行く手を遮るモノは 一話
日常編の終わりと、W・T・F討伐の始まりです。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月二十五日、午前十時七分。
朝食を食べた後から始めていたバーベキューなどの後片付けも終わり、コテージに備え付けられていた木のテーブルの上に持って来ていたお菓子などを乗せてそれを食べながら他愛ない話をしていた。
しかし、宮桜姫香凛をはじめとする女性陣の多くは荒城と凰樹の間に流れる妙な雰囲気に、ある種の違和感を覚えていた。
「何か……、あったんですかね?」
「多分、間違いないと思う」
「問い質したいところですけど、聞くだけ野暮だと思います」
昨日の夜、みんなが寝静まった後に何かあった事は即座に察する。
それが何なのか、知りたくもあるが知った所でどうにもならないだろうという事も理解していた。
「乙女協定違反?」
「紫の行動を容認している辺り、あれは殆ど無いに等しい協定だと思うよ」
「あきらはお母さんとお姉さんを助け出すまで絶対に誰とも付き合わない。だからそれまでは何をしてもアピール止まり」
竹中のいう事は真理であり、竹中自身もあれだけボディタッチを成功させていながらほとんど反応らしい反応の無い凰樹に割と戸惑っていたりする。
もし仮に他の男に同じ事をしていたら、とっくの昔に襲われている事だろう。
◇◇◇
「さて、名残惜しいがこの辺りで切り上げよう」
荷物を車に積み終えた神坂がコテージの椅子でくつろいでる隊員達にそう伝えた。
「まだ早くないですか~?」
「せめてお昼ご飯は此処で済ませて帰りませんか?」
朝から海の家でアイスなどを買って食べていた伊藤達は、もう一食くらいあそこで食べたいと考えていた。
地元の居住区域に帰れば、あそこまで新鮮な海の幸を安く堪能できないからではあるが。
「あまり遅くなると高速道路を走ってる最中に日が暮れちまう」
「流石にまだそれは無いと思うが、そこの海泉の郷でお土産くらい買うのは良いと思うぞ」
「お土産っスか。いいっスね」
全員で海泉の郷に寄ってお土産物を買うという話になった。
凰樹にはお土産を買って帰っても渡す相手など居ないが、お土産用キーホルダーや出所の怪しいグッズ系は見ているだけでも楽しむ事が出来た。
「みてみて~、こ~んなの売ってるよ♪」
鈴音は特産品とは何の関係も無いのに並べられているおおきなかえるのキーホルダーを手に取り、楽しげにそれをみんなに見せていた。
「ペナントはともかく、キーホルダーなんかは県内各地から取り寄せました~って感じのラインナップだよね」
「フグのキーホルダーは可愛くて良いな♪ これ、小妖精のみんなに買って帰っちゃお」
「焼き物やガラス細工もいいですわね」
数人でキーホルダコーナーを占拠している鈴音たちを横目に、少し離れた場所にある棚で目の前にある焼き物の夫婦湯呑を見ながら荒城はある妄想を頭に浮かべている。
「そう言えばサザエやアワビなんかの海産物は通販で入手できるらしいぞ」
「さっき店員もわざわざサイトの情報入りの冊子くれましたわ。天然サザエがキロ二千円からって格安でんな」
貝類は殻の重さもある為に重量通りの物とは限らないが、天然物のサザエの値段から言えば格安だった。
しかし、問題は送料の方で、現在では居住区域を跨いで配送する場合は小さな小包ひとつに三千円ほどかかる。
あある程度の個数を纏めて注文すれば送料はかなり安くなるが、それでも総額で十万円を切る事は無い。
なお、その天然サザエは、地元の人間であれば海岸から百メートルほど進んだ岩場で採り放題である。
「寮の調理場で焼いたら苦情が来るぞ。昨年の話だが、寮の共用台所で殻付きの牡蠣を焼いた猛者がいたらしくてな」
「入寮時に寮長はんから釘は刺されましたな。やり方次第でどうにでもなりまっが」
