キャンプ本番 一話
キャンプ回の続きです。
楽しんで頂ければ幸いです。
見渡せば整備された白い砂浜、青い空から降り注ぐ眩しい日差し、何処までも続く蒼い海原から波が来る度に弾ける水しぶき。
海辺の島にいた事もある窪内龍耶や霧養敦志以外では、基本的に山育ちの凰樹輝は久しぶりに目にする海で、安全な居住区域育ちの宮桜姫香凛、鈴音姉妹なども十年ぶりで2回目の海水浴だった為、当時はまだ幼かった鈴音などは海を見て興奮していた。
今までは泳ぐといえば、居住区域にあるプールが精々で、こんなに開放的な状況で海水浴を楽しむ事は初めてだった。
「水が塩辛いですわ!! 海って不思議ですわね」
「お姉ちゃん!! 海に来たら砂で城を作らなきゃいけないんだって。あと、誰かを浜に埋めるとか」
「こんなにきれいな海なのに~。他に泳いでる人は十人位って寂しいですね~」
書き入れ時の海水浴場であるにも拘らず、海岸には凰樹達の他には女性グル―プが合計で六人、親子で来ていると思わしき一団が四人居るだけだった。
時間はもうすぐ十一時、お昼にはもう少し早い事を考えても、あまりに人が少なすぎた。
「貸切みたいでちょうどいいさ。それに、あまり女性客が多いと、こんな状況でも輝にアタックしようとか考える猛者がいるかもしれないだろ?」
「ひと夏の思い出は、他の人で済ませて欲しいですわね」
「あちらの人は家族連れですし、フリーの男性は此処にいる四人で全員ですけどね」
夏の砂浜は乙女を大胆にさせたりもするが、荒城達に言わせればこちらにその手を伸ばされても困るだけだ。
また、ここにいるメンバーの正体がばれれば、ランカーズのメンバーを生でひと目だけでも見ようと近場から人が駆け付けて、この砂浜が人で埋め尽くされかねない。
一応この海水浴場は予約制で、駐車場に車を停めるだけでも事前に登録が必要な為、セキュリティは完璧と言えなくもない。
「輝なんかはその辺を十分に心得てるから、サングラスと帽子を手放さないしな」
「あの身体つき見たら、ちょっと声かけてみようっていう勇者がいるかもしれまへんがな」
凰樹は顔バレ防止でサングラスを着用して海水浴用の小さ目の帽子をかぶり、日焼け防止を兼ねてあまり体のラインが見えない様にシャツを着ているが、それでも十分に厚い胸板や理想的な体のラインは隠しきれてはいない。
GEと近接戦闘をするには身体を鍛える必要があり、凰樹はGEとの戦闘後で生命力の回復を優先させる時以外は、鍛錬を欠かさず行っている。
「それはそうですが、でしたら男の方も私達に声をかけて来る可能性があるんじゃないですか?」
「ゆかりん狙いなのは間違いないっス……いえ、他の人も十分に……」
正直というのは美徳かも知れないが、命懸けでそれを行う者は勇者では無く愚か者だ。
ただ、身体は正直で男性陣の多くは竹中が歩く度にその方向を向いている。
少し離れた場所にいた家族連れなどでも、父親が嫁と思われる女性に思いっきりお尻をつねられていた。
それから少しの間、波打ち際でビーチバレーをしたり、海に腰までつかって水の掛け合いなどをしていたが、よろけたフリをした竹中が何度も凰樹に後ろから抱きついたために、浜に上がって一時休憩という事になった。
遊び足りない鈴音は姉の香凛を巻き込んで、波打ち際から少し離れた場所で砂の城を作ったりしていた。
◇◇◇
「ん? アレは……」
凰樹や窪内達が一旦浜辺に作った荷物置き場に戻った時、海岸の奥にある、岩場の影から大きな犬の様な物体が姿を現した。
その背中には蜘蛛の足が折り畳まれていた為、荷物置き場にいた凰樹達はひと目でそれがGEだと気が付いた。
凰樹は用意していたM1911A1を手にし、ゆっくりと岩場の陰に隠れるGEへと近づいた。
「あ、もう凰さんが処理したみたいでんな」
「他の海水浴客はまだ存在に気が付いてなかったみたいだ、仕事が早いよな」
使った武器は、マガジンに高純度弾の詰まった次世代型のハンドガンでチャージ機能付きのM1911A1。
チャージ機能は使わなかったが、次世代型のブラックボックスを内蔵している為に、凰樹が高純度弾を使えば小型GEなど一撃で粉々だ。
