事ではあるが、それがどれ程困難なのか、十分に身に染みていた。


「よし、討伐完了だ。居住区域に帰るぞ」


「おー!!!」


 マイクロバスとバンタイプの車に装備を積み込み、地元に帰ろうとした凰樹達だったが、この地区の対GE民間防衛組織からの指示により『高速道路は安全が確認されるまでは使用できませんので、とりあえず温泉旅館【癒泉郷(ゆせんきょう)】に移動して其処に待機して頂きたいのですが』という事になった。


 W・T・Fとの戦闘で終わったと思っていたランカーズの休暇は、温泉旅館の癒泉郷(ゆせんきょう)で続くという事だった。





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