サマーキャンプ 海へ~ 三話
この話でようやく海へと到着します。
楽しんで頂ければ幸いです。
午前九時十三分。
寂れたサービスステーションでセミランカーの箕那沙奈恵を回収した凰樹達は、箕那の仲間がいるというサービスステーションへと向かった。
近くにヴァンデルング・トーア・ファイントがいるかもしれない為に、ノートパソコンで索敵を続ける伊藤は真剣な眼差しで画面の状況を解析していた。
伊藤が本気を出せば、休眠状態のGEや擬態中のMIX-Pでも発見できるため、凰樹は連絡があった時の為に何時でも出撃できるようにマイクロバスの方で迎撃の準備をしていた。
といっても凰樹の着ている服は対GE用の装備と同じ素材で出来ている為に、次世代型トイガンと特殊小太刀を用意しただけだったが。
「そういえば、この辺りにいるというW・T・Fはどんなヤツなんだ?」
「被害を出した仲間からの情報では、出現したW・T・Fは体長七メートルほどの比較的小型の赤竜種だそうだ」
赤竜種、FタイプGEとして各国で猛威を振るった報告がある竜種のうちのひとつ。
基本的に強力で揃って巨大な体をしており、色や種別によりブレス等の特殊スキルの威力などは変わる。
飛翔能力に特化した飛竜種以外は飛行能力が低く、その変わりとして鋭い爪での攻撃や長大な尾での攻撃を得意とする。
隣の大陸にはファンタジーゲームに出る様な竜では無く、身体が細く長い蛇の親戚の様な姿の巨大な龍が出現し、国を跨いで幾つもの街を壊滅させている。
あまりにも行動範囲が広いので同じ姿のFタイプが何体も存在するのではないかと言われていたが、W・T・Fだとすれば辻褄は合う。
「それだけデカければけっこう離れてても見つかりそうなものだがな」
「基本的に飛竜種と違って竜種はそこまで飛行しない。ゆっくり上昇して滑空する位だ」
物理法則を無視したような動きをするGEも多いが、重力などに影響を受ける事は多い。
竜種もその身体の大きさ故に自由に空を飛びまわるといった事は不可能だ。
身体の作りが根本的に違う、巨大な翼をもつ飛竜種と呼ばれるタイプは鳥の様に飛び回ったりすることもある。
「そういえばそうですわね。赤竜種という事は特殊攻撃系は口から吐く炎ですの?」
「情報ではそうだな。炎に包まれた後、全ての装備が破壊されて全裸の石像が幾つも立ち並んでいたらしい」
「らしい? 確認はしてませんの?」
「ああ、特殊GE発生の緊急招集を受けて迎撃の準備をしていたんだが、それが撤回された後にすぐ、物資を集めてあそこで探索任務に就いていたからな」
流石に他県の緊急招集の情報までは流れてこない。
隣接した場所の緊急招集だけ流されたとしても、毎週のようにどこかしらから似た様な警報が発令されている為に、危機感が薄れるという話もある。
それによほどの事が無い限り、他の居住区域に所属するAGE部隊や守備隊に救援を求めるなど、その県に存在する対GE民間防衛組織のメンツにかけて容認できる事では無い。
この辺り、もう少し連携が取れていれば環状石はともかく、拠点晶の破壊は効率よく行われてもおかしくは無いが、居住区域内であっても十分な協力体制の整っていない現状では、無理な注文という他無かった。
「この先のサービスエリア周辺で一番高レベルの環状石は確かレベル五だったな。岡山から福岡までの高速道路上のエリアで最も高レベルの環状石でもある」
「ああ、ただしW・T・Fは環状石のレベルに関係なく移動するから、レベルは問題では無いがな」
「いや、初めからこの辺りを警戒していろいろ準備はしていたんだ。射程距離の長い特殊スキルで攻撃してくる大型GEが偶にいるって話だし」
「ああ、そいつは多分今はこの辺りにはいないぞ。環状石基準で反対側の拠点晶がついこの間に破壊されたので多分その周辺にいる」
近年、装備の向上から拠点晶の破壊に成功するAGE部隊が増えるに伴って、拠点晶の周辺に高確率で存在する中型GEや大型GEの行動原理について研究が進んでいる。
大型GEは多くの場合、拠点晶の防衛に動いている傾向があり、拠点晶に敵が近づくまでは半休眠状態で活動していない事すらある。
また、一定以上離れた場所にある拠点晶が破壊されると、その周囲に存在する拠点晶に移動して防衛に就く事が多く、大型GEを倒す手段を持たない部隊の多くはこの行動原理を利用する事が多い。