同じ寮でも当時から既にセミランカーだった凰樹には、ワンルームマンションの様な風呂やキッチンまですべて揃った部屋が用意されていた。
現在では、対GE民間防衛組織と居住区域の市長の提案で、学校近くに建設中だったマンションの一部を改装し、そこにランカーズのメンバーを引越しさせようという計画が持ち上がっている。
この措置はレジェンドランカーを警備体制の甘い寮に何時までも置いておく訳にいかないという面と、待遇が悪いと他の居住区域の対GE民間防衛組織辺りが凰樹達を好条件で引き抜きにかかるのではないかという心配から出た物だ。
実際、レジェンドランカーに昇格前から既に名の知れ渡っていた凰樹、窪内、神坂の三人は何度か他の居住区域の対GE民間防衛組織に声をかけられており、これに加えて最近では霧養にも引き抜きの手は及んで来ていた。
「いざとなれば中庭に七輪持ち出して焼けばいいさ。確か認められていた筈だ」
「秋刀魚を焼いた猛者に対して、焼きたけりゃ外で焼けって言った為に認めざるを得なくなったってアレか?」
「どうも、計画的犯行らしいっス」
去年、凰樹達の先輩にあたる世代が苦労して入手した生秋刀魚を焼こうとして寮長に掛け合った所、「火災報知機が鳴るだろうが、焼きたけりゃ外で焼け!!」と言われ、事前に用意していた七輪を使って寮の中庭で秋刀魚を焼き始めた。
当然生秋刀魚を焼いて出る煙は凄まじく、消防から問い合わせが来たりもしたが、「中庭で生秋刀魚を焼いて……」と正直に話して事無きを得た。
以後、何か煙が出る物を焼く時は調理場では無く中庭で行う事などという決まりが出来たが、どうやら野外でBBQをしたいがために画策された事だという話だ。
「その辺りは後でもいいだろう。何か買わないのか?」
「凰さんは何か買いまへんのか?」
「そうだな……、ほう、このキーホルダーがまだ売ってるのか」
凰樹が手に取ったのは基本的には筒形で長さ四センチほどで、様々な装飾が施された不思議なキーホルダーのうちのひとつ。
中心部の装飾は高純度魔滅晶を連想させるような輝きを放ち、全体的に左手のリングにも似た銀色のパーツが所々に使われている。
「それ、大分昔に販売中止になった筈でっせ」
「ああ、聞いた事がある。結構な人が体調不良を訴えたって話だ」
そのキーホルダーは一九九五年に販売された玩具のひとつで、販売した直後から使用した子供や親が体調の不良などを訴える事件が続出したが、それでも発売元の強い要望で販売が続けられ、大規模な不買運動などが繰り返されて二〇〇〇年になってようやく発売が中止された。
その時に残っていた在庫はすべて回収処分されたという話だが、時たまこうして市場に出回る事がある。
「コレは面白いんだ。こうしてシールドと同じ物を出したりする事が出来る」
凰樹は一番手前にある基本的なデザインのキーホルダーを手に取り、それを軽く前に突き出して円形のシールドの様な物を作り出した。
「それの中身はプロトタイプのリングって話、眉唾だとおもっていたが本当だったのか」
「その話が本当だとしたら、体調不良の理由は生命力消費によるものか。確かに慣れないと生命力消費で体調不良を引き起こすだろうしな」
政府による全国民へのリングの配布は二〇〇一年、販売停止が二〇〇〇年だとすると色々辻褄は合う。
生命力の消費具合を調べるデータ取りをしていたのであれば、データが集まる前にはそうそう簡単に販売を止める事は出来ないだろう。
リングが無いと生命力の消費は分からないので、今もってなお当時引き起こしていた体調不良の原因は不明のままだ。
「で、輝。生命力は大丈夫なのか?」
「この位だと減らないな。もう少し派手にやれば減るだろうが」
「ちょっといいっスか? …………コレを使ってもシールドは無理っスね」