しかし、高純度弾を食らったGEの弾け方に違和感を感じた凰樹は、普段であれば回収する筈の無いおはじき大の魔滅晶を探していた。
「あのサングラス、蔓の部分がやけに太いし、レーダー付きじゃないか?」
「そうでんな、間違い無いんとちゃいます?」
着ているシャツや水着も対GE用の素材で出来ているし、神坂や窪内が着ている水着やシャツも同じ素材で作られた物だ。
AGE活動が長く、一度でもGEに故郷を追われた者はいかなる場合でもその対策だけは忘れる事は無い。
白浜に作ったビーチパラソルを中心にした荷物置き場にも、クーラーボックスや荷物に紛れて、高純度弾が装填された完全防水仕様のVz61が三丁も隠されている。
擬装用にカラフルな大型水鉄砲が幾つかおいてあるが、コレを使う予定は無かった。
「海水浴を楽しまれている皆様にお知らせが……、アレ? 反応が消えてない? 見間違い?」
「ん? なんやろ?」
「大変失礼いたしました、引き続き海水浴をお楽しみください。おっかしいなぁ……」
入ってはいけない言葉がかなり入った謎の放送は打ち切られた。
おそらく、監視所にあるレーダー装置に先程姿を現したGEの紅点が見つかり、海水浴客がパニックを起こさない内容で避難勧告を出そうとしたのだろう。
その事を知っているのは、凰樹、神坂、窪内の三人だけだ。
GEの討伐から戻ってきた凰樹は、手の平に乗せたビー玉よりやや大きめの魔滅晶見せ、あまり大声で言えない内容の話を切り出した。
「今のGE、中型だ」
「え? ここには小型しか出ないって話じゃなかったか?」
「さっきの放送、おそらくここに中型が出た時に、レーダーで発見次第迅速に警告を出す為の物だろう」
小型GEであれば、単体で出現してもそこまで脅威では無い。
一般人には十分に脅威でも、GEが出ると分かっていたら近くにAGEの待機所などを作って、GEの出現に備えるだけで良いからだ。それに、小型GE出現後に多少迎撃に時間が掛かっても、おおきな被害が出るとは考えにくい。
ただし、中型GEは訳が違う、倒す為にはそれなりの装備が必要だし、特殊能力を有している場合も多い。
それだけに警報を出すタイミングが遅れれば、どれ程の犠牲者が出るか想像もつかない。
「近場にいる人間はこの事を知っているからここを利用しなかった。こんな良い所がこの時期にここまでガラガラなのはおかしいと思ってはいたが」
「このエリアを支配下に置く環状石はレベル一。中型GEの数は限られているし、同じ奴が次に出て来るのは二週間後で、もうクラゲだらけの海になった時期さ」
レベル一の環状石が所持する中型GEの数はおおよそで十。
広大なエリア全体でその数しかいない為に、何匹も同じ場所に出現するとは考えにくかった。
「ちょっとまて輝、オマエ中型をチャージ無しで一撃だったのか?」
「ああ、次世代型のM1911A1じゃないと流石に無理だがな」
凰樹が手にするハンドガン、M1911A1は次世代型だが、同じ物を神坂や窪内が使った場合、チャージ機能を使わない限り中型GEを一撃で倒す事など出来はしない。
異常だ異常だと常日頃から思っていたが、またしても凰樹の能力が一般人と掛け離れているという事実を再確認させられた。
「凰樹さ~ん。こっちで一緒に遊びませんか?」
「ちょっと、鈴音!! そんな大きな声で!!」
「あまり人がいないとはいえ、感心しませんね~。夕菜さん♪」
「OK、聖華♪ いっくよ~っ。それっ!!」
「えいっ♪」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
迂闊に凰樹の名前を大声で叫んだ鈴音に制裁を加える為に、楠木と伊藤が鈴音の両手を掴んでそのまま海に連れ出して掛け声と共に海に向かって放り投げた。
腰まで海に浸かった状態だったのでダメージは無いが、結構派手な水しぶきを上げていた。
「ひどいですぅっ!!」
「ごめんごめん、アイス買ってあげるから機嫌なおして」
「ほ、本当ですか?」
そんな話をしながら、宮桜姫姉妹と楠木、伊藤の四人は浜から少し離れた場所にある小さな小屋へと向かった。
その様子を笑いながら見待っていた荒城、霧養、竹中の三人はそのまま凰樹達の待つベースへと戻ってきた。