「その情報は仕入れていたが、それでも万が一って可能性はある。用心に用心を重ねるのは当然だ」
「無茶に無茶じゃなくて?」
「用心はしていると思いますよ。輝さん自身の行動以外は」
楠木、荒城などは、『どの口で用心とか言います?』といった感じの顔で、それぞれそんな事を口にしていた。
口には出さなかったが、宮桜姫香凛も同じ思いだったに違いない。
「隊員から随分信用されているんだな」
「自慢の隊員達だ。ひとりは隊員の妹で実際には違うが」
香凛の妹である永遠見台付属中学三年生の宮桜姫鈴音。
永遠見台付属中学に通っていて成績も優秀という事なので、来年には正式にGE対策部に入部する事は間違いないだろう。
付属中学にいる生徒は余程成績が悪くない限り、まず間違いなく永遠見台高校に入学できるが、現時点で永遠見台高校の受験倍率は千倍近いとまで言われている。
これは、居住区域が完全安全区域である事、凰樹を初めとするランカーズのメンバーがいるという事、他の高校に比べて設備面が充実しており学生生活を送り易い事などがあげられている。
凰樹の活躍のおかげで、国や各企業などから永遠見台高校に支払われる来年度の補助金は、余裕で十倍を超えるとまで言われている。
「そういえば、どうしてこんな所にいたんだ?」
「キャンプに向かってる最中です。この辺りは海が綺麗だって聞いてます」
「うちの県は日本海側の海は特に綺麗だからな。瀬戸内海側も悪くは無いけど」
危険度の少ない漁場として瀬戸内海側は多くの漁船が集中している為、今はあまり海水浴客などは歓迎されていない。
港や浜も漁場を意識した造りに変わっており、GEが出現する場所も守備隊の分所などが作られている場所が殆どだ。
日本海側は地元の観光名所保全活動とやらの一環で、多くの海水浴場やキャンプ場が残されているが、GEの襲撃が少なかった瀬戸内海側に比べて、GEに襲われた港町の多くが壊滅し、漁港として機能しなくなった場所が多い事も関係している。
「休暇中にこんな事に巻き込んで悪かったな。もし、キャンプ中に困ったことがあれば、箕那の名前を出せば、悪いようにはされない筈だ」
「セミランカーですもんね。憧れちゃうな~」
実の姉がレジェンドランカーな筈の鈴音は、無邪気にそんな事を言っていた。
AGEとして活動している分、レジェンドランカーが憧れや目標となるかどうか位は理解しているようだった。
「ははは、無理をせず確実に行動してれば、そのうちセミランカーには手が届くさ。そこの凰樹みたいにランカーは流石に無茶だが」
「真理だな。ランカーを狙って活動をすれば、無茶を重ねる以外にないからな」
無茶に無茶を重ねてランカーに上り詰めた凰樹が言うと、妙に説得力があった。
周りにいる仲間は堪ったものではないが。
「後は一芸持ちか? そこの凰樹は別格だろうが、いろいろ変わったスキルを持つ奴も多いしな」
「スキル?」
「シールドの応用で魔弾を使う魔弾使いや、最近は昔テレビとかで流行った超能力系のスキル持ちもいる」
「眉唾な噂ばかりですわ。もしその噂が本当でしたら、もっと戦果を挙げていてもおかしくはありませんもの」
情報を秘匿するよりも、テレビ向けに加工した情報を流す方が受けがいい事は多い。
凰樹の戦果は過不足無く事実をそのまま伝えられているが、逆にいつもの放送内容をだしにされて、かなり盛っていると誤解されている節がある。
逆に、低純度弾程度の威力しかない魔弾を使う魔弾使いの話を、まるで高純度弾レベルを連射できるかのように話されている事も多い。
「国内じゃない。インド、ドイツ、アメリカのAGEでそういった奴も居るって話だ。首都のAGE部隊にもいるって話だが、こっちは怪しい気がする」
「いつもの対GE民間防衛組織から流された、テレビ向けのリップサービスじゃないのか?」
「シールドや魔弾の応用も幅が広いっていうし、それを面白おかしく話しただけって噂もある。ま、実際会うまで信用はしないが」
元ランキング四位のトップランカー、銀箭の魔女の異名を持つ桃山那絵海。
桃山は高レベルの魔弾を使う魔弾使いという話だが、実際に魔弾でGEを殲滅する姿を見た者はいない。