「俺は出せるな。げ、生命力が一減ってやがる」
「わても出せまっせ。生命力の消費は同じく一でんな」
それぞれ、展示されていたキーホルダーを手に取り、霧養以外は小さな円形のシールドを出した。
「シールドの練習用に部で揃えるのもいいかもしれんな。ここにあるのは全て買わせて貰うか」
「わては個人用にひとつ貰いまっせ」
「俺もひとつ欲しいっス」
「俺もだ」
窪内、霧養、神坂がそれぞれ手にしていたキーホルダーを購入し、残りのキーホルダーは全て凰樹が購入した。
他にも、それぞれが名物のかまぼこや銘菓などをいくつか選び、海の家で昼食を済ませた後で、来た時よりも多い荷物を車に積み込んで海水浴場を後にした。
◇◇◇
「今、二時位だから学校に着く頃は六時か七時だな」
「そうなるな。明日は部活を休みにするからゆっくり休むと良い」
旅行疲れという訳では無いが、あれだけ海で遊んだのだから、一日位は休養を入れようという凰樹のはからいだ。
居住区域の道路は平日の昼という事で車通りは少なかったが、高速道路のインターチェンジに近づくにつれて車の数が激増し、もう少しでインターチェンジに辿り着くという所で完全に車の流れが止まり、そこで対GE用装備で武装した守備隊員と警備員が交通整理を行っていた。
「この先は通行止めだ。今日は諦めて引き返すんだな」
「ちょっと待ってください。この積み荷は明日までに大阪に届けなきゃならんのですよ」
「無理だな。会社に連絡して事情を説明するんだな」
交通整理をしていた警備員のひとりが並んでいる車の窓をノックし、窓を開けさせてから運転手にそう伝えていた。
インターチェンジ手前に車をUターンさせるスペースは用意されており、並んでいたトレーラーなどは一旦他の場所に移動して積み荷をどうするか電話で連絡を入れている。
状況としては高速道路を使う車の数は少ないが、その手前で輸送用のトラックなどが立ち往生していた為に一般道まで渋滞が広がっているという話だ。
「聞こえていたと思うが、高速道路が通行止めだ。今日はこのまま引き返すんだな」
「他の居住区域から来てますんで、ここを通れないと帰れないんですが。他の道は無いですよね?」
「無いな。あったとしても其処も通行止めだと思うぞ」
どの県でも奪還された高速道路を維持するので精一杯で、他県に繋がる他の道を確保できるほどの戦力は残っていない。
高速道路に並走する道路が使える場合もあるが、途中で安全区域を通過できる道が途切れる場合も多く、整備されていない危険区域の道を通る羽目になる事も多い。
「この通行止め、どの位かかりそうなんですか?」
「知らん。状況次第だが……その装備、お前達もAGEか? ……その顔、何処かで、あああっ!!」
マイクロバスの運転席、しかもサングラスをかけていた為に運転手の正体に気が付かなかった警備員だったが、後部座席に積んでいる特殊トイガンを見て、運転手が誰なのかようやく気が付いた。
「し……失礼しました。申し訳ありませんが、少しお待ちください」
警備員の男は敬礼したままでそう言い残し、少し離れた場所で端末を使って何処かへ連絡を取り始めた。
「本部へ緊急連絡。インターチェンジの交通整理を担当しています柴崎です。インターチェンジに例のランカーズの、……はい、この居住区域に来ているという情報はありましたが、運よく……」
あまり歓迎でき無さそうな会話が所々聞えたが、渋滞に巻き込まれて動けない以上どうする事も出来ず、事の成り行きを見守るしかなかった。
「雲行きがあやしゅうなって来ましたな」
「例のヴァンデルング・トーア・ファイント絡みかもしれん」
「それ以外やと、例のレベル五の環状石にいるって話の大型GE絡みでっか。こっちやとまだマシでんな」
窪内が此処まで言う理由、それはW・T・Fに限って言えば、世界中に何匹も確認されていながらいまだにただのひとつも討伐報告が上がってきていないからだ。