「あきら、ただいまっ。少しお腹すかない?」
「そういえば、今何時だ?」
「えっと、……何時ですの?」
「結構遊んだっスね。もうすぐ二時っス」
元々海に潜って銛突きをする予定だった霧養は二十気圧まで耐えられる防水のダイバーウオッチを身に付けていた為、それをみて時間をそこにいた皆に知らせた。
遊んでいる時は時間が経つのが早く、この場所についてから既に三時間以上経過していた。
「昼飯を忘れていたな。材料を取りに車まで戻るか、そこの海の家で済ませるかだが」
「折角ですから海の家で食べませんか?」
「そうしまひょか? 今から鉄板とか出して準備する位なら海の家で食べるのも一つの手ですわ」
◇◇◇
海の家、浜辺に存在する事の多い出て来る物の当たり外れが激しい、ある意味総合商店。
浮き輪やビーチサンダルなどの海での必需品から、ソフトクリームなどの軽食、焼きそばやカレーなどまで様々な物が売られている。
今となっては殆どの店がそうなのだが、律儀に【AGEポイント使え〼】などと大きく書かれた看板が立てられていた。
「らっしゃい。うちは色々品揃えが良いよ~。少し値は張るが美味い物も多いぞ」
威勢のいい店員が大型のバーベキューコンロの火加減に注意しながら、凰樹達に話しかけてきた。
大きな店舗は商品を販売する為の売店スペースと、ここで買った物を食べたりカレーなどを注文する為の食堂スペース、そしてこの店頭の実演販売スペースに分かれていた。
ソフトクリームやジュースなどは中の食堂スペースで頼めるようだが、新鮮な海産物の網焼きなどはここで頼むという話だ。
「サザエのつぼ焼き、アワビの地獄焼き、魚の網焼き(日替わり)、焼き烏賊、焼きトウモロコシ……。もしかして烏賊は其処の烏賊を使うのか?」
「ああ、他のアワビやサザエも刺身でも美味いぞ」
トウモロコシを焼いている店員の後ろには大きな水槽があり、そこにはキスなどの魚の他にアワビやサザエが入れられ、そして横にあるもう一つの水槽には烏賊が泳いでいた。
「烏賊焼きの烏賊に生簀で泳いでる烏賊を使うんでっか?」
「ああ、うちは白くなったような烏賊は一切無しさ。魚介類はとにかく鮮度が命だからな」
「マジかよ……」
刺身にしないと勿体無いような烏賊で作る烏賊焼き、贅沢とはこの事だろう。
神坂が呆れていると、今度は窪内が目の前の水槽を指しながら疑問に思った事を素直に聞いてみた。
「あのサイズのアワビやサザエをひとつ五百円から千円って、採算あいまっか?」
「ははは、千円のアワビを大量に頼まれなければ平気だよ。さっきも言ったがサザエは刺身も美味いが壺焼きも美味しいぞ」
「正気でっか? 信じられまへんな……」
海辺の島にもいた事がある窪内は、アワビの大きさを見て思わずそんな言葉を呟いていた。
アワビはどれも五百グラムは楽にあろうかという大きさで、こんな物を一つ千円で出せば大赤字だろう。
サザエの壺焼きは、コンロにサザエを乗せて焼くだけの単純な料理だが、サザエの鮮度や大きさなどで味は格段に変わる。
水槽に入ったおおきなサザエは貝殻の角がやたらと伸びているので、流れの速い日本海側で獲れる上物で地物とみて間違いない。
「中で食事をしたいんだが、ここのサザエとかも頼めるのか?」
「ああ、大丈夫だよ。食事を頼むなら中でも注文できるし、そこのテーブルで食べる事も出来るぞ。ただし、焼くのに二十分くらいかかる」
「あの大きさなら納得でんな。サザエの壺焼きとアワビの刺身。焼き烏賊も」
「俺も焼き烏賊とサザエの壺焼きを……二つ、あと、魚の網焼きは今日はキスなのか?」
「ああ、キスは開いて一夜干しにしたのもある、水槽で泳いでる奴なら新鮮だから刺身も美味いぜ」
男は水槽から取り出した大きなサザエを網の上に置き、早速焼き始めた。
「じゃあ一夜干しの方を」
「毎度!!」
後ろの木製の棚からキスの一夜干しを二枚取り出し、それを網で焼き始めた。
「キスは一枚で良いんだが」
「いや、こいつは小さいから二枚で五百円なのさ。一枚二百五十円だと、他の魚の時に困るんでな」
日替わりと書いてあるので、そんな日もあるという事だ。