現在はランカーズのメンバーがレジェンド枠に移行した為に、ランキング四位に返り咲いている。
◇◇◇
「もうすぐ着くぞ、伊藤からも連絡は無いし、こっちのレーダーにも紅点は確認されない」
「……サービスエリアの反応は予想通りでんな」
レーダーに表示されているのがどんな反応だったのか、一言も聞く事無く、「寄って貰えるか?」と、ちょっと小さめの声で呟くように口にした。
「分かった」
神坂の運転するバンに連絡を入れ、サービスエリアに入るように指示を出した。
サイビスエリアに入る道路上に車などは見られなかったが、おそらく早々に撤去されたのだろう。
「誰もいないな。暫くW・T・Fが姿を現さなかったから、破壊された車両や石像は撤去されたんだろう」
「……表はな。裏は予想通りだ」
建物の裏から、箕那が姿を現した。
声のトーンから何が其処にあったのかは、容易に想像できた。
「見て……来たのか?」
「ああ、ここで見張りをしていた仲間のうち、二人が石像に変えられていた。あ、二人とも裸なので、見に行くのは勘弁してくれ」
建物の裏に向かおうとした楠木達を、箕那は声で制した。
石像に変わったとはいえ、裸を見られて辱める様な真似はしたくは無かった。
「世話になったな。俺はここで他の仲間が来るのを待つ」
「来るのか?」
端末を取り出し、そこに表示されているメールを見せた。
「無事だった仲間から、準備が整ったので今日の昼過ぎにさっきのサービスエリアと、ここのサービスエリアを巡回して撤収するというメールが届いた。このサービスエリアにいるという返事はしておいたので、問題無い」
「そうですか……、輝さん、それでは私達はこの辺りで……」
「ああ、また縁があれば、な……」
こんな時にはなにもかける言葉は無い。
慰めも同情も、命を懸けてAGEとして活動している者を侮辱する様なモノだ。
少し気の重い事件ではあったが、ここでは大型GEやW・T・Fの襲撃を受けずに通り抜ける事が出来た。
波乱から始まったが、楽しみにしていた海水浴とキャンプ場に近づくにつれ、凰樹達は元のテンションを取り戻し始めた。
AGEとしての活動は活動、それ以外で遊ぶときは遊ぶ。
この切り替えが即座に出来なければ、長年AGEを続ける事など出来ない。
凰樹や神坂などは部隊が全滅した経験も多く、仲間を失ったAGEの事などあまりにも多く見過ぎていた為、今回の箕那の事はそこまで気にしてもいなかった。
◇◇◇
午前十時二十五分、永遠見台高校を出発して実に五時間後、ようやく目的地のキャンプ場のある海水浴場へ辿り着いた。
箕那の一件があった為に予定よりも一時間ほど余分にかかったが、道路状況次第でこの位の誤差は発生する事もある為に十分に許容範囲の出来事だった。
指定されていた駐車場に車を停め、駐車場の監視員に予約していた車両である事を確認し、タッチパネルの管理表にナンバーや車種などを入力していった。
車の盗難や着替えの盗撮などを防止する為であり、流石に有名な海水浴場だけあって他には殆ど人が居ないにも拘らず、その辺りは徹底されていた。
「海だ~!! 着いたぞ!!」
「コテージのある場所から、結構離れてるんですのね?」
海水浴所傍にもコテージがあるが、神坂の提案で凰樹は少し離れた場所にあるコテージを予約していた。
歩くのが面倒だといいそうな女性陣を前に、神坂はコテージの傍にある大きな建物を指した。
「それはな、あそこの建物、あれが温泉施設だからだ!!」
「「「「「「「お…温泉?」」」」」」
女性陣の声が見事にハモった。
「残念ながら混浴じゃないが、美容とかにもいいらしい。昼は海水浴、夜はBBQを楽しんだ後、温泉に浸かってコテージで一泊って予定だ」
温泉施設自体は、観光客目当てで数年前に掘り、少し離れた場所には旅館も存在している。
旅館の宿泊料金は素泊まり一泊五万から最高三十万円まで、旅館の中にも温泉が引き込まれおり、海の幸と居住区域の牧場で飼われている貴重な牛肉を使ったすき焼きなどが名物という話だ。
「蒼雲さん。完璧っ、完璧です!!」
「海水浴に、BBQをしてキャンプだけじゃなく、輝さんと温泉まで……」
神坂&窪内プレゼンツのサプライズその一、温泉のある海水浴場。
遊ぶときは遊ぶ!!