その原因は、単純明快で【攻撃が通用しない】、これに尽きる。防衛軍が使っている一発五万円の最高純度弾と同レベルの特殊弾や、拠点晶破壊用の特殊ランチャーまで持ち出して攻撃しているにも拘らず、いまだに討伐した者はいない。
生き残っている各国の軍が威信をかけて討伐作戦を決行しては壊滅し、部隊の一部が無事に撤退が出来ればマシという状況が続いている。
「流石に攻略法の無い敵とは戦闘したくないんだが」
「環状石は攻略法がある分マシって事でんな。孤立させるんもひと苦労やけど」
現在、低レベルの環状石に関しては、支配下に置く拠点晶を一定間隔で破壊し孤立させるという攻略法が見つかっており、戦力に余裕のある防衛軍などはこの方法で環状石を破壊している。
ただ、孤立化から破壊に至るまでに時間が結構必要になる為、流石に防衛軍でも年に何ヶ所もこれを行う事は出来ない。
その為防衛軍では、レベル一から二辺りの環状石の攻略は一発五万円の最高純度弾と拠点晶破壊用の特殊ランチャーを大量に用意して、拠点晶を破壊しながら突破口を作り、強引に環状石内にいる門番GEを倒して要石を破壊するという力技を用いている。
◇◇◇
柴崎と名乗っていた警備員の話が終わるのとほぼ同時に、渋滞しているインターチェンジの方からけたたましくサイレンを鳴らしたパトカーと、特殊車両らしき物が姿を現した。
一般車両を強制的に端に寄せさせて真ん中に出来たスペースを堂々と走ってくるあたり、この通行止めの一件に警察やこの居住区域の対GE民間防衛組織の上層部が絡んでいる事は疑いようが無かった。
「運良く見つけた戦力は逃しませんって感じだな」
「厄介事が多いっスね」
「家に帰るまでがキャンプなんだがな……」
マイクロバスにいる凰樹から連絡を受けていた神坂達も、何が起きているのかを大体察した。
後は帰るだけだったキャンプはまだしばらく終わら無さそうだ。
「私は討伐任務の指揮を執っています、獅子弩鷹侔です」
「ランカーズの凰樹輝だ。討伐任務という事は、相手は何だ? 大型GEか? それとも……W・T・Fの方か?」
蜥蜴という時に手の平を上下に揺すって見せた為に、それが何を指すのか、獅子弩は直ぐに察した。
「もう、ご存知でしたか。残念ながらW・T・Fの方です」
W・T・F、予測していた最悪の事態ではあるが、高速道路走行中に遭遇しなかっただけましといえなくもない。
凰樹は倒す手段が無い以上、高速道路は諦めて瀬戸内海側に出て海路用のフェリーを使うしかないと考えてもいた。
「そっちの方は防衛軍の管轄だと思うんだが。他の国の討伐状況は知っているのか?」
「とりあえずは……。攻撃が効かない以上、何処かに行くまで監視という話しなんだが上からの命令で、討伐しろと言われてる」
余程その命令に腹が立っているのか、会話の端々に少しずつ地が出てきた。
「ここの対GE民間防衛組織の所長あたりか? 余程に優秀なAGEの数を減らしたいと見えるな」
「まあ、凰樹の所為でもあるんだが。『学生AGEで環状石が破壊できるのであれば、お前達もW・T・F位倒せるだろう?』などと言われてな」
近県、特に山口と岡山の居住区域にある対GE民間防衛組織の所長辺りは、凰樹がしてみせた学生AGE部隊による環状石の破壊の一件以来、地元のAGEに対してそんな言葉を良く使っていると聞いている。
誰でも簡単に環状石を破壊できるなら苦労はしないし、人類も此処まで追い込まれてもいない。
そのお偉いさんたちは、GEの出現によって今迄にいくつの国が滅んでると思っているんだろうか。
「装備が違うし、そんなに簡単に環状石を破壊出来る訳でもない。見た所そこまで悪い装備じゃないようだが」
「うちの守備隊は割と予算に余裕があってな、ひと世代前のフルセットさ。噂通りなら二世代前になるが」