荒城や凰樹達も注文を済ませて店内に入ると、既にテーブルに座った楠木達四人がアイスクリームを食べていた。
そのアイスも市販の物では無く、少し形は歪だが果物特有の甘い香りが心地よく漂っていた。
「あ、凰樹君達も此処に来たんだ。このアイスすっごくおいしいですよ」
「輝も頼んでみない?」
アイスを食べていた四人には悪いが、凰樹達は壁にかかっているメニューみてそれぞれ昼食に何を頼むか悩み、どうせサザエなどが届くまでに十分以上かかると考えて、じっくりと選んでいた。
「あれ? もしかして此処でお昼ご飯を食べるの?」
「ああ、先に来ていたからもう頼んでるかと思ったんだが、まだなら何か頼んだほうがいいぞ」
「ずっる~い。でも、お腹いっぱいだとさっきのアイスが食べられなかったかもしれないから、結果的には良かったかも」
「そんなにおいしいアイスですの?」
「うん、今までで一番おいしかったよ♪」
不動産で財を築き上げた宮桜姫家も十分に名家で、その宮桜姫の次女である鈴音がそこまで言うアイスクリーム。
甘くておいしい物に弱い、荒城もそのアイスの事が気になっていた。
「食後に頼むしかないな。すみません、この海鮮丼セットをひとつ」
「わいも海鮮丼セット大盛りで」
「烏賊の刺身定食にするか。焼き烏賊も頼んだが、みんなで食べてもいいだろう」
各自がそれぞれ壁にかかっているメニューの中から、カレーや焼きそばなどといった定番メニューでは無い、海の家らしからぬものを頼んでいた。
十五分後、テーブルにはサザエの壺焼きやアワビの地獄焼きなど様々な料理が並んでいる。
「嘘だろ……、ただの焼き烏賊が此処まで美味いのか?」
「サザエの壺焼きも……、柔らかい上に肝まで美味いっス」
「海鮮丼は新鮮な刺身にウニが乗ってサザエやアワビの刺身まで……、正気でっか?」
凰樹達はとても海の家とは思えない料理に舌鼓を打ちながら、海の幸を存分に堪能した。
個人で食べきれないと判断すれば、他の人にシェアしながら、どうにか注文した全てのメニューを残さず食べ、その後、荒城と竹中は絶賛されていたアイスクリームまで味わっている。
今回は各自で支払ったが、誰一人値段に文句を言う者など居る筈も無い。
「海の家の奇跡をみたって感じだな」
「二度と無いんちゃいます?」
凰樹達は知らなかったが、海水浴場から少し離れた岩場に行けば、まるで磯に張り付くカサガイやフジツボを彷彿させるようなレベルで、サザエやアワビが大量発生していたりもする。
一時期漁港が壊滅した時に各地でサザエやアワビの養殖が始まり、それが安価で手に入る為に輸送にコストがかかる高額な天然物は産地でしか売れなくなり、最終的に地元でも消費しきれなくなって、各地で大量発生する事態となった。
この辺りは価格が暴落した蟹などと同じ運命で、もし最初の予定通り霧養が銛突きに出ていたら、少し沖の海底を埋め尽くすウニやサザエなどを見る事が出来ただろう。
海水浴場近くの海底には網が張られており、海水浴場内への侵入を阻止すると同時に、回収されたサザエなどは水槽に入れられて、海の家で売られていた。
◇◇◇
現在時刻は午後四時四十八分。
新鮮な海の幸を堪能した凰樹達は、海で泳ぐ速さを競走したり、駄菓子屋で売っているカラフルボールを投げて誰がそれを取って来れるか競ったりしながら遊んでいた。
ただ、凰樹や窪内たちは午前中に中型GEが現れた事で警戒レベルを上げており、たまに顔を出したりしてはいたが、殆ど参加してはいない。
「折角海に来たのに、一緒に遊ばないなんてもったいないです!! 夜までみんなで遊びませんか?」
とうとう我慢できなくなった鈴音が薄い胸を張りながら、凰樹や神坂にそんな事をいいだした。
サングラスの索敵機能では範囲が狭すぎてあまり役には立たなかったが、少なくとも半径百五十メートル程の位置にGEは確認できなかった為、臨戦態勢を解いて鈴音の提案いのる事にする。
「とはいえなにをするかな、ビーチフラッグやスイカ割りは一部参加不可能な奴がいるんだが……」
「そうでんな、スイカ割りは凰さんと霧養はん、ビーチフラッグはゆかりんが……」
神坂と窪内は、スイカ割りの説明の時は凰樹と霧養を、ビーチフラッグの時は竹中を見てそんな事を言っていた。