予算に上限が無かった為、凰樹に無理を言って最高の条件が揃った場所を探し出して予約を取っていた。
温泉施設の使用予約も事前に入れているので、利用を断られるという事は無い。
「よし、コテージに荷物を移動させた後、着替えて浜に集合だ!!」
「飲み物とかはこっちで用意するから、気にしないで良いぞ」
「「「「「「「は~い♪」」」」」」」
コテージや温泉施設が浜から少し離れているといっても、道路を隔てている訳では無く、ほんの少し整備されている歩道を歩くだけだ。
何ヶ所か看板が立っており【GE出没注意!!】と、まるで熊の目撃情報がありますといった感じで注意喚起がされていた。
「近くに拠点晶があるなら壊した方が早いんだがな」
「それは地元の部隊に任せまへんか? ま、放置しとる辺り、離れた場所にあるんとちゃいます?」
「それもそうだな。ところで、霧養の持ってるそれは何だ?」
「銛っスよ。ヤス用の」
素潜りをして魚を銛で突く【スピアフィッシング】と呼ばれるレジャーがあり、今現在ではこの辺りでも禁止されていない事は確認している。
魚はだいたいどれを取ってもOKで、蟹に至っては狩猟が推奨されている地域さえある。
漁港が壊滅していた十年近く禁漁状態だった為に、蟹が異常に増えた為に商品的価値が下がり、燃料の高騰に伴って採算が合わなくなった為に計画的に漁を行う様にした結果、蟹が更に増殖して話にならない程に増えすぎているという状況だ。
他の海洋資源が餌の不足した蟹に食い荒らされているという話もあり、一時期は高級な食材として知られていた蟹は、今や漁師にとって厄介物以外の何物でも無かった。
「この辺りは鮫もいないし、丁度いいかもしれんが」
「海水浴に来て銛突きとはいい趣味でんな」
「輝さんと張り合えるとは思ってないっスよ……」
確かに荒城や楠木をはじめとする、女性陣の殆どは凰樹狙いという事は否定できない。
皆で遊んでいる時に一人で海に潜って銛突きなどしていたら、楽しめる時でも楽しめないだろうに。
「あ、いたいた。凰樹さ~ん。神坂さ~ん。霧養さ~ん。龍耶さ~ん」
着替え終えた後、浜に向かって一番にかけてきた女性は鈴音だった。
着ている水着は殆ど白に近い位に薄いピンク色のワンピースで、腰の所に可愛いフリルが付いている。
息を切らせながら凰樹達の元へ駆けつけ、新調したばかりの水着を四人に披露していた。
「てへっ、どうですか?」
「なんでわてだけあだ名やねん」
「懐かれてるんじゃないっスか? へ~、結構似合ってるっスね」
「霧養さん、ありがとうございますっ!! お姉ちゃんが買い物に行くって話を聞き出した後、急いで用意したから似合ってるかしんぱいだったんだ~♪」
朴念仁の凰樹とお子様趣味の無い神坂は特に感想を言わなかった。
鈴音と凰樹達は一歳違いで年齢から言えばそこまで子供という事は無いが、十二歳から大人に混ざってAGE活動をしていた神坂や、三歳の頃から父親の手引きで守備隊に連れられてGEと戦っていた凰樹に言わせれば十分に子供だった。
「輝さん、お待たせいたしました」
「みなさ~ん、おまたせしました~♪」
「鈴音っ、ちょっと待ちなさい!! あ、凰樹君、ごめんなさい妹が……」
「輝、おまたせっ!!」
荒城、伊藤、宮桜姫香凛、楠木の四人が続いてに浜に姿を現した。