「二世代前だな。仮に俺達が使ってる装備があっても、そう簡単に門番GEは倒す事など出来んぞ」
「例の映像は俺達も見た。初めはCGの合成なんかじゃないかと疑ったさ」
二週間ほど前、対GE民間防衛組織から回ってきた一本の動画。
初めはビールを片手にまるで映画か何かを見るつもりで何気なく流したそれに、そこにいた隊員は全員言葉を失った。
噂には聞いていたが、凰樹が特殊マチェット片手に門番GEの百足型のリビングアーマーに斬り掛かり、見事に一閃して倒した姿は今でも脳裏に焼き付いている。
画面の中で起こったそれがどれだけ馬鹿げた光景か、守備隊に所属している者で理解できない者はいない。
「アレが出来てもW・T・Fに勝てるとは限らん。大体、W・T・Fを何とかできるなら、装備で日本とほぼ互角のアメリカかドイツの特殊部隊が倒している筈だ」
「日本を含めたその辺りが現在の三強だからな。インドとイギリスも悪くは無いが」
多くの国が高純度魔滅晶を入手し、帝都角井やJAGなどのトイガンメーカーとライセンス契約を結んで特殊トイガンの開発に乗り出したが、ブラックボックスの解析が出来ない為に、日本で使われている以上の性能の特殊トイガンを開発する事は無かった。
ブラックボックスは防衛軍特殊兵装開発部がその秘密を全て握っている為、他の勢力は古い世代のブラックボックスを解析してブラックボックスの紛い物を開発していたりする。
当然性能はガタ落ちで、劣化コピー以下の性能しかなかったのだが、アメリカとドイツの研究所が去年ようやく日本の物と同程度の性能のブラックボックスを開発した。
ただ、現状ではそれを使っていても、攻撃が効かないW・T・Fはもちろん、高レベルの環状石内にいる門番GEすら倒す事は出来ないのだが……。
「初期に特殊トイガンを開発できたかどうかが運命の分かれ道だったからな。あれも現在の特殊トイガンに比べたらオモチャみたいなものだけど」
「元々オモチャさ。ところで、さっきの口ぶりだと持っているんだろう? 最新式の特殊トイガンを」
「話を逸らそうとしても無駄か。ああ、あるさ、次世代型の特殊トイガンが」
各国がコピー品からようやく脱却したかと思われたブラックボックス開発競争。
しかし、その莫大な予算をつぎ込んで開発したブラックボックスは、ついこの前に防衛軍特殊兵装開発部の坂城厳蔵が完成させた次世代型のブラックボックスの性能と比べられるものでは無かった。
旧型のブラックボックスを搭載した特殊トイガンはあくまでも改造したオモチャでしかない、しかし新型ブラックボックスを搭載した次世代型は対GE用の紛れもない兵器だった。
「それと凰樹の力、それがあればW・T・F狩りが出来るんじゃないかと思ってな」
「無用な危険は犯せん。地元に帰るだけならフェリーで何とかする」
W・T・Fの出現場所が自分の住む居住区域では無い、それも理由のひとつだが、母親と姉を救い出すまで敗北が許されない凰樹にとっては聞けない話だ。
「W・T・Fを放置されると、他の居住区域からの高速道路を使った物資の輸送が壊滅だ。鉄道が残されてはいるが、あっちがいつまでも無事とは限らない」
「この先の居住区域の多くが干上がる。そう言いたいのか?」
「自給自足できる居住区域だけじゃないだろう。それに、W・T・Fが高速道路を逆走してそっちの居住区域に向かう可能性だってある」
初めは手を貸すつもりが無かった凰樹だが、不意に見た獅子弩の目が気になった。
断られればもう未来が無いというような絶望に囚われた瞳、それはまるでひと月前に竹中がしていた様な目だった。
何かある、何となくだが、そう感じた。
「もし仮に、戦う場合はどの位戦力が残っているんだ?」
「……この居住区域のAGEはもう二十人位だ。しかも半分は仲間を失ったショックで役には立たない」