「どうして? わたしちゃんと頑張るよ?」
「頑張られると困るっス……」
竹中の場合本人にはある意味問題は無いのだが、男性陣の多くがヤバイ事になる為、見てみたいとは思うがぜひとも参加は見合わせて貰いたかった。
「スイカ割りの方は、言うまでもないだろう?」
「何処に置いても一撃で綺麗に真っ二つにするぞ?」
「ちょっと動きが怪しいかも知れないっスが、ちゃんとやるっス」
目を瞑っていようが目隠しをしていようが、凰樹はスイカの位置を即座に割り出して一直線にそこに向かって真っ二つにする事は間違いない。
霧養は軽い予知能力を有しているので、進んで振り下ろした結果外れると分かれば少しずつ別の位置に移動し、最終的に自分でスイカの場所を見つけて手にした棒でスイカを割るだろう。
「あのなぁ……、スイカ割りってそういう遊びじゃないんだよ……」
「でも、そうなるとみんなで何かするって難しいよね?」
十人もいれば全員で何かするという事は難しい。
入れ替え制でビーチバレーをするにしてもすこし多すぎた。
「結構泳いだし、膝くらいの位置まで海に浸かってビーチボールで遊べばいいじゃないですか」
「それでいいか」
「疲れましたので、私はここで少し休んでいますわ」
「あ、私も水分補給と休憩……」
荒城、楠木の二人は凰樹達の態度に何かを察し、ベースに残って水分補給の為に、クーラーボックスから缶ジュースを取り出してそれを飲み始めた。
「じゃあ、ホントに行くよ?」
「はい、楽しんできてください」
笑顔のまま手を振りつつ、この場所を動かないオーラをだしながら荒城と楠木は他の八人を送り出した。
八人が海に浸かりながらビーチボール遊びを始めた事を確認し、先程まで凰樹と窪内が触っていたバッグ周辺を探り始める。
「いったい何が……、これ、魔滅晶?」
「わざわざ持ち込むとは思えませんし、ここで入手したと考えるのが妥当ですわね」
今迄散々魔滅晶を見てきた為に、それが大きさと色合いなどから小型GEから生み出された物では無く、中型GEを倒して入手した物だと気が付いた。
「いつ倒したんですの?」
「中型を倒したのは気が付かなかったけど、輝の気配が変わったのはお昼ご飯を食べる前だと思う」
「そう、ですわね」
流石に凰樹の事を良く見ている楠木は、凰樹の纏う気配がレジャーモードから一時期臨戦態勢に移行していたのを見逃してはいなかった。
荒城もその時のことを頭に浮かべ、サングラスの奥に隠された瞳が穏やかなそれから、まるで猛禽類を連想させるような瞳に変わっていた事を思い出す。
「……私達が気が付かない位、簡単に中型GEを倒しましたの? いつもの特殊小太刀はコテージですのに?」
「ここに持って来てるのは目立たないようにひと世代前の特殊ナイフの筈だけど……。あ、次世代型のM1911A1……、マガジンに入ってるのは高純度弾みたいだけど」
「潮騒の音があるとはいえ、普通に戦っていましたら流石に気が付きますわ」
楠木は次世代型のM1911A1を手に取り、マガジンを取り出して中に装填されている弾を数えはじめた。
「これってベースは帝都角井製のガスブローバックだよね? ……マガジンに二十五発入ってるて事は一発で倒したって事?」
「そう……なりますわね。チャージ機能を使ったんですの?」
「その可能性は高いかな、輝ならチャージ機能を使って高純度弾で撃てば、中型GEでも一撃だろうし」
実際はチャージ機能など使われてはいないが、常識的に考えてそれ以外には思いつかない為に荒城と楠木はそう結論付けた。
「これであの三人の様子がおかしかった訳が分かりましたわ」
「みんな優しいから楽しい時間に水を差したくなかったんだよ。きっと」
「そうですわね……。それじゃあ、わたしたちも楽しみましょう」
楠木のその言葉に荒城は気持ちを切り替えて、海で遊ぶ凰樹達の元へと駆け出した。
「あっ、ずる~い!! わたしもっ」
楠木もその後を追い、海で遊んでいる他のメンバーと合流する。
楽しいキャンプはまだ始まったばかりだ。
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