荒城は自信のあるプロポーションを隠す必要が無い為、薄いピンクの下地に色とりどりの花弁が散りばめられたビキニタイプの水着を着ていた。
頭には日焼けの防止の為なのか小さ目でデザイン重視の麦わら帽子をかぶり、右手首と左足首にはハイビスカスをイメージした形の色とりどりのシュシュを付けていた。
伊藤は濃い目の青を基調にしそこにカラフルなビーンズ柄の迷彩が散されたビキニタイプの水着で、上下共に控えめなフリルがワンポイントとして飾られていた。
香凛はパステル系で薄い緑色のフロントクロスタイプの水着でやや薄い胸を寄せて少しでも大きく見せようと努力していた。しかし、やはり少しテレがあるのか、下半身は薄い水色系のパレオで隠していた。
楠木は赤を基調としたワンピースタイプで胸元と腰にレース状のフリルが幾重にも施されている、背中には羽を模したレース状のフリルが飾られていた。
日焼け防止に白を基調とした小さめの帽子をかぶっており、遠目に見てもそのコントラストが十二分に際立っている。
「へえ、似合ってるじゃないか」
「どう?」
「良く似合ってるな。後は竹中が集まれば……って」
竹中の水着は中央を紐で止めているタイプのビキニで、おおきな魅惑の果実を包み込んだライトブルーの下地にラメ入りのバタフライが数匹散りばめられていた。下も同じ様なデザインだが、あまり見えない様にパステルグリーンを基調としたレースのパレオを撒いていた。
「凄いっスね」
「紫って、あんな水着買ってたっけ?」
「騙されました。あの時買っていたのは、もっとおとなしめで可愛いデザインの水着の筈ですわ」
竹中の水着に驚いていたのは男性陣だけでなく、一緒に水着を選んでいた女性陣だった。
あの時、一緒に選んでいた水着がダミーで、他の服に紛れさせてこっそり忍ばせていた今の水着こそが本物だったからだ。
「あ~き~らっ♡ どう? 似合うかな?」
「あ…ああ、よく似合ってるよ」
「ありがとう、凄く…嬉しいよ♪」
今までだったらここで抱き着いていてもおかしくは無かったが、竹中は下から上目遣いで凰樹を見上げてニッコリと微笑み一言だけお礼を言って、楠木達の傍へと駆け出した。
走る度に大きな果実が上下に激しく揺れていたが、直視するのは危険だと本能で察した男性陣は全員、そっと視線を逸らした。
真夏の輝く太陽の下で、氷点下かと思われるような無数の視線が突き刺さる事に耐えられなかったからだが。
「あれ? その手に持ってるのなに?」
楠木が海水浴場で遊ぶ為に必要とは思えない、霧養が手にするスピアフィッシング用の銛を見て首を傾げていた。
「え? ああ、これはGE用の特殊銛っス」
「水生タイプはいないのに? 用心深いんですね」
銛には何処にもチャージボタンやトリガーは付いていなかったが、ひと昔前のタイプには柄の部分全体に似た様な機構がある物も存在した為、何とか女性達を騙す事が出来た。
「銛突きはどないしました?」
「魚なんて買えばいいんスよ」
霧養は荒城たちの姿を見てわずか数分でひとりで楽しむ為に海で銛突きという予定を変更し、浜にそのまま残ってみんなで遊ぶという選択をしていた。
読んで頂きましてありがとうございます。
感想等もいただけると励みになります。