そこまで言って獅子弩はその場で土下座し、かろうじて声を絞り出した。
「この通りだ、俺達に力を貸してくれ」
残された戦力は僅かに十名。
強力な門番GEを倒す時と同じで、攻撃力を持たない兵が何人いようと、まるで役には立たない。
にも拘らず無謀に戦いを挑み、結果、居住区域の維持が出来ない程にAGEを失ったという事だった。
この居住区域内にいるAGEを殆ど全て失うという失態と、そんな事態を生み出したW・T・Fの実力を隠したまま凰樹達ランカーズを戦力として取り込みたいと考えていた為、獅子弩はあんな態度を取っていたのだ。
「……それを最初から言え。戦う場合、指揮権はどうなる?」
「主導はお譲りします。討伐が成功した際の報酬も全て」
「少し待って欲しい、隊員と話をして来る」
もし獅子弩の話を断れば、近い将来この居住区域は壊滅して、GEの手に堕ちるだろう。
おそらく百万に近い人間が石の彫刻に変わり、人類が安心して暮らせる場所がまた一つ減る事になる。
凰樹はマイクロバスに全員集め、獅子弩の話を皆に聞かせた上で力を貸すかどうか尋ねた。
「正直、W・T・Fと戦うのは気が進まない。しかし、今回はそうも言っていられないだろう?」
「そうでんな。ここが壊滅したら、広島や島根辺りも激ヤバですわ」
「その獅子弩って人の話は本当なの? AGE壊滅って眉唾だけど……」
楠木の意見ももっともだったが端末を操作していた荒城が、ノートパソコンのディスプレイに表示されている画面を見せた。
「ランキングが大幅に変更されていますわ。数百人規模で短期間に離脱しないとこうはなりません」
一般ランキングはこれに近い変動を見せる事はあるが、そこまで急激には変動しないセミランカーのランキングも激変しており、セミランカー二百五十一位の箕那沙奈恵の名も、ランキングから除外されていた。
「あのお姉ちゃんも……」
「情報ですと、AGE部隊の多くは昨日の昼過ぎに高速道路に併設されている道路に姿を見せたW・T・Fと交戦。投入した部隊を次々に壊滅させられながらもそこから居住区域内への移動を阻止、最終的に行き場を失ったのか、飛翔したW・T・Fがサービスエリアで活動を停止したという事です」
「居住区域に来られてたら、キャンプどころじゃなかったな」
「そんな事になれば、流石に緊急招集命令くらい出すだろう」
とはいえ、この居住区域に所属するAGEが壊滅している最中、楽しくキャンプをしていたという事実は変わらない。
このまま放置できる事態じゃないのは分かる、そして、キャンプの時間を守ってくれていたこの居住区域のAGE達に報いたいとも思った。
「ここまでくれば、戦うしかないだろう。しかし、今回も強要する気はない。W・T・F討伐に手を貸してもいいと思う者は手を上げてくれ」
凰樹を含め、十の手が上がっており、誰一人、今まで前例の無いW・T・F討伐から降りる者はいなかった。
「鈴音は無理に参加しなくても良いのよ?」
「ふふん、わたしにも秘密兵器があるんだよ」
鈴音は周りの皆に割と小型なガンケースを見せ、胸を張ってそんな事を言っていた。
「よし、では現時刻を以って、休暇を一時中断、W・T・F討伐の作戦行動に移る」
「了解!!」
「聞こえていたと思うが、W・T・F討伐は引き受けた。情報や交戦データを見せてくれ」
「分かった少し待っててくれ」
獅子弩は停めていた車に戻り、W・T・Fとの戦闘データをコピーし始めていた。
それと同時に前例の無い、W・T・Fの討伐を行う為に、ランカーズのメンバーも各自装備の点検と装着を始める。
未だ一度も倒された事の無いW・T・F。
その能力はまだ未知数だった。
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